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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科14巻6号

1986年05月発行

雑誌目次

Consecratio Medici

著者: 大本堯史

ページ範囲:P.713 - P.713

 昨今の学会数の増加,演題数の増加には目を見張るものがあり,各会場の間をいそいそと足早に行き来する若い脳外科医の姿は,平素から一瞬の光陰をも惜しんで仕事に励み,努力している様子を垣間見るようで,誠に喜ばしい光景である.これは科学の進歩と情報化が一段と加速度を増していることを象徴する一側面でもある.ごく身近に接しているcomputerの領域でも,第5世代computerやimage computerの開発が進みつつあり,前者を左脳,後者を右脳として,自発的に思考し,高度の判断も可能な人工頭脳の開発までなされようとしている.一方では遺伝子の塩基配列を音符に置きかえ,曲を演奏するゆとりの時代でもある.
 遺伝子治療は,現在ではどうしようもないirreversibleな脱落症状をreversibleなものに回復させるような夢の手段ともなり得る可能性を秘めており,その進歩が待ち焦がれているが,発癌遺伝子よりもmonoamine合成遺伝子の方がピアノで聴くと快い,などという時代もそう遠くはないのである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

側頭葉てんかんの手術—顕微鏡手術手技を用いた側頭葉切除術

著者: 真柳佳昭

ページ範囲:P.715 - P.722

I.はじめに
 側頭葉てんかんに対する側頭葉切除術telnporal lo—bectomyは,すでに確立した手術法である.Penfieldによる最初の手術は1928年に行われたが,その後の10年間で少しずつ手法が改良されてほぼ一定の水準に達し,1939-49年の10年間には68例が同じ方法で手術されたと記されている14).その方法は1952,1954年の論文に詳しく記されて,今日の側頭葉切除術の基礎となっている15,16).この時期は,ちょうど近代てんかん学の中に,側頭葉てんかんという概念が確立してくる時期と一致している.すなわち,H.Jackson8)により"dreamy stateseizure"あるいは"mental automatism"と記載され,Gibbsら7)により精神運動発作psychomotor seizureと総称された特異な発作型と側頭葉との関連が脳波学的にも6),また病理学的にも18)次第に明らかにされて,側頭葉てんかんとしてまとめられてきたが,側頭葉切除術の成功はその理論の正しさを証明することとなったのである.その後,現在にいたるまで,側頭葉切除術は最も信頼性の高いてんかん手術として広く認められており,手術方法の記載も多いのである.

研究

高血圧性小脳出血の重症度分類と手術適応について

著者: 吉田伸子 ,   加川瑞夫 ,   竹下幹彦 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.725 - P.731

I.はじめに
 高血圧性小脳出血はCTの導入によって局在診断が容易となり,近年発見率が高くなってきている.また,小脳出血は,高血圧性脳内出血のなかでも最も外科的治療が優先され,急性期に手術が行われる機会が多い.しかしながら,CT導入以後,保存的治療で機能的にも極めて予後良好の経過をとるものや,手術療法を行っても予後不良のものがあり,臨床症状とCT上の所見をあわせて,手術適応を含めた本疾患の治療方針について検討する報告が最近増えてきている.そこでわれわれは,高血圧性小脳出血の個々の症例について比較検討し,その重症度分類を行い手術適応について考察した.

脳動静脈奇形に関する研究—3.Dynamic CTによる循環動態の検討

著者: 竹下幹彦 ,   加川瑞夫 ,   佐藤和栄 ,   喜多村孝一 ,   小林直紀 ,   小野由子 ,   柿木良夫

ページ範囲:P.733 - P.739

I.はじめに
 X線CTスキャンの進歩に伴い,スキャン時間,スキャン間隔の短縮による高速スキャンが可能となり,dy—namic CTを用いて循環動態の評価が可能となってきた.
 一方,脳動静脈奇形(以下AVMと略す)における循環動態の検討は,1948年Shenkin25)の報告以来,主にアイソトープを利用した循環動態の報告がいくつか認められる5,10,11,15-17,20,23,24,27,28).しかしながら,AVMの循環動態の把握は,これらを用いた方法でも必ずしも容易ではなく,未解決の部分も少なくない.

High-flow AVMの手術—Normal perfusion pressure breakthrough現象との関連について

著者: 山田和雄 ,   早川徹 ,   吉峰俊樹 ,   中尾和民 ,   生塩之敬 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.741 - P.748

I.はじめに
 脳動静脈奇形(AVM)の手術に際しては,従来feederやdrainerの処理およびnidusの摘出に伴う技術的困難性などが主に問題とされてきた.しかし最近,AVMのうちsteal現象を伴い,shunt量の多いものは,high-flow AVMとして,特に摘出時のhemodynamicsの変化の面から注目されつつある.すなわち,これらのAVMの摘出に際しては,いわゆるnormal per—fusion pressure breakthrough syndrome9)やproximal hyperemia7)などの現象が起こることがあり,術前にこれらの現象を予測するとともに,術中,術後にこれらの現象が起こった際には適切な対策を行うことが必要と報告されている1,7-10)
 われわれの施設では最近2年間に14例のhigh-flowAVMを経験し,このうち9例に摘出術を行ったが,その際,2例に術後normal perfusion pressure break—throughによると思われる症状を経験した.そこでこれらhigh-flow AVMの摘出に伴う血行動態上の変化を脳血管撮影所見と術中脳表血流測定を中心に検討し,この現象に対する対策を試みたので,われわれの経験を述べる.

高血圧性脳内血腫のCT誘導定位脳手術46症例の追跡調査

著者: 塩飽哲士 ,   天野恵市 ,   河村弘庸 ,   谷川達也 ,   川畠弘子 ,   能谷正雄 ,   伊関洋 ,   長尾建樹 ,   岩田幸也 ,   平孝臣 ,   梅沢義裕 ,   清水常正 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.751 - P.758

I.はじめに
 近年,侵襲の極めて少ないCT誘導による定位脳手術を用いた脳内血腫除去法が開発され臨床応用されるようになった.この手術は,局所麻酔下に正確かつ安全に血腫を除去でき,開頭による血腫除去とは別の見地から高血圧性脳内出血に対する治療手段としての本手術法の評価が必要となってきた.そこで今回著者らは,CT誘導定位脳手術により脳内血腫除去を行った46症例について,血腫除去率および手術成績について詳細に検討したので報告する.

モルフィン硬膜外持続投与による慢性癌性疼痛の治療—体内埋込式自動注入器の使用経験

著者: 森竹浩三 ,   半田肇 ,   梅田信一郎 ,   西岡達也 ,   諏訪英行 ,   小西常起 ,   高家幹夫

ページ範囲:P.761 - P.768

I.緒言
 癌患者のなかには一般の鎮痛剤ではコントロールの困難な癌性疼痛が社会復帰を阻んでいる例が少なくない.このような患者に対してはモルフィンが投与されるが,通常の全身投与法では量が多くなるため,中枢神経抑制作用などの副作用や薬剤耐性が問題になっていた.この全身投与法の欠点を少なくし,より確実な鎮痛効果を長期にわたり得る方法として,最近モルフィンの硬膜外投与が広く行われるようになっている1,6).通常one-shot注入や体外ポンプによる持続注入が行われるが,いずれもほぼ毎日通院する必要があり,長期にわたると感染の危険も高まるなど,社会復帰の面でも多くの難点を残していた.これらの問題を解決するため,体内完全埋込式薬剤自動注入装置として開発されたポンプが応用され,すでに欧米では好成績が報告されている3,8,12).われわれも2例の癌性疼痛患者にInfusaidポンプによるモルフィン硬膜外投与を行い,いずれも患者の家庭および社会生活の質的向上に寄与できたと考えられたので,In—fusaidポンプの有用性を中心に報告する.

症例

水頭症を伴ったPaget病の1例

著者: 池田順一 ,   露無松平 ,   高田義章 ,   清田満 ,   稲葉穣

ページ範囲:P.771 - P.775

I.はじめに
 Paget病は1877年J.Pagetにより報告された原因不明の疾患である.本症では稀に正常圧水頭症の合併が報告されており1-4,7,8),これに対してV-Pシャントが施行されている2,8).しかし術後の呼吸停止による急死の報告があり3),安易なシャント術は危険である.われわれはV-Pシャント術後に脳室内圧を徐々に下げていく"軟着陸"法を行い,症状の軽快をみた例を経験したので,ここに報告する.

Pupil-sparing oculomotor palsyで発症した非破裂前側頭動脈動脈瘤の1例

著者: 朝倉健 ,   田崎健 ,   岡田慶一

ページ範囲:P.777 - P.782

I.はじめに
 内頸動脈後交通動脈分岐部動脈瘤や脳底動脈動脈瘤による動眼神経麻痺は,その解剖学的特徴からくも膜下出血の有無にかかわらず,しばしば出現するが2,3,15,20),中大脳動脈動脈瘤による動眼神経麻痺は稀である.
 また,瞳孔障害がなく,外眼筋運動制限のみを呈する動眼神経麻痺"pupil-sparing oculomotor palsy"は,糖尿病性動眼神経麻痺の特徴とされ28),動脈瘤を原因とすることはごく稀である24,28).われわれは最近pupil-spa—ring oculomotor palsyで発症した非破裂前側頭動脈動脈瘤の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えてここに報告する.

折れた鍼治療針による脊髄損傷の1例

著者: 丸岡伸比古 ,   木下和夫 ,   脇坂信一郎

ページ範囲:P.785 - P.787

I.はじめに
 鍼治療は腰痛症,各種神経痛,肩凝り,頭痛をはじめとし,多くの疾患に対して広く適応があるとされ普及している14).しかし.鍼治療に伴う合併症もいくつかみられ,伏針もそのうちの1つである,最近われわれは頸髄内へ刺入した伏針を全身麻酔下に何ら神経症状を残さず摘出し得た症例を経験したので報告する.

正常圧水頭症にて発症した松果体細胞腫の1例

著者: 佐山一郎 ,   安井信之 ,   深沢仁 ,   根本正史 ,   大田英則

ページ範囲:P.789 - P.794

I.はじめに
 高齢者の歩行障害や見当識障害の原因のひとつとして水頭症に注意が喚起されている5).われわれは歩行障害,失見当識,尿失禁という正常圧水頭症(NPH)の3主徴を主訴に来院した患者で松果体部腫瘍が水頭症の原因となった1例を経験した.本稿では高齢者の松果体部腫瘍の特異性と本症例の病理組織所見を主に考察を加え,報告する.

脳底動脈窓形成部の脳動脈瘤

著者: 越智章 ,   中村稔 ,   河野輝昭 ,   森和夫 ,   相川久幸

ページ範囲:P.797 - P.800

I.はじめに
 脳底動脈に窓形成があり,さらにこの部に動脈瘤のみられた症例の報告は,今日までにわれわれの渉猟しえた範囲では9例で2,3,5-7,15,19,24),そのうち直達手術が行われたのは4例2,7,15)にすぎない.

小脳橋角部Xanthogranulomaの1手術例

著者: 勝田洋一 ,   柳田範隆 ,   古和田正悦 ,   二渡克弥

ページ範囲:P.803 - P.807

I.はじめに
 頭蓋内xanthogranulomaの頻度は剖検で1.6-7%5,24)と報告されているが,臨床症状を呈した症例の報告は極めて少数である.今回文献を渉猟した限りでは18例1,3,4,8-10,12,14-18,20-23)にすぎず,そのうちで手術例は16例であり,小脳橋角部に発生した症例の報告はみられない.頭蓋内xanthogranulomaは良性腫瘍であるが,予後は必ずしも良好ではなく,近年その発生機序を含めて種々論議されている2,11,15,19)
 最近,小脳橋角部に発生したxanthogranulomaの1手術例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

両側内頸動脈欠損症の1例

著者: 角南典生 ,   国塩勝三 ,   山本祐司 ,   須賀正和 ,   浅利正二

ページ範囲:P.809 - P.814

I.緒言
 内頸動脈の欠損の報告は比較的稀で,現在までに一側欠損51例,両側欠損10例の報告があるに過ぎない.本症は胎生6週頃の発生異常とされており,側副血行が十分に形成されることから,症状が発現する機会が少ないと思われる.しかし脳循環障害やくも膜下出血をきたす症例もあり,脳循環動態の面から興味ある病態であろう.
 われわれは,右不全片麻痺で発症した76歳の男性に脳血管CTを行い,慢性硬膜下血腫の診断を得たが,その際,両側の内頸動脈が不明瞭であった.この症例に血管撮影,CTを施行することにより,両側内頸動脈欠損症と判明したので,考察を加えて報告する.

Isolated fourth ventricleを呈した破裂脳動脈瘤の1例

著者: 村上峰子 ,   高橋明 ,   村上寿治 ,   遠藤英雄 ,   斎木巌 ,   金谷春之

ページ範囲:P.817 - P.821

I.はじめに
 近年isolated fourth ventricleに関する報告は増加しつつあるが,その多くは短絡術後数カ月から数年という長期経過した小児例であり,成人例での報告は著者らが探し得たかぎりではDon Defeoら1)の1例,Foltzら3)の1例と大槻ら7)の1例にすぎず,その発生は極めて稀なものと思われる.
 今回われわれは57歳の破裂脳動脈瘤の1例において,約40日という比較的短期間に第4脳室が嚢状に拡大し,突然呼吸停止をきたしたが,第4脳室開放術により救命しえた本症の1例を経験したので,その経過を報告するとともに成因に関し若干の考察を加えたい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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