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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科15巻1号

1987年01月発行

雑誌目次

基本と応用

著者: 端和夫

ページ範囲:P.5 - P.5

 近頃の学会では大工ばかりが大きな顔をして不都合であるという意見がある.確かに手術だけが脳神経外科医の仕事ではないとは思うが,われわれが神経内科医に対して主体性を持ちうる唯一の拠り所が手術であることは確かであろう.脳神経外科医の教育の中で,手術の技術指導は大工仕事などと呼んで別扱いをしてはならない大切な部分であるはずである.
 ところが,その教育は現在あまり親切な方法で行われているようには見えない.文献には手術の作戦面のことは書かれているが,多くのアプローチを知っているからといって良い術者とは限らない.実際の訓練は「私の手術を注意して見ていなさい.そしてそこから何かを学んで下さい」という具合いに行われる場合が多いようである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

上位脳幹部AVMの摘出—アプローチの考察

著者: 米川泰弘 ,   橋本信夫

ページ範囲:P.7 - P.13

I.はじめに
 従来脳幹部脳動静脈奇形(AVM)は摘出不能とされてきたが,micro—surgeryの発達と脳幹周囲のmicro—anatomyおよびAVMの病態生理がより明らかになるにつれ,摘出可能例があることが理解されるようになってきた1-4,6,13).特にDrakeによって脳幹部AVMのなかにはextrapialのものがあり,摘出可能例があることが示されたことは重要である2,3)
 またこの部のAVMは出血の際に外眼筋麻痺をきたす,再出血や部分摘出に終わった時の予後が非常に悪いなどと,AVMのなかでも一つの範疇をなすと考えられる.

研究

頸椎椎間板ヘルニアの外科的療法—200例の経験からみた術式決定についての一考察

著者: 小山素麿 ,   高橋一則 ,   西浦巌 ,   辻直樹 ,   五十嵐正至 ,   相井平八郎

ページ範囲:P.15 - P.22

I.はじめに
 脊椎の疾患に原因する脊髄症をすべて骨軟骨症性脊髄症(spondylotic myelopathy)と総称することは適切でなく,リウマチ性脊椎炎,脊椎の先天異常,外傷,軟性椎間板ヘルニアおよび腫瘍,あるいは後縦靱帯骨化症などはそれぞれ固有の病名で表現すべきである6)
 頸部脊髄症の外科的療法について論じた文献は枚挙にいとまがないが23,36,38),著者により対象とした疾患が任意に定義されている感があり,種々の術式を同一平面で議論することには無理があると考えられる.

HPLCによる髄液中クレアチニンならびにプリン代謝物の測定—脳組織障害における変動(第1報)

著者: 森本一良 ,   正名好之 ,   橋本忠雄 ,   ,   早川徹 ,   池田卓也 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.25 - P.30

I.はじめに
 CTスキャン導入以来,脳組織障害の形態学的な把握は容易となったが,その機能的な面を評価する手段が待たれて久しい.私たちは従来よりHPLC(HighPerformance Liquid Chromatography)を用いて脳内の生化学的なエネルギー代謝物の動態を追求してきた.正常脳ではATP,ADP,AMPが各々3.39,1.04,0.01nmol/mg wet weight存在し,虚血時にはATPが減少し,ADP,AMPが増加する.また虚血によりadenosine,inosine,hypoxan—thineが著明に上昇し,プリン代謝物は尿酸まで分解されていくことを観察している11,13),今回はクレアチン燐酸(creatine phosphate=CrP)ならびにプリン化合物の終末代謝産物であるクレアチニンと尿酸に注目し,髄液中の両者の変動を観察した.その結果,これら代謝産物が脳組織障害時の機能的な評価ならびに予後の指標となりえる興味ある知見を得たので報告する.

診断困難な髄液鼻漏に対するRI count法の応用

著者: 山本良裕 ,   国塩勝三 ,   角南典生 ,   山本祐司 ,   浅利正二 ,   佐藤透 ,   須賀正和

ページ範囲:P.33 - P.37

I.はじめに
 髄液鼻漏の診断方法として,従来よりさまざまな手段が用いられてきたが,いずれもその信頼性・安全性の面で問題がある.1956年Crowら2)が報告した,髄腔内に注入したRadioisotope(RI)を,鼻腔内に挿入した糸つき綿球で検出する方法は,髄液鼻漏の存在とその部位診断が同時に可能であり,信頼性も高いと考えられている.われわれはこの方法をRI count法と称しているが,特にRI髄注後,腹臥位または頸部前屈位負荷をかけることによって,初めて部位診断が可能となった2症例を経験したので,これらを呈示し文献的考察を加えて報告する.

大脳皮質焦点てんかんの外科的治療—PETと硬膜下誘導脳波による診断

著者: 清水弘之 ,   石島武一 ,   飯尾正明

ページ範囲:P.39 - P.46

I.はじめに
 てんかんの外科的治療にとって最も大切なことは正確な焦点の部位診断にあるといえる.これまでは,その日的のために発作内容と脳波所見の解析がもっぱら行われてきたが,焦点の局在を解剖学的に精密に診断するにはおのずから限界があった.
 近年開発されたポジトロンCT(以下PET)は,何ら生体に侵襲を加えることなく,三次元的にin vivoの脳代謝を観察することができる.PETの応用により,てんかん焦点は,発作間歇期には脳代謝低下状態にあり,周囲の脳組織と画然と区別されることが解明されてきた12,30).すなわち,PETを用いれば正確な焦点の局在診断が可能であり,てんかんの外科的治療に大きな展望が開かれたといえよう.

症例

Gliosarcomaの1例

著者: 井出光信 ,   神保実 ,   山本昌昭 ,   田中典子 ,   久保長生

ページ範囲:P.49 - P.54

I.はじめに
 1895年,Ströbei4)が最初に記載して以来,mixedgliona and sarcomaすなわちgliosarcomaの報告例は少なからずみられており,またoncogenesisの立場からも関心をもたれている.
 Morantzら8)によれば,gliosarcomaの臨床像は通常のanaplastic astrocytomaと著しく異なったという点はなく,また手術摘出標本の病理組織学的検索では,標本摘出の仕方によってはsarcomatous componentが見落される可能性があることを指摘しており,実際にはanaplastic astrocytomaの8%に相当する数のgliosar—comaがみられたと報告している.

後交通動脈より眼動脈を分岐した左内頸動脈欠損症

著者: 中田博幸 ,   岩田吉一

ページ範囲:P.57 - P.62

I.はじめに
 先天的な内頸動脈欠損症は非常に稀な疾患であるが,脳血管撮影を施行する症例が増えるに伴い,報告例も増加してきている.しかしその診断は,後天的な内頸動脈閉塞症との鑑別がしばしば困難であり,血管撮影のみで診断するには問題がある.また内頸動脈の先天的な欠損という状態は,脳血管の血流動態学的にもまた発生学的にも興味あるものと思われる.著者らは,頭蓋底部の断層撮影にて左頸動脈管の欠損を確認した内頸動脈部分欠損症を経験したので,以上の問題につき若干の考察を加え報告する.

脳下垂体腺腫のBromocriptine療法に対するTamoxifenの影響

著者: 山下正文 ,   平川俊彦 ,   田代賀比古 ,   松田年浩 ,   岐部道広 ,   福島武雄 ,   朝長正道

ページ範囲:P.65 - P.72

I.はじめに
 bromocriptineのヒト下垂体腫瘍,特に機能性下垂体腺腫への効果が評価されつつある2)が,bromocripitneでは充分な効果の得られない例もあり改善の余地が残されている49,51,52).Völkerら48),Lambertら24,25)はbromocriptineにtamoxifen(estrogen receptor bioc—ker)を併用しprolactin(PRL)やgrowth hormone(GH)分泌抑制増強を認めた.われわれは2例の下垂体腺腫でbromocriptineとtamoxifen併用を試み,すぐれた効果が得られたので報告する.

Electrothrombosis後くも膜下出血発作をきたした巨大内頸動脈瘤の1症例

著者: 藤田勝三 ,   近藤威 ,   松本悟

ページ範囲:P.75 - P.79

I.はじめに
 脳動脈瘤の外科的治療法は,再出血を防止する日的で脳動脈瘤柄部におけるclippingが現在一般に行われているが,巨大動脈瘤の場合には動脈瘤柄部が広く,かつ流入動脈と柄部との剥離が困難であるために,clippingが不可能な症例がある.このような症例に対して,種々の治療法が試みられているが,なお満足すべき治療法が確立されていないのが現状である.われわれは,頸動脈—海綿状静脈洞に対しelectrothrolnbosisを行い満足すべき結果を得てきたので,この方法を用いて内頸動脈巨大動脈瘤に対して銅線の瘤内直達刺入による電気的凝固血栓法を試みたところ,動脈瘤は血栓形成により縮小したものの,術後2週間日に再出血発作を認め不幸な転帰となった1症例を経験したので,反省の意味をこめて本治療法の問題点につき考察を加えて報告する.

慢性硬膜下血腫に合併した脳表仮性動脈瘤—外傷性中大脳動脈瘤に関する一考察

著者: 天笠雅春 ,   小沼武英 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.81 - P.86

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫と中大脳動脈皮質枝の仮性動脈瘤の合併例は稀であり,わが国において木矢(1978)28),園部(1981)51)の報告があり主として外傷性と考えられている.われわれは最近特異なCT像を示した慢性硬膜下血腫と中大脳動脈皮質枝の仮性動脈瘤の合併例を経験したので,これを報告し,外傷性中大脳動脈瘤を文献的に考察し,さらに慢性硬膜下血腫と仮性動脈瘤との関連についても考察したので報告する.

再度におよぶ脊髄撮影と,手術後に発生した症候性骨化性くも膜炎—1例報告と文献的考察

著者: 田中公人 ,   西浦巌 ,   小山素麿

ページ範囲:P.89 - P.93

I.はじめに
 くも膜炎に骨化が起こった病態を骨化性くも膜炎という1,7,10).臨床上注意していると,脳神経外科医も偶然これに遭遇することがあり,病理学的には剖検の報告も数多くみられ,決して稀有なものではない25,9)
 しかし症便性骨化性脊髄くも膜炎は極めて稀で,本邦ではわれわれの知るかぎり5例の報告をみるにすぎない3,6,8,12)

Gelfoam powderを用いた髄膜腫に対する術前塞栓術にて腫瘍出血を生じた1例—その出血機序についての検討

著者: 本崎孝彦 ,   大塚信一 ,   佐藤慎一 ,   中尾哲 ,   伴貞彦 ,   福光太郎 ,   山本豊城

ページ範囲:P.95 - P.101

I.はじめに
 術中の出血量を減少させる目的のために,髄膜腫に対して術前栄養血管塞栓術が,すでに多くの施設にて行われており,その有効性も広く認められている.
 しかし,それによる合併症も少なからず報告されているが,塞栓物質の頭蓋内血管への流入によるものを除いては,いずれも比較的軽微なものが多く,塞栓術によると思われる腫瘍周囲への血腫形成の報告は,われわれが渉猟し得た範囲では,わずか数例10,12,14)にすぎない.

腫瘍内出血をきたしたMedulloblastomaの1剖検例

著者: 鳴海新 ,   平野朝雄 ,   ,   加藤丈夫 ,   山本徹

ページ範囲:P.103 - P.107

I.はじめに
 脳腫瘍の合併症の1つとして腫瘍内出血が起こることは昔からよく知られている11).一般に原発性脳腫瘍からのmassive hemorrhageは約5%に起こり,その大多数はglioblastomaやpituitary adenomaなどの例に見られるといわれている5,10,15).一方,medulloblastomaは全頭蓋内腫瘍の2-4%,小児頭蓋内腫瘍の15-20%を占める1,9)小児の代表的な悪性脳腫瘍であるが,それが腫瘍内出血をきたし急激な臨床経過をとることは非常に稀と考えられる.私どもが渉猟し得た限りではmedulloblastomaの再発巣や転移巣から出血した例12)や,外科的治療(脳室ドレナージ)後14)および放射線治療後に10,12)出血した例などを含めても25例2,3,5,6,8,13,15-18)の報告を見るのみである.それらの報告のなかで病理組織学的に詳細に検討したものは3例2,8,13)に過ぎない.今回私どもはmedulloblastomaの出血例を経験し,病理組織学的に詳細に検討することができたので報告するとともに,その出血機序についても考察を加える.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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