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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科15巻12号

1987年12月発行

雑誌目次

教育する心

著者: 阿部弘

ページ範囲:P.1271 - P.1272

 厳冬の2月,毎週月曜日の第1講目である脳神経外科の講義が午前8時40分からはじまる.暖房がまだゆきとどいていない寒い講堂で,約20-30名の学生を前にして,筆者は講義を始める.X線写真を見せ,術前または術後の患者に短時間講堂に来てもらい,患者が去ってから,術中のカラースライド,ビデオテープ,ときには16mmムービーを供覧し,これでもか,これでもかと熱っぽく語りかける.9時15分くらいになると学生は60名前後となり,秘書が出席カードを配布する10時近くになるとやっと80-90名(定員116名)前後に達する.かくして,80%強の出席率に胸をなでおろしながら,筆者は10時20分に講義を終える.
 医学教育の改善の必要が叫ばれてから,カリキュラムの改革,臨床実習・ベッドサイドティーチングの重視,視聴覚教育の導入などなど,遅々ではあるが,そしてまだ不満足ではあるが,少しずつ医学教育のシステムは改善されてきていると思う.少なくとも筆者が学生の頃に経験したような,ただノートを読み上げて学生に書きとらせるような講義は,今の医学部には存在しないと思われる.ハードウェアのほうも,新しい医科大学ほど,視聴覚教育システムの完備した素晴らしい講堂,立派な実習室を備えている.

解剖を中心とした脳神経手術手技

脊髄後正中中隔進入法の検討

著者: 三井公彦

ページ範囲:P.1273 - P.1280

I.はじめに
 現在行われている脊髄病変に対する脊髄切開は,脊髄後面の正中と思われるあたりを切開しているので,手術操作によって一部の縦走線維を横断することが少なくない.この点後索を二分している後正中中隔を正確に経由すれば,正中線上のorientationが容易であるので,縦走線維を損傷する危険性を最少限にとどめながら脊髄の中心に達し,さらに前正中裂にまで達することができる.

熱戦記

第1回および第2回日本脳神経外科全国野球大会ノート

著者: 太田富雄 ,   山田恭造

ページ範囲:P.1282 - P.1283

第1回大会
 昭和61年8月25日(月),26日(火)の両日,第1回日本脳神経外科全国野球大会が,南海ホークスのhomegroundである大阪球場で開催された.第1試合に先立ち,杏林大学竹内一夫教授(第45回日本脳神経外科学会会長)により始球式が行われ,熱戦の火蓋が切って落された.
 炎天下での各地区選抜チームの激突は,学会では見られないスポーツマンシップあふれる活躍で,熱い汗と爽やかさを残し,親善の目的を大いに果たして無事終了した.結果は岡山大学が優勝し優勝旗(竹内教授寄贈)が,また準優勝楯が岩手医科大学に手渡された.

研究

外傷性小脳挫傷の臨床的検討

著者: 佐藤健吾 ,   檜前薫 ,   松沢裕次 ,   竹原誠也 ,   植村研一 ,   忍頂寺紀彰 ,   下山一郎

ページ範囲:P.1285 - P.1289

I.目的
 外傷性小脳挫傷は外傷性頭蓋内出血の0.60%内外1)といわれ,CTの普及につれ近年報告例は増加し,われわれが調べ得た限り現在まで72例の報告1-6,8,9,11-13,15-31)がある.従来見逃されていた症例がCTにより発見されているものと思われるが,報告例の多くは重傷頭部外傷に合併したもので,受傷直後より意識障害の高度な例が多い.これらは,その病態をすべて表しているとは思えない.今回われわれは当科で8例を経験し,その発生機転,多彩な臨床経過,治療法,予後について検討を加えたので述べたい.

組織内照射型マイクロウェーブアンテナを用いた区別低体温療法の基礎的研究

著者: 守山英二 ,   松海信彦 ,   白石哲也 ,   田宮隆 ,   佐藤透 ,   松本健五 ,   古田知久 ,   西本詮

ページ範囲:P.1291 - P.1297

 I.はじめに 悪性脳腫瘍に対する治療法としては,手術療法,放射線療法,化学療法さらに免疫療法が試みられている.しかし,いずれの治療法にも限界があり,現在のところ悪性脳腫瘍の根治は非常に困難である.最近では,新しい方法として温熱療法の応用が試みられている2,20,21,34).われわれは1969年以来,温熱療法の一種である区別低体温法(Differential Hypothermia, DH)の基礎的および臨床的研究を行っている7,8,11,28).本法は1965年,Popovicらによって最初に報告され14-18),全身低体温下に腫瘍局所のみを正常体温に加温保持し抗腫瘍効果を発揮するものである.今回は,加温方法を改良し,より正確に区別低体温法を応用する目的で,組織内照射型マイクロウェーブアンテナを開発し,その加温パターンおよび正常脳組織の温熱に対する生理学的変化を検討した.

Co-operative study以後のCompleted strokeに対するEC-IC bypass surgeryに関する私見

著者: 神野哲夫 ,   石山憲雄 ,   丹治英明 ,   佐野公俊 ,   阿部守 ,   亀井義文 ,   浅井敏郎 ,   中川孝 ,   V.K.Jain

ページ範囲:P.1299 - P.1303

I.緒言
 BarnettおよびPeerless4)らが中心となって行われたEC-IC bypass surgeryに関するco-operative studyの結果は北米の脳外科医のみならず,われわれ日本の脳外科医にも少なからずのショックを与えたようである1,2).著者は,このco-operative studyのメンバーの一員にさせて頂いていたので,原則的に,一般的に,この結果はacceptしている.
 しかしながら著者らは,いまだに,数は限られているが,このbypass surgeryを脳梗塞例に行っており,今後とも続ける方針でいる.なぜなら現在まで得られた自験例の中に,completed strokeでありながらbypasssurgeryの翌朝に誰が見ても症状の改善をみた症例があるからである.それは,ただ脳外科医のみならず,看護婦,患者の家族,患者自身(そして,ときには神経内科医すら)も認めざるを得ないほど,有意な臨床症状の改善を示す症例が厳然とあるという臨床家の実感によるものである.

GCS score 5以下の急性硬膜下血腫の治療

著者: 重森稔 ,   徳富孝志 ,   弓削龍雄 ,   正島和人 ,   松尾浩昌 ,   森山匠 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.1305 - P.1310

I.はじめに
 重症頭部外傷のうち,急性硬膜下血腫の治療成績は治療法の如何にかかわらず現在でも極めて不良である4,7,9,10,14).特に,Glasgow Coma Scale(以下GCS) score15)が5以下を示す本血腫例の死亡率は重症頭部外傷の中では最も高率であり4),これらの症例についてはいまだ満足すべき治療法がないといっても過言ではない.
 著者らは,従来から急性硬膜下血腫に対し血腫除去術とともに広範囲減圧開頭術を行っており9-11),最近では本法に加えバルビタール療法を併用し,その有用性を報告してきた11,12).しかし,頭蓋腔を非生理的状態におく外減圧手術については批判も多く,むしろ小開頭による血腫洗浄除去術を推奨する報告もみられる1)

症例

プロラクチノーマと頭蓋咽頭腫の合併例

著者: 浅利潤 ,   山野辺邦美 ,   佐々木達也 ,   山尾展正 ,   児玉南海雄

ページ範囲:P.1313 - P.1318

I.はじめに
 組織学的に異なる頭蓋内原発腫瘍が同時に認められた報告は散見され1-6,8-9),組織学的には神経膠腫と髄膜腫の合併頻度が高い.われわれは視力視野障害を主訴とし,高プロラクチン血症を呈したプロラクチノーマと頭蓋咽頭腫の合併例というこれまで報告のない稀な症例を経験をしたのでここに報告する.

脳塞栓症を呈した左房粘液腫—超選択的血栓溶解術が奏効した1例

著者: 菅原孝行 ,   高橋明 ,   蘇慶展 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎 ,   鈴木康之 ,   堀内藤吾

ページ範囲:P.1321 - P.1326

I.はじめに
 心筋梗塞に対して選択的に血栓溶解剤を注入し,早期に冠動脈を再開通させる冠状動脈血栓融解療法(Percutaneous Transluminal Coronary Recanalization; PTCR)はGanz6)らにより試みられ,広く普及している.
 一方,頭蓋内脳血管に対しては,Zeumer24)らの報告以外には超選択的に血栓溶解剤を注入し成功した報告はみられない.

松果体転移性腫瘍の1例

著者: 柳本広二 ,   垣田清人 ,   福間誠之

ページ範囲:P.1329 - P.1334

I.はじめに
 松果体部にはgerm cell tumorをはじめさまざまの腫瘍が発生するが,松果体部の転移性腫瘍は報告も稀であり,脳の転移性腫瘍としては例外的発生部位と考えられている.最近,われわれは上方注視麻痺を初期症状とした胃癌の松果体部転移例を経験する機会を得たので,これを報告するとともに,過去の文献をもとに発生頻度に関する統計的事項について述べる.

血清中のAFPおよびHCGがともに著明な高値を示した鞍上部悪性Germ cell tumorの1例

著者: 西山一英 ,   西田憲記 ,   日下和昌 ,   森住啓

ページ範囲:P.1337 - P.1342

I.はじめに
 最近radioimmunoassayの目ざましい発展により腫瘍マーカーであるalpha-fetoprotein(以下AFP)やhumanchorionic gonadotropin(以下HCG)を産生する頭蓋内原発のgerm cell tumorの報告がみられるようになってきた.しかしながらAFPおよびHCGがともに高値を示した症例の報告はいまだ少ない7,12,16,17,19,20).われわれは鞍上部に発生しAFPおよびHCGがともに高値を示した悪性germ cell tumorを経験し,術後,cisplatin,vincristin,bleomycinの3者併用療法(以下PVB療法)を行い,良好な結果を得たので報告する.病理組織学的にはgerminoma with syncytiotrophoblastic giant cellsand immature teratomaの混在型であり,免疫組織学的にもAFP,HCGの腫瘍内局在を証明しえたので,若干の文献的考察を加え報告する.

転移性脳腫瘍,癌性髄膜炎に類似した結核腫,結核性髄膜炎の1例

著者: 森本正 ,   佐々木富男 ,   馬杉則彦 ,   永山一郎 ,   梅村春彦

ページ範囲:P.1345 - P.1350

I.はじめに
 わが国および欧米先進国では結核罹病率は著しく低下しており,これに対応して頭蓋内結核腫も稀な疾患となっている.われわれは転移性脳腫瘍,癌性髄膜炎と誤診した結核腫,結核性髄膜炎の1例を経験したので反省の意味をこめて報告し,広く注意を喚起したい.

手術中の動脈損傷による外傷性脳動脈瘤の1例

著者: 井手豊 ,   湧田幸雄 ,   織田哲至 ,   青木秀夫

ページ範囲:P.1353 - P.1359

I.はじめに
 頭部外傷による外傷性脳動脈瘤の発生についてはよく知られているが,手術中の動脈損傷による外傷性脳動脈瘤(以下TA)の報告例は比較的少数である.われわれは,脳腫瘍摘出術中の動脈損傷に起因したTAを摘出し,その病理組織学的検索を行った結果,積極的に根治手術を行うべきと考えられたので,文献的考察を加え報告する.

前交通動脈瘤を合併したPersistent primitive arteryの2例

著者: 杉山尚武 ,   山下伸子 ,   神谷健 ,   福岡秀和 ,   永井肇

ページ範囲:P.1361 - P.1364

I.はじめに
 persistent primitive trigeminal artery(PTA)は,内頸動脈—脳底動脈吻合遺残のうち最も頻度が高く,脳血管撮影上,0.1-0.3%にみられ4,12,14,17),persistent primi—tive hypoglossal artery(PHA)はその1/6の頻度でみられるといわれている12,17).persistent primitive arteryは,それ自体臨床症状を呈することは少なく,くも膜下出血,脳腫瘍,頭部外傷などの疾患で脳血管撮影が行われたときに,偶然発見されるものが多い.われわれは,くも膜下出血で発症し,脳血管撮影で前交通動脈瘤とpersistent primitive arteryの合併した2例を経験したので報告する.

椎骨脳底動脈系血管障害に合併した未破裂脳動脈瘤の5例

著者: 山本昌昭 ,   神保実 ,   井出光信 ,   河西徹 ,   田中典子 ,   武山英美

ページ範囲:P.1367 - P.1373

I.はじめに
 近年,stroke patientに未破裂脳動脈瘤が発見される機会が多くなり,多少の異論はあるものの積極的に手術される傾向にある.しかし,基礎となる脳血管障害の病型や程度により,術後成績が必ずしも良くない場合のあることが最近指摘されるようになってきている6,8,13).特に基礎疾患が椎骨脳底動脈系にある場合は,手術適応を含む患者管理には格別の配慮が必要となると考えられる.
 われわれは最近このような症例を5例経験し,そのうち4例に手術を行ったところ,3例に術後一時的な意識障害を中心とした神経症状の増悪をみた.本稿ではこれらの臨床経過を報告するとともに,このような症例における患者管理上の問題点を検討した.

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「脳神経外科」第15巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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