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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科15巻2号

1987年02月発行

雑誌目次

患者とのCommunication

著者: 最上平太郎

ページ範囲:P.115 - P.115

 私が医師になって外科に入局した頃,先輩からまず言われたことは医師以外の人のいる所では言葉づかいに十分気をつけるようにということであった.私ども医師は同僚の間で何の気なしに喋っている医療の話も医師以外の人が聞くと極めてショッキングに聞えることが多い.生命にかかわる手術中の出来事など平然と話す人がいるが,患者にとっては怖い話である.局所麻酔での手術中,"そんなへまするから切っちまうじゃないか"と大声で助手を叱ったため,患者が心配そうに"先生もうだめなんですか"と言われて困ったことがある.
 患者にはドイツ語が判らないつもりで"Krebs"なぞ決して言わないことである.何度も医師に受診した人など医師の使うドイツ語ぐらい判る人も少なくない.いわんや英語などはなおさらである.一般に患者や家族は非常に神経質になっているので些細なことでも過度の反応を示しやすく,ただ一度の失言で信用を失うことすらある.したがって患者や家族との対話は慎重を要するが,近年一般に医学常識も向上していると思われ,特定の事については医師よりよく知っている患者もある.ただ変に誤った常識をつけてもらうと厄介である.新聞や雑誌の切り抜きを示して,こんなことも知らないのかとばかり患者から一くさり講釈をきくことも時にある.近頃はCT検査を強要してきかない人が少なくなく,こんな方は自分で自分の病気を診断しており,医師の診察よりもむしろ器械の方を信用する傾向がある.

解剖を中心とした脳神経手術手技

前方からの頸髄除圧を目的としたMultiple subtotal somatectomy

著者: 小島精 ,   和賀志郎 ,   久保和親

ページ範囲:P.117 - P.123

I.はじめに
 頸椎症3-6)および後縦靱帯骨化症(OPLL)1,2,7,10,12),また両者の合併によるmyelopathyに対する治療は古くから議論の多いところである.頸椎症とOPLLの成因は全く異なり,両者を同一に論ずるには問題が多いが,さらに病態を把握する際には,頸椎管が発達異常により狭い場合,逆に広い場合,頸椎の前屈,後屈といった可動性に伴う頸髄の前後への動き,椎間板膨隆の程度,黄靱帯による後方からの圧迫の程度,椎体の不安定性に基づくpincer mechanismなどの多くの因子を考慮せねばならない.しかし頸椎症は頸椎管外前方から,OPLLは頸椎管内前方から頸髄を圧迫,神経症状をきたすという病態であり,いずれにしろ主病変は頸椎管前方に存在する.頸椎症およびOPLLによるmyelopa—thyの治療に関しては保存的療法,特に整形外科領域においては牽引療法,温熱療法が好んで用いられている8,9).われわれは保存療法に反応せず,またMRI,脊髄撮影およびその後のCTで神経学的高位レベルに一致する脊髄圧迫所見を認めた場合を手術治療の適応としている.
 頸椎および頸椎管内の病変に対する手術には主に前方到達法と後方到達法が用いられており,各々脊髄の除圧を目的とした術式,神経根の除圧を目的とした術式がある.

研究

メトリザマイドCTによる頸椎椎間板ヘルニアの分類

著者: 高橋一則 ,   小山素麿 ,   五十嵐正至 ,   相井平八郎

ページ範囲:P.125 - P.130

I.はじめに
 Di Chiro6)が1975年,CTを脊髄空洞症に応用して以来すでに10年が経過し,CT,特にメトリザマイドCT(以下met.CTと略す)は今日では脊髄疾患の診断に不可欠の検査となっている.頸椎椎間板ヘルニアに対しても,その局在や性質,脊髄や神経根への圧迫の程度,くも膜下腔の状態あるいは脊椎管や椎間孔の形態とヘルニアの関係がmet.CTで容易に観察できるようになり,その有用性については諸家の報告の通りである1'12,16)
 われわれは以前soft disc 30例のmet.CT所見について報告したが10),今回はScovilleの定義に基づく頸椎椎間板ヘルニア150例に対してmet.CTの所見をもとにした分類を試みた.この分類は手術適応と方法,たとえば椎間板の除去のみでよいか,骨棘をも含めるか,あるいはuncotomyも必要なのかなどを考慮する際に有用と思われるので報告する.

脳動静脈奇形周囲脳組織の病態—NMR-CTによる観察

著者: 藤原悟 ,   吉本高志 ,   木内博之 ,   鈴木二郎 ,   山田健嗣 ,   松沢大樹

ページ範囲:P.133 - P.140

I.はじめに
 脳動静脈奇形(以下AVM)は種々の脳症状を呈し,その原因もいろいろ挙げられているが,上としてAVMからの出血.によるものとAVMが周囲脳組織に何らかの影響を及ぼしたために生ずるものとに大別される.これらのうち出血そのもの,もしくは出血後の水頭症などは従来のX線CT(以下X-CT)により容易に検出できるが,AVMが周囲脳組織に及ぼす影響や周囲脳組織の示す病態については,これ虫で脳血管撮影や脳循環などの立場から種々の議論がなされてはいるものの三次元的把握は困難であった.そこでわれわれはこのAVM周囲脳組織の病態解明の一助としてNMR-CTを用い,AVMを含めた周囲脳組織のイメージング,T1・T2計算画像による観察および関心領域(以下ROI)のT1・T2緩和時間値の測定を試みたので報告する.

カルモジュリン阻害剤によるACNU耐性克服の可能性

著者: 吉田達生 ,   清水恵司 ,   最上平太郎 ,   坂本幸哉 ,   栄川隆信

ページ範囲:P.143 - P.149

I.はじめに
 悪性腫瘍に対する化学療法のなかで最も問題となるのが抗癌剤耐性の問題であり,ここ数年の間に脳腫瘍の化学療法における抗癌剤耐性もにわかに注目されはじめ,特にニトロソウレア系抗癌剤ACNUに対する耐性に関してようやく知見が得られる段階に至っている1,5,7,12,14,17).しかし.現時点ではその耐性機構あるいは治療法に関して統一した見解は得られていない.一方,われわれはこれまでにカルシウム拮抗剤あるいはreserpineがACNU耐性glioma細胞においてACNUの作用を増強することを発見し,その機序が細胞膜におけるカルシウム代謝と関連があることを報告してきた14-17).そこでわれわれは,ACNU耐性と細胞膜におけるカルシウム代謝との関係に着目し,細胞内あるいは細胞膜において直接カルシウム代謝を調節する機能蛋白であるカルモジユリンと抗癌剤耐性との関係をカルモジュリン阻害剤を用いて調べ,ACNU耐性脳腫瘍細胞における耐性機構おにびその克服の可能性を検討した.

外傷性脳損傷に対するイオン・ブロッカーの脳保護作用—実験的研究

著者: 佐々木司 ,   間中信也 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.151 - P.156

I.緒言
 頭部外傷に虹る脳損傷は,第一に,受傷時に生しる機械的作用による組織学的破壊を伴う損傷であり,その程度は作用する物理的エネルギーによって決定され,治療の対象となりにくい.しかし,この障害を免れた脳組織も,やがて引き起こされる一連の二次的細胞障害反応により損傷され,より広範な障害を被ることになる.この反応をいかに少なく抑えるかに外傷治療の主眼が置かれているのであるが,いまだ決め手となる治療法は確立されていない,外傷による二次的細胞障害反応として,血管障害を介しての虚血性障害,その原因ともなり得る細胞膜障害,特にarachidonate metabolismの一連の反応,脳浮腫などが考えられている9,12).しかし,これらの反応の起こる前に,外傷直後より,脳細胞内外のでオン・バランスの変化が起こっていることが知られている.ことに,カリウム・イオンの細胞外への流出は著明で,この細胞外カリウムの上昇により神経細胞やグリア細胞の生理学的諸反応が障害きれることが報告されている3,4,11,12).われわれが今回用いたマウス頭部外傷性意識障害モデルにおいても,細胞外カリウム上昇が痙攣発生およびマウス死亡と密接に関連していることは,すでに報告した19).外傷直後より生じるでオン・バランスのもう1つの変化として,最近,カルシウム・イオンの細胞内流入が重視されるようになってきた.

症例

橋背部海綿状血管腫の1手術治験例—診断上MRIの有用性

著者: 奥達也 ,   米満勤 ,   藤原悟 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.159 - P.164

I.はじめに
 脳幹部海綿状血管腫は17,18)報告例も少なく稀な疾患とされ,なかには腫瘍とみなされ放射線,化学療法を施行された症例も少なくない1,22,),まして,その直達手術となると現在主で,わずか数例5,10,19)を数えるのみである.しかしMRIなどの診断庁法の進歩により早期診断も可能となり,今後,手術適応となる症例も増加してくるものと思われる.
 最近われわれは他科にて橋腫瘍を疑われたが,MRI所見を中心に,年齢,臨床症状のfollow-up,CT scanにより橋背部海綿状血管腫と診断し,手術的に全摘し得た1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

松果体腫瘍を合併した結節性硬化症の1例

著者: 栗本昌紀 ,   小原進 ,   中垣滋央 ,   青木重憲 ,   森睦子

ページ範囲:P.167 - P.171

I.はじめに
 結節性硬化症は,知能障害・てんかん・顔画脂腺腫を3主徴とする神経皮膚症候群である1,16,21)本症候群の病変は,中枢神経・皮膚・心・腎・骨をはじめ広汎におよぶが,過誤腫あるいは腫瘍性病変がその本態である14,18,21)結節性硬化症に脳腫瘍を合併する頻度は,諸家の統計13,16)によれば約10%であり,必ずしも少ないものではないが,そのほとんどは側脳室Monro孔付近に発生するsubependymal giant cell astrocytomaであることが知られている1,6,14,18)
 われわれは松果体部mixed oligodendroglima andastrocytomaを合併した結節性硬化症の稀有なる1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

頭皮動静脈奇形の3例

著者: 下田雅美 ,   松前光紀 ,   渋谷直樹 ,   山本勇夫 ,   佐藤修

ページ範囲:P.173 - P.178

I.はじめに
 頭蓋外の動静脈短絡により生じた血管性腫瘤は古くより種々の名称で呼ばれているが,動静脈間にごく少数の単純な交通枝しか持たないものをarteriovenous fistura,多数の複雑な交通枝を持つものをvarix様という意味でcirsoid aneurysmとし,両者を合わせ広義な意味でscalp arteriovenous malformation(scalp AVM)とまとめられる6).その頻度は頭蓋内動静脈奇形の1/20と比較的稀で,元来その治療法として全摘出術が有効とされていたが7,13,24,26),最近根治的にはもちろん術前処置として人工塞栓術が施行されるようになった5,7,10,30)われわれはscalp AVM 3例を経験したので,文献的考察を加え,ここに報告する.

頸部黄色靱帯ピロリン酸カルシウム結晶沈着症における新知見

著者: 川野信之 ,   松野昻士 ,   宮沢七郎 ,   内山晃 ,   大高弘稔 ,   三井公彦 ,   橘滋国

ページ範囲:P.181 - P.190

I.はじめに
 ピロリン酸カルシウム結晶沈着症(calcium pyrophos-Phate dihydrate crystal deposition disease, CPPDcdd)はMcCartyら33-35)の業績以来,多くの報告が相つぎ,その本態の解明がなされつつある.しかし,いまだ不明の点が多い新しい疾患概念である.
 本症は,一般に関節軟骨に発生するので別名chon—drocalcinosis48,49),pyrophosphate arthropathy9,10)またはpseudogout syndrome32)とも呼ばれている.また近年,関節外にもCPPDcddが発生することも注目され始めている8,17,18)

大後頭孔症候群を呈した紡錘状椎骨動脈瘤の1治験例

著者: 森岡隆人 ,   福井仁士 ,   井上亨 ,   北村勝俊 ,   蓮尾金博

ページ範囲:P.193 - P.198

I.緒言
 大後頭孔症候群は,上部頸髄および大後頭孔付近の良性髄外腫瘍の症候として多くの症例報告ならびに解説がみられる7,10,13,20-22,25,26).今回われわれはこの症候群を呈した頭蓋内外に主たがる紡錘状椎骨動脈瘤を経験したので,その症状を提示し,本例における同症候群の発症機転,特に上肢の筋萎縮について考察を加える.
 また,このような腫瘤としての性格を有する椎骨動脈瘤に対してはproximal ligationが有効であったことを,metrizamide CT ミエロゲラフィーで確認したので,あわせて供覧する.

側脳室内乏突起膠腫—2例の報告と考察

著者: 新阜宏文 ,   中洲敏 ,   中洲庸子 ,   松田昌之 ,   半田譲二

ページ範囲:P.201 - P.205

I.はじめに
 Oligodendrogliomaの90%はテント上に,しかも主として大脳半球に発生する14).Martin7)はこの大脳半球のoligodendrogliomaとやや異なった臨床的特徴をもち脳室を中心に発育したものをmidline groupとして一括し,以後midline oligodendroglioma, intraventri—cular oligodendroglioma6)などの名称での報告が散見され,臨床的特異性が強調されている.われわれも最近2例の側脳室内oligodendrogliomaを経験したので,臨床的特徴,MRIを含めた画像診断,手術方法を中心に報告する.

眼窩,上顎洞へ浸潤したGlioblastomaの2症例

著者: 西村敏 ,   山下俊紀 ,   枚田一広 ,   村井かおる ,   鈴木範行

ページ範囲:P.207 - P.211

I.はじめに
 neuroectodermal tumorの頭蓋外転移は稀で,0.4%8)ともいわれている.転移部は主に肺,リンパ節,骨,肝で,術後の術創部よりの直接浸潤を除けば,腫瘍部より硬膜をこえて隣接する組織への破壊的浸潤を呈することすら,比較的稀である.
 われわれの施設にて,側頭葉悪性神経膠腫の眼窩,上顎への浸潤を2例経験した.1例は,腫瘍全摘出後15カ月を経て,眼窩,上顎への進展を認め,再手術を行ったが,腫瘍摘出腔(原発巣)には全く再発は認められず,隣接した眼窩,上顎部のみでの再発であった.他の1例は,同じ悪性神経膠腫で,原発巣の再発により眼窩内への直接浸潤を示した.2症例の転移経路を対比検討し,若干の文献的考察を加えて報告する.

脊髄硬膜外に発生した骨髄外性形質細胞腫の1症例

著者: 加藤功 ,   中川翼 ,   澤村豊 ,   今村博幸 ,   永島雅文 ,   樋口晶文 ,   髭修平 ,   鈴木知勝

ページ範囲:P.213 - P.218

I.はじめに
 形質細胞腫は,通常,骨髄内増殖を示し,多くは骨梁・骨皮質の吸収を伴う骨髄内腫瘍結節を形成する.しかし,骨髄外腫瘤形成を示すこともある.今回,われわれは,骨変化を伴わず,胸髄硬膜外に腫瘤形成を呈した形質細胞腫という極めて稀な症例を経験したので報告する.

環椎後弓欠損の2例

著者: 中村勉 ,   角家暁 ,   伊東正太郎 ,   郭隆璫 ,   鈴木尚 ,   佐藤秀次

ページ範囲:P.221 - P.225

I.はじめに
 頭蓋頸椎移行部は各種の奇形の好発部位であるが,これらのなかには無症状で偶然に発見される例も少なくない.環椎後弓欠損もその1つであるといえる.著者らはこの比較的稀な奇形を経験する機会を得たので文献的考察を加えて報告する

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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