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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科15巻3号

1987年03月発行

雑誌目次

広く世界に友を

著者: 髙倉公朋

ページ範囲:P.233 - P.233

 日本は,澄んだ青空に紅葉が映える秋の風情であったが,アマゾンの森を越えて到着したリオデジャネイロには夏の太陽が輝いていた.ブラジル第3の都市,ベルオリゾンテで開かれた神経学会に出席することが目的の旅であったが,同時に新しいがんセンターを訪ねるのも楽しみであった.この所長のde Alves教授は敬虔なクリスチャンで,その献身的な人柄を慕う患者が群集まる.9年前に,この市の丘陵の上に立ち,癌に患う貧しい人達のために,ここに病院を建てたいという夢を情熱をこめて語ったのは,現在ウジミナス製鉄所社長のBarbosa氏でde Alves教授の親友である.この2人の情熱が,今回訪れた時には立派に実って新病院は活動を始めていた.細かい所まで,心配りの行き届いた病院である.コバルト治療室の壁は,一面全体が美しい山の写真で張り廻らされており,治療室に入った感じがしない.山の中にいるかと思わせる情景である.患者の心が和むように作ったのですと語りながら,80歳を越えた老教授は私の腕を抱えながら院内を案内して下さった.ブラジルの人人は底抜けに明るく,心暖かな国民である.この国の指導者には立場は違っても,人類愛をひたむきに求める理想があり,それを実現していく力がある,「ブラジルには未来があります」と,この2人は私にいつも,こう語るのである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

前交通動脈瘤の手術—解剖を中心とした考察

著者: 小林茂昭 ,   一之瀬良樹 ,   杉田慶一郎

ページ範囲:P.235 - P.240

I.はじめに
 前交通動脈瘤は頭蓋内脳動脈瘤の30-40%を占める.その部位が深部にあり,頭蓋底のほぼ正中部にあるということ,ならびに4本の親血管をもつという特徴がある.また視床下部に近いため技術的にも非常に困難な部位にある動脈瘤である.後部循環系の動脈瘤で最も困難とされる脳底動脈分岐部動脈瘤が深部にあること,親血管が5本で,まわりがすべて重要組織であるということと対比すると前交通動脈瘤は技術的にはこの動脈瘤に匹敵すると考えられる.前交通動脈瘤に対するアプローチとして,pterional approachとinterhemisphericapproachがあるが,本論文では両アプローチに関する一般的考察を行い,次いで前交通動脈瘤のsubtypeについて言及する.

研究

顔面痙攣患者における後頭蓋窩容積の測定とその意義

著者: 山本義介 ,   近藤明悳 ,   花北順哉 ,   西原毅 ,   絹田祐司 ,   中谷英幸

ページ範囲:P.243 - P.248

I.はじめに
 顔面痙攣は,顔面神経がその起始部近傍にて血管により圧迫されるために発生することが明確となり,したがってその根本的治療として,顔面神経より圧迫血管を遊離する顔面神経減圧術がわが国においても10年前から著者らにより広く行われるようになった2,3,5).ところで顔面痙攣患者の頭蓋単純撮影を詳細に検討してみると,その多くの例で後頭蓋窩容積が小であるという印象が強く(Fig.1),したがって顔面痙攣発生機序の1つの条件である椎骨脳底動脈系の血管構築上の特徴6)以外に,後頭蓋窩容積が狭小であるという要素をも症状の発生原因として考えるべきであると推測するに至った.しかしながら,今まで放射線学的に頭蓋内容積を詳細に測定した報告がないため,著者らはCT scanを用いた独自の方法により,これら顔面痙攣患者の後頭蓋窩容積の全頭蓋腔容積に対する比率を測定し,同時期に測定したこの疾患以外の患者のそれをコントロールとして比較検討したのでその結果を報告するとともに,その臨床的意義について検討を加えた.

脳深部のMalignant gliomaに対するCT-guided stereotactic brachytherapy—Double-catheter after-loading法による組織内大量照射(第1報)

著者: 能谷正雄 ,   天野恵市 ,   河村弘庸 ,   谷川達也 ,   川畠弘子 ,   伊関洋 ,   塩飽哲士 ,   長尾建樹 ,   岩田幸也 ,   平孝臣 ,   梅沢義裕 ,   清水常正 ,   久保長生 ,   喜多村孝一 ,   小林直紀 ,   小野由子 ,   柿木良夫 ,   大川智彦 ,   池田道雄

ページ範囲:P.251 - P.258

 I.はじめに 悪性脳腫瘍の治療には,従来,外科的治療,放射線治療,化学療法,免疫療法,温熱療法などが併用されてきたが,治療成績は満足すべきものとはいえない8,13,16,17)
 深部悪性脳腫瘍に対しては,定位脳手術と放射線治療を組み合わせた方法で,Mundinger15)は組織内照射を行ってきた.近年,より的確なradiosurgcryとして,computed tomography(CT)と定位脳手術を組み合わせ,局所の照射線量をあらかじめ正確に設定できるafter-loading法で組織内照射が行われるようになった3-5,6,9-11,14)

カルモジュリン阻害剤によるACNU耐性グリオーマの治療

著者: 吉田達生 ,   清水恵司 ,   早川徹 ,   最上平太郎 ,   坂本幸哉 ,   栄川隆信

ページ範囲:P.261 - P.267

I.はじめに
 悪性脳腫瘍における抗癌剤耐性の問題は,化学療法などの発達により患者の生存期間が延長するに伴い,極めて重要な課題となってきたにもかかわらず,これに対する有効な治療法は確立されていないのが現状である8).われわれはこれまで,グリオーマにおけるACNU耐性の研究のなかで,耐性の機序が細胞膜におけるカルシウム代謝と関連があることを示唆してきた11-14).特に細胞内あるいは細胞膜においてカルシウム代謝を調節していると考えられるカルモジュリン7)の機能を阻害することにより,ACNU耐性脳腫瘍細胞における細胞内ACNU濃度が高まり,in vitroにおけるACNUの作用が増強されることを発見した15).今回は,カルモジュリン阻害剤であるtrifluoperazineを用いて,そのinvivoにおけるACNUの作用増強効果を調べるとともに,ACNU耐性グリオーマに対する新しい治療法としての可能性を検討した.

全脳虚血モデルにおける血流再開後脳機能回復度評価法—ことに脳波の広周波数帯域フーリエ解析法の意義

著者: 中田宗朝

ページ範囲:P.269 - P.278

I.はじめに
 虚血後の脳神経細胞の回復の基準は統合された正常脳機能の再現である.その回復度は1つの方法のみで適切に評価することは不可能であり,代謝・血流・機能など多角的に評価されなければならないといわれる5)
 そのうちの1つである脳波は,神経機能を測定する最大の指標であるといわれながらも,現在までさほどの評価を受けるにいたらず9),またその方向で,量的・質的評価の可能性を追求しようとした研究も少ない.

症例

脊髄症状で発症したvon Hippel-Lindau病の1例

著者: 中里信和 ,   溝井和夫 ,   大山秀樹 ,   米満勤 ,   亀山元信 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.281 - P.286

I.はじめに
 von Hippel-Lindau病は,網膜・小脳の他に脊髄や腹部臓器にも血管芽腫などの病変を有し,多彩な症状を呈することが知られている6,7,11)が,本病における脊髄症状の出現頻度は4-6%程度とされ,眼症状や小脳症状に比べて稀である6,7). 今回われわれは,脊髄症状のみで発症したvon Hip—pel-Lindau病の1症例を経験した.本症例は脊髄に多発血管芽腫と脊髄空洞症を有しており,両者の因果関係や診断上の問題点などについて若干の考察を加えたので報告する.

綿片による異物肉芽腫の1例

著者: 須賀俊博 ,   大原宏夫

ページ範囲:P.289 - P.292

I.はじめに
 脳外科の検査や手術の普及に伴い,頭蓋内への異物迷入残存による病変の報告が散見されるようになったが1-4,7),今回われわれは,大脳鎌髄膜腫全摘出後約1年の経過で,痙攣の再発を起こしCTスキャンその他で髄膜腫再発と診断し再開頭を行ったところ,実は綿片による異物肉芽腫であった1例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

自然消失した小脳橋角部くも膜嚢胞の1例

著者: 高木清 ,   佐々木富男 ,   馬杉則彦

ページ範囲:P.295 - P.299

I.はじめに
 頭蓋内くも膜嚢胞は,片麻痺や痙攣発作などの神経症状を呈したり,頭蓋内圧亢進症状を呈することもあるが,CTスキャンの導入により,軽傷頭部外傷や頭痛などを主訴とする患者に,偶然発見されることも多くなった3,8,14,17).しかしその自然経過については十分検討されているとはいえない.
 われわれは,顔面神経麻痺を主訴とした小脳橋角部のくも膜嚢胞で,経過観察中に自然消失した1例を経験し,本疾患の自然経過および治療方針を考える上で極めて示唆に富む症例と考えられたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Cavernous sinus内より発生し,高プロラクチン血症を呈した中頭蓋窩のCavernous angiomaの1例

著者: 立木光 ,   阿部秀一 ,   千葉明善 ,   村上寿治 ,   斉木巌 ,   金谷春之

ページ範囲:P.301 - P.305

I.はじめに
 中頭蓋窩の海綿状血管腫は,海綿静脈洞から発生するともいわれるが,今回著者らは,内外二葉の硬膜の間に存在し,海綿静脈洞内と強い癒着をもち,内分泌学的にhyperprolactinemiaを呈した海綿状血管腫の1症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

中頭蓋窩海綿状血管腫に対する放射線療法

著者: 柴田尚武 ,   福嶋政昭 ,   森和夫 ,   辻村雅樹 ,   横山博明

ページ範囲:P.307 - P.310

I.緒言
 中頭蓋窩海綿状血管腫は,脳内に発生したものと異なり,その著しい出血のため摘出が困難である.そこで,中頭蓋窩に発生した巨大海綿状血管腫3例に対して放射線照射を行い,CT上の腫瘍の変化を観察するとともに治療法について検討した.

頭蓋内外での流入血管遮断術を行ったPersistent trigeminal artery aneurysmの1症例

著者: 八巻稔明 ,   竹田正之 ,   高山宏 ,   中垣陽一

ページ範囲:P.313 - P.318

I.緒言
 persistent trigeminal artery(以下PTA)は胎生期からの遺残血管であり,血管壁の構造上などから破裂もしくは動脈瘤を発生しやすいと考えられているが,PTA aneurysmは実際には稀な疾患である.直達手術に関してはMorrison11),児玉8)らによる2例の報告をみるのみであるが,海綿静脈洞内PTA aneurysmの根治手術は洞内を諸神経が走行し,また静脈洞よりの止血が容易ではないなどの困難があり,両報告例とも術後に眼筋麻痺,顔面知覚障害を残している.
 われわれは,海綿静脈洞部PTA aneurysmに対し,血液循環動態の検討から頭蓋内外での流入血管の血行遮断を行ったが,神経脱落症状を残さずに社会復帰せしめることができ,動脈瘤破裂のriskを低下させるに有効な治療法のひとつと思われたので報告する.

椎骨動脈にDuplicate originを認めた1症例*

著者: 原田淳 ,   西嶌美和春 ,   山谷和正 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃

ページ範囲:P.321 - P.325

I.はじめに
 椎骨動脈系の窓形成は比較的頻度の高い血管奇形で,剖検および血管撮影上では0.3-1.9%の頻度で発見される2,6,7))
 しかし,椎骨動脈近位部での窓形成,すなわち2つの起始部を有するduplicate originの症例は,かなり稀なものと考えられる9))

Azygos ACA aneurysmを伴った前頭葉Medullary venous malforrnationの1例

著者: 原田克彦 ,   小林清市 ,   重森稔 ,   渡辺光夫 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.327 - P.333

I.はじめに
 中枢神経系の血管奇形の中でも脳動静脈奇形に合併する脳動脈瘤21,32)はよく知られているが,静脈性奇形を伴ってazygos anterior cerebral artery(以下azygos ACA)に脳動脈瘤を合併した症例は,著者らが調査し得た限りでは報告をみないようである.
 今回,われわれは肉眼的および組織学的に脳表に軟膜血管腫症が観察され,脳血管撮影ではHuangら7)の分類でmedullary venous malforma—tionに一致し,さらにazygos ACAの脳動脈瘤の合併を認めた症例を経験したので報告する.

上方注視麻痺を呈した非腫瘍性Pineal cystの1治験例

著者: 兜正則 ,   林実 ,   河野寛一 ,   古林秀則 ,   石井久雅 ,   白崎直樹 ,   野口善之 ,   広瀬敏士

ページ範囲:P.335 - P.338

I.はじめに
 剖検例において松果体に光顕レベルでsmall cystを認めることは稀ではないが,臨床上四丘体を圧迫して上方注視麻痺をきたしたり,中脳水道を閉塞して水頭症をひき起こすような大きな非腫瘍性pineal cystの存在は稀である上また,pineal cystがmetrizamide CTcisternographyによって明瞭に描出されている症例の報告は見当たらない.今回われわれは上方注視麻痺を呈した松果体部非腫瘍性pineal cystの1例を経験し,metrizamide CT cisternographyにて明瞭にcystが描出され,手術にて症状の改善が認められたので文献的考察を加え報告する.

総頸動脈分枝部に潰瘍性病変を有し,Proatlantal intersegmental arteryを介して椎骨脳底動脈系の一過性脳虚血発作をくり返した1症例

著者: 田中秀樹 ,   高橋宏 ,   石島武一 ,   臼井雅昭

ページ範囲:P.341 - P.347

I.はじめに
 proatlantal intersegmental arteryは,胎生期に存在する頸動脈・椎骨脳底動脈吻合(carotid-vertebrobasilaranastomoses)の一つであるが,本吻合の遺残症例の報告は少なく,極めて稀と考えられる.一般に頸動脈・椎骨脳底動脈吻合遺残は,それ単独では無症状のことが多いが,脳動脈瘤の発生を認める場合4),近傍の神経圧迫症状の原因となる場合11),同側の頸動脈の狭窄・潰瘍性病変を合併する場合5,21,25)などに臨床上の意義を有すると考えられる.
 今回われわれの経験した症例は,椎骨脳底動脈領域の一過性脳虚血発作をくり返したが,proatlantal interseg—mental arteryと同側の総頸動脈分枝部の潰瘍性病変が原因の微小塞栓症と考えられ,頸動脈血栓内膜切除術後発作消失した.本症例は,proatlantal intersegmentalarteryが実際に臨床症状発現に関与した最初の症例と考えられる.一方,文献上trigeminal artery, hypoglossalarteryでは,同側の頸動脈病変を合併した症例の報告が散見される21,25).これらの報告の検討とともに,proa—tlantal intersegmental arteryの発生などに関し若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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