昭和40年,1965年に制定された医療法第70条によれば,わが国の脳神経外科の定義は,「脳・脊髄および末梢神経に関する外科」である.この脊髄に関する外科については,どの国でもそうであったが,古くから脊柱・脊髄はともに整形外科が扱ってきて,このうちの脊髄は徐々に神経外科にシフトしてきたのである.筆者が1963年,米国でのレジデント生活をおえて帰国するとき,恩師のScoville教授,Whit—comb教授は「日本でも脊髄,神経根,末梢神経は神経外科医が扱うべきである.米国では,整形外科からこれらを神経外科へもってくるのに10年かかった.お前も日本に帰って10年は辛抱強く,地道に勉強して,整形外科より優れた成績を発表しながら,神経外科がこれらの手術をするように努めてはどうか.これは大事業だが,成功を祈っている」とのはなむけの言葉をもらった.
帰国後,精力的に頸椎症性ミエロパチーやラジクロパチーにScovilleの手術を行ったところ,整形外科医長から猛烈な抗議をうけた.いわく,「脊椎・脊髄は整形外科が発展させた領域だ.素人の脳外科医の介入は即刻やめよ」,いわく,「脊椎の構築を何と心得ている.ラミネクトミーを広範にやり,かつファセテクトミーもやって,しかもギプスもあてない.そんな無茶なことは絶対に許せない.断じてやってはならぬ」etc, etc.また学会でもそうであった.「長島は,神経のためには脊柱の支持性を無視した手術を平気でやっている.
雑誌目次
Neurological Surgery 脳神経外科15巻4号
1987年04月発行
雑誌目次
扉
機熟す—日本脊髄外科研究会のこと
著者: 長島親男
ページ範囲:P.355 - P.356
解剖を中心とした脳神経手術手技
Lower basilar trunk aneurysmの手術
著者: 菊池晴彦 , 馬場元毅
ページ範囲:P.357 - P.363
I.はじめに
脳底動脈近位部動脈瘤(前下小脳動脈分岐部,椎骨動脈合流部)へは,次の3つのアプローチがある.
1) subtemporal transtentorial approach4-6)
集中連載 MRI診断・1【新連載】
脳神経外科医に必要なMRIの知識
著者: 吉川宏起
ページ範囲:P.365 - P.372
I.はじめに
核磁気共鳴(nuclear magneticresonance;NMR)現象を応用した映像法である磁気共鳴映像法(magnetic reso—nance imaging:MRI)が英国においてはじめて臨床に応用されたのは今から約7年前のことであった1).MRIによる人体の画像は1977年に報告されているが,その当時すでに臨床に応用されていたX線CTの画質と比較すると,解像力の点で数段劣っていたため,MRIの開発はX-CTに比べ大きく遅れをとったのである.現在のようにMRIの画質が向上し,X線CTのものと比べても見劣りするどころか部位によっては優れた画像が得られるようになったのは,強度が高くしかも均一性の高い静磁場を作ることのできる超電導磁石の開発によるところが大きい.超電導磁石による臨床応用は1980年代に英国と米国で開始されている.当時は前者が0.15T2),後者が0.35T3)の磁場強度によるものであったが,今日では1.5Tの高磁場の臨床装置が稼働している.高磁場の装置が,すなわち良好な画質に結びつくわけではないのであるが,体動の影響の少い脳や脊髄では,高い空間分解能の画像が得られるのである.これは主として信号雑音比(SNR)が高くなるため薄いスライス厚での撮像や拡大撮像によって画質の低下が生じにくいことによっている.
研究
高齢者脳動脈瘤治療の問題点
著者: 岡一成 , 黒松千春 , 高木東介 , 前山隆太郎 , 福井仁士 , 北村勝俊
ページ範囲:P.375 - P.379
I.はじめに
わが国の平均寿命は年々伸び,男女とも世界一の長寿国となった.厚生省の発表では,脳卒中死亡率は心疾患についで第3位になった.これは脳卒中治療に携わっている者にとっては朗報である.高齢者社会になるとともに,ただ単に高齢のため手術の適応とはならないとはいえなくなってきた.特に高齢者の脳動脈瘤に対する手術には問題点が多いと考えられる.高齢者脳動脈瘤の手術成績は若年者に比べて悪いとする報告1,5,12)が多いけれども,少数ながら術中,術後を慎重に処置すれば若年者と同じ扱いでよいとする報告2,6)もある.
われわれはCT導入後に入院してきた脳動脈瘤患者を高齢者(65歳以上)と若年者に分け,高齢者の転帰を左右する問題点がどこにあるのか検討したので報告する.
二次元脳電図からみた小児脳膿瘍
著者: 河村弘庸 , 梅沢義裕 , 天野恵市 , 谷川達也 , 川畠弘子 , 岩田幸也 , 平孝臣 , 喜多村孝一
ページ範囲:P.381 - P.387
I.はじめに
脳膿瘍は炎症性病変であると同時に頭蓋内占拠性病変でもあり,その病態は他の占拠性病変に比べ複雑である.膿瘍自体のmass effectばかりでなく,炎症が周囲の脳組織に及ぼす影響も大きく,その病的過程の変化は脳腫瘍に比べはるかにdynamicである.炎症の初期,極期,消退期に従い脳膿瘍による脳の機能障害の程度はその時間の経過とともに推移する.したがって,このようなdynamic processを呈する脳膿瘍における脳波の変化もまた複雑多岐にわたり,徐波焦点の局在ばかりでなく,alpha波, beta波などの頭皮上分布も脳膿瘍の各時期により異なる.従来から脳膿瘍の特徴的な脳波所見としてfocal slow wave, focal flatteningなど1,3,4)が報告されているが,通常の脳波記録からこれらの変化を経時的,定量的に読み取ることは困難であった.
そこで,著者らは二次元脳電図を用いて,脳膿瘍における脳波の経時的,定量的分析を行い,徐波およびalpha波の頭皮上分布とCT像からみた脳膿瘍の局在,mass effect,脳浮腫などの形態的変化とを比較検討した.
腫瘍性脳浮腫の検討—手術治療後の局所プロトンT1値経時変化の比較
著者: 吉田和雄 , 稲尾意秀 , 佐生勝義 , 茂木禧昌 , 金桶吉起 , 古瀬和寛
ページ範囲:P.389 - P.395
I.緒言
magnetic resonance-CTは近年著しい発展を遂げ,イメージング技術においてはX線CTをしのぐまでに達している.一方,MR法では,T1,T2などの緩和時間値が主要な構成パラメーターをなしており,その値の変化は生体内の水の分布や動態に深く関連する7)とされる.特にT1値は組織含水量と密接に関連し,病態の消長を示す指標として用いられる可能性を持っている.
われわれはこれまでMR法で得られる所見の基礎的理解のために,種々の頭蓋内疾患に対して経時的にMR検査を施行し,局所病態と対応した緩和時間値(T1)の変化を検討してきた11,12,17).今回,脳腫瘍症例について腫瘍および周囲脳組織が手術治療によりどのように変化するかをT1値をparameterに検討した.特に本研究では,腫瘍周囲脳組織における変化に注目し,T1値推移の治療効果や病態変化の評価における意味について考察した.
Oligodendrogliomaの治療成績の検討—術後の放射線化学療法を中心に
著者: 北原正和 , 片倉隆一 , 増山祥二 , 新妻博 , 吉本高志 , 鈴木二郎 , 森照明 , 和田徳男
ページ範囲:P.397 - P.403
I.はじめに
oligodendrogliomaは大部分が大脳半球,主として前頭葉に発生し,比較的良性の腫瘍とされている.しかし,大脳皮質をびまん性に浸潤すること.脳梁を介して対側にまで進展する特徴を有することから,その外科的治療は困難なことも多い2).また5年生存率の報告は30-100%と差がみられるが,早期死亡例の報告も少なからずみられる4,6,7,9,11,13,14,18-20).
従来,Oligodendroghomaに対する術後の放射線化学療法の必要性については議論の多いところであり,特に病理組織学的に良性の場合には判断に迷うところである.最近でも術後の放射線療法について,有効とする報告と,手術単独と予後に差がみられないとする報告がある.本稿では,われわれがこれまでに経験したoli-godendrogliomaについて,術後の放射線療法あるいは放射線と1-(4-amino-2-methyl-5-pyrimidinyl) methyl-3-(2-chloroethyl)-3-nitrosourea hydrochoride (ACNU),1-(2-tetrahydrofuryl)-5-fluorouracil (FT-207),PSKの併用(RAFP療法)を中心とした放射線化学療法の効果を検討し,若干の文献的考察を加えたので報告する.
症例
多発性脳梗塞と多発性脳内出血を合併したCerebral amyloid angiopathyの1例
著者: 小林康雄 , 末松克美 , 鎌田一 , 下道正幸 , 松崎隆幸 , 中村順一
ページ範囲:P.405 - P.408
I.はじめに
cerebral amyloid angiopathy (以下CAA)はAlzheim—er病あるいは老人痴呆との関連で以前から関心がもたれていたが,最近では老人の脳内出血や脳梗塞の原因としても注目されている.著者らは多発性脳梗塞で発症し,1年後に多発性脳内出血をきたした症例を経験したので報告する.
頭蓋外内頸動脈閉塞に同側の頭蓋内内頸動脈瘤を合併した1例
著者: 丹野裕和 , 山上岩男 , 小野純一 , 須田純夫 , 岡陽一 , 磯部勝見
ページ範囲:P.411 - P.416
I.はじめに
閉塞性脳血管病変に脳動脈瘤が合併することは少なくない.そのなかには,脳主幹動脈の閉塞によって血行動態が変化し,その結果生じたhemo—dynamic stressの増大が脳動脈瘤の発生,破裂に関与したのではないかと考えられる揚合がある1,6,9,18,23,26,27).閉塞性脳血管病変のなかでも,一側または両側内頸動脈の閉塞8,9,21)や形成不全,欠損1,5,11,12,14,19,20,22,25,28)と脳動脈瘤の合併については数多くの報告がある.そして,この場合の脳動脈瘤はほとんど,脳底動脈系,前交通動脈あるいは閉塞と反対側内頸動脈系に存在し,脳動脈瘤の突出する方向は,通常の脳動脈瘤と一致している.
最近われわれは,頭蓋外で閉塞した内頸動脈の後交通動脈接合部において,前方に突出した破裂脳動脈瘤の1例を経験した.その存在部位,突出方向は,これまでの一側内頸動脈閉塞と脳動脈瘤の合併例に比し極めて特殊であり,閉塞側内頸動脈系の血流を保持すべく発達した後交通動脈のhemodynamic stressが,脳動脈瘤の発生破裂に直接関与した可能性が示唆されたので報告する.加えて,脳動脈瘤の発生機序,脳主幹動脈閉塞との関連について文献的考察を含め検討した.
慢性硬膜下血腫術後のSubdural tension pneumocephalus—Asymptomatic pneumocephalusと比較して
著者: 石渡祐介 , 藤野英世 , 窪倉孝道 , 坪根亨治 , 関野典美 , 藤津和彦
ページ範囲:P.419 - P.424
I.はじめに
慢性硬膜下血腫(以下cSDHと略する)術後に認められる頭蓋内空気貯留は,日常診療上よく経験されるが,それがmass effectを呈し神経症状の悪化の原因となることは比較的稀である.このようなsubdural tensionpneumocephalus(以下TPと略する)の報告は,CT導入後散見されてはいるが,まとまった形での報告は少なく,いまだにその原因,臨床的特徴,CT所見に関して未解決な問題が残されている.TPの正確な診断には頭蓋内圧の測定が必須と考えられるが,このことは実際には不可能に近く,多くの場合CT scanから得られる頭蓋内圧亢進の間接的所見と臨床症状とを考え合わせ診断されている.ここに大きな落とし穴がないであろうか?空気と脳実質ではCT値が大きく異なり,それらの境界ではartifactsが生じることはよく知られている.われわれはartifactsによるmass effectをもってして頭蓋内圧亢進所見ととっているのではないかという疑問がここに生じてきた.そこで著者らは,真のTPの臨床的特徴を明らかにするため,再手術により空気の噴出を確認した真のTP5例と,大量の空気貯留を認めたにもかかわらず,症状を呈さなかったsubdural asymptomaticpneumocephalus(以下APと略する)14例とを比較検討し,興味ある新知見を得たので報告する.
Brown-Séquard症候群を呈した外傷性脊髄くも膜下血腫の1例
著者: 森宏 , 寺林征 , 北沢智二 , 杉山義昭 , 塚田泰夫
ページ範囲:P.427 - P.432
I.はじめに
脊柱管内血腫,とりわけ脊髄くも膜下血腫は極めて稀な病態で,これまでにいわゆる特発性7,13)の他に,出血傾向を有する患者への軽微な外傷や腰椎穿刺後2,11,14,16),結節性多発動脈炎4,6),脊髄血管腫6)あるいは腕神経叢の引き抜き損傷に伴った1例17)などの報告が散見されるに過ぎない.一方Brown-Séquard症候群は,脊髄半側切断症候群として,硬膜内髄外病変では髄膜腫,神経鞘腫などの腫瘍性疾患が原因疾患として指摘されている1,3,5).
今回われわれは,何ら基礎疾患を有さず,頸部の過伸展損傷後に頸椎損傷も伴わずに,上位頸髄レベルのBrown-Séquard症候群を呈した外傷性脊髄くも膜下血腫の1例を経験した.このような症例の報告は,われわれが渉猟し得た範囲では1例も見当たらず,極めて稀と思われたので,若干の文献的考察を加えて報告する.
多発性細菌性脳動脈瘤の1例—同一症例における手術的・保存的治療
著者: 上松右二 , 岩本宗久 , 栗山剛
ページ範囲:P.435 - P.440
I.はじめに
細菌性脳動脈瘤の存在はよく知られているが,抗生物質の発達・使用により,その発生は少なく,報告は稀で,その病態・治療に関しては不明な点が少なくない.今回,私達は,同一症例にて,手術的に,また保存的に治療した多発性細菌性脳動脈瘤症例を経験したので報告する.
脊髄硬膜外髄膜腫の1症例—神経放射線学的所見を中心として
著者: 京嶌和光 , 西浦巌 , 小山素麿
ページ範囲:P.443 - P.449
I.はじめに
脊髄髄膜腫の約80%が硬膜内髄外に発生し,残り大部分は硬膜内外にわたって存在する.ところが極めて稀に硬膜外に発生することがあり,硬膜外腫瘍のほとんどが悪性のものであることから,たいていの場合,悪性腫瘍と考えて手術され,術中迅速組織検査や,経験深い術者の洞察によって診断ないし疑いを持たれて根治的切除がなされることが多い.また,術後の固定組織標本によって診断がつき,根治手術が追加される例もある2,6,16).
われわれは最近この非常に稀な脊髄硬膜外髄膜腫の1症例を経験したが,脊髄撮影,metrizamide CT (以下met.CTと略す),静脈内造影剤注入による増強CT(intravenous contrast enhanced CT,以下i.v.e.CTと略す),血管撮影,MRIなどを駆使し,術前より大いにその疑いを持って手術を行い得た.そこでこの腫瘍の神経放射線学的検査上の特徴を呈示するとともに,若干の文献的考察を加えて報告する.
Rathke's cleft cystの3例
著者: 石井喬 , 山崎達輔 , 田中順一 , 田中聡 , 堀智勝 , 村岡浄明
ページ範囲:P.451 - P.456
I.はじめに
symptomatic Rathke's cleft cystは稀な疾患とされ,Steinberg24)によると1982年までに63例が報告されているにすぎない.その後,本症に対する認識の高まりと診断法の進歩により報告例が増加し1,2,6,19,22,25,26,28)従来いわれているほど稀ではなく,下垂体疾患の中で重要な位置を占めるようになった2).
今回われわれは本症の3症例を経験したので,自験例の特徴を中心に文献的考察を加えて報告する.
Cerebellar neuroblastomaの1例
著者: 伊林範裕 , 上田聖 , 内堀幹夫 , 平川公義
ページ範囲:P.459 - P.463
I.はじめに
medulloblastomaは小児の後頭蓋窩腫瘍の代表的腫瘍であり,腫瘍発生および組織学的分化の観点より興味深い腫瘍である.最近の免疫組織化学の進歩によりmedulloblastomaのneuronal differentiationに関する検討が行われており,いわゆるcerebellar neuroblastomaとの移行関係が推測されている.
一方,cerebellar neuroblastomaは,平野21,Shin8)らが電顕的にそのニューロン的性格を報告して以来,臨床面,病理組織像からも注目されている腫瘍であるが,いまだ症例は少なく,特に免疫組織化学的所見の報告は稀である.
基本情報

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