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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科15巻5号

1987年05月発行

雑誌目次

"悩"神経外科医

著者: 福井仁士

ページ範囲:P.471 - P.472

 おそらく脳神経外科医のほとんどの方は,宛名に悩神経外科と書かれた手紙を受取られたことがあると思う.患者さんはともかく,お医者さんまでこのように書いてくる人があり,脳神経外科医がいつも悩んでいるための揶揄ではないか,と疑いたくなることもある.また,ワープロ時代となって,このまちがいは,ますます増えてくると思われる.
 昭和61年度竹内会長による日本脳神経外科学会総会のシンポジウム"Decisionmaking"もまさに悩める脳神経外科医の対処法のディスカッションであった.脳神経外科医のdecisionも決して一律ではありえず,それぞれに判断の根拠を持っていなければならないことが強調されたと思う.

総説

CRF(Corticotropin-releasing factor)を中心とする最近の知見

著者: 田中孝司 ,   渡部敏雄 ,   熊谷宗士 ,   伊藤祐子 ,   清水直容

ページ範囲:P.473 - P.483

I.はじめに
 corticotropin-releasing factor(CRF)は視床下部で産生され,下垂体門脈を経て脳下垂体のadrenocorticotropic hormone(ACTH)産生細胞に作用してACTHの合成分泌を促進する因子である.ACTHはpro-opiomelanocortin(POMC)という前駆体の形で生合成されるが,CRFはPOMCに含まれる他のpeptide,すなわちendorphin,lipotropin,melanotropinやN-terminal peptideの分泌も促進する2,7,29,39,56,58,85).その化学構造は最近になってようやく決定されたが,以来,合成CRFを用いてCRFやACTHの合成,分泌調節に関する研究,視床下部—下垂体—副腎皮質系の生理学的研究,さらには臨床的応用がなされて,この分野の研究に急速な進歩が見られる.次に述べるようにヒツジCRFが最初に発見されたため今までの研究の多くはヒツジCRFを用いたものである.最近になってヒトCRFが臨床にも用いられるようになったが,現在のところまだ診断薬としては市販されていない.本稿ではCRFに関する今までの研究のうち主として臨床応用に関するものをとりあげて概説してみた.

集中連載 MRI診断・2

脳腫瘍のMRI診断

著者: 町田徹

ページ範囲:P.485 - P.492

I.はじめに
 近年におけるMRIの進歩は目覚ましく,脳腫瘍に関する報告も極めて多い.しかし稼動台数もX線CTの数十分の一であり,なおかつ検査時間の比較的長いMRIにおいては,X線CTで異常を指摘された例が検査件数の大半を占めているのが実情であろう.したがってX線CT登場の時と同じような新鮮な驚きには乏しいというのがユーザーの正直な感想ではなかろうか.特に脳腫瘍を対象とした場合には,CT,脳血管造影などでほぼ術前診断が決定されている例が多く,MRIならではという症例は少ない1脳腫瘍例にMRIを施行する意義は,MRIによるプラス・アルファの情報をいかにして診断および手術に役立てうるかにあるといえよう.またMRIにおける正常組織と腫瘍組織のコントラストは一般に非特異的で,腫瘍の質的診断には役立たぬことが多い.さらに緩和時間などのパラメータを測定しても質的診断には無効であり,だいいち生体内の緩和時間の測定そのものが装置,静磁場強度による影響を強く受け,全く普遍的ではない.
 しかしMRIの利点についても,X線CTとの比較という観点からのみでなく,MRI単独でも十分に論じられねばならない.

研究

頭蓋内Ependymomaの治療成績の検討—特に放射線化学療法の効果について

著者: 北原正和 ,   片倉隆一 ,   菅野三信 ,   新妻博 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎 ,   森照明 ,   和田徳男

ページ範囲:P.495 - P.501

I.はじめに
 ependymomaは限局性腫瘍とされ,gliomaの中でも全摘出が可能とされている.しかし,脳深部に存在することが多く,悪性度の高い症例も稀でなく,また髄液播種もときにみられることから,治療が困難で予後不良となる症例も少なくない.脳腫瘍全国集計調査報告17)をみても,頭蓋内ependymomaの5年生存率は44.5%,malignant ependymomaでは26.5%で,予後良好とはいい難い.しかし近年,頭蓋内ependymomaに対し,術後放射線療法を行い,治療成績が向上したという報告がみられるようになり,放射線療法の有効性が強調されている8,9,16,19,20,22,24).しかし,術後の化学療法の併用に関しては治療効果を検討した報告はほとんどみられない20).われわれはここ数年,頭蓋内ependymomaに対して,手術に放射線療法の他,1-(4-amino-2-methyl-5-pyrimidinyl)methyl-3-(2-chloroethyl)-3-nitrosoureahydrochloride(ACNU),5-fluorouracil(5-Fu),1-(2-tetrahydrofuryl)-5-fluorouracil(FT-207)を中心に化学療法の併用を行ってきた.今回,これらの治療成績,特に放射線化学療法の有効性について検討し,若干の知見を得たので報告する.

結合型EstrogenによるChemical embolization—第1報 40例の臨床経験

著者: 長嶺義秀 ,   鈴木二郎 ,   清水幸彦 ,   藤原悟 ,   高橋明

ページ範囲:P.503 - P.510

I.はじめに
 硬膜動静脈奇形の治療および術中大量出血の予想される髄膜腫に対する術前処置として,われわれは結合型estrogenを用いたchemical embolizationをすでに報告してきた4,7,8,11-13).本法の由来は,当教室の小松が行った慢性硬膜下血腫の成因とestrogenとの相関関係を探究した際の動物実験で,estorgenが脳硬膜の循環障害を発生させるとの知見6)を得たことに始まり,硬膜動静脈奇形に対し流入動脈から水溶性のestrogenを直接注入することにより選択的にnidusを閉塞できるのではないかという発想によるものである12).1976年以来,本法による頭蓋外および硬膜外での臨床経験は40例となり,対象疾患も硬膜動静脈奇形,髄膜腫のほか,外頸動脈系より栄養される腫瘍性病変や血管性病変に適応が拡がってきている.今回は本法による臨床経験40例の治療成績をまとめて報告する.

結合型EstrogenによるChemical embolization—第2報 実験的研究

著者: 清水幸彦 ,   長嶺義秀 ,   藤原悟 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.513 - P.521

I.はじめに
 頭頸部の血管病変に対しては,現在数多くの人工塞栓術が関発されている29)が,われわれは結合型estrogen(Premarin®)を用いた人工塞栓術を独自に開発し,臨床例における有用性を報告してきた11,20,27).さらに,その後経験した症例を加え,第1報では40例の臨床例の報告を行った21).一方,動物実験でもウサギ腸間膜を用いた本剤の動注実験において,微小循環障害が発生することを報告し,結合型estrogenを用いた塞栓術によって,動静脈奇形のnidusが閉塞される可能性を示してきた19)
 今回われわれは,ラット腸間膜を用いて,結合型estrogenの動注による微小循環の変化,および血管内皮細胞,赤血球の形態的変化を観察し,本剤の塞栓作用の主因と考えられる知見を得たので報告する.

脊髄動静脈奇形に対するSpinal dynamic CTの応用

著者: 宮本享 ,   菊池晴彦 ,   唐澤淳 ,   永田泉 ,   宍戸尚 ,   内藤博昭 ,   今北哲 ,   坂下善治

ページ範囲:P.523 - P.529

I.はじめに
 脊髄動静脈奇形の診断には1960年代後半に発達した選択的脊髄血管造影が主に用いられてきた.本症の診断や治療にCTを利用した報告も散見されるが,いずれも症例数に限りがあり,いまだ系統的な検討はなされていない1,4,6,7).今回われわれは造影剤をbolus injectionすることによりdynamic CTを行い,脊髄動静脈奇形の三次元的imageを作成し検討したので以下に報告する.

中大脳動脈狭窄に対するSTA-MCA bypassの効果

著者: 後藤泰伸 ,   米川泰弘 ,   半田肇 ,   滝和郎 ,   小林映

ページ範囲:P.531 - P.534

I.はじめに
 虚血性脳血管障害に対する血行再建術として微小血管吻合術11)が行われるようになって約20年が経過した.手術適応の問題,術後の長期予後に関しても次第に明らかになりつつある.術後のCBFの推移,手術に伴う合併症12)の実態も報告されているが,最近ではこれらのことをふまえ,両側一期STA-MCAバイパス手術なども行われるようになった.
 しかし,術後狭窄病変が変化し,閉塞に陥り臨床的に悪化したもの,逆に狭窄の緩解するもののあることが注目を集めている1,3,4,6,7).またco-operative study10)では,M1領域においては,内科的治療に比して外科的治療が約5年間のfollow-upで有意に劣ることが報告された.

症例

特発性胸腰部脊髄硬膜外血腫—自験例と文献的考察

著者: 佐々木真人 ,   野垣秀和 ,   石田和彦 ,   長尾朋典

ページ範囲:P.537 - P.541

 最近,我々は特発性脊髄硬膜外血腫の1例を経験したので報告するとともに胸腰部に発生したものにつき文献的考察を加え,その特徴を論じた.(症例)71歳男性.1984年10月6日朝,トイレの後,急に季肋部の痛みと左下肢のしびれと麻痺が出現,2時間後には,右下肢にもしびれと麻痺が現われ,数時間以内に完全対麻痺となり,膀胱直腸障害も出現した.入院時,意識清明,両下肢弛緩性麻痺,Th10以下の感覚低下,L2以下の全感覚脱失,sacral sparing,膀胱直腸障害を認めた.両下肢腱反射は消失,両側Babinski反射も認めなかった.MyelographyにてTh9—L2にかけて陰影欠損,部分的ブロックを認め,Myelo CTにて,同領域のextradu—ral spaceに脊髄を背外側から圧迫するisodensity masslesionを認めた.Th9—L2の椎弓切除を施行.同領域脊髄背側全面を被う被膜に包まれた血腫を認め除去した.術後,感覚障害は早期に改善傾向を示したが,運動機能回復は現在のところあまりみられていない.

軸椎の特異な形態異常により脊髄症状を生じた1症例

著者: 河野一彦 ,   上原貞男 ,   永田安徳

ページ範囲:P.543 - P.546

I.はじめに
 頭蓋頸椎移行部は,先天的ないし後天的な異常をきたしやすい部位であるが,著者らは今までに報告の見られない軸椎の特異な形態異常により頸髄圧迫症状を呈した1症例を経験したので,報告する.

特発性外頸動脈動静脈瘻—離脱型バルーンにより治癒した小児例

著者: 川上喜代志 ,   高橋明 ,   菅原孝行 ,   中村信行 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.549 - P.553

I.はじめに
 外頸動脈系の特発性あるいは先天性動静脈瘻(以下AVF)は非常に稀で文献的にも報告は少なく,動静脈奇形(AVM),angioma, aneurysmを除いた,いわゆるsimple AVFの報告は3例にすぎない4,5,7).一方,外傷性を含め従来外頸動脈系AVFに対してはもっぱら外科的処置がとられてきた.今回われわれは,detachableballoon catheterを用い,特発性小児頸部AVFの閉塞に成功した症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

経蝶形骨洞硬膜外バルーン法で治癒せしめたPrimary empty sella syndromeの1例

著者: 長尾省吾 ,   衣笠和孜 ,   西本詮

ページ範囲:P.555 - P.559

I.はじめに
 primary empty sellaとはトルコ鞍横隔膜の欠損により,くも膜下腔が嚢腫状に拡大してトルコ鞍内容の大部分を占め,その結果,下垂体が圧排され,鞍内が一見空虚になっている状態をいい,剖検例の5.1%に認められる3).頭蓋単純写上その約90%はトルコ鞍拡大を伴い1,18),逆にトルコ鞍拡大例の8-25%9)にempty sellaが認められるという.
 したがって下垂体腺腫との鑑別診断が重要となってくる.多くのprimaryempty sellaは無症状で経過するため,外科的治療の対象とならない.したがってどういう症例に手術適応があるか異論のあるところである。

Subclavian steal syndromeに対するPercutaneous transluminal angioplasty(PTA)の2症例

著者: 富田享 ,   土井章弘 ,   馬場義美 ,   棟田耕二 ,   中嶋裕之 ,   吉野公博 ,   則兼博

ページ範囲:P.561 - P.566

I.はじめに
 近年interventional radiologyの進歩により,末梢血管の血行再建は,観血的方法に代わり,経皮的血管拡張術(percutaneous transluminal angioplasty:PTA)が第一選択とされることが多くなり,その適応は頭頸部血管にまで広がってきた.PTAは,1964年にDotterら5)がcoaxial catheterを用いたのに始まり,1974年Grüntzigら7)がballoon dilatation catheterを開発し,急速に普及した.鎖骨下動脈狭窄症に対しては,1980年Bachmannら1)がPTAによる治療の成功例を報告して以後,広く試みられるようになった2,4,10,12,13,15,17-19,22)
 われわれは,subclavian steal syndromeをきたした左鎖骨下動脈狭窄症の2症例にPTAを施行し,良好な結果を得たので報告し,手技,適応などについて文献的考察を加える.

乳幼児側脳室内髄膜腫—1症例の報告

著者: 白坂有利 ,   古屋好美 ,   龍浩志 ,   横山徹夫 ,   植村研一

ページ範囲:P.569 - P.572

I.はじめに
 小児の髄膜腫は成人に比べて比較的稀な腫瘍であり,その頻度は15歳未満の小児脳腫瘍中,0.4%から2.2%である.今回われわれは,極めて稀な23カ月男児の側脳室内髄膜腫を経験し,手術により全摘出したので本症例を紹介するとともに,若干の文献的考察を試みた.

V-P shunt術後肝膿瘍の1例

著者: 河野兼久 ,   香川泰生 ,   武田茂

ページ範囲:P.575 - P.579

I.はじめに
 Ventriculoperitoneal(V-P)shuntは,種々の原因によって発生する水頭症に対して現在最も広く用いられている手術方法である.その腹腔内合併症として腹腔内嚢腫形成は比較的よく知られているが,今回著者らはV-Pshunt術後に肝膿瘍を併発した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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