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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科15巻6号

1987年06月発行

雑誌目次

万類共尊の地球と動物実験

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.587 - P.587

 去る11月13日の夜,突然居間の電話がけたたましく鳴った.知り合いの新聞記者からである.「明日の朝刊に先生の動物実験について,非難する報道がでますよ」.電話の主は記事を書いた人ではなく,私に対して好意的であったが,これが今回の騒動のプロローグであった、翌14日の某新聞に「サルをコンクリート壁にぶつけて殺す生体実験が行なわれていたことが発覚し,国の内外から批判されている」という記事がセンセーショナルに報道された.
 この記事は,実験を行なった私たちに対しては全く取材がなく,米国国際霊長類保護連盟が発行しているNewsletterに掲載された報告を引用したものであったが,入手したNewsletterをみるとその記事自体が推測をまじえた誤解から書かれているので,新聞報道もまた施行されていない実験方法だけを残虐に目立たせる誤った報道になっていた.

集中連載 MRI診断・3

脳血管障害のMRI診断

著者: 青木茂樹

ページ範囲:P.589 - P.595

I.はじめに
 MRIの一般的な事項については,すでに前々号で述べられているので,今回は脳血管障害のMRIについて代表的症例を供覧しつつ述べてみたい.
 脳血管障害におけるMRIの特徴はまず第1に出血におけるヘモグロビンの磁性の変化をとらえ,その時期により多彩で,かつ他の占拠性病変とは異なる特異な像を示すことが挙げられる.もうひとつ,MRIは血流に鋭敏であり,現在でも,たとえばAVMのnidusはもちろん,feeder, drainerが描出でき,研究レベルではMRangiographyとして正常人での画像が得られている.この2つは特に脳血管障害において有用な点であるが,他の特徴である後頭蓋窩で骨のアーチファクトのないことは脳幹の小病変も明瞭に描出可能にし,白質・灰白質などのコントラストの高いことは,神経核レベルでの診断を可能としている.任意方向で断面が得られることも,そういった部位診断や,angiomaなどの異常血管の描出に有用である.

研究

テント上Low-grade astrocytomaの治療成績

著者: 北原正和 ,   片倉隆一 ,   新海準二 ,   新妻博 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎 ,   森照明 ,   和田徳男

ページ範囲:P.597 - P.604

I.はじめに
 近年malignant gliomaに対する治療法,予後に関する検討は数多く報告されているが13,14,20),一方,low—grade astrocytomaの治療成績に関する報告は散見されるにすぎない.従来の報告では,小脳のlow-gradeastrocytomaの予後は良好であるが2,3,5,8,23),テント上の症例の5年生存率は40-60%の報告が大半を占め,必ずしも予後良好とはいい難い8,11,12,15,21,24,28).また治療法に関する検討も少なく,術後の放射線療法あるいは化学療法の有効性についても一定の結論が得られていない.
 本稿では,われわれがこれまでに経験したテント上low-grade astrocytomaの治療法,治療成績などを検討し,若干の文献的考察を行ったので報告する.

高齢者頭部外傷症例の検討

著者: 大野喜久郎 ,   鈴木龍太 ,   正岡博幸 ,   松島善治 ,   稲葉穰 ,   門間誠仁 ,   浅野務

ページ範囲:P.607 - P.611

I.はじめに
 高齢化社会の到来とともに交通事故などによる高齢者の頭部外傷が増加しつつあり5,8),しかもその致命率は高く5,8),併存症や合併症の存在が予後不良の原因となることが多いといわれる2,3,6,8).しかるに,小児頭部外傷の特殊性に関する研究報告は多くみられるが,高齢者のそれについては少ない5,6,8).高齢者頭部外傷の予防および治療の効果をあげるためには,多くの高齢者頭部外傷症例の病態や臨床経過について詳細に検討し,その問題点を明らかにすることが重要であると考えられる.
 われわれは,過去5年間に経験した高齢者頭部外傷79症例について,高齢者頭部外傷に特有と考えられる事柄を検討し,結果を得たので報告する.

実験的虚血脳におけるMannitol, vitamin E, glucocoriticoid三剤併用における脳保護効果—脂質過酸化,エネルギー代謝,脳浮腫への関与

著者: 上之原広司 ,   今泉茂樹 ,   鈴木二郎 ,   吉本高志

ページ範囲:P.613 - P.622

I.はじめに
 現在,虚血性脳細胞障害に対し血栓溶解剤,代謝抑制剤(barbiturateなど),free radical scavenger,アラキドン酸カスケード阻害剤(アスピリン,indomethacinなど),頭蓋内圧降下剤などの種々の薬剤投与が試みられている.外科的見地からは頭蓋外内バイパス手術,血栓除去術をはじめとする脳血流再開の試みがなされているが,虚血脳において不可逆的変化が生ずる以前の急性期における治療法はいまだ確立しておらず,種々検討されている現況である.当教室においては脳梗塞急性期においてわれわれが開発してきた各種脳保護物質を使用することにより,脳虚血による不可逆的変化の抑制ならびに時間的延長を計った上で急性期血行再建術を積極的に行っている25).脳保護物質としては,虚血における膜脂質過酸化による細胞障害に注目し,radical scavengerあるいはradical reaction inhibitorとしてmannitol, vitaminEおよびglucocorticoid9,10,26,29)あるいはFFA liberation抑制効果を実証し得たphenytoin14)の組み合わせによる併用療法を脳梗塞急性期や虚血性脳血管障害あるいは術中一時的脳血流遮断の際に施行している.

低エネルギーNd-YAGレーザーを用いた無縫合微小血管吻合法

著者: 新島京 ,   米川泰弘 ,   滝和郎 ,   半田肇 ,   筏義人

ページ範囲:P.625 - P.632

I.緒言
 内径が3mm以下の微小血管吻合は,脳神経外科(たとえば,EC-IC bypass)15,21-23)・形成外科(皮弁移植)17)・整形外科(切断手指の再建)6)などの広い領域で用いられている.従来臨床では,microsurgical techniqueを利用した手縫い法だけが行われている.しかし,手縫い法では,技術の巧拙が吻合の開存性に決定的な影響を与えるため,特に熟練を要さない無縫合微小血管吻合法(sutureless micro-vascular anastomosis)が幾つか試みられてきた5,11,12,20).このような吻合法を臨床的に用いるためには,確実性や安全性などの点で若干の問題が未解決であった9)
 この問題を克服するために,Nd-YAGレーザーとpoval splintによる無縫合微小血管吻合法を試行して好結果を得たので報告する.

Lipo-PGE1を用いた脳血管攣縮治療の試み

著者: 頃末和良 ,   井沢一郎 ,   浜野聖二 ,   石田和彦 ,   栗原英治 ,   長尾朋典 ,   玉木紀彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.635 - P.640

I.はじめに
 遠動脈瘤破裂によるくも膜下出血後の遅発性脳血管攣縮は,破裂脳動脈瘤患者の予後を左右する重要な因子である.近年,遅発性脳血管攣縮による脳虚血症状の発現に,攣縮による血流減少に加え,血液凝固能亢進などの血管内因子が関与すると考えられている12,20,25)
 prostaglandin(PG)E1は,血小板の粘着および凝集抑制作用とともに血管拡張作用を有しているとされている27,29).攣縮血管にPGE1を作用することにより血流改善をはかるとともに,内膜損傷部や循環末梢部における血栓形成の防止も期待できる可能性がある.

小児脳腫瘍患者における機能的予後調査—特に放射線照射の影響について

著者: 杉田保雄 ,   小林清市 ,   上垣正己 ,   潟山雅彦 ,   宮城潤 ,   井料宰 ,   重森稔 ,   倉本進賢 ,   大坪正明

ページ範囲:P.643 - P.649

I.はじめに
 原発性脳腫瘍は小児悪性腫瘍の約20%を占め,小児期においては最も頻度の高い固型腫瘍である19).最近の報告7)によれば,その5年生存率,10年生存率はそれぞれ47%,40%であり,救命率が向上するに従って単に生命予後のみならず機能的予後についても関心が高まってきている.小児脳腫瘍治療後の機能的予後調査によると,特に知的機能および性格・情動面でかなりの障害がみられ,その原因として種々の要因が考えられている.今回,私どもは脳腫瘍生存児について,心理学的手法により知的面および情動面に関して評価検討を行い,あわせてそれらに影響をおよぼす因子の分析を行って,若干の知見を得たので報告する.

症例

脊髄症状を呈した頸椎後縦靱帯肥厚症の1例

著者: 倉田彰 ,   常盤嘉一 ,   北原行雄 ,   岡田耕造 ,   三井邦彦 ,   橘滋国 ,   大和田隆 ,   矢田賢三

ページ範囲:P.651 - P.655

I.はじめに
 頸椎後縦靱帯骨化症については多くの報告をみるが,後縦靱帯肥厚症の報告は極めて少ない.われわれは,著明な後縦靱帯肥厚により脊髄症状を呈し,組織学的にも骨化所見を全く認めなかった頸椎後縦靱帯肥厚症(以下HPLL)の1例を経験したので報告する.

T cell type頭蓋内原発性悪性リンパ腫の1例

著者: 桑田俊和 ,   船橋利理 ,   板倉徹 ,   宮本和紀 ,   西口孝 ,   林靖二 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.657 - P.661

I.はじめに
 頭蓋内原発性悪性リンパ腫は比較的稀な疾患とされてきたが,近年X線CTなどによる診断技術の向上および免疫抑制剤の使用などにより報告例が増加する傾向にある.また最近,悪性リンパ腫を免疫学的に分類しようという試みがなされており,これに基づいたいくつかの報告例があるが,頭蓋内原発性悪性リンパ腫のほとんどがB cell typeであり4,7,18,25),T cell type lymphomaはわずかに2例の報告があるのみである11,23)
 今回われわれは,免疫組織化学的検索によりT celltypeと診断し,興味あるCT所見を呈した頭蓋内原発性悪性リンパ腫1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

乳児期髄膜腫の1症例

著者: 木村英基 ,   中川晃 ,   榊三郎 ,   松岡健三

ページ範囲:P.663 - P.668

I.はじめに
 小児期,とりわけ1歳以下の乳児期の髄膜腫は極めて稀とされている.Matson16)によると14歳以下の小児期頭蓋内腫瘍750例中,髄膜腫は3例(0.4%)のみであり,1歳以下の症例は含まれていない.また本邦でも佐野23)によると589例の小児脳腫瘍中でも8例(1.4%)のみであり,他の報告でも14歳以下の全脳腫瘍中に占める髄膜腫の割合は0.4-2.6%12,30)と少ない.ことに1歳以下の乳児例については著者らが調べ得た範囲ではあるが現在まで世界で22例の報告をみるにすぎない.著者らは生後10カ月に痙攣を初発症状として発症した,前頭頭頂部髄膜腫の乳児症例を経験したので報告するとともに,1歳以下の乳児髄膜腫報告症例について成人例との対比を行いながら文献的考察を加える.

Chiari奇形,Basilar impressionを伴った脊髄空洞症の1剖検例

著者: 井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   佐々木寛 ,   阿部弘 ,   田代邦雄 ,   中村仁志夫

ページ範囲:P.671 - P.675

I.はじめに
 Chiari奇形,basilar impressionなどの大後頭孔部奇形に脊髄空洞症が高頻度に合併することはよく知られているが6,7,12),その発生機序に関しては種々の説が提唱されており2,4,8,11,14,15),議論のあるところである.これらの説のうち,現在Gardnerのhydrodynamic theory8)が最も受け入れられている.しかしながら,Gardnerの説のみでは説明が困難な症例が存在することも確かである.われわれは,脊髄実質内の先天的異常,すなわち髄内小血管の異常分布が空洞発生と深いかかわり合いがあったと考えられた脊髄空洞症の1剖検例を経験したので,症例を供覧し,本症例における空洞発生機序について考察を加える.

頭蓋内外の動脈をFeederとした陳旧性外傷性AVFの1例

著者: 石黒修三 ,   木村明 ,   宗本滋 ,   北林正宏 ,   正印克夫 ,   二見一也

ページ範囲:P.677 - P.681

I.はじめに
 外傷性の硬膜動静脈痩(dural AVF)は,ほとんどは硬膜動脈のみを流入血管とするものである.われわれは最近,頭皮,硬膜,皮質の各動脈に栄養され,上矢状静脈洞およびTrolard's veinに流出した極めて稀な症候性外傷性硬膜動静脈痩の1例を経験したので報告する.

Hemifacial spasmで発見されたCP angle meningioma

著者: 宮崎紳一郎 ,   福島孝徳 ,   永井明彦 ,   玉川輝明

ページ範囲:P.683 - P.686

I.はじめに
 著者らは現在までに1310例のhemifacial spasmに対するmicrovascular decompressionを経験した,同時期に経験したtrigeminal neuralgia 730例において79例(10.8%)の頻度で腫瘍が発見されたのに比して,hemifacial spasmのシリーズで発見された腫瘍は極めて少なく4例(0.3%)に限られていた(epidermoid7),caver—nous angioma, acoustic neurinoma, meningioma各1例).
 今回報告する例はCP angie meningiomaが原因であった左hemifacial spasm患者であるが,興味あることは,その初発症状がhemifacial spasmであり,その後,第VIII脳神経症状,小脳症状が出現するまでの約10年間にわたって患者がこれを唯一自覚していたことである.

中頭蓋窩くも膜嚢腫と慢性硬膜下血腫の合併—3例の報告と文献例

著者: 斉藤晃 ,   中澤拓也 ,   松田昌之 ,   半田讓二

ページ範囲:P.689 - P.693

I.はじめに
 頭蓋内くも膜嚢腫は,CTの出現以来診断が容易となり,報告例も増加している.くも膜嚢腫,特に中頭蓋窩のそれが硬膜下血腫を合併することがあることは古くから知られているが,このような合併例の報告は実際にはそれほど多くない.本論文では硬膜下血腫を合併した中頭蓋窩くも膜嚢腫3例を報告するとともに,現在までの報告例のうちCTまたは手術により確認され,かつ十分な記載がある21例を加えて,臨床的特徴につき考察する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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