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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科15巻7号

1987年07月発行

雑誌目次

杉田玄白と脳神経外科

著者: 永井政勝

ページ範囲:P.701 - P.702

 カリフォルニア大学サンフランシスコ分校の病院の図書館の中に"Oriental Medi—cine Collection"と呼ばれる一角があり,日本と中国の古典的な医学書2000冊以上が集められている.司書のM女史に案内され書棚のガラス扉を開けて頂くと,山脇東洋の「蔵志」や,杉田玄白の「解体新書」の原本を手に取って見ることを許され,200年以上前に刷られた頁の1枚1枚をじかにめくる感激を味わうことができる.M女史は日本の方で,夫君の勤務のため戦後間もなくからサンフランシスコに在住して居られるが,当時のカリフォルニア大学総長のJ.B.Saunder博士の指示で十分な予算を与えられ,何度かにわたって,神田,本郷等の古書店を中心に収集されたものが多いという.
 ここを星野孝夫教授に紹介されて機会ある毎に訪ねるうちに,杉田玄白の著書で「金創要領」と題した小冊子を発見した."金創"とはいうまでもなく,主として外傷を対象とした外科を意味し,和綴22頁の,文字通り要覧,マニュアルといったものである.前半は創傷処置の総論的な事柄と腹部の外傷について記載され,後半部は頭部外傷について書かれている.

集中連載 MRI診断・4

脱髄・変性疾患のMRI診断

著者: 南学

ページ範囲:P.703 - P.707

I.はじめに
 脱髄・変性疾患の診断におけるMRIの有用性は,(1)高い組織コントラスト分解能が得られ,灰白質・白質・大脳基底核などの異常の診断が容易であること,(2)後頭蓋窩で骨のアーチファクトがないため,脳幹の小病変の検出が比較的容易であること,(3)任意の断層面が得られること,などである.一方,撮像時間が長いことや,不随意運動によるmotion artifactの影響を受けやすいことは短所であり,現在,数秒単位の短時間撮像法が開発されてきてはいるものの,この分野での有用性は明らかではない.
 第1回で述べられたように臨床的にはスピンエコー法によるT1強調像とT2強調像の2種類が頻繁に用いられ,正常者では,前者では白質,灰白質,脳脊髄液の順に,後者では脳脊髄液,灰白質,白質の順に信号強度は低くなる.大脳基底核は灰白質と似た信号強度を示し,脳梁は白質と似た信号強度を示すが,T1強調画像では脳梁は周囲の白質より高信号を示すことが多い.

研究

脳血管外科におけるTranscranial Dopplerの有用性について

著者: 森竹浩三 ,   米川泰弘 ,   長澤史朗 ,   金子隆昭 ,   半田肇

ページ範囲:P.709 - P.715

I.はじめに
 従来より頭蓋は超音波の頭蓋内への侵入を阻み超音波診断の"壁"となっていた.しかし最近になり,経皮・経頭蓋的に頭蓋内主要血管の血流が直接検出できる超音波ドプラ装置が開発され,すでに臨床応用の報告も散見される1,2,6).脳血管外科的治療に際し血流動態検査法として,この経頭蓋的超音波ドプラ血流計測(transcranialDoppler sonography)の有用性を検討したので報告する.

大脳基底核・視床部AVMに対する術中塞栓術

著者: 山形専 ,   菊池晴彦 ,   伊原郁夫 ,   永田泉 ,   鳴尾好人 ,   宍戸尚 ,   伊藤守 ,   橋本研二 ,   南川順 ,   宮本享 ,   渡部洋一 ,   唐澤淳

ページ範囲:P.717 - P.723

1.はじめに
 脳深部に位置する脳動静脈奇形(AVM)は一度出血を起した場合,脳表に位置するものより出血しやすいとされ,さらに出血をきたした際にはその部位的特徴のため症状は重篤となり生命を脅かすことも多い6,7,12,13).しかしながらmicrosurgeryの導入や手術機器の改良といった近年のめざましい脳神経外科手術の進歩にもかかわらず,大脳基底核・視床部におけるAVMに対する直達手術は現在なお極めて困難とされている4,8,11).一方,最近のintravascular surgeryの進歩は脳血管障害にももたらされつつあり,新しい治療法の1つとして注目されている3,9)
 これまで,われわれは出血をくり返し,直達手術が困難と考えられた大脳基底核・視床部の比較的大きなAVM症例に対し,シアノアクリレートによる術中塞栓術を試みてきた.この手術法に関し,これまで経験した症例を提示し,その手術手技,適応,合併症などにつき検討し,考察を加える.

脊髄髄内Cystic lesionの診断—Delayed CT myelographyとMRIによる検討

著者: 井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   秋野実 ,   阿部弘 ,   田代邦雄 ,   宮坂和男 ,   斉藤久寿 ,   野村三起夫

ページ範囲:P.725 - P.730

I.はじめに
 脊髄くも膜下腔内へ注入された造影剤が脊髄内へ流入する所見がdelayed CTMにて得られる疾患としては脊髄空洞症がよく知られているが1,2,6,8,13),近年,頸部椎間板障害例においても同様な所見がみられることが報告されており8), delayed CTMは脊髄内病変を検索する有用な検査法と考えられる.一方,MRIの登場により,脊髄空洞症は非侵襲的に,容易に診断されるようになり4,5,9-11,14,15,17),脊髄空洞症の診断は飛躍的な進歩をとげている.今回われわれは,delayed CTMにて,髄内病変を認めた種々の脊髄疾患に対してMRIを施行し,両者の所見を比較検討したので報告する.本報告では,特にdelayed CTM上認められた髄内病変の病態像に関して検討を加えてみた.

頭蓋顔面骨折の治療

著者: 西山直志 ,   川上勝弘 ,   河本圭司 ,   奥山輝美 ,   松村和哉 ,   栗本匡久 ,   河村悌夫 ,   松村浩 ,   守田和彦

ページ範囲:P.733 - P.741

I.はじめに
 脳神経外科に搬入される患者の中には受傷機転から顔面外傷,顔面骨折を合併していることも稀ならず経験する.受傷時顔面の腫脹やその他の症状に隠蔽され,的確な骨折の診断が下されなかったり,また頭蓋内損傷合併例では脳外科的処置が急務であるため顔面骨折の適切な治療時期を失することも稀ではない。著者らはこのような点を鑑みて,頭蓋顔面合併損傷例に対し,脳外科的治療と並行して早期に顔面骨折の治療を行い良好な結果を得たので,その診断,病態ならびに手術方法について報告する.

誘発電位による脳ヘルニアの病態把握ならびに予後判定に関する実験的研究

著者: 高家幹夫 ,   森竹浩三 ,   小西常起 ,   諏訪英行 ,   平井収 ,   半田肇

ページ範囲:P.743 - P.749

I.はじめに
 脳卒中や頭部外傷などによる重症意識障害患者に対しては,生命の基本的な維持中枢である脳幹機能の客観的モニターが必要となる.このような目的のためにすでに誘発電位法の有用なことが報告されているが,判定基準などに関しては必ずしも一致した見解が得られておらず,一般化するには至っていない.本研究では成猫を用い,天幕上硬膜外バルーン法による頭蓋内圧亢進モデルを作成し,その際の各種誘発電位,頭蓋内圧,瞳孔所見を経時的に観察した.これらの相互の関係を分析することにより,頭蓋内圧亢進時の脳幹機能モニター法として誘発電位法の有用なパラメータを求めるとともに,その信頼性についても検討を加えた.

症例

脳内木片異物の3例—そのCT診断と治療方針について

著者: 藤本俊一 ,   小沼武英 ,   天笠雅春 ,   奥平欣伸

ページ範囲:P.751 - P.756

I.はじめに
 頭蓋内木片異物の診断は頭部単純写のみでは正確を期し難く,CT scanが有用である.しかし木片の場合,通常のCT撮影条件では空気との鑑別が困難で,画像処理条件を変える必要がある.今回われわれは3例の脳内木片異物の症例を経験したが,うち1例は経鼻的に脳室まで木片が刺入し,気脳症を合併して空気と木片の鑑別に苦労した.他の2例は経眼窩的に刺入した症例であったが,これらを呈示し,診断上の問題点および異物の処理法につき検討を加え報告する.

Detachable balloonによるTrappingを行った海綿静脈洞部内頸動脈瘤の1症例

著者: 石川達哉 ,   中川翼 ,   宮町敬吉 ,   阿部弘 ,   宮坂和男 ,   竹井秀敏 ,   阿部悟

ページ範囲:P.759 - P.763

I.はじめに
 直達手術不可能な内頸動脈瘤の治療には,種々の試みがなされてきた.代表的な治療法として,carotid liga—tion+STA-MCA bypassが行われてきたが,問題点も数多く指摘されている6,8,11).最近,detachable balloontechniqueを用いた内頸動脈のtrappingが新しい治療法として注目されるようになってきた1-3,9,12).しかし,端ら7)の統計によると,本邦ではcarotid ligation 137例中balloonによるものはわずかに2例である.
 今回われわれは海綿静脈洞部内頸動脈瘤に対し,de—tachable balloonを用いて内頸動脈のtrappingを行った1症例を経験したので,治療上の問題点について若干の文献的考察を加えて報告する.

胃癌の頭蓋底転移によってGarcin症候群を呈した1例

著者: 原田俊一 ,   戸谷重雄 ,   飯坂陽一 ,   大谷光弘 ,   中村芳樹

ページ範囲:P.765 - P.769

I.はじめに
 一側の脳神経が全部あるいは大多数にわたって侵され,しかも四肢の麻痺および頭蓋内圧亢進症状を呈さない症候群をGarcin症候群といい,頭蓋底部の腫瘍性疾患がその病因として重要である.また,頭蓋底に好発する腫瘍には,Garcinら3)が記載した粘液肉腫の他に横紋筋肉腫21)や鼻咽腔4,19),副鼻腔腫瘍22)の浸潤,あるいは脊索腫13),軟骨腫20),遠隔臓器腫瘍の転移15)などが知られている.今回われわれは,胃癌の頭蓋底転移によって左側多発性脳神経麻痺(Garcin症候群)を呈した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

脳梁欠損を伴った半球間裂嚢胞(Glio-ependymal cyst)の1新生児例

著者: 宇都宮英綱 ,   林隆士 ,   本田英一郎 ,   橋本武夫 ,   中村康寛

ページ範囲:P.771 - P.776

I.はじめに
 頭蓋内嚢胞性病変のなかでも脳内あるいはくも膜下腔に発生するとされるglio-ependymal cystの報告は少ない.最近われわれは半球間裂内に生じ同時に脳梁欠損を伴った本症の1新生児例を経験したので報告し,glio—ependymal cystの組織発生について若干の考察を行うとともに半球間裂嚢胞の神経放射線学的鑑別診断について検討を加える.

動脈瘤増大によりWeber症候群,閉塞性水頭症を呈した1症例

著者: 山中千恵 ,   木矢克造 ,   広畑泰三 ,   吉本尚規 ,   梶原四郎 ,   魚住徹

ページ範囲:P.779 - P.783

I.はじめに
 脳動脈瘤が大きい場合,mass lesionとして圧迫症状を示すことがあるが,その自然経過については余り知られていない.今回著者らは,くも膜下出血にて発症した多発脳動脈瘤で,未破裂未処理であった動脈瘤が増大してWeber症候群と閉塞性水頭症をきたし,動脈瘤は完全血栓化した症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

Lymphocytic adenohypophysitisと考えられた1例

著者: 池田秀敏 ,   奥平欣伸

ページ範囲:P.785 - P.789

I.はじめに
 lymphocytic adenohypophysitis(Gou—die)9)は,主に妊娠・分娩を契機として,下垂体腫瘤を形成し,出産後の経過とともに下垂体腫瘤は自然に消失し,その後に下垂体前葉機能低下を生ずるとされる.病理組織学的には,lympho,cyte, plasma cellの浸潤を主体とする下垂体前葉の慢性炎症性疾患である.この炎症による破壊によって下垂体前葉機能低下が生ずるとされている.このような病態を考えるならば,本症の非侵襲的な診断法,治療法の確立が望まれるところであり,そのnatural historyを知ることは重要と思われる.
 われわれは,病理組織は得られていないものの,臨床経過,内分泌検査よりlymphocytic adenohypophysitisと考えられた下垂体腫瘤の稀な1例を経験し,そのnatural historyを追跡することができたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

側脳室内腫瘍の術後脳浮腫

著者: 柴田尚武 ,   福嶋政昭 ,   陣内敬文 ,   森和夫

ページ範囲:P.791 - P.795

I.はじめに
 1974年から1985年までに長崎大学脳神経外科では16例の側脳室内腫瘍を経験したが,手術法は原則として中側頭回切開法や頭頂・後頭葉切開法を採用している.
 脳室内腫瘍は症状が出現しにくい脳室内に進展するため,診断確定時には腫瘍が巨大化している場合が多い.computed tomography(CT)導入(当院では1977年)後には,症状が軽微な小腫瘍の段階で診断される例が増加しつつあるが,やはり大きな腫瘍例が多い.CT導入後の脳室内腫瘍7例中5例が大きな腫瘍であった.

Brain stem gliomaに対する最近の治療方針と治療成績

著者: 鬼頭晃 ,   吉田純 ,   景山直樹

ページ範囲:P.797 - P.803

I.はじめに
 脳幹部神経膠腫(brain stem glioma)は小児に好発し,小児脳腫瘍の10-20%を占めている4,11,16)。その治療はステロイド投与と放射線照射を主体として補助的に減圧手術や化学療法が行われているが,予後は極めて不良であり21,32),当教室で1983年までに経験した症例の平均生存期間は,治療開始よりわずかに7.0カ月であった.一方,近年CTスキャンの進歩に加えMRIが導入されるようになり,腫瘍の局在および性質を早期に容易かつ正確に診断できるようになり,brain stem gliomaを分類し,それぞれのtypeに応じた的確な治療を行うことにより治療効果の向上が得られるようになってきている3,12).われわれも1984年以後brain stem glioma 5例をその局在と性質に従い分類し,手術療法,放射線,免疫化学療法のcontrol studyを施行して短期間の観察ながら有効性が認められており報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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