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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科15巻8号

1987年08月発行

雑誌目次

脳神経外科と地域医療の発展

著者: 牧野博安

ページ範囲:P.811 - P.811

 私が自分自身をまだまだ若いんだ,あんな連中になんか負けるもんか,なんて思っていたのは本当に数年前のことである.近頃は年老いたというか,遠慮深いというのか,気が弱くなったというのか,どうも覇気がなくなった.しかしまだまだやるんだという気構えは十二分にある.若い連中の手術の話を聞いていると,まだだなあと思うこともあるし,また,おやと思う位彼等の進歩に驚くこともある.
 私がこの脳神経外科を自分の一生の仕事にしようと思ったのは昭和28,29年頃である.米国ではもう十分にこの学問が体系を作っていたし,俺も頑張ってやるんだと思っていた.ただ自分が千葉でこの学問をどうやって行けるかが心配であったし,また米国にあるような疾患が日本に帰ってもあるのかどうかが気にかかっていた.でも自分では,どうあってもこの好きな学問をやりとげて見せると思っていた.東大や京大ではもう相当の数の腫瘍やその色々な手術をこなしていたのも知っていたし,また新潟でも中田教授一派が相当数の脳手術をこなしている.そんな心配をしながら長い船旅をして,まだ米国とは雲泥の差があると見られた横浜の港に入り,そして懐しい千葉に帰った.

集中連載 MRI診断・5

脊椎,脊髄疾患のMRI診断・1

著者: 松岡勇二郎 ,   吉川宏起 ,   町田徹 ,   飯尾正宏

ページ範囲:P.813 - P.818

I.はじめに
 脊椎および脊髄は縦に細長く呼吸や心拍動の影響が少ないので,MRIのよい適応である.
 受信コイルは主に表面コイルが用いられる.有効視野径は15cmで,空間分解能は1mmである.上頸部のみなら頭部用コイルでも可能である.表面コイルを用いるとコイルに近い部位(皮下組織,脊柱起立筋など)はやや白くなり,信号強度にむらができるが,高い信号・雑音比(SNR)が得られるため,脊椎,脊髄あたりの空間分解能は躯幹用コイルよりすぐれる.

研究

聴神経腫瘍・聴力保存例の特徴と治療方針

著者: 森田明夫 ,   福島孝徳 ,   宮崎紳一郎 ,   玉川輝明 ,   清水庸夫 ,   厚地政幸

ページ範囲:P.821 - P.829

I.はじめに
 microsurgeryの導入,手術テクニックの進歩により聴神経腫瘍の手術は極めて安全に行われるようになり,腫瘍全摘出および顔面神経温存に関してすぐれた成績が報告されてきた14,17,18,26,28,30,33).しかるに,最近では欧米を中心に直径1-2cmの小さな聴神経腫瘍の手術成績・聴力温存の報告がなされつつある1-3,9,12,13,17,23,28,33,32).本邦においては,現在でも聴神経腫瘍を論じる際には径2-3cm以上の大きな腫瘍の議論が中心であり,聴力温存の報告は少ない30).われわれは過去5年間に43例の聴神経腫瘍に対し手術を行ったが,術前聴力が保存されている症例を10例経験した.そのうち腫瘍の大きさが4cm未満であった6例について聴力を温存するよう試みた.今回はこの結果を報告し,術前にはどのような症例で聴力が保存されており,手術に際していかなる点に注意すれば聴力を保存しうるかについて考察したい.

Pterional approachによる脳底動脈瘤手術—特に内頸動脈内側からの接近法の可能性について

著者: 長沢史朗 ,   鄭光珍 ,   米川泰弘 ,   半田肇

ページ範囲:P.831 - P.835

I.はじめに
 脳底動脈末梢部動脈瘤に対して1961年Drakeが最初の手術成功例を報告して以来subtemporal approachが唯一の手術法として多くの症例に用いられてきた.1975年Yasargilら10)によりfrontolateral sphenoparietal(or"pterional")approachによる方法が発表され,この手術法が有するいくつかの利点のために,最近は同部の動脈瘤に対して使用される頻度が増加している.
 脳底動脈末梢部動脈瘤に対してpterional approachが用いられる場合には,内頸動脈の外側からの接近法(lateral to the carotid artery medial to the oculomotornerve9),retrocarotid approach medial to the 3rdnerve4),conventional approach behind the carotidartery5)が一般的であり,視神経と内頸動脈との間からの接近法(between the carotid artery and optic nerve5),9),via the optic-carotid triangle4))の可能性は著しく低く,数%といわれている.

症例

Delayed CT myelographyにて神経症状を説明し得る髄内病変を認めた頸部椎間板障害の2症例

著者: 井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   阿部弘 ,   田代邦雄 ,   村井宏 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.837 - P.841

I.はじめに
 頸部椎間板障害例のなかには,知覚障害が明らかでなく,Crandall1)による臨床分類でmotor system syn—drome型に分類されるものがあり,しばしば他疾患との鑑別を必要とする.特に,運動麻痺,筋萎縮を主症状とする場合には,筋萎縮性側索硬化症,脊髄性進行性筋萎縮症などのmotor neurone diseaseとの鑑別はしばしば困難であり,診断に難渋することが多い2,3,5-11,13).今回,われわれは知覚症状を欠きmotor system syndrome型に分類される臨床症状を呈した頸部椎間板障害例において,delayed CT myelographyにより髄内へ造影剤の流入が認められ,その臨床症状を説明し得る髄内病変を確認し得たので報告する.臨床的にmotor neurone dis—easeと鑑別が困難である頸部椎間板障害例において,術前検査としてdelayed CT myelographyは非常に有用な検査法であることを強調したい.

悪性化を示した頭蓋咽頭腫の1例

著者: 赤地光司 ,   高橋宏 ,   石島武一 ,   中村安秀 ,   小田雅也 ,   滝沢利明 ,   岩本宗久 ,   栗山剛 ,   静木厚三

ページ範囲:P.843 - P.848

I.はじめに
 頭蓋咽頭腫の悪性化の報告は少ない.筆者の知る限りでは,所11)が著書『脳腫瘍』に藤原,赤崎,大橋・北畠・高橋の報告があったと記載している.しかし,Rus—sell and Rubinstein9)ならびにZülch14)は,それぞれの著書に明確な頭蓋咽頭腫の悪性化の報告はないと記載している.
 今回われわれは視力障害を主訴として来院した10歳女児の鞍上部腫瘍に対し,3回にわたる手術を施行したが,その手術材料の比較から本症例は頭蓋咽頭腫の悪性化したものと考えられた.文献的記載に鑑みても非常に稀な1例と考えられたので,ここに報告する.

小脳橋角部の悪性類上皮腫の1例

著者: 松野彰 ,   渋井壮一郎 ,   落合慈之 ,   猪野屋博 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.851 - P.858

I.はじめに
 類上皮腫(epidermoid cyst)は全脳腫瘍の約0.2-1%を占め23),一般には全摘可能な良性腫瘍である.しかし,ときに悪性像を呈する報告も散見される.われわれは,第1回手術時には典型的な類上皮腫と診断されたにもかかわらず,その後徐々に症状が増悪し,7カ月後に行われた再手術で悪性類上皮腫(primary intracranialepidermoid carcinoma)と判明した1例を経験した.若干の考察を加え報告する.

内頸動脈硬化性変化に伴う視神経Vascular compression neuropathy

著者: 野中雅 ,   上出廷治 ,   大滝雅文 ,   田辺純嘉 ,   端和夫

ページ範囲:P.861 - P.866

I.はじめに
 脳腫瘍,水頭症,動脈瘤など視交叉部病変が視力視野障害を呈することはよく知られているが,稀に硬化性変化により蛇行,拡張した内頸動脈により視神経が直接圧迫され同様の症候をひき起こすことが報告されている.こうした視神経のvascurar compression neuropathyは,診断技術の進歩した今日でも術前の確定診断は必ずしも容易ではない.したがって,手術時にはすでに視神経萎縮を呈しているものが多く,手術成績も良好とはいえなかった.われわれは,本症の神経放射線学的診断法を工夫し,視束管開放術とともに,内頸動脈転移などにより視神経に対し直接的減圧を試みた3症例を含む4症例につき,過去の文献例を加え報告する.

汎下垂体前葉機能低下症と高プロラクチン血症を伴ったIntrasellar meningiomaの1例

著者: 渡辺正人 ,   外山孚 ,   渡辺正雄 ,   谷口禎規 ,   金子兼三 ,   横山元晴

ページ範囲:P.869 - P.874

I.はじめに
 intrasellar meningiomaはトルコ鞍近傍にみられる髄膜腫のなかでも極めて稀なものであり,文献的には7例の報告1,4,10,11)を認めるにすぎない.われわれは最近,視力・視野障害を主訴として来院し,下垂体前葉機能低下症と高プロラクチン血症を示し,下垂体腺腫との鑑別が困難であったintrasellar meningiomaの1例を経験したので報告する.

穹窿部髄膜腫を合併した早老症(Werner症候群)—病理組織学的検討

著者: 森本一良 ,   吉峰俊樹 ,   斎藤洋一 ,   山田正信 ,   最上平太郎 ,   山形知 ,   宮川潤一郎

ページ範囲:P.877 - P.882

I.はじめに
 老化は中枢神経系の胎生期に由来する発達プログラムによるとされ,早老症はこの正常老化の形質表現が促進されたものと定義されている.早老症候群のうち,常染色体性劣性の遺伝形式をとるWerner症候群は,1981年までに本邦では195例が集計されており4),本症候群に合併する線維肉腫,髄膜腫のほか,癌,白血病の発生との関連が注目されている5-7).しかしながら本症候群の本態はなお不明な点が多く,合併する髄膜腫を外科的に摘除した報告は1953年Mogensenと1980年Kobayashiらによる2例と少ない7-9).今回私たちは,39歳の女性においてWerner症候群に合併した右頭頂穹窿部髄膜腫を全摘出する機会を得た.近年Werner症候群における結合組織代謝に関する研究も進められており,本症例では摘出腫瘍の病理組織学的検索で腫瘍内結合組織の増殖がみられた.さらに私たちは本症例で電顕像の観察と免疫組織学的検索もあわせて行ったのでWerner症候群に合併した髄膜腫の文献的考察を加えて報告する.

静脈片による頭蓋内外バイパス手術の経験—閉塞静脈片に対する修復術

著者: 佐藤秀次 ,   角家暁

ページ範囲:P.885 - P.890

I.はじめに
 long vein graftを用いた頭蓋内外(EC-IC)バイパス手術は高流量バイパスとして近年その利用が高まっている2,3,6-10).しかし,本バイパス手術は手技が複雑であり,技術的ミスから設置したvein graftが狭窄または閉塞する機会が少なくない12).私どもは術中の技術的ミスが原因で発生したvein graftの狭窄・閉塞に対して修復術を行い,バイパスを再建し得たので,症例を呈示するとともに,vein graft狭窄・閉塞の原因とそれらの修復術について検討したので報告する.

脳保護物質投与下に動脈瘤柄部切除,内頸動脈端々吻合を行った頸部内頸動脈瘤の1例

著者: 渡辺孝男 ,   村石健治 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.893 - P.899

I.はじめに
 非外傷性の頸部内頸動脈瘤は比較的稀な疾患である6,8,11).本症の場合,動脈瘤柄部が内頸動脈近位側にある場合には根治手術の適応となるが,動脈瘤が大きい場合には手術操作に困難を伴うことが多い.
 われわれは,頸部内頸動脈近位側に柄部をもつ約4×5×5cmの動脈瘤に対し,脳保護剤(mannitol, dexamethasone,vitamin E)20,21)併用投与により血管遮断時間の延長をはかり,動脈瘤柄部切除,内頸動脈端々吻合を行い根治し得た1症例を経験したので報告する.

原発性甲状腺機能低下症に基づく下垂体過形成の1例

著者: 山本良裕 ,   国塩勝三 ,   角南典生 ,   山本祐司 ,   浅利正二 ,   柚木昌

ページ範囲:P.903 - P.908

I.はじめに
 原発性甲状腺機能低下症の1小児例にCT上,下垂体腫瘤形成を認め,甲状腺ホルモン補充療法開始後5カ月で,このCT上の腫瘤は消失した.われわれは本症例は原発性甲状腺機能低下症に基づく下垂体過形成と考え,文献上同様の報告を検討し,その発生メカニズム,診断および治療方針について考察する.

家族性脳動脈瘤—自験例8家系,20症例の報告と文献的検討

著者: 府川修 ,   相原坦道

ページ範囲:P.911 - P.919

I.はじめに
 脳動脈瘤の家族内発生については,これまでその血縁関係,脳動脈瘤の発生部位,多発率,男女比,発症時年齢,血縁関係者間での発症時年齢差などの検討から,通常の脳動脈瘤と異なる特徴を有することが指摘され4,5,10,22,26,29,49),先天的あるいは遺伝的要因の関与についても論及されている6,8,10,18,20,26,36,44,56,59).一方,同一施設における多家系,多症例の報告は少なく1,60,65),全脳動脈瘤症例に対する家族発生例の頻度,あるいは同胞例,親子例における脳動脈瘤の発生率の予測20,25)などについては,これまで十分検討されていない.すなわちこれらの点がある程度知り得れば,脳動脈瘤の家族発生例を経験した場合,その家系においてさらに隠れた症例を発見し,くも膜下出血を未然に防止することも可能になると考えられることから,自験例の8家系20症例を,従来の報告例および当科で経験した非家族性脳動脈瘤症例と比較しつつ,家族性脳動脈瘤の特徴と問題点につき,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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