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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科15巻9号

1987年09月発行

雑誌目次

ロマンチック街道にて想うこと

著者: 松井将

ページ範囲:P.927 - P.927

 ご承知のように"ドイツ・ロマンチック街道"は余りにも有名であり,日本からも毎年数多くの人々が聖地を巡礼するかのごとく訪れ,絶えることをしらない.この街道の起点は守護聖人キリアンに守られて静かにマイン河の清流に臨むウィルツブルグに始まる.市の中央には雅やかな階段状のロココ風庭園を配した壮麗な司教の館がある.聖キリアンを含む12聖人の像に見守られながら旧マイン橋を渡ると,前方の丘の上にはフランケンの赤土の城壁にしっかりと擁護された城砦マリエンベルグの雄姿を仰ぎ見る.城砦の中庭には遠く1582年に設立されたウィルッブルグ大学の基石碑が保存されている.
 われわれ医学関係者には忘れることのできないシーボルトはこの大学で医学を学んでおり,レントゲンは1895年,同大学でX線を発見している.また郊外のヴァイトヘッヒハイムには神経病理学の大家スパッツ教授の第一弟子で下垂体系の権威者エンゲルハルト教授がおられ,東方からの学友も隣人として温かく迎えてくれる.この街道の南端はヨーロッパ・アルプスの峰々を背景に豊かな森と湖に囲まれて佇ずむフユッセンである.全長およそ350キロに及ぶ街道はその名に応しく中世絵巻物から繰り広げられたような古色と優雅さを保ち続けてきた町々村々が珠数の玉のように相ついで連なっている.

集中連載 MRI診断・最終回

脊椎,脊髄疾患のMRI診断・2

著者: 岡田吉隆 ,   松岡勇二郎 ,   吉川宏起 ,   町田徹 ,   飯尾正宏

ページ範囲:P.929 - P.933

I.はじめに
 前号では主として髄内病変を中心に,脊椎,脊髄疾患におけるMRIの有用性について述べられたので,今回は前号で触れられなかった疾患を中心に解説を進めることとする.呈示するMRI像はいずれも磁場強度1.5Tまたは0.35Tの超電導型装置を用い,スピンエコー(SE)法で撮像したものである.

追悼

追悼 清水健太郎先生

著者: 佐野圭司

ページ範囲:P.934 - P.935

 今こうしていても,目にうかぶのは先生のお元気の時のおすがたばかりである。4半世紀をとびこえて,あの颯爽とした御雄姿が語りかけてくるようである.
 天二物を与えずと言うが,先生には天は惜しみなく,すばらしい頭脳と,強健でしかも美しい肉体を与えられた.先生は1903年(明治36年)3月18日,すなわち日露戦争の前年,東京の木挽町にお生まれになった.女性ばかりの家庭に育てられたが,これは先生が終生,女性に対しては温かいおもいやりと心づかいを示されたことと関係があるであろう。

研究

CCT(Central Conduction Time)の臨床応用

著者: 上田守三 ,   松前光紀 ,   佐藤修 ,   鈴木豊 ,   村瀬寛 ,   桜井勲

ページ範囲:P.937 - P.945

I.はじめに
 近年,体性感覚誘発電位(Somatosensory EvokedPotentials,以下SEP)が脳脊髄機能の指標として臨床予後の推察のみならず術中モニターとして積極的に応用されている,しかしながら,背景脳波,導出法,基準電極の部位,SEPの各成分の命名法などは各発表者により意見の一致がみられず,果して,頭蓋内の病変がSEPに反映し,その記録が臨床に役立つかどうか疑問の多いことがある.Humeら6,7,9)の提唱したCentralsolnatosensory Conduction Time(以下CCT)は頸髄から皮質上肢感覚野までの中枢伝導時間とみなされ,その変動は脳機能の指標となると報告されている.今回われわれは,CCTが正常者において,平均値の偏差が少なく,恒常性があり,臨床的にも検査しやすいことより,SEPの代表としてCCTを選択した.そして頭蓋内の病態がCCTの変動にいかに関与しているか,逆にCCTを測定することによって病態の推察が可能であるかを臨床的に追求した.

脊髄髄内腫瘍に対する術中超音波診断装置の使用経験

著者: 井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   今村博幸 ,   秋野実 ,   阿部弘

ページ範囲:P.947 - P.954

I.はじめに
 近年における神経放射線学的診断の進歩により,脊髄髄内腫瘍の診断は比較的容易となり,さらにmicrosur—gical techniqueの向上により腫瘍摘出も安全に行われるようになってきた1,6,20).術前検索にてcystとtumorの鑑別が可能なことが多いが,手術時,腫瘍実質部分とcyst部分を鑑別し,腫瘍の拡がりを正確に診断することは,腫瘍摘出を安全に行うために,必要と考える.このため,何らかの術中モニターの重要性が注目されてきている.われわれは,過去5年間に18症例の脊髄髄内腫瘍を経験し,良好な手術結果を得ているが,術中超音波診断装置では腫瘍に合併したcystの診断がより詳細に可能であり,腫瘍の局在診断に非常に有用であった.今回われわれは,脊髄髄内腫瘍に対する術中超音波診断の有用性を報告するとともに種々の問題点について言及する.

心虚血を伴った脳虚血患者に対する血行再建術

著者: 新島京 ,   米川泰弘 ,   滝和郎 ,   半田肇

ページ範囲:P.957 - P.962

I.はじめに
 脳虚血症状を呈する患者のなかには,狭心症発作などの心虚血を合併するものもある.このような症例では,脳血行だけでなく冠血行の再建も必要な場合がある.従来,coronary artery bypass grafting(CABG)をcarotidendarterectomy(CEA)と併せて行うことはあったが,extracranial-intracranial(EC-IC)bypassと併用した報告はほとんどない1,4,7,12)
 このたびわれわれは,EC-IC bypassとCABGの両者が必要と考えられる症例では,いずれを優先して行うべきかを検討した.さらに,minor strokeとunstableanginaを合併する症例,およびRINDとmyocardiacinfarctionを合併する症例の2例に対し,実際にまずEGIC bypass,次いでCABGの順にtwo-stageに分けて脳・心の血行再建術を施行し,良好な結果を得たので報告する.

症例

中脳四丘体出血の1例

著者: 菅原孝行 ,   石橋安彦 ,   石橋孝雄

ページ範囲:P.965 - P.969

I.はじめに
 脳幹部出血のほとんどは橋出血であり,中脳原発の出血は少なく,現在までに詳しい記載のある原発性中脳出血の報告はいまだ13例を数えるのみである.しかもこのなかで,中脳四丘体に出血したという報告例はわずか1例にすぎない.
 今回われわれは中脳四丘体に出血し,急性水頭症を呈したために脳室ドレナージを行い,良好な経過をとった症例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

星細胞腫を合併したMaffucci症候群の1例

著者: 後藤博美 ,   伊藤康信 ,   平山章彦 ,   坂本哲也 ,   古和田正悦

ページ範囲:P.971 - P.975

I.はじめに
 血管腫と軟骨腫の多発するMaffucci症候群は比較的稀であり,中胚葉性異形成症と考えられている4).本症候群では軟骨腫および血管腫の悪性化や他臓器の悪性腫瘍との合併が知られているが1,7,14,23),原発性脳腫瘍との合併例は現在までにわずかに8例2-4,7,10,13,21,22)の報告があるにすぎない.
 最近,本症候群に星細胞腫(右前頭葉,fibrillarytype)を合併した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

総頸動脈狭窄例に対する大伏在静脈を用いた鎖骨下動脈—外頸動脈バイパス術の1例

著者: 村上成之 ,   阿部俊昭 ,   山口由太郎 ,   池内聡 ,   中村紀夫

ページ範囲:P.977 - P.981

I.はじめに
 総頸動脈閉塞性病変に対する外科的治療法4,7,9)は,その位置と広がり,解剖学的状況に応じて種々の方法が選択される.血栓内膜切除術を中心とした直達手術に加え,顕微鏡を用いた各種バイパス手術の頻度も増加しつつある.最近,われわれは総頸動脈起始部狭窄例に対し大伏在静脈移植による鎖骨下動脈外頸動脈バイパス術を行い,良好な結果を得たので報告する.

細菌性脳動脈瘤—脳内血腫形成2例と手術適応に関する考察

著者: 岡部慎一 ,   乙供通則 ,   百川健 ,   高橋賢二

ページ範囲:P.983 - P.988

I.はじめに
 細菌性脳動脈瘤は全脳動脈瘤の0.4%以下といわれ1),最近では稀な疾患とされているが,そのほとんどが細菌性心内膜炎に続発する故に,心臓外科の普及した昨今,その術後合併症の1つとして注意すべきものである3,13).しかし,本疾患の手術適応はいまだ確立されていないようである11,13,16)
 最近われわれは,開心術後の細菌性心内膜炎に起因し,脳内出血で発症した細菌性脳動脈瘤の2例を経験した.1例は,左右中大脳動脈,左後大脳動脈および右前大脳鎌動脈の末梢部に発生した多発性のもので,他の1例は左中大脳動脈末梢部の単発性のものであった.これらの症例を手術および抗生物質の投与で治癒せしめたが,いずれの症例も手術適応に関して極めて興味深い知見を示したので,ここに症例を提示し,主に本疾患の手術適応につき若干の文献的考察を加えて報告する.

短期間に自然消失をきたした脳動静脈奇形

著者: 高野晋吾 ,   能勢忠男 ,   牧豊 ,   篠原明 ,   久木田親重

ページ範囲:P.991 - P.996

I.はじめに
 脳動静脈奇形(arteriovenous malformation,以下AVMと略す)の自然消失例の報告は,Hook, Johansonら(1958)1)により初めてなされて以来,これまでに文献上20例2,3,5,7-9,12-15,17-19,22,23,29)にすぎない.
 今回著者らも,脳内出血で発症し,これまでの報告とは異なり極めて短期間でAVMが脳血管造影(以下AGと略す)上消失し,かつ手術によりAVMの血栓化が確認された症例を経験したので,これまでの報告例と合わせて文献的考察を加えて報告する.

Prolactinoma中にRathke's cleft cystが認められた1例

著者: 池田秀敏 ,   新妻博 ,   藤原悟 ,   鈴木二郎 ,   笹野伸昭

ページ範囲:P.999 - P.1003

I.はじめに
 Rathke's cleft cystは,嚢胞壁が盃細胞を混じえた繊毛円柱上皮,あるいは重層扁平上皮から成ることはよく知られている.Kepes7)は下垂体腺腫内にこのようなRathke's cleft cystが存在する例について,下垂体tran—sitional cell tumorの概念を提出した.今回われわれはprolactinoma内に大きなRathke's cleft cystを伴っていた症例を経験し,腺腫細胞の中のフィラメント構造物の性状を免疫組織化学的に検討した結果,Kepesのいうtransitional cell tumorの概念に多少の疑義を感じたので報告する.

Digital video subtraction systemによる髄液鼻漏の局在診断

著者: 高橋立夫 ,   六鹿直視 ,   青木俊樹 ,   半田隆

ページ範囲:P.1005 - P.1009

I.はじめに
 髄液漏の局在診断法はmetrizamide CT cisternography2,4,11,14)が多く使用されるようになり進歩したが,しかしながらCTでは短時間の静的画像で判断するにすぎず,直接に髄液が漏れでる動的な様子を連続して観察することができない.そこでわれわれは初めての試みとして,digital video subtraction systemを使用し少量の造影剤を頭蓋底の脳槽内へ注入し,髄液鼻漏の患者の漏孔を直接確認することができたので報告する.

Glioblastomaと他臓器癌の重複腫瘍

著者: 小林達也 ,   高橋立夫 ,   田中孝幸 ,   建石徹 ,   三浦重人

ページ範囲:P.1011 - P.1017

I.はじめに
 最近,癌の診断法の進歩により治癒する患者がふえてくるにしたがって,重複癌(prirnary multiple cancer)に対する関心が高まっている13)
 一般に重複腫瘍は,異なった腫瘍が同時期に存在しているものを同時性(synchronous),時期を異にする場合を異時性(heterochronous)と呼び,その期間が1年以内を同時性,それ以上を異時性とすることが多い8,15,16).また,この発生のメカニズムは不明であるが,癌発生の根本問題を含んでいるようであり興味がある.

心房性ナトリウム利尿ホルモンが高値を示した低ナトリウム血症の2例—Cerebral salt wastingの概念をふまえて

著者: 山本直人 ,   宮本法博 ,   妹尾久雄 ,   松井信夫 ,   桑山明夫 ,   寺島圭一

ページ範囲:P.1019 - P.1023

I.はじめに
 中枢神経疾患に低Na血症を伴うことは,よく知られており,その多くが,抗利尿ホルモン(ADH)分泌不適合症候群(syndrome of inappropriate secretion of ADH:SIADH15)として説明されている.一方,ADHが高値を示さず,原因物質は不明であるが,腎よりのnat—riuresisのみが亢進している,いわゆるcerebral saltwasting14)の病態を呈する症例も存在し,この両者は,治療方針が異なるため,その診断・治療に苦慮する場合にしばしば遭遇する.
 近年,心房由来のホルモンとして中枢神経系にもその存在が確認された心房性ナトリウム利尿ホルモン2,4)(atrial natriuretic polypeptide:ANP)のradioimmuno—assayが可能となり,われわれは,頭蓋内病変を伴う低Na血症の患者で,このANPが高値を示し,Na負荷により症状の改善を認めた症例を経験したので,従来のcerebral salt wastingの概念をふまえ,若干の文献的考察を加え報告する.

前頭蓋窩硬膜動静脈奇形の1例

著者: 武田直也 ,   藤田稠清 ,   近藤威 ,   安田宗明 ,   中村貢

ページ範囲:P.1025 - P.1030

I.はじめに
 硬膜動静脈奇形は稀な疾患とはいえないが,その大部分は横・S状静脈洞部および海綿静脈洞部に存在し,前頭蓋窩硬膜動静脈奇形の報告は非常に稀である.今回,われわれは前頭蓋窩硬膜動静脈奇形の1例を経験したので,文献例16例とともに若干の文献的考察を加えて報告したい.

メラニン様色素産生性側脳室乳頭腫の1手術例

著者: 山崎信吾 ,   伊藤梅男 ,   富田博樹 ,   高田義章 ,   稲葉穰 ,   桶田理喜

ページ範囲:P.1033 - P.1037

I.はじめに
 脈絡叢乳頭腫は全脳腫瘍の0.3-0.5%を占める比較的稀な腫瘍である.そのうち,melanin様色素産生性の悪性脈絡叢乳頭腫が数例報告されている2-4,7,8).しかし,病理組織学的に分化のよい脈絡叢乳頭腫にmelanin様色素産生がみられた例の報告はない.
 われわれは,側脳室壁の一部に浸潤性に発育していたが,組織学的によく分化している脈絡叢乳頭腫の腫瘍細胞内に著明なmelanin様色素沈着を示した症例を経験し,その組織化学的および電顕的検索を行った結果を報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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