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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科16巻1号

1988年01月発行

雑誌目次

国際協力事業について

著者: 高久晃

ページ範囲:P.5 - P.6

 最近,国際交流・国際協力の言葉を旗印に国際間の姉妹都市そして姉妹大学が大はやりであり,私の大学にも中国・東南アジアなどからの研究生があとをたたず,昼の学生食堂は一寸した国際サロンの雰囲気をかもし出している.日本の脳神経外科医の先達が彼の地に学問を求めて貨客船で渡航した時代とは対照的な先進国日本(?)を象徴する光景である.この国際交流絵図は多少なりともどの大学にも認められるようであるが,このことについて情報交換の機会があると"学問における国際協力は単に与えるだけのものではなく,その関係はevenであらねばならない"などの意見もみられ,この事業が決して簡単なものではないことが認識される.国際協力・交流とは言ってもそこには共同研究的なものもあろうし,また対外医療援助としての協力事業もあり,一概に論ずることはできない.しかし,発展途上国との協力事業ではたとえそれが医学に関することでも場合によっては太平洋戦争に続く日本の贖罪的色彩の濃いものもあり,またその国の民政安定政策の一環に結果として加担させられる場合もありうる.また日本側の関係者も単に"与えてやっている"というはなもちならない自意識過剰にとらわれ易い分野でもある.しかし,このような態度では本当の国際協力・国際交流が進展できるとは思われない.
 かく言う私も一寸した国際協力事業の一端をになう立場にいる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

眼窩内腫瘍へのアプローチ

著者: 吉本智信

ページ範囲:P.7 - P.13

I.はじめに
 眼窩内腫瘍は,脳外科医により経頭蓋的に,また,眼科医により前方あるいは外側よりアプローチされてきた.さらに,両分野において顕微鏡下での手術が一般的なテクニックとなり,手術器械の改良,診断技術の進歩とあいまって,今日まで,その局在および性質のために外科的に全摘出することが困難であった疾患が,外科的治療の対象となってきている.一方,形成外科の進歩に伴い,眼窩という,顔貌の重要構成物を取り扱う以上,単に病巣を摘出するだけでなく,美的な意味での顔面の再形成を念頭において,外科的治療を行う必要が生じている.さらに,眼窩は,頭蓋内と視神経管および上眼窩裂にて交通し,そこに眼球運動を支配する細かい神経が存在する関係上,両眼視を含んだ視機能維持もはからなければならない.幸いなことに診断機械の進歩により術前の正確な局在診断が可能となり,性質の診断もかなりの程度可能となってきた.ここでは,解剖に基づいた筆者の所見を述べたい.

研究

高齢者破裂脳動脈瘤60例の検討

著者: 長澤史朗 ,   大槻宏和 ,   米川泰弘 ,   半田肇

ページ範囲:P.17 - P.21

I.はじめに
 脳動脈瘤に対する外科的治療成績は著しく向上しているが,人口の高齢化により取り扱う機会が増えている高齢者の破裂脳動脈瘤についての集計は意外に少なく,また治療成績は必ずしも満足すべきものではないとされている3,5,6).これらの報告のなかで強調されている厳重な全身管理の必要性や手術時における愛護的操作配慮などが2,3,5,8),高齢者の特徴とされる脳をはじめとする全身臓器の機能や予備能の減少,脆弱性の増加という側面をどの程度克服しているかは今日的課題である.さらに最近施行されているhypervolemia-hypertension therapyなどの循環負荷を要する治療の高齢者に対する効果も独自に検討する必要がある.
 本研究では著者らが現在までに扱った高齢者破裂脳動脈瘤につき集計し,その治療成績を対照群と比較した.特に高齢者における予後不良因子,なかでも症候性血管攣縮につき検討した.

転移性脳腫瘍に対するCisplatinとAclarubicin hydrochlorideの併用療法

著者: 田中孝幸 ,   小林達也 ,   木田義久

ページ範囲:P.23 - P.28

I.はじめに
 最近,種々の抗癌剤の研究が進み,多剤併用療法が応用されつつある.そのなかでもcis—Diamminedichloroplatium(CDDP)は癌細胞内のDNAと結合し,DNA合成およびそれに引き続く癌細胞の分裂を阻害することにより19,20),泌尿器科領域,婦人科領域,肺癌などの治療に使用され,その有効性を認められ20),さらにglioblastoma multiformeやmalignant germcell tumorなどの悪性脳腫瘍1,6,7,9,12,14,21)にも使用されつつある.またaclarubicin hydroch—Ioride(ACR)はAnthracyclin系抗腫瘍性抗生物質で,癌細胞のDNAに結合して核酸合成,特にRNA合成を強く阻害し18),胃癌10),肺癌15),白血病27),婦人科領域24)を中心に応用され,cisplatinとの併用療法の有効性も3,4)も報告されつつある.今回われわれは転移性脳腫瘍に対し,cisplatinとaclarubicin hy—drochlorideとの併用療法を行い,その効果について,治療前後のCT所見,臨床症状の経過,副作用について検討した.また術中6例の患者についてaclarubicin hy—drochlorideの脳腫瘍組織内濃度についても調べたので報告する.

サル中脳被蓋腹内側部,振戦誘発部位の解剖学的検討—HRP法による

著者: 高橋敏夫

ページ範囲:P.31 - P.38

I.緒言
 カナダのPoirierを中心とするグループの研究24,26,27)により,サルにおいて実験的に振戦を作り出すのに,中脳の赤核と黒質の問で,被蓋腹内側部(VMT:ventromedial tegmental area of Tsai)に限局した比較的小さな破壊巣が最も有効であることが示された.さらに,大江18-22)らは,人間の定位脳手術法を応用した脳室造影と電気生理学的方法を利用して赤核を同定し,その下縁を中心に凝固巣を作成することで,サルにおいて自発性振戦をより高率に作りだすことに成功した.しかし,振戦との関連において,サルの中脳被蓋腹内側部に含まれる神経路についての研究報告は,意外に少ない10,11).今回,サルおよびネコの中脳被蓋腹内側部にHRP(horseradish peroxidase)を注入し,主に逆行性輸送により標識された細胞の分布を調べ,この領域を通過する神経路について振戦との関連で検討を行った.
 なお,本文および図の中で用いた神経核の分類と略語などは,サルの視床についてはOlszewski23)の図譜を,その他についてはShanta3i),Kusama5)の図譜とNiimi17)の論文を参考にした(Table 1).

高血圧性小脳出血に対する外科的治療の選択—特に定位的血腫吸引術の適応と特長

著者: 宇野昌明 ,   富田恵輔 ,   七條文雄 ,   本藤秀樹 ,   上田伸 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.41 - P.48

I.はじめに
 高血圧性小脳出血は,高血圧性脳出血の約10%9,12,16,22)を占め,手術適応のあるものが多いといわれている.近年CT scanにより,小脳出血が容易にしかも早期に診断されるようになり,保存療法のみで比較的良好な経過をとる小脳出血も数多く経験されるようになった4).しかし,急激な意識レベルの低下をみる例や,高齢者の小脳出血例に対しては,ときに開頭術を行うことが困難なことがある.われわれは,適応のあると考えた例には積極的に開頭血腫除去術を行ってきたが,1981年以来,高血圧性脳出血に対する基本的外科療法として定位的血腫吸引術を行う方針に変更した5,13).今回われわれは,高血圧性小脳出血の臨床成績をretrospectiveに検討し,特に定位的血腫吸引術を含む外科的治療の選択について考察したので報告する.

視床出血の脳循環—第1報:保存的治療群の経時的変化

著者: 上田幹也 ,   松本行弘 ,   大宮信行 ,   三上淳一 ,   佐藤宏之 ,   井上慶俊 ,   松岡高博 ,   武田聡 ,   大川原修二

ページ範囲:P.49 - P.55

I.はじめに
 高血圧性脳出血により脳血流量(CBF)が減少することはよく知られた事実であり,被殻出血に関する報告は数多く見られるが,視床出血についてはAngoni1),川上8,9),杉山12),上村15)らが対象の一部にしているにすぎない.また視床出血患者の経時的CBFの変化についての報告12)は非常に少なく,最近視床出血にも行われるようになったstereotaxic aspirationを脳循環の面から評価するにあたっても,保存的治療を行った視床出血の脳循環を知ることは重要なことと思われる.
 著者らはLassenらにより開発されたSingle PhotonEmission CT(SPECT)を使用して,保存的治療を行った視床出血患者の経時的CBFの変化について検討した.

高血圧性橋出血の臨床的研究

著者: 山中竜也 ,   佐藤進 ,   川崎昭一 ,   関口賢太郎 ,   佐藤勇 ,   森修一 ,   渡辺正人 ,   西沢英二 ,   森井研 ,   高浜秀俊 ,   黒木亮 ,   平林賢一 ,   森正也 ,   横山寿一 ,   鈴木八郎

ページ範囲:P.57 - P.64

I.はじめに
 CTスキャン導入前の橋出血の報告は,臨床症状や脳波,ときには脳室撮影,剖検所見などよりなされたものが多かったが,CTスキャンの導入以来,単に診断が容易になったばかりでなく,血腫の拡がりや量がわかることにより,その予後の判定もある程度可能となった.そこで今回われわれはCT所見における血腫の形態学的伸展度,血腫の橋内占拠率と生命および機能予後の関係,さらに急性期臨床症状と予後との関連について検討した結果について報告する.またAuditory Brainstem Res—ponse(ABR)の経時的検索の有用性についても触れたい。
 なお,一部の症例に行った定位的血腫除去術の結果についても言及する.

症例

頭蓋内主幹動脈閉塞急性期症例に対するウロキナーゼ動注療法の試み

著者: 佐藤浩一 ,   岩野健造 ,   上田伸 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.67 - P.72

 I.はじめに
 閉塞性脳血管障害急性期症例に対して行われているUrokinaseを用いた線溶療法は,その効果について明確な評価を得ていない2-4,7).一方,心筋梗塞急性期症例に対する冠動脈内Urokinase注入療法(percutaneous trans—luminal coronary recanalization:以下PTCR)は閉塞血管の55-88%を再開通させ,着実に効果を上げつつある6).われわれは最近,頭蓋内主幹動脈閉塞急性期3症例に対し,Urokinase動脈内注入療法を試み,2例に著効を得たので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Werner症候群に合併した多発性髄膜腫の1例

著者: 増山祥二 ,   溝井和夫 ,   高橋明 ,   鈴木二郎 ,   斎藤輝信

ページ範囲:P.75 - P.78

I.はじめに
 1904年Wernerによって最初に報告されたWerner症候群は,老人性顔貌・若年性白髪・若年性白内障などの早老症状を主症状とする疾患であり,文献的にかなり多くの報告例がみられるが,脳神経外科領域での報告は少ない.今回われわれは,多発性髄膜腫を伴った本症候群症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

重複中大脳動脈を伴った脳動静脈奇形の1例

著者: 野口眞志 ,   重森稔 ,   原邦忠 ,   石橋章 ,   渡辺光夫 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.81 - P.84

I.はじめに
 重複中大脳動脈(duplication of middle cerebral artery)とは内頸動脈から起こり,中大脳動脈主幹と平行に側方に走り中大脳動脈支配領域の一部に分布する異常動脈のことをいう15).1962年にCrompton2)が剖検例において10例の重複中大脳動脈と1例の副中大脳動脈を報告しているが,一般に重複中大脳動脈という名称は前大脳動脈から分岐する副中大脳動脈(accessory middle cerebralartery)とは区別して用いられる7,9).そして,これら異常動脈と脳動脈瘤との合併例についてはすでに多くの報告があるが1,3,7-9,12),脳動脈瘤以外の血管奇形の合併例の報告は意外に少ないようである1,4,5,10,18).われわれは重複中大脳動脈に脳動静脈奇形を伴った1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

大脳縦裂部急性硬膜下血腫の3例

著者: 武田直也 ,   栗原英治 ,   松岡英樹 ,   古瀬繁 ,   玉木紀彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.87 - P.92

I.はじめに
 外傷性硬膜下血腫は,大部分,大脳半球穹窿部に起こり,大脳縦裂部の報告は非常に稀である.当科で経験した急性硬膜下血腫は1977年7月より1986年4月までに48例であり,大脳縦裂部血腫は3例(6%)であった.今回われわれはこの3例の外傷性大脳縦裂部急性硬膜下血腫について,若干の文献的考察を加えて報告する.

Persistent trigeminal artery variantの2例

著者: 渡辺孝男 ,   青木晃 ,   蘇慶展

ページ範囲:P.95 - P.100

I.はじめに
 persistent trigeminal artery(以下PTAと略す)は内頸動脈と脳底動脈を連絡するcarotid-basilar anastomosisのなかでも最も高頻度に認められるものである.
 1972年Tealら10)はPTAと類似の起始部を持つが,脳底動脈との交通はなく,直接小脳動脈に終るcarotid-cerebel—lar anastomosisというべき症例を報告し,これをpersistent trigeminal arteryvariant(以下PTAVと略す)と推測した.以後,これまでに十数例のPTAVの報告がなされている2-6,8-11)

外傷性前大脳動脈閉塞

著者: 天笠雅春 ,   佐藤壮 ,   清水幸彦 ,   小田辺一紀 ,   小沼武英

ページ範囲:P.103 - P.107

I.はじめに
 頭部外傷が原因で発生する脳血管障害は比較的稀なもので6,22),脳血管閉塞,脳動脈瘤,脳動静脈瘻,脳血管攣縮などが報告されている.われわれは最近軽微な頭部外傷後に左前大脳動脈領域に限局性の脳梗塞をきたし傍脳梁動脈の進行性狭窄を生じた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

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「引用」についての豆知識

ページ範囲:P.92 - P.92

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基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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