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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科16巻10号

1988年09月発行

雑誌目次

学会発表のあり方について—脳神経外科における論争点と最前線に関する国際シンポジウム

著者: 畠中坦

ページ範囲:P.1123 - P.1124

 昨年9月2〜4日,マドリッドでlnternational Symposium on the Controversiesand Frontiers in Neurosurgeryが開催された.会はいわば非公開であり,予め主催者側が指名招待した者ばかり出席するのだが,参会費も徴収せずに三日間ご馳走になるという大変結構な会である.日本からは5名ほど招かれて実際には鈴木二郎先生の代理の方と私とが出席した.私は第一回にも招かれたが出席できず,今回は幹事のDr.James Ausmanからの電話があったので出席した.招かれたのは75名でうち49名が出席した.現地の当番大学の若手はこぞって傍聴に来ていた.出席者の顔触れは,日本のいろいろな学会や研究会のたびに招待される第一線の,SamiiとかDolencのような脳外科医達だと思えば間違いない.この連中と自由・対等に議論ができるためには自らclosed sessionとなるのは不思議ではない.
 予め決められた演者が登壇することもなく,スライドを使うことも許さないのだから,一般の国際政治・経済のコンファレンスのようなスタイルでの議事運営である.座長の腕一つで一つの議題が決着がつかねば次のに移らない.

解剖を中心とした脳神経手術手技

前頭蓋底腫瘍に対するtransbasal approach

著者: 有田憲生 ,   森信太郎 ,   早川徹 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.1125 - P.1131

I.はじめに
 Transbasal approachは,orbital hypertelorismに対する外科的治療法としてTessier17)により始められた.続いて頭蓋底腫瘍に対し,Derome3)が用い多数の症例に適用している.本法は斜台から第1,2頸椎前面まで到達しうる手術法であるとされているが,ここでは本法の前頭蓋底腫瘍摘出に関する応用に限ってのべる.本法の最大の利点は,前頭蓋底部に発生した腫瘍の頭蓋内および鼻腔部分の摘出と,欠損の生じた頭蓋底の再建を安全かつ確実に一期的に行える点である.

研究

脳虚血に対する血流再開後の脳機能のreversibility—Direct Cortical Response(DCR)による実験的検討

著者: 山形専 ,   菊池晴彦 ,   橋本研二

ページ範囲:P.1133 - P.1139

I.はじめに
 脳虚血に対する血流再開後の脳機能の回復は主に脳虚血の程度とその持続時間により決定されると言えるが,実際に脳虚血の程度を正確に知ることは極めて難しい.特に脳血流量の低い場合には僅かの脳血流量の違いが脳組織の虚血からの回復に大きな影響を与える.しかしながら脳血流量の測定法には限界があり,そのわずかの違いを捉えることは不可能と思われる.また同程度の脳虚血でも虚血前の脳組織の状態で受ける障害も異なる.これに対し,脳の生理学的機能は脳血流量や脳代謝等の障害の程度を統合したものとして表現され,その障害は脳虚血の程度を総合的に極めて正確に反映すると思われる.そして近年これらの脳の機能は臨床的に脳波や体性感覚誘発電位,聴性脳幹電位等として容易に知ることができる.
 脳神経外科領域でも脳組織の虚血が予想される手術に際しては,それをより安全に行うためにこれらの機能がモニターされつつある.しかし,これまでこれらの機能の脳虚血時にみられる変化についての検討はみられるが1,2,6,10,15,17)虚血からのreversibilityについての詳細な検討は少ない3,12,13)

腰部クモ膜下腔圧持続測定による髄液短絡術適応の決定—各種正常圧水頭症を中心に

著者: 平井収 ,   半田肇 ,   菊池晴彦 ,   石川正恒 ,   絹田祐司

ページ範囲:P.1141 - P.1147

I.はじめに
 いわゆる正常圧水頭症(NPH)も頭蓋内圧を持続的に測定すると,圧波が認められたり,基本圧も上昇していたりする場合があり,こうした症例に髄液のシャント手術が有効であるという報告は多い4,5,11,15,16,21,22)しかし頭蓋内圧上昇そのものが患者の生命予後を左右するほどではない本疾患においては,単に検査のためだけに穿頭術を行うのはためらわれることが多いのも現実であろう.
 頭蓋内占拠性病変がなければ狭義の頭蓋内圧である脳室内圧と腰部クモ膜下腔圧はほぼ同じであることは以前から報告があるが11,19),われわれも実験的に静水圧のみが上昇する病態では腰部クモ膜下腔圧は硬膜外圧とよい相関を示すことを明らかにした13).NPHも腰椎穿刺で脳ヘルニアを起こす危険はまずないといえるので,今回はシャント手術適応決定を目的としての持続腰部クモ膜下腔圧測定の臨床的評価を行った.また従来の報告は全ての症例にシャント手術を行い,効果の予測因子を検索したものが多かったが,本研究ではいろいろな理由でシャント手術を行わなかった症例の長期予後も同時に検討した.

脊髄空洞症に対するサーモグラフィの経験

著者: 小柳泉 ,   岩崎喜信 ,   井須豊彦 ,   秋野実 ,   飛騨一利 ,   永島雅文 ,   黒田敏 ,   阿部弘 ,   田代邦雄

ページ範囲:P.1149 - P.1154

I.はじめに
 脊髄空洞症は,上肢筋萎縮・解離性知覚障害など,多彩な神経症状を呈する疾患であるが,最近では,MRI(magnetic resonance imaging)など診断技術の向上により症状の軽微な症例も発見され,外科治療の対象となってきている.今回,われわれは,外来的スクリーニングへの応用を目的として,サーモグラフィを脊髄空洞症の症例に実施し,特徴的な所見を得た.サーモグラフィは,簡便かつ非侵襲的であり,脊髄空洞症のスクリーニングとして,有用な検査法になり得ると思われたので,その経験を報告する.

Oxy-Hbの各種脳血管収縮物質に対する収縮増強効果—脳血管攣縮の原因として

著者: 立木光

ページ範囲:P.1155 - P.1162

I.はじめに
 クモ膜下出血後の脳血管攣縮の発生機序は多因子性であるといわれており,その中の一つの因子として,種々の血管収縮物質の関与が考えられ,serotonin(5—hydroxytryptamine, 5—HT),noradrenaline, Oxy-he—moglobin(Oxy—Hb),prostaglandin(PG)等に関する個個の研究が行われてきた14).しかし,これらの収縮物質は,攣縮血管周囲に単独で存在するわけではないので,個々の収縮物質の血管収縮能を検討するだけではなく,複数の収縮物質悶の相互作用も研究する必要がある.著者は,この相互作用が脳血管攣縮発生の一つとして重要であると考え,その中でも特にOxy-Hbが他の受容体刺激による血管収縮を著しく増強することを実験的に証明し,その機構,臨床の脳血管攣縮との関連について考察を試みた.

脳死患者における視床下部および下垂体系機能—血中両ホルモンの定量結果

著者: 有田和徳 ,   魚住徹 ,   沖修一 ,   大谷美奈子 ,   田口治義 ,   盛生倫夫

ページ範囲:P.1163 - P.1171

I.目的
 1985年11月の厚生省脳死に関する研究班(竹内一夫委員長)の報告によれば"脳死とは脳幹を含む全脳髄の不可逆的な機能喪失の状態である"と定義されている15).脳死の定義を全脳死とするか英国基準の如く脳幹死とするかは基準によって様々であるが,いずれの基準でも脳幹機能の廃絶は脳死判定の絶対必要条件として断定されているところである.一方,脳幹部とは視床下部を含めた間脳,中脳,橋,延髄の総称である18)が,現在までのところ,脳死患者において脳部の一部である視床下部機能が真に廃絶しているか否かについては明らかではない.今回,われわれは脳死状態における視床下部下垂体系機能の存否を確認する目的で脳死患者を対象に下垂体ホルモン基礎値の測定,下垂体負荷試験を行い,さらに一部の患者の視床下部ホルモンの測定を行ったので報告する.

症例

窓形成した椎骨動脈の圧迫により副神経麻痺を来した1例

著者: 北川道生 ,   中川翼 ,   北岡憲一 ,   小林延光 ,   石川達哉 ,   永島雅文

ページ範囲:P.1173 - P.1177

I.はじめに
 脳血管造影法の手技が確立されて以来,種々の脳血管奇形が偶然に発見される機会が多くなってきたが,その中で椎骨動脈の窓形成は少なからず経験される脳血管奇形の1つである.
 われわれは窓形成した椎骨動脈が副神経を圧迫し,その結果胸鎖乳突筋の萎縮を来して斜頸となった極めて稀な1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.窓形成そのものが神経症状発現に関与したという報告は見当たらず,本症例が第1例目と考える.

頸部黄色靱帯石灰化症の1例

著者: 小山誠剛 ,   西村敏彦 ,   窪倉孝道 ,   山王直子 ,   坪根亨治

ページ範囲:P.1179 - P.1185

I.はじめに
 いわゆる黄色靱帯石灰化症は胸腰部に多く,頸部では比較的稀とされている1,2,4,8,17,24)
 今回,われわれは頸部脊椎管後部にレ線上石灰化を認め,四肢麻痺を呈した患者にen bloc laminectomyを施行し,症状の改善と切除標本の結晶学的分析結果が得られたので文献的考察を加え報告する.

脳梗塞及びクモ膜下出血を呈した脳主幹動脈のdolichoectasiaの1症例

著者: 黒田敏 ,   中川翼 ,   北岡憲一 ,   飛騨一利 ,   北川道生 ,   宮城島拓人 ,   館山美樹

ページ範囲:P.1187 - P.1192

I.はじめに
 脳主幹動脈のdolichoectasiaは、一般に脳虚血症状,または頭蓋内占拠性症状で発症することが多く2,3,5-7,14),その破裂によるクモ膜下出血は少ないとされている1,2,6,14).今回,われわれは本症と診断されてから4年後に脳梗塞を呈し,直後にクモ膜下出血にて不慮の転帰をとった症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Subtemporal & Trans-Tentorial Approachにより摘出した脳幹部海綿状血管腫の1例

著者: 隈部俊宏 ,   鈴木倫保 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1193 - P.1197

I.はじめに
 cryptic vascular malformationが原因と思われる脳幹部血腫に対する直達手術の報告は稀であり,しかも,手術例の血腫の存在部位はほとんどが第4脳室底剖の橋背外側である1,4,5,7,11,12,16,19)
 今回われわれは橋腹外側から中脳にかけての特発性脳幹部血腫を,keel form skin incisionを用いた側頭開頭18)から,subtemoporal & trans-tentorial approachにより,摘出に成功し,組織学的にcavernous angiomaとの診断を得た症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

脊髄Melanotic schwannomaの1例

著者: 飯塚秀明 ,   中村勉 ,   角家曉

ページ範囲:P.1199 - P.1205

I.はじめに
 神経系に発生するpigmented tumorの多くは原発性及び転移性黒色腫であるが,稀にメラニン色素を腫瘍内に含むいわゆるmelanotic variants of certain types oftumors8,11)として,melanotic meningioma8,11),melano—tic medulloblastoma8,11),pigmented neuroectodermaltumor of infancy25),melanotic schwannoma2,4,16,19,22)などが報告されている.このうち,melanotic schwan—nomaは,末梢神経や神経節由来の皮膚,軟部組織腫瘍として知られ3,6,10,14,24)、しばしば悪性の経過をたどり悪性黒色腫などとの鑑別が問題とされるが6),頭蓋内や脊柱管内に発生した症例の報告は少ない.
 われわれは,下位胸椎椎管内外にdumbbell状に発育伸展したmelanotic schwannomaの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

Cerebral gummaの1例

著者: 濱田潤一郎 ,   野中信仁 ,   山口俊朗 ,   池田順一 ,   三浦義一 ,   松角康彦

ページ範囲:P.1207 - P.1210

I.はじめに
 中枢神経系の梅毒性病変は,ペニシリン療法の導入により,すでに珍しい疾患となり,ことにcerebral gum—maの報告は,極めて稀となった.今回著者らは,主にCT所見より頭蓋内原発悪性リンパ腫を疑い,試験開頭を行ったところcerebral gummaと診断した症例を経験したので,主にその神経放射線学的特徴を中心に文献的考察を加え報告する.

両側内頸動脈形成不全に合併したCarotid-SCA anastomosis—後交通動脈—後大脳動脈分岐部脳動脈瘤破裂により発症した1例

著者: 奥野孝 ,   西口孝 ,   林靖二 ,   宮本和紀 ,   寺下俊雄 ,   板倉徹 ,   森脇宏 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.1211 - P.1217

I.はじめに
 persistent primitive trigeminal artery(PPTA)は,胎生期脳血管遺残のうちで最も多く,脳血管撮影では,0.1-0.2%の頻度である14).内頸動脈—上小脳動脈吻合は,脳底動脈と直接吻合せず一側上小脳動脈に吻合する,PPTAのvariant typeであり,その報告が散見される1,19)
 一方,内頸動脈形成不全は,Huber8)によると,内頸動脈遠位部の非動脈硬化性狭窄性病変であり,いままでに数例の報告があるのみである2,4,5,9,11,16)

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追加

著者: 溝渕光

ページ範囲:P.1217 - P.1217

本誌掲載の次の論文
 「溝渕 光,有光哲雄,栗坂昌宏,森 惟明:子癇病に続発した脳室内出血の1例.脳外16:517-522, 1988」において,当方の手違いにより下記の論文を参考文献として掲載することができなかったのでここに改めて追加させていただきます.
「高橋弘,中沢省三,今屋久俊:子癇に伴う特異的CTについて.CT研究7(6):677-682,1985」

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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