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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科16巻11号

1988年10月発行

雑誌目次

"First Do Not Harm"

著者: 松岡成明

ページ範囲:P.1225 - P.1226

 20数年前外国留学中に日本に帰ってこれだけは実行しようと決めたことが2つある.その一つは,M大学のJ教授の下にいた時,全員クリスマスパーティに招待されて,皆1年間良く頑張ってくれて有難うと,プレゼントに1冊の本を各人に渡された.それはその年のベストセラーの1冊であった.師の暖かい心遣いに感謝したことである.日頃は厳しく,叱られどうしであったわたしは,多くの若い脳外科医を預かる現在,常に感謝の気持ちを忘れてはならないと思っている.その後クリスマスが近づくと,今年は何が送ってくるかと楽しみであった.First do not harm-Reflec—tions on becoming a brain surgeon—という32歳の脳外科医Dr.Rainerの書いた本が昨年の暮れに届いた.このタイトルをみて,昔から,歩いて入院した患者は術後も歩いて帰るような手術をしなければと厳しく教えられてきたので,このタイトルは脳外科医にとってはぴったりと思い,読んでいく中にこの言葉は一度も文中に見られず,読み終って,やはり脳外科医は"First do not harm"を心掛けねばとつくづく思わせた面白い本であった.その中で上司との対話のひとこまを紹介したい.ある時,救急外来に自動車事故による多発性外傷後の昏睡状態で搬入された患者のレ線像で,左側頭骨の粉砕骨折とCTでその直下に脳内血腫と,反対側への変位が著明であった.

研究

胸腰椎移行部における脊髄慢性圧迫病変の放射線学的診断

著者: 小柳泉 ,   井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   秋野実 ,   阿部弘 ,   田代邦雄 ,   宮坂利男 ,   阿部悟 ,   金田清志

ページ範囲:P.1227 - P.1233

I.はじめに
 胸腰椎移行部における椎間板障害や黄色靱帯骨化症(以下OYL)などの脊髄慢性圧迫病変は,臨床的にはepiconus syndrome3)とよばれる,末梢神経障害に類似した症状を呈することがある8).また,脊髄単純撮影のみでは異常が発見されにくいため,診断が遅れることも少なくない10).今回,われわれは.当料で経験した胸腰椎移行部の慢性圧迫病変について,放射線学的診断の面から検討を加えた.この部位の病変では.脊髄腔造影(MLG)やMRIによる動的要因の検索,delayed CT—myelographyによる髄内変化の描出が障害レベルの決定に亜要であることを強調したい.

Ependymomaにおける腫瘍血管の電子顕微鏡的考察

著者: 上松右二 ,   平野朝雄 ,  

ページ範囲:P.1235 - P.1242

I.はじめに
 脳腫瘍血管の微細構造に関する報告は,今日まで数多くなされている3,7,8,14-17,19,20).しかし,著者の調べた限り,Ependymomaの腫瘍血管だけを特別に取り上げて記載した報告は見あたらない.一般に,他のGliomaの一部として簡略に触れられているのにすぎない15,17,19).本論文では,Ependymomaの腫瘍血管およびその周囲構造の微細構造について報告する.

MedulloblastomaのGFAP・Neurofilamentによる免疫組織化学的検索

著者: 遠山隆 ,   久保長生 ,   片平真佐子 ,   坂入光彦 ,   田鹿妙子 ,   田鹿安彦 ,   井上憲夫 ,   永室博 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.1243 - P.1250

I.はじめに
 Medulleblastomaは中枢神経系腫瘍のうち最も未分化なものであり,gliaとneuronの両方向への分化を示すことが知られている.
 今回,われわれは神経膠線維の成分であるglial fibril—lary acidic protein(GFAP)および,神経細胞に特異的と考えられるneurofilament protein(NF)に対する抗体を用いて酵素抗体法により,medulloblastomaの分化について検討した.一方,現在まで本腫瘍に関して,免疫組織化学的検索での腫瘍側の因子による生命予後の検討はあまりなされていない.そこで,免疫組織化学的染色の結果とともに,年齢,手術,腫瘍の大きさ,進展度,放射線治療,化学療法などの因子と生命予後との関係を検討したので報告する.

クモ膜下出血後の髄液中Mg濃度の変化と脳血管平滑筋収縮に対するMgの効果

著者: 三浦一之

ページ範囲:P.1251 - P.1259

I.はじめに
 血管平滑筋の収縮において,細胞外Caの流入及び細胞内のsarcoplasmic reticulum(SR)からのCa遊離の重要性が注目されている,細胞外からのCa流入を抑制する有機Ca拮抗剤の登場以前から,シナプス伝達においてはMgがCaと競合し,Caの流入を抑制することが知られていた9).冠状動脈においては,MgがCaに対して生理的に拮抗していることが報告されている2).脳表の主幹動脈は直接髄液に接しているが,髄液のMg濃度は生理的に血清値よりも幾分高く保たれている(CSF/Serum=1.3)6).クモ膜下出血後には髄液循環の障害やBlood-Brain Barrierの透過性の亢進14)などが生じ,髄液のMg濃度にも変化が起こりうると推測されるが,この点に関した報告はなく,又,Oxy—Hbによる脳血管平滑筋の収縮能に対するMgの効果についても知られていない.そこで,クモ膜下出血急性期の髄液中Mg,Ca濃度の変動を臨床的に追求し,一方,実験的に外液のMg,Ca濃度を変化させた際に脳血管平滑筋の収縮能がどのように影響されるかを観察し,その原因及び効果発現機構について考察した.

実験的グリオーマの脊髄播種巣の進展様式に関する形態学的研究

著者: 鳴海新 ,   村上峰子 ,   村上寿治 ,   小保内主税 ,   七海敏之 ,   菊地康文 ,   切替典宏 ,   金谷春之

ページ範囲:P.1261 - P.1266

I.はじめに
 Meningeal gliomatosis(MG)は,悪性脳腫瘍の治療成績の向上による患者の生存期間の延長とともに,増加する傾向にあるが,その治療は非常に困難で,いまだに効果的な治療法は確立されていないといえる.このような予後不良な病態に対する治療法の研究に有用な実験モデルとして,吉田ら6)はMG modelを開発し,種々の利点を挙げている.
 一方,悪性glioma髄腔内播種の成立には腫瘍細胞の遊離,着床,進展などの機転が考えられているが,その病態に関しての超微細的研究は著者らが渉猟し得た限りでは見当らない.今回著者らは吉田ら6)と同様のMGmodelを作成し,脊髄に形成された播種巣の進展様式について光顕および走査型,透過型電子顕微鏡にて観察し,若干の知見を得たので報告する.

症例

脳血管CTにてスクリーニングされた未破裂脳動脈瘤の同胞例

著者: 国塩勝三 ,   久山秀幸 ,   浅利正二 ,   西本詮 ,   難波真平 ,   小島啓明

ページ範囲:P.1267 - P.1271

I.はじめに
 脳動脈瘤の家族発生の報告は比較的少なく,しかもそれらは,すべてクモ膜下出血にて発症したものであり,家族歴に脳動脈瘤を有さず,脳血管病変のスクリーニングという手段にて発見された家族性未破裂脳動脈瘤の報告は,検索し得た限り文献上ではみられない.
 われわれは,一般外来受診者に非侵襲的な脳血管CTを応用し,1987年2月より1988年1月までに金田病院脳神経外科において脳血管CTを施行した170例のうちに5例(6個)の未破裂脳動脈瘤を経験した.今回,そのなかに未破裂にて発見された脳動脈瘤の同胞例を経験したので,家族性脳動脈瘤に関して若干の文献的考察を加えて報告するとともに,このような症例における脳血管CTの有用性についても言及する.

静脈洞閉塞を伴う硬膜動静脈奇形に対するvein graftを用いた静脈還流再建術

著者: 丹羽潤 ,   大滝雅文 ,   森本繁文 ,   中川俊男 ,   端和夫

ページ範囲:P.1273 - P.1280

I.はじめに
 横静脈洞あるいはS状静脈洞の硬膜動静脈奇形は,最近病因論的にみて静脈洞の閉塞が原因となって2次的に発生した後天性疾患であるとする考えが有力である2,3,7).またこれらの症例の中に著明な頭蓋内圧亢進をみることがある.このような場合には同側の静脈洞の閉塞と反対側の静脈洞に閉塞あるいは低形成がみられ静脈還流が高度に障害されているのが普通である5,11,18).頭蓋内圧が亢進している症例に対する治療は,従来の流入動脈の閉塞や静脈洞を含めた硬膜動静脈奇形の摘出では根本的な治療とはなりえず静脈還流路の再建が必要と考えられる.
 われわれは頭蓋内圧亢進と意識障害を呈したS状静脈洞閉塞を伴う硬膜動静脈奇形2例に対して横静脈洞と頸部静脈間にbypassを設置し,静脈還流の再建を行ったので手術方法を中心に報告する.

術後出血をくり返したHemophilia Bの1症例

著者: 小松洋治 ,   成島浄 ,   小林栄喜 ,   能勢忠男 ,   牧豊

ページ範囲:P.1281 - P.1285

I.はじめに
 脳動脈瘤破裂で発症し,術後に脳内血腫,さらには硬膜外血腫と奇異な出血を繰り返した症例を経験した.術前の出血凝固系検査には異常なかったが,その後の精査の結果凝固第9因子の低下がみられ軽症型血友病B罹患者であると思われた.軽症型血友病は自発出血を生じないことに加えて,一般の出血凝固系検査に異常を示さないことがあるので臨床上常に留意すべきであり,術後出血の原因としても考慮すべき病態であると痛感されたので報告する.

頭部外傷後脳内出血を繰り返したCerebral amyloid angiopathyの1例

著者: 湧井健治 ,   瀬口喬士 ,   黒柳隆之 ,   酒井輝夫 ,   田中雄一郎 ,   上條幸弘 ,   塩沢全司

ページ範囲:P.1287 - P.1291

I.はじめに
 Cerebral amyloid angiopathy(以下CAA)は髄膜,大脳皮質の血管へのアミロイド物質の沈着であり,加齢とともに出現頻度を増す脳の老人性変化である.近年正常血圧高齢者の多発性脳内出血及び虚血性脳血管障害の原因として重要視されている.確定診断はアミロイド物質の血管壁における証明による.頭部外傷後短期間に皮質下出血を繰り返し,バイオプシーにて確診した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

外傷性眼球離脱—症例報告と頭蓋内合併症の発生機序に関する考察

著者: 鈴木範行 ,   藤津和彦 ,   田中直樹 ,   関野典美 ,   桑原武夫 ,   湯田兼次

ページ範囲:P.1293 - P.1297

I.はじめに
 眼球が眼窩内から外へ抜け出てしまう眼球脱臼や眼球離脱は,顔面外傷1,4,8,10,12,16,20)や精神病患者の自己摘出3,6,7,9,)によって生じることがあるが,その報告は稀である.われわれはけんかで左眼球をくり抜かれたことが予想され,クモ膜下出血,脳血管攣縮,脳梗塞をおこし,右眼の視野視力障害をきたした症例を経験したので,文献調査とともに頭蓋内合併症の発生機序についても考察を加える.

Detachable balloonを用いた,小児,内頸動脈海綿静脈洞部,巨大動脈瘤の1治療例

著者: 近藤精二 ,   青木友和 ,   長尾聖一 ,   魏秀復 ,   松永守雄 ,   藤田雄三

ページ範囲:P.1299 - P.1304

I.はじめに
 小児の脳動脈瘤を,detachable balloonによって治療する試みそれ自体極めて少ないと思われる.今回われわれは,5歳の女児に認められた内頸動脈海綿静脈洞部の巨大動脈瘤に対して,detachable balloonを用いて,pa—rent arteryを閉塞させずに動脈瘤自身を閉塞させ,しかも,何らcomplicationをきたすことなく治療することのできた症例を経験した.このような報告例は今までに見い出すことができないので,若干の考察を加えここに報告する.

開頭術後に発生した肺塞栓の2症例

著者: 井手豊 ,   木村雅人 ,   福島武雄 ,   吉田晋 ,   太田辰彦 ,   朝長正道

ページ範囲:P.1305 - P.1309

I.はじめに
 術後合併症としての深部静脈血栓症(deep venousthrombosis,以下DVT)や続発する肺塞栓症(pulmo—nary embolism,以下PE)は,欧米ではよく知られているが,本邦では従来よりまれと考えられ,あまり関心を払われてはいなかった.しかしながら,本邦でも近年増加傾向にあると言われ3,5,9),特にPEは重篤な経過をたどる場合が少なくなく,早期診断,早期治療が必須であり,重大な術後合併症の1つとしての認識が必要である.最近私達は開頭術後,下肢DVTに起因したと思われるPEの2症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告し,日常臨床においての注意を喚起したい.

眼窩経由頭蓋内異物の1症例

著者: 須川典亮 ,   関本達之 ,   上田聖 ,   横川浩己

ページ範囲:P.1311 - P.1315

I.緒言
 眼窩経由頭蓋内異物の症例は,過去においては,戦争下における症例という形で多くが報告されてきた11,3).そして,現在においても,銃の所有が許されているアメリカ等においては,銃弾の頭蓋内異物の症例がしばしば報告されている5,22).しかしわが国では,銃弾によることは殆どなく,幼小児の外傷(鉛筆,箸,ナイフetc.)10,13,20)及び,自動車事故の増大にともなうフロントガラス,特に強化ガラスによる顔面外傷の副次損傷として数例の報告がなされているのみである6,7,12,23)
 今回われわれは,軽度の顔面外傷であったにもかかわらず,フロントガラスの破片が多数眼窩経由に頭蓋内に達し,しかも術後軽度の視力障害以外特に症状を残すことなく治癒させることができた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

前頭蓋底部dumbbell腫瘍の手術術式—olfactory neuroblastomaの1例

著者: 川上勝弘 ,   山内康雄 ,   藤原浩章 ,   河本圭司 ,   河村悌夫 ,   松村浩

ページ範囲:P.1317 - P.1321

I.はじめに
 前頭蓋底に発生する腫瘍としては,髄膜腫をはじめ,癌腫,悪性リンパ腫など種々のものが挙げられ,通常これらの病変に対しては両側前頭開頭を行い,硬膜内や硬膜外から進入する方法がとられている.しかしながら前頭蓋底を破壊し,頭蓋内外へ大きくdumbbellに伸展した場合には,充分な術野を確保するために相当な脳実質の圧排が必要とされることが多い.一方,前頭蓋底病変に対する下方(鼻腔内)からのアプローチとしては,Har—dy's operationに準じた術式も可能であるが,腫瘍を全摘するのは難しく,さらに頭蓋底を再建することは困難であることが多い.このような前頭蓋底から生じ,頭蓋内外に伸展したdumbbell腫瘍に対して,われわれはDeromeら3)のtransbasal approachを修正した術式を試みている.すなわち両側の前頭開頭を行った後,両側眼窩上壁と前頭洞を一塊として骨切りする方法で,これにより広い術野の確保が可能である.本法では,脳に対する圧排が最小限となり,腫瘍の摘出も容易であるため,確実な頭蓋底の再建も可能である.さらに頭蓋外の下方伸展の著明な場合には,鼻腔内からも二期的にアプローチし,残存腫瘍を摘出している.今回,前頭蓋底部のdumbbell腫瘍のうち,巨大なolfactory neuroblastomaの1例を呈示し,われわれの手術術式を紹介するとともに,頭蓋底再建に関して文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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