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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科16巻13号

1988年12月発行

雑誌目次

"還暦"と私

著者: 森和夫

ページ範囲:P.1437 - P.1438

 子供は,もういくつ寝るとと指折り数えてお正月を待つ.早く大人になりたいと願う.しかし,私には胸ときめかして待つものがない.特に願うこともない.老化のテンポについて,私だけの引き延ばされた時間軸が使えないものかとは思う.しかし,勿論かかるお願いが叶う筈もない.
 還暦とは本卦還りともいう.60年たって,生まれた干支(えと)に再び還ることだが,私も赤い頭巾に赤いチョッキや羽織下を着て,赤座布団の上にチョコンと座って教室の先生方のお祝いを受けた.照れくさいやら,馬鹿らしいやらで,"俺はまだ老人じゃないぞ! コケにするな!"と叫びたくてウズウズしていた.法律の上でも,いろいろの統計をとる場合でも,老人は65歳からとなっている.

研究

実験的プラトウ波における脳波

著者: 小暮祐三郎 ,   藤井博之 ,   東壮太郎 ,   橋本正明 ,   山本信二郎

ページ範囲:P.1439 - P.1443

I.はじめに
 1960年Lundberg12)は脳腫瘍症例の頭蓋内圧を持続的に測定して,頭蓋内圧変動を3つに分類し,A, BおよびC波と呼んだ.A波は台形をなして急激に50-100mmHg上昇し,そのまま5-20分持続して急降下するものであり,その形からプラトウ波と呼ばれた.プラトウ波の出現に伴い,患者はしばしば頭痛,吐気を訴える.プラトウ波の頻回の出現は意識レベルの低下,徐脳硬直様の筋緊張,伸展発作を来し,固体を死に至らしめる12,13).また,正常圧水頭症におけるシャント手術適応の指標となるなどその臨床的意義は大きい1,6,18).プラトウ波の発現機序に関しては脳波上の脱同期化に注目し,脳幹の重要性を指摘する報告がある10),本研究ではプラトウ波発現モデルを作製し,このモデルを用いて脳幹網様体の電気刺激を行い,プラトウ波の誘発を試みた.さらに,プラトウ波誘発時の脳波を記録し,脳波の周波数解析を行い,プラトウ波の発現機序について検討した.

後頭蓋窩破裂脳動脈瘤のCT像—初回発作急性期像の検討

著者: 菅原孝行 ,   嘉山孝正 ,   桜井芳明 ,   小川彰 ,   小沼武英 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1445 - P.1450

I.はじめに
 CT scanの普及に伴い,破裂脳動脈瘤が原因のくも膜下出血のCT像を検討した報告はいろいろあるが,その多くのものはくも膜下出血の程度の分類に関するものであり,破裂脳動脈瘤の部位とCT像を検討したものは少ない4,5,7,10,11,13).今回,破裂脳動脈瘤のうち後頭蓋窩脳動脈瘤の急性期例のCT像を検討したので報告する.

脳神経外科用AS & A(Aqua-stream and Aspirator)の開発—レーザー,CUSAとの比較

著者: 伊藤治英 ,   北村昭洋 ,   山本信二郎

ページ範囲:P.1451 - P.1455

I.はじめに
 1928年,CushingとBovieによる針状,ループ状,あるいは棍棒状の単極電気メス1)の発見は脳神経外科手術を飛躍的に進歩させた.1940年,双極電気メス4),続いてレーザー7,8,11),および超音波破砕吸引器(CUSA)2,3)が開発され,それぞれの有用性が報告されている.われわれは脳神経外科手術用に高圧水流を応用したAS & A(Aqua-stream & Aspirator)5)を開発し,優れた手術成績を得たので,その装置を紹介し,臨床治験を報告する.

Dynamic CTによる下垂体腺腫の診断—下垂体microadenomaにおけるdirect signおよびindirect signについて

著者: 田辺純嘉 ,   上出廷治 ,   大坊雅彦 ,   丹羽潤 ,   端和夫

ページ範囲:P.1457 - P.1463

I.はじめに
 下垂体microadenomaに対し筆者らは過去数年間にわたりthin-section hypocycloidal tomography5),inter—cavernous sinus venography8),high resolution CT9)等を用いた診断の可能性と限界を検討し,それぞれにおける診断基準を明かにしてきた.その結果,high resolu—tion CTが最も有用であると思われたが,これを用いた場合でもmicroadenomaに対する診断率は約70-80%程度に留まり,とくに直径7mm以下の腺腫では重要な診断の手掛かりとなる下垂体茎の偏位・鞍隔膜の挙上等の所見はみられず,さらに直径5mm以下の腺腫では下垂体腺腫の存在を示すhypodensityを描出することさえも困難であった.
 そこで,直径5mm以下のmicroadenomaのより精度の高い診断法の確立を目指してDynamic CTを行い,その所見を腺腫の存在を直接示すdirect signと腺腫による下垂体組織の偏位を示すindirect signに分けて検討した.

高血圧性皮質下出血の臨床的検討—手術適応と長期予後について

著者: 吉本尚規 ,   藤田浩史 ,   太田桂二 ,   吉川尚規 ,   柴田憲司 ,   高橋勝 ,   魚住徹

ページ範囲:P.1465 - P.1470

I.はじめに
 最近,高血圧性被殻出血,視床出血,小脳出血では運動,知的機能予後の検討より外科的治療に疑義がもたれてきており,手術時期7),手術方法についても議論が行われている2,8,9,12,14,19).しかし,高血圧性脳出血の10—15%を占める4,16)皮質下出血は臨床経験上,機能予後が良好なことから,良い手術適応疾患として安易に外科的治療が行われてきており,機能予後を検討した上での手術適応について論じた報告はない,
 われわれは高血圧性皮質下出血の治療方針を導き出す目的で諸種臨床的因子,治療方法と退院時,長期機能予後について比較検討したので,その結果を報告するとともに手術適応について考察を加える.

EC-ICバイパス術の血行動態モデル解析—第1報:Autoregulationを考慮したモデルによるバイパスの至適条件の検討

著者: 長澤史朗 ,   菊池晴彦 ,   大槻宏和 ,   森竹浩三 ,   米川泰弘

ページ範囲:P.1471 - P.1478

I.はじめに
 浅側頭動脈—中大脳動脈吻合術をはじめとするEC—ICバイパス術は脳血流量を増加させる方法として普及してきた.しかし一方では吻合部の中枢側における狭窄性病変の閉塞化,既存動脈瘤の巨大化や破裂,また末梢側における出血性梗塞やbreakthrough現象の出現が報告されるに至った2,7).これらの手術合併症についてはバイパス路設置に伴う血行動態変化が原因であると推定されてはいるが,詳細は不明である.また大きな内径のバイパス路を選択することの功罪や,他の血管部位への影響を最小限に抑えつつ脳血流量を増加させうるかどうかなどの問題について十分な検討はなされていない.
 これらの理由の一つとして,生体における血行動態には多くの要素が複雑に関係しているため,そのままでは各要素の定的比較が困難であることがあげられる.そこで著者らは各要素の分析が容易な流体モデルを用い,最近ではこれに理論解析モデルを加えて検討してきた3,6)

症例

肝細胞癌の頭蓋骨転移の1例

著者: 小笠原英敬 ,   鮄川哲二 ,   山本光生 ,   上家和子 ,   門田秀二

ページ範囲:P.1479 - P.1482

I.はじめに
 肝細胞癌は50-78%と高率に他臓器転移を来たすが,その多くは肺あるいは所属リンパ節であり1),骨への転移は比較的まれで,しかもその多くは脊椎,肋骨,長管骨への転移である.頭蓋骨転移は剖検例でさえも骨転移のわずか6%に過ぎず15),臨床例で発見されることは非常に少ない2-6,8,12,14,16)
 今回著者らは,頭皮下腫瘤で発症した肝細胞癌の頭蓋骨転移の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

第3脳室Colloid cystの1例

著者: 木村豪雄 ,   福島武雄 ,   太田辰彦 ,   朝長正道 ,   石井清 ,   後藤勝弥 ,   奥寺利男

ページ範囲:P.1483 - P.1488

I.はじめに
 第3脳室colloid cystは,WallemannL26)(1858)が初めて記載しており,Dandy5)(1934)による最初の手術例を含めて諸外国にて多数の報告があるが,本邦では少なく,10例を数えるのみである1,2,8,10,17,18,23,25,28)
 今回われわれは第3脳室colloid cystの1例を経験しMRI(Magnetic resonance imaging)にて検討する機会を得たので,その症状,MRIを含めた画像診断,病理組織について文献的考察を加え報告する.

脊髄多発性神経鞘腫の1例

著者: 飛騨一利 ,   秋野実 ,   井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   阿部弘 ,   斉藤久寿

ページ範囲:P.1489 - P.1493

I.はじめに
 脊髄神経鞘腫は脊髄腫瘍の中で最も多いものである.しかしながら多発性で,しかも各々解剖学的部位を異にする症例の報告は極めて稀である.今回われわれは中位胸髄から腰髄にかけ髄内から髄外,硬膜内髄外,硬膜内外と独立して存在した神経鞘腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

Neurofibromatosisに伴いdural ectasiaや椎体scallopingの見られた1例

著者: 伊藤義廣 ,   福村昭信 ,   浦崎永一郎 ,   生塩之敬

ページ範囲:P.1495 - P.1499

I.はじめに
 Neurofibromatosisには種々の奇形を伴うことが知られているが,そのうち稀に椎体骨の形成異常や変形,硬膜の形成異常を有する例の報告がみられる.われわれは,軽微な神経症状を持ち皮膚のfibromatosisを有する患者に合併した椎体骨のscalloping, dural ectasiaなどの比較的稀な所見をMRIを含む神経放射線学的検査で,詳細に検討し得たので報告する.

MRIで髄内に病変を認めた頸髄損傷の1例—MRIの経時的所見を中心に

著者: 飯田隆昭 ,   中村勉 ,   飯塚秀明 ,   角家暁 ,   佐藤秀次 ,   伊東正太郎

ページ範囲:P.1501 - P.1504

I.はじめに
 近年,脊髄髄内病変の画像診断にMRIが威力を発揮することが知られ,脊髄損傷に対してもその有用性が強調されている.すでに急性期脊髄損傷のMRI所見については実験例3,5),臨床例各々8-11)の報告がある.しかし損傷脊髄の変化をMRIで経時的に検討した報告は未だ少ない.著者らは,受傷直後より8カ月にわたってMRI所見の変化を観察できた頸髄損傷の1例を経験したので報告する.

神経膠腫と脳下垂体腺腫を合併した1症例

著者: 江面正幸 ,   嘉山孝正 ,   桜井芳明 ,   小川彰 ,   和田徳男

ページ範囲:P.1505 - P.1509

I.はじめに
 頭蓋内に2つ以上の腫瘍が発生した場合,その多くはvon Recklinghausen病などのphacomatosisに合併した場合や転移性脳腫瘍の例であり,組織学的に異なった脳原発の腫瘍が2つ以上発生することは少ない.これら原発性異種多発性脳腫瘍は,大部分がgliomaまたはmeningiomaに随伴したものであり,他の腫瘍の合併例は稀なものである.
 今回われわれは,malignant astrocytomaとpituitaryadenomaの合併した症例を経験したので若干の考察を加え報告する.

幼児急性頭蓋内血腫における低酸素血症の影響について

著者: 北見公一 ,   手戸一郎 ,   土田博美 ,   相馬勤 ,   竹田保 ,   辻永宏文

ページ範囲:P.1511 - P.1515

I.はじめに
 重症外傷脳には多くの場合虚血巣が併存する1,3,9).その原因としては頭蓋内血腫や鈎ヘルニアによる動脈圧迫など頭蓋内圧亢進に伴う機械的なものが多いが,貧血や低酸素などによるものも見られる1,3,8,9).特に頭部外傷に低酸素状態が伴うと予後が重篤になることが報告されている1,3,9).われわれは現在まで3例の急性頭蓋内血腫小児例において,血腫による脳圧迫に加え低酸素の影響と思われる広範な虚血巣の出現をみた例を経験したので,その特徴的なCT所見とともに低酸素の予後に及ぼす重篤な影響につき文献的考察を加え報告する.

大後頭孔前半部腫瘍の摘出手術—Lateral Approachの経験

著者: 長谷川洋 ,   尾藤昭二 ,   小橋二郎 ,   平賀章壽 ,   樋口真秀

ページ範囲:P.1517 - P.1520

I.はじめに
 大後頭孔部の延髄や脊髄の前方に位置する腫瘍に対してposterior approachが一般に用いられている.この場合,延髄や脊髄が前方の腫瘍に覆い被さり,直視下に摘出することが困難である.このためにanteriorapproachが時として用いられるが後に述べる種々の欠点のため一般的ではない2).一方この部位の腫瘍に対して真横から到達するlateral approachに関してはあまり記載がない6).われわれは最近この方法を用いて2例の大後頭孔前半部腫瘍を摘出したのでその経験を述べる.

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「脳神経外科」第16巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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