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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科16巻2号

1988年02月発行

雑誌目次

明治の外科書—わが国での最初の脳外科手術?

著者: 関野宏明

ページ範囲:P.115 - P.116

 フナ釣りは「釣りはフナに始まり,フナに終る」といわれるように,釣りのうちでは入門の釣りであると同時に最も難しいものの一つに挙げられている.手術と釣りとを比較するのは多少はばかられるが,手術を釣りに例えるとすれば,フナ釣りに相当するものは外傷の手術ではなかろうか.著者もその例外ではないが,多くの脳神経外科医が最初に執刀するのは外傷例であろう.その一方で症例の内容は千差万別で,十分な術前検討を行う時間もなく緊急に手術を行わねばならないことが多く,経験と実力が問われるところである.これは歴史的にもいえるのではなかろうか.
 偶然の機会に慈恵医大の図書館で,数種類の明治時代の外科の教科書を目にする機会があった.その中で最も興味を引かれたのは東京日本橋区で明治13年(1880年)10月に発行された佐藤進の著した「外科通論・各論」(初版,図1)であった.興味を引かれた理由は,この書の序に「挿入スル所ノ圖ハ歐洲諸大家ノ著書ニ就キ之ヲ摘出スルヿアリト雖余カ順天堂醫院幵陸軍奉務中歴見セシ患者ノ照影或ハ摸畫積テ殆ト百葉ニ至レリ(中略)諸氏ノ外科各論等ヲ本資トス而テ之レニ余力實験ト管見ヲ加フ」とあるように単なる外国の書物の紹介,引用のみではなく自験例の報告が含まれていることにあった.

研究

CT-guided stereotaxic systemによるOmmaya reservoir埋込み術の有用性

著者: 中里信和 ,   新妻博 ,   城倉英史 ,   加藤正哉 ,   大槻泰介 ,   片倉隆一 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.117 - P.121

I.はじめに
 脳腫瘍内のcystにOmmaya reservoirを埋込む際,目標点の決定,穿刺ルートの選択,tubeの長さの決定などは,従来のfree handによる操作では不正確であったが,われわれはこれらをCTで確認しながら定位的に行っており,有用であると考えられたので報告する.

Oxy-Hbにより発生する脳血管攣縮の発生機序について—特にnicardipine, procaine, indomethacinなどの抑制効果からみた分析

著者: 土肥守

ページ範囲:P.123 - P.130

I.はじめに
 くも膜下出血後の脳血管攣縮の原因物質として,Serotonin2),Norepinephrine2),Oxy-hemoglobin(Oxy—Hb)8,19),K+ion16)などが検討されてきた.そのなかでも,Oxy-Hbは,くも膜下出血後の患者の髄液中に,脳血管攣縮の時期に一致して上昇し3,8),実験的に脳血管の強い収縮作用を認めることから1,19),われわれは,最も有力な攣縮物質であると考えてきた.しかし,Oxy—Hbのspasmogenicなactionは,多くの研究から明らかにされてきているものの,その収縮発生機序については,わずかにFujiwara6)や岡本12)がProstaglandins(PG's)の関与を実証しているにすぎず,その本態についての解明は充分とはいえない.一方,血管平滑筋の収縮にも,細胞外Ca++細胞内流入や細胞内Ca++貯蔵部位からのCa++の放出によるCa++濃度の増加が,重要かつ必要不可欠であることが報告されている7).われわれは,くも膜下出血後に起こる脳血管攣縮は,少なくともその初期像では血管収縮によるという立場に立ち,血管平滑筋細胞内のCa++イオン動態から,ウシ中大脳動脈ラセン状標本を用いて,Oxy-Hbで起こる収縮の発生機序の生理学的解析を行った.

多発性脳動脈瘤372例の手術成績

著者: 溝井和夫 ,   鈴木二郎 ,   吉本高志

ページ範囲:P.133 - P.139

はじめに
 多発性脳動脈瘤の治療においては「未破裂動脈瘤の処置をいかにするか」という点に関し多くの議論があったが,最近では,できる限り未破裂動脈瘤も手術すべきであるとする見解が普及してきた5,6,14,24).しかし,多発性脳動脈瘤の手術方針は動脈瘤の局在部位により決定され,同一手術アプローチにより全脳動脈瘤を処置しうる場合には一期的手術がなされ,それが不可能な場合には二期的に未破裂動脈瘤の手術を行うというのが一般的のようである3,6,14,15).われわれは手術待機中に再破裂や脳血管攣縮により失う症例をできる限り少なくするために,破裂脳動脈瘤の急性期手術の必要性を提唱し,急性期手術に伴う諸問題を解決しつつ,現在ではほぼ満足すべき治療成績を得るに至っている17,19,21).われわれは,この急性期手術の方針を多発性脳動脈瘤症例に対しても適用し,しかも可能な限り一期的に全動脈瘤を処置するように努めてきた.本報では多発性脳動脈瘤直達手術例372例の手術成績をまとめ,特に多発性脳動脈瘤の局在部位による手術アプローチの選択およびその手術成績の相違,急性期に一期的に全動脈瘤を処置した症例の手術成績に関して検討を加え報告する.

脳腫瘍のCT-guided stereotaxic biopsy104例の経験

著者: 新妻博 ,   中里信和 ,   城倉英史 ,   大槻泰介 ,   片倉隆一 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.141 - P.146

I.はじめに
 CT-guided stereotaxic systemの登場により,CTで描出されるものであれば,脳内のほぼどの部位に存在するものでも,これに正確にアプローチすることが可能となった5-7)
 われわれはこれまでの約4年間に104例の脳腫瘍が疑われた症例に対してCT-guided stereotaxic systemを用いてneedle biopsyを行ってきた.needle biopsyは本来sampling methodであり,viable tumor cellsが均等に分布している場合には最適の方法であるが,不均一な腫瘍に対してbiopsyを試みる場合にはかなり問題がある.しかし,この点を十分に認識した上で行うのであれば,本法の正確性,低侵襲性は非常に有用であると考えられたので報告する.

閉塞性椎骨脳底動脈病変に対する外科的治療

著者: 小川彰 ,   桜井芳明 ,   嘉山孝正 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.149 - P.155

I.はじめに
 椎骨脳底動脈系の閉塞性疾患に対する外科的治療は,鎖骨下動脈や椎骨動脈起始部病変を除き歴史も浅く,手術用顕微鏡が導入されて以降,最近になって脚光を浴びてきた.現在まで頭蓋内外ともに,これらの閉塞性椎骨脳底動脈病変に対してさまざまな血行再建術が報告されている1-4,6,8-10).しかし,個々の症例においていかなる手術手技を選択すべきかについては,いまだ十分な検討はない.われわれは,以下に述べる血行再建術を経験しているが,これを基に各々の手術手技の利点および欠点を明らかにし,手術法の選択について検討を行った.

脳神経機能回復におけるNeurostimulationの影響—遷延性意識障害の治療を通じて

著者: 神野哲夫 ,   亀井義文 ,   横山哲也 ,   庄田基 ,   丹治英明 ,   野村正彦

ページ範囲:P.157 - P.163

I.緒言
 著者らは過去10年間,脳血管障害の急性期の治療を比較的積極的に行ってきたつもりである.幸いにして死亡率は年々減少の傾向をみせているが,反面重篤な神経症状,後遺症を残して,その後の人生を闘い抜いていかねばならぬ症例が増加している.従来,このような症例は,リハビリテーション科に転科させるとか,関連病院に転院させるとかして,恥ずかしながら急性期における意の注ぎ方と比較して極めて関心が低かったといわざるを得ない.
 人口の高齢化および急性期治療の向上がもたらす,これら後遺症を持つ症例の増加が最近著者らにとって極めて大きなpressureとなりつつあり,従来の無関心な態度を改めるべきとの反省心が湧き上がるのを防ぎ得ない.

小児小脳Astrocytomaの臨床的研究

著者: 安江正治 ,   富田忠則 ,   G.McLone

ページ範囲:P.165 - P.170

I.はじめに
 小児小脳astrocytomaは神経膠腫のなかで最も良性の経過をとる腫瘍の1つにあげられる.本腫瘍は緩徐に発育して亜全摘でも再発しない例が認められるが1,4,9),比較的短期間に再発を起こす例や1),再発時に悪性化2,3)が認められることも報告されている,このように経過が一様でないことから,小児小脳astrocytomaにも他の神経膠腫同様,種々な治療上の問題点が認められる.すなわち手術でどの程度摘出すべきか,再発する例は腫瘍の形態,発生部位などに共通点があるのかなどである.さらにこの腫瘍は他の後頭蓋窩腫瘍同様,水頭症を併発することが稀でなく,この病態に伴ってshunt手術が必要か否かも予後に影響する大きな問題と考えられる.本論文ではこれら問題に対し,CT scanの所見などを参考に検討を加えていきたい.

症例

頸髄髄内に浸潤した嚢胞性神経鞘腫の1例

著者: 奥田裕啓 ,   玉木紀彦 ,   行田明史 ,   井澤一郎 ,   富田洋司 ,   穀内隆 ,   江原一雅 ,   松本悟

ページ範囲:P.173 - P.178

I.はじめに
 神経鞘腫は成人において最も頻度の高い脊髄腫瘍であり,欧米では全脊髄腫瘍の20-30%7,8),本邦ではさらに高く40%程度3,4)を占めている.しかし,脊髄神経鞘腫が髄内に存在することは極めて稀であり,われわれの検索し得た限りでは31例を数えるのみである4,10).また本腫瘍が大嚢胞(macrocyst)を形成することも脊髄においては稀である11)
 今回われわれは,四肢麻痺で発症した頸髄髄内外多?胞性神経鞘腫を経験した.この症例を呈示するとともに近年脊髄疾患診断に重要な位置を占めてきた磁気共鳴画像法(以後MRIと略す)6)の本症例診断に果たした役割などについても考察を加え報告する.

Persistent primitive trigeminal artery本幹部動脈瘤の1剖検例

著者: 藤井幸彦 ,   川崎昭一 ,   阿部博史 ,   山田光則 ,   吉田泰二

ページ範囲:P.181 - P.186

I.はじめに
 persistent primitive trigeminal artery(PPTA)は胎生期の内頸・脳底動脈吻合血管(carotid—basilar anastomosis)の遺残動脈の1つであるが,脳動脈瘤などの血管異常を高率に合併することで注目されている.しかしPPTA本幹部に発生した動脈瘤の報告例は極めて少なく,しかもその剖検例による検討は認められない.われわれはPPTA本幹部に発生した動脈瘤の1例について,臨床的および病理組織学的検索をし得たので文献的考察を加えて報告する.

髄膜腫を合併したWerner症候群の2症例

著者: 河内雅章 ,   宜保博彦 ,   小林茂昭 ,   杉田虔一郎

ページ範囲:P.189 - P.194

I.はじめに
 Werner症候群は,1904年にWerner20)により最初に報告されて以来,Oppenheimer & Kugel11)Thanhau—ser17)らの詳細な報告や類似疾患との鑑別がなされた結果,Irwinら6)にまとめられるように,一定の身体的特徴,早期老化現象,強皮症様皮膚変化,糖尿病傾向などの特定な症状群から構成される独立した症候群として認められている(Table 1).今回,われわれはWerner症候群に髄膜腫を合併し,手術的に全摘し得た2症例を経験したので本症候群と腫瘍との合併(特に中枢神経系腫瘍),糖尿病傾向につき文献的考察を加え報告する.

Intraosseous meningiomaの1例

著者: 金子文仁 ,   高瀬憲作 ,   西山一英 ,   日下和昌 ,   森住啓 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.197 - P.202

I.はじめに
 頭蓋骨に主座を置くmeningiomaは,intra—osseous meningiomaとも呼ばれ2,3,7,11,13,17,19),その報告は1932年Alpersら1)が最初に記載して以来散見される.今回われわれは,intra—osseous meningiomaと思われる1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

モヤモヤ現象に合併した亜急性硬膜下血腫—症例報告と文献的考察

著者: 川上喜代志 ,   高橋慎一郎 ,   園部真 ,   甲州啓二 ,   広田茂 ,   楠瀬睦郎

ページ範囲:P.205 - P.209

I.はじめに
 モヤモヤ病は,脳血管写上両側内頸動脈終末部などの狭窄・閉塞と,それに伴う側副血行路としてのモヤモヤ血管が見られる,いまだ原因不明の疾患であり5,7,11),狭窄や閉塞の原因の明らかなもの,一側性のものなどは単なるモヤモヤ現象,類モヤモヤ病といわれる12).従来,成人モヤモヤ病および類似疾患の症状発現機序1,4,9,10)については,脳底部モヤモヤ血管(basal moyamoya)よりの出血としての,脳内出血または脳室内出血などが主であると考えられてきた.
 今回われわれは,類モヤモヤ病のtransdural anasto—mosis(vault moyamoya)が出血源と考えられ,硬膜下血腫で発症した1症例を経験したので若干の考察を加え報告する.

内頸動脈の自然閉塞をきたした頭蓋内巨大内頸動脈瘤の2例

著者: 佐藤清貴 ,   藤原悟 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎 ,   小沼武英

ページ範囲:P.211 - P.215

I.はじめに
 巨大脳動脈瘤の内腔自然閉塞例の報告はときに散見され,Whittle9)によるとその13-20%の頻度で起こるとされている.今回われわれは,内腔が自然閉塞するとともに,その親動脈である内頸動脈の閉塞をきたした頭蓋内巨大内頸動脈瘤の2症例を経験したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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