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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科16巻5号

1988年05月発行

雑誌目次

総説

グリオブラストーマ

著者: 生塩之敬

ページ範囲:P.451 - P.456

I.はじめに
 グリオブラストーマは,いうまでもなく,悪性度からも発生頻度(原発性脳腫瘍の10-15%を占める)からも悪性脳腫瘍を代表する.この腫瘍は1922年にEwingによりgliosarcomaと名づけられて以来,glioma a petitescellules(Masson),glioma polymorph(Roussy, Lher—mitte and Cornil),neuroglioblastoma(Courviile),spongioblastoma multifoume(Globus and Strauss,Penfield)など,種々の名前で呼ばれていたが,1926年BailyとCushingにより現在のglioblastoma multifoumeの名前が与えられた.その後も,この腫瘍は脳腫瘍のなかで最も悪性の腫瘍として,また,全身の腫瘍の中でも最も悪性の腫瘍の1つとして多くの患者の命を奪ってきたが,同時に,この腫瘍の克服のために多くの研究がなされてきた.このような努力によりグリオブラストーマの病態が徐々に解明されるとともに,治療の成果もわずかずつにではあるが上がってきている.ここでは,このような進歩を踏まえ,グリオブラストーマの病態と臨床像について私達の経験と種々の報告をもとに概説したい.

くも膜下出血・脳動脈瘤

―症例―くも膜下出血後の心電図異常Torsade de pointes

著者: 天笠雅春 ,   佐藤壮 ,   鈴木倫保 ,   小田辺一紀

ページ範囲:P.457 - P.462

I.はじめに
 くも膜下出血後の心電図異常の報告は多い4,9),なかでもtorsade de pointesと呼ばれる心室性不整脈は危険な不整脈である1,5)が,まだあまり多くの報告はなされていないようである.われわれも最近,この不整脈を脳動脈瘤手術中にきたした症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

―症例―くも膜下出血を伴ったアレルギー性肉芽腫性血管炎の1例

著者: 村石健治 ,   杉田京一 ,   藤原悟 ,   鈴木二郎 ,   泉山朋政 ,   岡崎太郎

ページ範囲:P.463 - P.467

I.はじめに
 膠原病の全身性血管病変に起因した頭蓋内病変の存在は広く知られているが,今回われわれは,経過中にくも膜下出血,動眼神経麻痺,水頭症,脳動脈瘤および脳内出血を合併したアレルギー性肉芽腫性血管炎の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

―研究―出血源不明のくも膜下出血の臨床的検討

著者: 京嶌和光 ,   岡田達也 ,   中洲敏 ,   松田昌之 ,   半田譲二

ページ範囲:P.468 - P.474

I.はじめに
 くも膜下出血患者の治療にあたり,出血原因の究明が第一の急務である.CTスキャンの普及により発症早期にCTが撮影され,脳内出血や脳腫瘍など二次的にくも膜下出血をきたす疾患を比較的容易に鑑別できるようになり,さらに拡大血管撮影など脳血管撮上の技術的進歩により,微小脳動脈瘤や血管奇形などが発見されやすくなったため,従来,くも膜下出血全体の20%程度といわれてきた原因不明例の頻度は2,5,9,13,15,16),最近では10%以下とする報告が多い8,10,22,24)
 原因不明例の臨床的特徴として,比較的軽症例が多く,再出血の頻度が低率で,長期予後も良好であることなどがあげられている2,3,6,8,10,13,14,17,24),われわれも過去7年間に詳細な検査にもかかわらず最終的に出血源不明であった16例のくも膜下出血症例を経験した.これらの症例について,当科入院時のgrade,CTでの出血の程度および予後について検討し.さらに原因不明となる原因に関して,われわれが経験した数症例を提示し,考察を加える.

―研究―くも膜下出血における持続髄液ドレナージの検討

著者: 糟谷英俊 ,   清水隆 ,   岡田隆晴 ,   高橋研二 ,   サマービル妙子 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.475 - P.481

I.はじめに
 くも膜下出血患者において,頭蓋内圧コントロール,髄液循環改善,くも膜下腔血腫排出などの目的で,脳室,脳槽,腰椎ドレナージをおくことが一般化している.しかし,これらの適応,有用性,適切なドレナージ量,期間などについては一般に検討が不十分である.また,くも膜下出血時に,髄液を持続的にひくことが脳血管攣縮,水頭症に及ぼす影響についても,十分に検討されているとはいえない.一般に行われている脳槽ドレナージは有効とされてはいるものの,統計学的に有意差をもって示された報告はなく,特に実験的な裏付けがなされていない.
 そこで,今回著者らは,東京女子医大脳神経センターにおいて過去4年間に経験した脳動脈瘤破裂急性期,亜急性期のくも膜下出血患者について検討を加えた.

―研究―外傷性くも膜下出血—16自験例とその臨床的検討

著者: 安川浩司 ,   重田裕明 ,   百瀬玄機 ,   小林茂 ,   宮武正樹

ページ範囲:P.482 - P.486

I.はじめに
 頭部外傷におけるCT所見の1つとして,外傷性くも膜下出血がみられるという報告は多い5,10,11,17,18).しかし,その発生機序,打撲部位との関係,予後などにまで言及したものは少なく,滝沢ら15)の報告をみる程度である.今回われわれは,当院で経験した16症例をもとに外傷性くも膜下出血の臨床的検討を行ったところ,興味ある結果が得られたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

―研究―脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血後の水頭症と脳血管攣縮

著者: 井澤一郎 ,   頃末和良 ,   浜野聖二 ,   長尾朋典 ,   玉木紀彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.487 - P.492

I.はじめに
 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血に続発する水頭症は,二相性の経過を示すことが知られている13).急性期水頭症は,脳底槽および第4脳室出口付近の血腫による髄液循環障害13,18,19,20,28)やくも膜顆粒閉塞による髄液吸収障害2,5,10,28)が原因であるとされる.一方,慢性期水頭症は,leptomeningeal fibrosisによる交通性水頭症,いわゆる正常圧水頭症であると考えられている1,13,25,18,28,31,37,38).いずれにせよ水頭症発生の第一義的要因は,くも膜下血腫の存在にあると考えられる4).もしそうであるならば,くも膜下血腫の程度と水頭症発生には相関が認められるはずである.また,遅発性脳血管攣縮発生は,くも膜下血腫の程度とよく相関することが知られている12,25-27,30).以上のことより,①くも膜下血腫の程度と急性期および慢性期水頭症発生の相関の有無,②脳血管攣縮と水頭症の関係の2点について検討した.

―研究―破裂脳動脈瘤と水頭症

著者: 椎野顯彦 ,   鈴木文夫 ,   中澤拓也 ,   松田昌之 ,   半田讓二

ページ範囲:P.493 - P.497

I.はじめに
 くも膜下出血に続発する水頭症の診断はCTの普及とともに容易となったが,その病態の全貌はなお明らかでなく,脳室拡大の程度と臨床症状の不一致や,短絡術の適応もしばしば問題となる.水頭症発現に関係する諸因子を調べることは,その病態の解析や,発生の予知,早期の対策にも有用と思われる.文献上も,複数出血,血管攣縮.動脈瘤の部位などが水頭症発現に関係する因子としてあげられ,また抗線溶療法が水頭症の発生を促すともいわれている.われわれも,自験例について水頭症の発現因子について検討してみた.

―研究―前交通動脈瘤に伴う血管奇形

著者: 鈴木倫保 ,   小川彰 ,   嘉山孝正 ,   桜井芳明 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.498 - P.502

I.はじめに
 前交通動脈瘤に対しては,従来より種々の手術進入法が用いられているが,われわれは両側前頭開頭を用い半球間裂に進入し,両側の嗅神経を温存しつつ,両側のA1,A2はもとより,前交通動脈より分枝するhypotha-Lamic arteryを含む前交通動脈近傍の血管構築を確認して動脈瘤を処置する手術方法を用いている.この結果,前交通動脈瘤症例における前交通動脈近傍の血管奇形は従来の報告に比べはるかに高率に合併していることを確認したので報告し,手術成績についても検討を行い,本手術法の有用性について述べる.

―症例―Ophthalmoplegic migraineに脳動脈瘤を合併した1例—特に眼筋麻痺の発生機序に対する考察

著者: 古城信人 ,   李宗一 ,   大鶴力津康 ,   高木繁幸 ,   重森稔 ,   渡辺光夫

ページ範囲:P.503 - P.507

 I.はじめに
 眼筋麻痺性片頭痛(ophthalmoplegic migraine,以下OM)は片頭痛型血管性頭痛のsubtypeとしてよく知られている11).しかし,眼筋麻痺の発生機序に関してはいまだ不明で,拡張した血管による神経の圧迫13)あるいは神経への栄養血管の虚血9,12)など議論が多い.
 われわれは臨床的にOMと診断された症例に脳血管撮影を施行したところ,内頸後交通動脈分岐部に動脈瘤を認めたため,開頭術を行った.術中,動脈瘤による動眼神経圧迫はみられず,動眼神経は太い後交通動脈により圧迫されていたため減荷術を行った.術後,動眼神経麻痺は速やかに改善した.本例のように,OMの原因が後交通動脈の圧迫による動眼神経麻痺と考えられた症例は文献上見当らなかった.そこで,症例を呈示し,眼筋麻痺の発生機序を中心に文献的考察を加えて報告する.

―研究―脳動脈瘤急性期のLipo-PGE1投与に関する臨床的検討

著者: 頃末和良 ,   近藤威 ,   石川朗宏 ,   鈴木寿彦 ,   長尾朋典 ,   玉木紀彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.509 - P.515

I.はじめに
 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血後の遅発性脳血管攣縮は,破裂脳動脈瘤患者の臨床像および予後に多大な影響を及ぼす.脳血管攣縮に起因する脳虚血症状の発現に関しては,血管狭窄による血流減少とともに血小板凝集による血栓形成が大きく関与すると考えられている15,28,33)
 prostaglandin(PG)E1は血管拡張作用および血小板凝集抑制作用を主たる薬理作用とするprostaglandinである35,37).われわれは,従来のPGE1製剤に比べ血中半減期の長いPGE1含有脂肪乳剤Lipo-PGE1を脳血管攣縮由来の脳虚血症状を発症した患者に投与し,脳血流の増大と臨床症状の改善が得られたことを報告した21)

出血

―症例―子癇に続発した脳室内出血の1例

著者: 溝渕光 ,   有光哲雄 ,   栗坂昌宏 ,   森惟明

ページ範囲:P.517 - P.522

I.はじめに
 子癇は妊娠中毒症に痙攣発作を伴うものと定義されているが6),その本態に関しては,妊娠中毒症と同様,まだ未解決の問題が残されている.また子癇のCT所見に関する報告は散見されるが2,10),脳血管撮影所見に関しては,これまでほとんど報告されていない.
 最近われわれは,妊娠中毒症に続発した子癇に脳室内出血を伴った症例を経験したので,症例を中心に,子癇の病態,CT所見および脳血管撮影所見,ならびに脳室内出血の機序につき若干の文献的考察を加え報告する.

―症例―脳室腹腔シャント術後に生じた遅発性脳内出血

著者: 窪倉孝道 ,   西村敏彦 ,   小山誠剛 ,   山王直子 ,   坪根亨治

ページ範囲:P.523 - P.527

I.はじめに
 シャント手術の合併症についてはすでに多くの報告が集積しているが,このうち手術直後の出血を除く亜急性ないしは遅発性脳内出血の報告は稀である.今回われわれは脳室腹腔(以下VPと略す)シャント術後に脳室カテーテルに沿った皮質下に遅発性脳内出血を生じた3例を経験し,その原因となった諸因子について検討を加えたので報告する.

―症例―von Willebrand病に合併した後頭蓋窩急性硬膜外血腫の1例

著者: 竹中信夫 ,   峯徹 ,   池田栄二 ,   岩井英人 ,   草野正一

ページ範囲:P.529 - P.533

I.はじめに
 出血性素因に合併する頭蓋内血腫は死亡率が高く,できる限りの術前検査と早期の適切な止血管理が望まれる2,7).その外科的治療に関する報告の多くは脳室ドレナージによるものであり2,10),von Willebrand病に関する大開頭の報告はBuchanan4)の1例,河野ら8)の1例とRice12)の1例があるが,その報告例は比較的稀である.しかし頻度は少ないとはいえ,極めて緊急に大開頭を余儀なくされる事態に遭遇することがある.最近われわれはvon Willebrand病に合併したテント上下後頭蓋窩急性硬膜外血腫の1小児例を経験したので若干の考察を加え報告する.

―症例―MRIで適切に診断し得た特発性脊髄内出血の1例

著者: 平井収 ,   菊池晴彦 ,   石川正恒 ,   米川泰弘

ページ範囲:P.535 - P.538

I.はじめに
 特発性脊髄内出血は通常,脊髄血管腫 5,8,10,14),脊髄空洞症12),抗凝固療法3,13),凝固異常16)などに合併することが多く,原因不明で真に特発性脊髄内出血といえるものは極めて稀である2,9,15).われわれはMRIで経過を追うことにより,初めて適切に診断治療し得た特発性脊髄内出血の1例を経験したので報告する.

―症例―変形性頸椎症に合併した特発性頸部硬膜外血腫の1例

著者: 山王直子 ,   窪倉孝道 ,   西村敏彦 ,   小山誠剛 ,   坪根亨治

ページ範囲:P.539 - P.543

I.はじめに
 特発性頸部硬膜外血腫(spontaneous cervical epiduralhematoma)は比較的稀な疾患であり,そのため,臨床症状が典型的でない場合,他の頸椎・頸髄疾患と鑑別が困難なことがある.
 今回われわれは,10年来の変形性頸椎症を有する患者で前駆する頸部痛が存在し,外傷を契機に完全四肢麻痺をきたし,一時,頸髄損傷が疑われたが,頸髄ミエログラフィーおよび頸部メトリザマイドCTミエログラフィーで脊髄背側の硬膜外腔に存在する圧迫性病変が原因であると診断され,手術により頸部硬膜外血腫であると確認された1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する。

―症例―Balint症候群を呈したAmyloid angiopathyによる両側頭頂葉皮質下出血の1例

著者: 井上明 ,   板垣晋一 ,   佐藤清 ,   中井昴

ページ範囲:P.544 - P.549

I.はじめに
 cerebral amyloid angiopathy(以下CAA)は老年者や遺伝性の若年性脳出血の原因として近年注目されている.しかし,その本態は不明な点が多い.
 われわれはBalint症候群を呈し,CAAが原因と考えられた脳内血腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

血管

―研究―内頸動脈狭窄症における脳血行動態のモデル解析—第2報 両側性高度狭窄症の流体モデルならびに理論解析

著者: 長澤史朗 ,   菊池晴彦 ,   大槻宏和 ,   森竹浩三 ,   米川泰弘

ページ範囲:P.550 - P.556

I.はじめに
 脳血管外科の立場から脳動脈の機能を考えると,末梢に位置する細動脈や毛細血管は血圧降下作用や組織との間の物質交換など生理的に重要な機能を担っている.これに対してWillis動脈輪や皮質動脈などの中枢側に位置する動脈の機能は末梢側のそれと比較して一般に単純であり導管的要素が強い7).しかしながら脳底部の広い範囲で種々の程度の交通をもち,狭窄・閉塞・動脈瘤・血管攣縮など病変の好発部位であり,血管外科の対象になりうるなどの特徴を有している.
 外科的治療によって生じた血行動態変化は,その局所にとどまらず良きにつけ悪しきにつけ中枢側の他の血管部位や末梢側に影響する.たとえばEC-ICバイパスの設置により動脈内圧や局所脳血流量(rCBF)が増加する一方で,吻合部から離れた部位での動脈流量の減少ひいては血栓形成や閉塞などが起こる可能性が指摘されている1,3,5).また結紮やバルーンによる動脈の閉塞はその近傍の動脈瘤の血栓化や破裂防止効果を持つが,他の部位に存在していた動脈瘤が破裂したり2),新たな動脈瘤が発生した9)という報告もある.

―研究―小児"もやもや"病,虚血発作型の脳循環・代謝

著者: 滝和郎 ,   米川泰弘 ,   小林映 ,   石川正恒 ,   菊池晴彦 ,   西沢貞彦 ,   千田道夫 ,   米倉義晴 ,   福山秀直 ,   原田清 ,   亀山正邦

ページ範囲:P.557 - P.562

I.はじめに
 "もやもや"病はその印象的な症状,血管造影像でよく知られており関心の深い疾患ではあるが,多くの研究調査にもかかわらず,その原因についてはいまだ不明であり,かつ治療法についても議論の多いところである.特に外科治療に関しては脳血流を何らかの方法で増加させることに主眼が置かれているのが昨今である.したがって"もやもや"病の脳循環・代謝の解明は必要不可欠である.測定技術の発達とともに三次元的な循環測定が行えるようになり,当施設でもポジトロンCT(PET)を用いて検討した.本報告では小児・虚血発作型に対象をしぼった.

―研究―脳腫瘍血管透過性の超微形態—第6報:Metastatic brain tumorにおける浮腫

著者: 陣内敬文 ,   柴田尚武 ,   福嶋政昭 ,   森和夫

ページ範囲:P.563 - P.568

I.緒言
 転移性脳腫瘍の微小血管の形態学的変化を電顕的に検索し,すでに報告した7)多形性膠芽腫のそれと対比し,脳浮腫発生の一因としての血管透過性について検討を加えた.

―症例―片頭痛にて発症し,中大脳動脈の狭窄と寛解を繰り返した脳血管炎と思われる1例

著者: 福田修 ,   西嶌美知春 ,   中田潤一 ,   神山和世 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃

ページ範囲:P.569 - P.573

I.はじめに
 片頭痛の病態生理はなお明らかに解明されてはいないが,現在のところ頭蓋内外の血管異常反応性が関与していると考えられている2,7,8,13,18,27,33,34).そのなかには一過性の脳虚血症状としての片麻痺を伴う"hemiplegic migraine"などの報告3,4,6,31)もあるが,脳血管撮影にて実際,脳血管の病変がとらえられることは稀であった3,4,24,28)
 また一方,成人でも動脈硬化の関与の少ないと考えられる若年層の脳血管障害の主要因子として脳血管炎の存在を示唆する報告が散見されている5,15,30)

腫瘍

―症例―頭頂骨に発生したBenign osteoblastomaの1例

著者: 継仁 ,   福島武雄 ,   阪元政三郎 ,   太田辰彦 ,   朝長正道 ,   細川清 ,   興梠和子

ページ範囲:P.574 - P.578

I.はじめに
 benign osteoblastomaは,主に脊柱や長管骨に発生する比較的稀な骨腫瘍で,頭蓋骨に発生することは極めて少ない.今回われわれは9歳男児の頭頂骨に発生したbenign osteoblastomaを経験したので,その臨床像,放射線学的および組織学的特徴を検討し,文献的考察を加え報告する.

―症例―心臓肉腫を原発とした転移性脳腫瘍

著者: 佐々木淳 ,   林成之 ,   中村三郎 ,   坪川孝志 ,   佐藤末隆 ,   沢田達男 ,   滝沢隆

ページ範囲:P.579 - P.584

I.はじめに
 転移性脳腫瘍のうち肉腫は,癌腫と比較すると少数である.しかし,肉腫に対する全身的治療の進歩に従い,長期生存が可能となる一方で,脳転移例の増加も認められてきている3).一方,心臓に原発する悪性腫瘍の大半は肉腫であるが,非常に稀である3,6,19).またその脳転移例の報告は極めて少なく,予後も不良である1,2,5,7,11).今回われわれは,出血を伴う脳転移にて発症し,剖検によって原発巣を心臓肉腫であることを確認した症例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

―症例―Hypothalamic hamartomaのMRI

著者: 金沢潤一 ,   魚住徹 ,   迫田勝明 ,   山中正美 ,   木原幹夫 ,   西美和 ,   香川佳博 ,   梶間敏男

ページ範囲:P.585 - P.588

I.はじめに
 視床下部過誤腫の診断には,思春期早発症などの臨床症状,内分泌学的検査所見に加えて,神経放射線学的にはこれまで主としてCTが行われてきた.その所見は鞍上槽から脚間槽にかけて正常脳と同じ吸収係数を有する腫瘤を認め,造影剤により増強されないといわれている1-6,10,11,14,17).しかし,視床下部との連続性の有無や周囲組織との解剖学的関係をみるため,再構成矢状断像5,10,16)やmetrizamide CTcisternography3,5,10)が必要である.一方,MRIは任意の断層面が得られるため,深部,特に正中病変の描出にすぐれている.また,MRIはCTと異なりプロトン密度,T1,T2値など信号強度に関与するパラメーターが多く,組織コントラストが強いため,病変の描出能にすぐれているといわれている.しかし,MRIにおける視床下部過誤腫の報告は,われわれが調べ得た限りでは散見されるに過ぎず7,9,15),本邦における報告はみられない.今回われわれは,2例の視床下部過誤腫に対してMRIを施行したので,その所見について報告する.
 なお,使用したMRI装置は,旭Mark-J O.1T常電導装置で,使用したパルス系列はSR法(TR:500-600msec),IR法(TR:500msec,TI:300msec),SE法(TR:1000msec,TE:40-160msec)である.

―症例―悪性胸腺腫の頭蓋内転移例

著者: 中川晃 ,   榊三郎 ,   岡芳久 ,   松岡健三

ページ範囲:P.589 - P.595

I.はじめに
 胸腺腫は縦隔腫瘍のうち奇形腫や神経原性腫瘍と並んで頻度の高い腫瘍である.また臨床上悪性度の判定が困難である点や重症筋無力症とか赤芽球癆などの特異な合併症を伴う点から,縦隔腫瘍のなかでは特に問題点の多いものといってよいであろう.一般に悪性胸腺腫は局所に浸潤性に増殖する傾向が強く,遠隔転移は少ないといわれている.特に中枢神経系への転移は極めて報告例が少なく,現在までに16例を数えるのみである.われわれは小脳に転移を認めた悪性胸腺腫の症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

―症例―術前照射が著効を呈した髄膜腫の1例

著者: 高橋潤 ,   牧田泰正 ,   鍋島祥男 ,   鄭台頊 ,   欅篤 ,   宮本義久

ページ範囲:P.597 - P.601

I.はじめに
 髄膜腫は放射線感受性に乏しく,extra-axialの良性腫瘍であることから,その治療法としては外科的全摘出が最も理想的であると考えられている5,7,8,13,16).症例により,術前処置として,栄養血管の結紮や人工塞栓術などが試みられている.今回われわれは血管に富んだ巨大な髄膜腫に対し放射線の術前照射を試みた.照射後,腫瘍の大きさ,血管陰影の著しい縮小を認め,照射14カ月後に神経学的欠落症状をきたすことなく全摘し得た,この症例を紹介し,文献的考察を加える.

―症例―てんかん原性病変としての脳マンソン孤虫症の1例

著者: 春園明宏 ,   新納正毅 ,   平原一穂 ,   朝倉哲彦

ページ範囲:P.603 - P.606

I.緒言
 脳寄生虫症のなかでもマンソン裂頭条虫(Diphylobothrium mansoni)の幼虫であるマンソン孤虫の脳寄生は極めて稀であり,文献上4例7,8,11,13)で,うち2例は剖検例で,他の2例はいずれも手術により脳から生きたまま摘出されている.最近われわれも,顔面および頭部を右側へ向ける向反発作を主訴とした33歳の男性で脳内肉芽腫の中から生きたマンソン孤虫を摘出した例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

―症例―小脳Gangliogliomaの1例

著者: 原田克彦 ,   重森稔 ,   小林清市 ,   杉田保雄 ,   松尾浩昌 ,   倉本進賢 ,   青柳慶史朗

ページ範囲:P.607 - P.612

I.はじめに
 gangliogliomaはRussellら22)やZülch24)の報告でもわかるように極めて稀な腫瘍とみなされていた.しかし,CT scanの導入や免疫組織化学的技法の向上により最近比較的多くの報告がみられるようになった.また,本腫瘍は決して稀な腫瘍ではないという意見も散見される10).しかしながら,局在を小脳に限るとその発生頻度は全gangliogliomaのなかで9-12%10,12,19,23,24)であり,また本邦における過去の報告は著者らが集計し得た限りでは2例6,16)とわずかのようである.
 最近われわれは小脳gangliogliomaの1症例を経験した.そこで,著者らが集計し得た,しかも臨床像の記載が明確であった過去の10例と,われわれの症例1例を加えた11例について臨床的分析を試み,さらに臨床的に鑑別上重要となる小脳astrocytomaとの比較検討もあわせて行い報告する.

三叉神経痛

―研究―三叉神経痛に対するグリセロール注入法における穿刺針先端の同定—ガッセル神経節直接電気刺激により誘発されるdirect-blink reflex(DBR)について

著者: 河村弘庸 ,   天野恵市 ,   谷川達也 ,   川畠弘子 ,   能谷正雄 ,   伊関洋 ,   塩飽哲士 ,   長尾建樹 ,   平孝臣 ,   岩田幸也 ,   梅沢義裕 ,   清水常正 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.613 - P.620

I.はじめに
 三叉神経痛に対する除痛法として,microvascular decompressionや経皮的ガッセル神経節電気凝固法が行われているが1,3,7,9,14,16),近年経皮的ガッセル神経槽内グリセロール注入法(percutaneous retrogasserian glycerolinjection,PRGI)は術後の顔面の感覚障害を少なくして大きな除痛効果を挙げることができ,かつその手技も他の除痛法に比べ簡便なことから,すぐれた除痛法として注目されている6,8,12,15).このPRGIで最大の除痛効果を挙げるには,穿刺針先端が的確に神経槽内に刺入されなければならない.一般に,PRGIでは,穿刺針の挿入はHärtel法4)に準じて行い,X線透視下に卵円孔を介して穿刺針先端をガッセル神経槽内に刺入するが,この際髄液の流出が直ちにみられ,なおかつガッセル神経槽が十分造影されれば,穿刺針先端は確実に,ガッセル神経槽内にあることになる.しかし,ガッセル神経節,神経槽,卵円孔などの解剖学的variation5),アルコールブロックや炎症などによるガッセル神経節,神経槽の癒着変形12)のため,髄液の流出が認められなかったり,髄液の流出がわずかにみられてもガッセル神経槽造影が不十分な場合には,従来のX線学的検索13,18)では穿刺針先端の同定は困難となる.

―症例―有窓クリップを用いた転位により治癒したTortuous vertebral arteryによる三叉神経痛の1例

著者: 丹羽潤 ,   藤重正人 ,   中川俊男 ,   端和夫

ページ範囲:P.621 - P.624

I.はじめに
 三叉神経痛の多くは神経近傍の微小血管が神経を圧迫することによって起こり,それらの治療には神経血管減圧術が有効である5).責任血管としては上小脳動脈・前下小脳動脈が多く,ときに静脈が関与していることもある.また椎骨脳底動脈による圧迫も稀ではない.
 最近われわれは延長・蛇行した椎骨動脈が原因である三叉神経痛に対して,有窓クリップを用いて血管を転位させることにより,顔面痛を治癒せしめた症例を経験したので報告する.

―症例―三叉神経痛を伴う多発性脳動静脈奇形の1例

著者: 西沢義彦 ,   立木光 ,   三浦一之 ,   村上峰子 ,   切替典宏 ,   箱崎誠司 ,   齊木巖 ,   金谷春之

ページ範囲:P.625 - P.630

I.はじめに
 中枢神経系にcapillary telangiectasisやcavernousangiomaがときに多発することは知られているが13),脳内多発性脳動静脈奇形の報告は極めて少なく,本例を加え著者らが渉猟し得た限り,6例の報告をみるにすぎない3,14,15,18,20)
 われわれは左頭頂葉と左小脳半球に独立した2個のAVMsをもち,左椎骨動脈にfenestrationを合併し,さらに小脳半球AVMのmain feederである上小脳動脈(SCA)の拡張,進展に起因する左三叉神経痛で発症した極めて稀な多発性脳動静脈奇形の1例を経験した,これに対し.AVMsを二期的に摘出し,三叉神経痛にはvascular decompressionを行い,両者ともに根治せしめたので,症例を提示し,若干の文献的考察を加え報告する.

手術・治療・外傷

―研究―Chiari奇形に合併した脊髄空洞症の外科的治療

著者: 井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   秋野実 ,   阿部弘

ページ範囲:P.631 - P.638

I.はじめに
 脊髄空洞症に対しては,種々の外科的治療が行われているが1,4,5,8-10,14,15),今回われわれは,Chiari奇形に合併した脊髄空洞症の外科的治療につき報告する.本報告では,Chiari奇形に合併した脊髄空洞症に対してsyringosubarachnoid shunt(S-S shuntと略す)が有効な治療法であることを述べるとともに,S-S shuntの問題点についても言及する.

―研究―椎骨動脈紡錘形動脈瘤に対する離脱型バルーンによる治療

著者: 高橋明 ,   鈴木二郎 ,   菅原孝行 ,   蘇慶展 ,   須賀俊博 ,   川上喜代志 ,   吉本高志

ページ範囲:P.639 - P.646

I.はじめに
 椎骨動脈の後下小脳動脈近傍に好発する紡錘形動脈瘤(以下本症)は,椎骨脳底動脈系の動脈瘤の約30%を占め17),治療法が困難なものの1つである.また,このなかには再破裂を起こしやすく,脳底動脈閉塞も起こしうる解離性動脈瘤1,4,9,10,12,15,16,19,20)も含まれており,発症早期の治療が極めて重要と考えられる.一方,Serbinenkoが1974年に脳動脈瘤に対する離脱型バルーンによる治療例を報告して以来11),血管内手術による動脈瘤の治療例も増加している2,3,5-8,13).この中で親動脈の近位閉塞法は,内頸動脈瘤に対しては広く行われている方法である2,3,5,7)が,椎骨動脈に対する応用は限られている.われわれは本症6例に対して,離脱型バルーンを用いた近位椎骨動脈閉塞を行い,興味ある知見が得られたので報告する.

―研究―Diffuse axonal injury5剖検例の臨床病理学的検討

著者: 志村俊郎 ,   中沢省三 ,   小林士郎 ,   横田裕行 ,   大塚敏文 ,   中村俊彦

ページ範囲:P.647 - P.653

I.はじめに
 重症頭部外傷では,serial CT scanの普及により,受傷直後より遅れて生じる,あるいは手術後に手術部位とは異なる部位に新たに生じる病態,すなわち遅発性脳内血腫などのnew lesionsの出現が注目されている8,24,25).しかしながらこれら病態のCT scanと比較検討した剖検例の病理組織学的な報告は極めて少ない3,17,20).本稿では,serial CT scan上,いわゆるdiffuse axonalinjury(以下DAIと略す)を呈した5剖検例の主として中枢神経系の病理組織学的所見につき検討した結果を報告する.

―研究―眼窩内腫瘍摘出のための手術手技の工夫—Combined fronto-orbital approach

著者: 内堀幹夫 ,   上田聖 ,   平川公義

ページ範囲:P.654 - P.658

I.はじめに
 われわれは,1976年から1985年までの10年間に38例の眼窩内腫瘍を経験した.このうち眼球腫瘍と炎症性疾患を除き,眼窩内腫瘍として摘出術の対象となるものは12例であった.腫瘍摘出のための術式として,Krönleinのlateral approachあるいはDandyのtransfrontal approachを用いてきた.しかし,これらの手術法で治療された症例のなかには,術後も症状がほとんど改善されないか,あるいはtotal ophthalmoplegiaに陥ったものがあり,手術成績向上のためには手技上の工夫が必要であることを痛感していた.
 おりしも最近,muscle coneを占拠する大きな腫瘍が相次いで4例発見された.従来のtransfrontal approachに改良を加えた方法で腫瘍摘出を行ったところ,術前にblindであったschwannomaの1例を除き,他の3例のcavernous angiomaでは視力および眼球運動に著しい改善がみられ,かつ美容的観点からも満足できる結果が得られた.本稿では,眼窩内腫瘍に対してわれわれが行っているcombined fronto-orbital approachを紹介し,他のapproachと比較検討する.

―研究―ラット可移植グリオーマに対する加温,放射線併用効果の検討

著者: 田村勝 ,   坐間朗 ,   国峯英男 ,   玉木義雄 ,   新部英男

ページ範囲:P.659 - P.663

I.はじめに
 悪性腫瘍に対する温熱療法は以前より試みられているが,近年加温療法機器の発達と相まって,注目される治療法となってきた.悪性脳腫瘍,ことに悪性グリオーマを対象とする基礎的研究2-5,16)および臨床的研究1,9-12,17,20)も発表され,温熱療法単独でも効果は期待できるが,放射線療法および化学療法との併用によりさらに有効であることも次第にわかってきた7,8,12)
 われわれはこれまでもラットgliomaモデルを用いて,化学療法,放射線療法の効果を検討してきたが14,15),今回2450MHzマイクロ波による組織内加温および放射線療法との併用療法を行い,その有効性につき検討を行った.

―研究―視床出血に対するCT guided stereotaxic operationの効果

著者: 本田英一郎 ,   林隆士 ,   島本宝哲 ,   原邦忠 ,   森高一彦 ,   佐藤能啓

ページ範囲:P.665 - P.670

I.はじめに
 視床出血に対し,開頭による外科的アプローチも数々報告されているが,深部であるために脳実質の損傷も大きく,リスクも高いため,必ずしも有効な手段とはいえない.
 視床出血は全身的な合併症(心臓病,糖尿病など)を伴った老人に発症しやすく,治療に際しても侵襲を最少にせねばならない.

―研究―手術操作によって引き起こされる蝸牛神経損傷—第2報 サルによる電気生理学的,形態学的研究

著者: 関谷徹治 ,   R.Moller ,   J.JANNETTA

ページ範囲:P.671 - P.676

I.はじめに
 われわれは,これまでに小脳橋角部(cerebellopontine angle,CP angle)における手術操作によって,どのような蝸牛神経損傷が引き起こされうるかという問題について,イヌを用いて検討してきた9-12).今回は,サルを用いて同様の実験を行い,新たな知見を得たので報告する.

―症例―急速な進行を呈したGrowing skull fractureの1例

著者: 桑田俊和 ,   亀井一郎 ,   上松右二 ,   岩本宗久 ,   栗山剛

ページ範囲:P.677 - P.681

I.はじめに
 growing skull fractureは,乳幼児に発生した頭蓋骨線状骨折が癒合せずに,次第に拡大し,その部の頭皮に腫脹を認める病変である.本症の発生機序としては,骨折部に発生したくも膜嚢腫14)あるいは脱出脳13,15)が,長期にわたり,頭蓋内圧の拍動を骨折線に伝達することによって,骨縁が破壊され骨折部が拡大していくとされている.
 今回われわれは,受傷後数時間のうちに急速に骨折線が拡大し,その後いったんその進行は停止していたが,数日後再び拡大を始めた症例を経験したので,経時的なCT scanおよび頭蓋単純写所見より,その成因を中心に文献的考察を加えて報告する.

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ページ範囲:P.467 - P.467

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基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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