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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科16巻7号

1988年06月発行

雑誌目次

あとは神に祈るのみ

著者: 石井鐐二

ページ範囲:P.809 - P.809

 新年早々,医師賠償責任保険の契約手続きの通知状が届いた.この時期になると更新しようかどうしようかと迷ってしまう.なぜなら,多くの医師が医療事故を恐れるのは,経済的理由もさりながら,むしろ原因となった自らの医療行為についての後悔と社会的非難に対する苫悩,やりきれなさを思うからである.アメリカでは医療訴訟が急増し,これに対しての賠償保険の掛金も年々高くなっており,1982年から85年までの3年間で外科医の払う年間の保険料率は81%も上がって1万ドルを超えたという.ことに掛金の一番高いのが神経外科医というから,彼の地の仲間達の悲鳴が聞こえてくるというものである.正当な医療を行うために最善を尽くすべきであって,賠償保険にきゅうきゅうとせざるを得ないこと自体がおかしいなどと慨嘆しつつ,今年も掛金を払い込んだ次第である.
 ことのついでに,医療訴訟に関して2,3の本を読んでみて驚いた.我々医師が病人のためによかれかしと行った医療,例えば投薬にしろ,注射や手術にしろ,すべて侵襲的行為であり,医療行為そのものが本来違法的なものであるらしいことを初めて知った.医療行為が両刃の剣と言われる所以でもある.外科医が人のからだにメスを入れることには,目的がその人の生命を救い,苦痛を取り去ることにあるにしても,人の能力範囲内で行われる以上,誤りのあり得ることは忘れてはなるまい.

研究

聴神経腫瘍45例の手術経験—顔面神経保存のテクニックと聴力温存に関するコメント

著者: 森田明夫 ,   福島孝徳 ,   宮崎紳一郎 ,   玉川輝明

ページ範囲:P.811 - P.818

I.はじめに
 聴神経腫瘍の治療はCushing2),Dandy3)らの努力により手術の基本的アプローチが確立し,House15,16) Rand22),Yasargil29,30)らによる手術用顕微鏡の導入によって極めて安全確実に行われるようになった.近年は顔面神経の剥離保存のためにマイクロテクニックが検討され,その温存率はかなり高率になった15,19,23,27-29).また症例によっては聴神経の機能温存も可能になってきている1,7,10,11,16,17,20,28).しかし現在全摘手術に関して合併症は皆無とはいえず,顔面神経温存も100%可能というわけではない.また聴力温存はさらに問題が多い.本報告では1980年11月より1986年10月までにわれわれの施設で治療を行った聴神経腫瘍について治療成績を述べ,特に顔面神経,聴神経温存に有効な手技について考察を加えた.

Lipo PGE1を用いた脳梗塞治療の試み

著者: 頃末和良 ,   近藤威 ,   石川朗宏 ,   鈴木寿彦 ,   長尾朋典 ,   玉木紀彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.819 - P.826

I.はじめに
 閉塞性脳血管障害により惹起された急性期脳虚血の治療として,虚血部の循環改善,脳浮腫の軽減,神経細胞の虚血に対する抵抗性の増強などを目的とした種々の薬物療法が試みられている30).しかし,現在のところ十分に確立された治療法として評価するには至っていない.
 近年,脳虚血巣における進行性微小循環不全や血管内凝固異常の発生が報告されている17,22,23).これら微小循環障害がどの程度虚血の進行や神経症状の出現に関与するかは現在のところ不明であるが,prostacyclinなどの微小循環改善剤が急性期脳虚血に対して用いられ,ある程度の効果が認められている1,12,13,26)

血行動態モデル解析—内頸動脈瘤に対する頸動脈結紮ならびにEC-ICバイパス術

著者: 大槻宏和 ,   菊池晴彦 ,   長沢史朗 ,   森竹浩三 ,   米川泰弘

ページ範囲:P.829 - P.836

I.序論
 直達手術が不可能な頭蓋内巨大動脈瘤に対して主幹動脈の結紮やバルーンによる閉塞8)が広く施行されており,虚血性合併症の予防のために手術適応基準の検討14)や,EC-ICバイパス術の併用1,6,9)がなされてきた.しかしながら動脈瘤の増大4,8,20,21)や破裂7,11,13,19),あるいは閉塞部末梢や動脈瘤内から生じたと思われる血栓症3,5,7,10,11,12,16)などの報告が散見される.さらにまたバイパス設置の是非についても意見の一致をみていない.これらの諸問題は,第1に側副血行能が個個の症例ごとに著しく異なること,第2に手術が動脈瘤やその周辺にもたらす血行動態変化について十分に検討することが困難であることなどに起因していると考えられる.
 そこで本研究では前交通動脈が種々の側副血行能力を有する場合を想定した内頸動脈分岐部動脈瘤モデルを作製し,内頸動脈の閉塞やバイパス設置が動脈瘤内の流れや内圧に及ぼす影響について検討したので報告する.

胸椎,胸髄疾患に対する開胸術を伴うアプローチの検討

著者: 花北順哉 ,   諏訪英行 ,   長安慎二 ,   鈴木孝典 ,   西正吾 ,   太田文人 ,   長島康之 ,   森山龍太郎

ページ範囲:P.837 - P.843

I.はじめに
 脊椎,脊髄疾患に対するわが国の脳神経外科医の関心は近年ますます高まっており,これらに対するマイクロサージャリーによるすぐれた手術成績がいくつか報告されている2,4-6).しかしながら胸椎,胸髄レベルの病変に対する手術症例を検討した報告はそれほど多くなく,ことに胸髄の腹側に存在する病変に対する手術につき検討した論文はわずかのものをみるのみである7,8,10-12)
 今回われわれは胸椎,胸髄疾患に対する開胸術を伴うアプローチを5症例に対して6回試みる機会を得たので,これらの症例を報告するとともに,このアプローチの問題点につき検討を加えた.

小児頭蓋咽頭腫33例の治療成績

著者: 田中孝幸 ,   小林達也

ページ範囲:P.845 - P.850

I.はじめに
 頭蓋咽頭腫は,Rathke's pouchの遺残組織より発生し,小児に多く,病理組織学的には良性腫瘍であるが,治療に関しては現在もなお問題が多い腫瘍である.つまり,腫瘍が視床下部,視神経,ウィリス動脈輪などの重要組織と密接しており,手術は無理に全摘出せずに,亜全摘出やbiopsy程度にとどめ,その後,さらに放射線治療や化学療法をすべきであるという報告が5,20,21,23,25)みられるが,一方,全摘すれば予後もよいから,できるだけ全摘出を心がけるべきであるという報告11,24,27)もある.今回われわれは1964年より1986年末までに小児の頭蓋咽頭腫33例を経験し,最短1カ月,最長21年(平均6年間)の追跡期間を経たので,長期転帰,各治療法別の予後,放射線治療の効果,再発などをもとに,治療法の再検討を行った.

急性期脳神経外科疾患におけるRenal protection—特に高張性脱水による高Na血症および急性腎不全例に対するlow dose dopamine療法

著者: 下田雅美 ,   山田晋也 ,   松前光紀 ,   山本勇夫 ,   津金隆一 ,   佐藤修

ページ範囲:P.851 - P.856

I.はじめに
 脳神経外科疾患の急性期においては,脳浮腫の予防,治療を目的として水分出納を脱水傾向に管理することが多く,かつmannitolなどの浸透圧性脳圧降下剤の併用により,大量の体液の喪失を引き起こし,急性腎不全あるいは高張性脱水による高Na血症を合併することがしばしば問題となる2,21)
 今回,著者らはこのような症例に対し,low dose dopamineを投与し,持続的な腎血流量およびNa利尿を保持することにより,良好な結果を得たので報告する.

症例

水頭症にて発症したQuadrigeminal cistern arachnoid cystの1例

著者: 西田憲記 ,   中川義信 ,   藤本尚己 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.857 - P.861

I.はじめに
 くも膜のう胞は,その名が示すとおり,くも膜の存在する部位であれば,いかなる部位においても発生し得ると思われる7).しかし,好発部位別にみるとSylvian fis—sureに接して存在する中頭蓋窩くも膜のう胞の頻度が最も高く,次いで後頭蓋窩,前頭部の順となっており,四丘体槽を中心に発生するくも膜のう胞は比較的稀のようである8,9)
 今回われわれは,水頭症を合併した四丘体槽から右小脳一橋角部まで拡がった大きなくも膜のう胞を経験した.症例を報告するとともに,四丘体槽くも膜のう胞の病態ならびに臨床症状および治療につき若干の文献的考察を加え報告する.

脳内出血を合併したアスペルギルス症の2例

著者: 北上明 ,   西沢義彦 ,   山本覚 ,   千葉明善 ,   立木光 ,   長谷川晴彦 ,   斉木巌 ,   金谷春之

ページ範囲:P.863 - P.868

I.はじめに
 近年,抗生剤,ステロイド剤の大量使用,悪性腫瘍に対する化学療法,さらに臓器移植などに対する免疫抑制剤の投与により,真菌による感染症が増加傾向にある.特にアスペルギルス症は注目を浴びてきているが,アスペルギルス症の増加に伴い頭蓋内アスペルギルス症も増加傾向を示している5,8).本症はその病態が多彩であり,診断,治療とも非常に困難で,予後は一般に不良である.今回われわれは脳内出血をきたした脳アスペルギルス症の2例を経験した.これらの症例のような巨大血腫合併の報告は稀であり,文献的考察を加えて報告する.

両側外転・顔面・聴神経麻痺を生じたCrushing head injuryの1例

著者: 小林士郎 ,   横田裕行 ,   中沢省三

ページ範囲:P.869 - P.873

I.はじめに
 頭部外傷の外力の加わり方には種々の場合があり,極めて複雑である.このうち,contact injuryとacceleration injuryが特に重要であり,ほとんどすべての症例がこれらに含まれる3).しかしながらstatic loading(静力学的荷重)による外傷,すなわちcrushing head injuryも少なからず存在し,これは頭部外傷の発生機序を論じる上で避けては通れない病態ではあるが,これまで充分な解析はなされていない2,7,10,12),.今回著者らはcrushing head injuryにて両側の外転・顔面・聴神経麻痺をきたした稀な1例を経験し,その病態および脳神経損傷の発生に関して検討する機会を得たので報告する.

太田母斑を伴った原発性頭蓋内悪性黒色腫

著者: 兜正則 ,   林実 ,   河野寛一 ,   古林秀則 ,   白崎直樹 ,   広瀬敏士 ,   久保田紀彦 ,   杉原洋行

ページ範囲:P.875 - P.880

I.はじめに
 neural crestに由来するmelanocyteは軟脳膜や脳内血管鞘組織内にも存在することが知られており,特に小脳や脳幹周囲および脳底部などに認めることが多い6).この頭蓋内に存在するmelanocyteを発生母地として原発性頭蓋内悪性黒色腫が発生することがあるが,この頻度は最近の脳腫瘍全国集計調査報告23)によれば原発性頭蓋内腫瘍のO.1%で比較的稀である.また原発性頭蓋内黒色腫はしばしば巨大色素性母斑を伴いneuro—cutaneous melanosisとして知られているが,太田母斑を伴うことは稀である.これに対して眼球メラノーシスでは太田母斑を伴う頻度が高いといわれている13)
 著者らは最近,太田母斑を伴った原発性頭蓋内悪性黒色腫の剖検例を経験したので文献的考察を加え報告する.

脳室腹腔短絡術後著明な腹水貯溜をきたしたクリプトコッカス症の1例

著者: 新川修司 ,   原明 ,   野倉宏晃 ,   宇野俊郎 ,   大熊晟夫 ,   山田弘

ページ範囲:P.881 - P.885

I.はじめに
 渡辺ら24)の報告によれば,真菌による中枢神経系感染症のうちクリプトコッカスによるものは80%以上を占める.しかし,診断は必ずしも容易でなく,死亡率もいまだに高率である4,5,9)
 われわれは水頭症にて発症し,何らかの中枢神経系感染症が疑われたが,真菌を含めた頻回の髄液培養検査にても起炎菌が証明されず,脳室腹腔短絡術(以下V-Pシャント)施行後約7週間を経て腹水貯溜をきたし,その後の髄液検査にてはじめて中枢神経系クリプトコッカス症と診断し得た1例を経験したので,特に診断上,治療上の問題点に関して文献的考察を加えて報告する.

術後の脳血管撮影で消失後に再発した脳動静脈奇形の2症例

著者: 不破功 ,   和田秀隆 ,   松本隆司

ページ範囲:P.887 - P.891

I.はじめに
 脳動静脈奇形(以下AVMと略)の自然経過において,AVMのnidusの増大が起こることはよく知られた事実である3,5,12,13).しかし術後の脳血管撮影でいったんAVMが消失し,数年後に再発した症例の報告は極めて少なく,われわれが検索し得た限りでは2症例を認めるにすぎない9).われわれは,このような2症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

Sacral perineural cystの1症例

著者: 加藤功 ,   高村春雄 ,   後藤聡 ,   佐々木寛 ,   牧野憲一 ,   尾崎信彦 ,   程塚明

ページ範囲:P.893 - P.897

I.はじめに
 腰・下肢痛の原因としてのsacral cystの報告は,以前より散見されるが,日常診療上診断することは稀である.また報告者により,sacral perineural cust, sacral extradural cyst, occult intrasacral meningoceleなどと混同して用いている場合も多い.今回われわれは,一過性の右下肢の脱力で発症し,脊髄造影およびCTにてsac—ral cystを認め,手術および組織学的所見より,sacral perineural cystと診断し得た症例を経験したので報告する.

悪性化と頭蓋外多発転移をきたした再発髄膜腫の1剖検例

著者: 森宏 ,   杉山義昭 ,   寺林征 ,   新井田広仁 ,   山本潔 ,   北沢智二 ,   若木邦彦

ページ範囲:P.899 - P.902

I.はじめに
 一般に原発性脳腫瘍の神経管外転移は稀であるが,今回われわれは全経過13年の間に再発を繰り返し,悪性化と肺,肝,骨などへの頭蓋外多発転移をきたして死亡した傍矢状洞部髄膜腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

脳動脈瘤と前頭蓋窩硬膜動静脈奇形の合併

著者: 岡田達也 ,   松田昌之 ,   半田譲二

ページ範囲:P.903 - P.906

I.はじめに
 硬膜動静脈奇形(dural AVM)の好発部位は一般に横・S状静脈洞部,および海綿静脈洞部であり,前頭蓋窩には極めて少ない.また,われわれが調べ得た範囲では脳動脈瘤とdural AVMの合併例は報告されていない.今回,われわれは破裂前交通動脈瘤に前頭蓋窩du—ral AVMを合併した1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

内容に出血を認めた脳膿瘍の1例

著者: 藤井正美 ,   阿美古征生 ,   織田哲至 ,   札場博義 ,   林政明 ,   青木秀夫

ページ範囲:P.907 - P.909

I.はじめに
 脳膿瘍はCTスキャン上ring enhancementを示し,悪性神経膠芽腫,転移性脳腫瘍などの脳腫瘍や,脳血管障害との鑑別が重要である.そして,ring enhancement内に高吸収域を認めた場合は,まず腫瘍内出血を考えるのが妥当と思われる.今回われわれは臨床経過に炎症を思わせる所見が少なく,出血傾向も認められなかったため,腫瘍内出血との鑑別が困難であった脳膿瘍内出血の1例を経験した.このような症例1)は極めて稀であるので,腫瘍内出血との鑑別点,および出血の機序につき若干の考察を加え報告する.

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「引用」についての豆知識

ページ範囲:P.885 - P.885

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基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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