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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科16巻8号

1988年07月発行

雑誌目次

出来高報酬と成功報酬

著者: 寺尾榮夫

ページ範囲:P.917 - P.918

 牛肉・ミカンの自由化結着についで米の自由化が強く迫られ50年近く続いた食管法は今,存亡の危機にたたされているようだ.戦中・戦後の食糧難時代,とにかく国民を破滅から救ったこの制度もすっかり時代の流れにとり残されてしまった.予約限度制などいくつかの手直しが加えられたとはいえ,生産された国内米は全部買い入れるという現実の需給関係無視の出来高払いに,歪みの根源があると思われる.国鉄といい,米価問題といい政治に引きづられ,経済原則をあまりにも軽視した制度は結局いつか破綻してしまうという教訓でもあろう.
 ところで医療費も米価に似たところがある.保険非適用の薬,医療材料やレセプト審査といった制約はあるが,原則として出来高全額支払い方式である.医療サービスの内容は殆どが,供給サイドである医師・病院により決定され,需要サイドでの選択の余地は少ない.また保険制度の下で供給・需要の両サイドともコスト意識は低い,など一般社会の通念からはかなり特殊な需給体制となっていることはよく指摘される通りである.

総説

脳腫瘍の細胞生物学的特性

著者: 田渕和雄

ページ範囲:P.919 - P.931

I.はじめに
 脳腫瘍の特性を細胞生物学的立場から明らかにしていくことは,脳腫瘍の新しい治療法あるいは診断法の開発,さらには予防の糸口を探るうえで大変重要である.近年バイオテクノロジーの急速な進歩に伴い,脳腫瘍の病態解析の細胞生物学的手法も,より精緻で多彩となりつつある.いうまでもなく脳腫瘍はその組織形態学的,生化学的表現形および増殖能に大きな特徴がある.しかし,このような脳腫瘍の細胞生物学的特性も,究極的には個々の脳腫瘍で発現されている遺伝子の相違によるものと考えられている.したがって,どのような遺伝子が個々の脳腫瘍の特性を規定しているのかを究明していくことが,今後の研究の大きな課題になるものと思われる.そこで,本稿では脳腫瘍の表現形としての腫瘍マーカー,さらに増殖能の解析と癌遺伝子について,それらの研究の現状を概説することにする.

研究

脳神経外科領域における微線維性コラーゲン止血剤(Avitene®)の使用経験

著者: 中村紀夫 ,   橋本卓雄 ,   坂井春男 ,   安江正治 ,   永山一郎 ,   佐々木富男 ,   馬杉則彦 ,   金是仁 ,   喜多村一孝 ,   吉益倫夫

ページ範囲:P.933 - P.938

I.はじめに
 開頭手術において,止血を確実に行うことは,術後経過を左右する重要な要因であるが,特に血管に富んだ脳腫瘍からの実質性,湧出性出血の止血はしばしば困難である.このような出血に対して,従来種々の局所止血剤が使用されてきた.現在脳神経外科領域で使用されている局所止血剤としては,ゼラチン製剤(ゼルフォーム,スポンゼル),酸化セルロース(オキシセル),トロンビン製剤(ゲラトロンビン)などで,その効果については一定の評価が与えられている.しかしこれらの局所止血剤にても,不完全な場合が稀ではなく,より確実な止血効果をもつ局所止血剤が望まれる.
 1976年,米国で開発された微線維性コラーゲン止血剤(microfibrillar collagen hemostat,以下Avitene®)は,従来の局所止血剤に比較して,その優れた止血効果が報告されており1,3,8,19),諸外国の脳神経外科領域ではすでに使用されている4,12,15).本邦でも外科,整形外科,産婦人科,泌尿器科などの各科領域でその有効性が報告されている6,7,14,17,18)

髄膜腫,神経鞘腫の成長解析について—Ki−67 PAP染色

著者: 柴田太一郎 ,   C.Burger ,  

ページ範囲:P.939 - P.944

I.はじめに
 中胚葉起源のmeningiomaおよびneurinomaは基本的には良性腫瘍である.しかし,meningiomaは臨床的にも組織学的にも良性と悪性の境界が画し難いことがあり12),Simpsonの手術gradeが同じで組織像が普通のそれと何ら変らない症例のなかに急速な再発を示す例がある.
 さらにWHO分類でgrade II-IIIと規定されているhemangiopericytic type13)の増殖分画は,meningiomaの他の組織型と差があり,gliomaのgrade II-IIIに匹敵するほど大きなものであるか否かが明らかにされていない.

高血圧性橋出血の聴性脳幹反応—血腫と聴覚路の三次元表示法による検討

著者: 藪本充雄 ,   船橋利理 ,   中井易二 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.945 - P.951

I.はじめに
 聴性脳幹反応(auditory brainstem response,以下ABR)は,聴覚系および脳幹部の機能的変化を把える有用な検査法であるのみでなく,後頭蓋窩手術の術中モニターなど数多くの臨床応用に関する報告がある.われわれは,ABRを高血圧性橋出血における予後推定と,その手術適応の決定に利用しているが,時にはCT上の血腫部位と,ABRの所見に,障害側の一致をみないというdiscrepancyを経験する.この点を解決するとともに,ABR諸波の起源の異常と脳幹部血腫との関係を明らかにするために血腫と脳幹部聴覚伝導路を三次元的に立体構成した.それらの位置関係とABRの潜時及び波形変化を血腫除去術前後で比較検討したので報告する.

骨破壊を伴わない脊椎硬膜外腫瘍の検討

著者: 小柳泉 ,   宮坂和男 ,   阿部悟 ,   井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   阿部弘 ,   藤谷正紀

ページ範囲:P.953 - P.958

I.はじめに
 脊椎硬膜外腫瘍の多くは,転移性脊椎腫瘍の硬膜外伸展であり,脊椎単純撮影による骨破壊像の検索が重要とされている.又,神経鞘腫などの原発性腫瘍では,殆どが骨のpressure erosionを伴う8).しかし骨破壊やero—sionを欠く硬膜外腫瘍の正確な報告はない.著者らは最近このような硬膜外腫瘍が,少なからず存在する事に気付いた.骨変化のない硬膜外腫瘍の場合,しばしば診断に苦慮する.今回,このような骨破壊のない硬膜外腫瘍症例の臨床,組織及び放射線学的診断について検討したので報告する.

クリッピング困難であった内頸動脈後交通動脈動脈瘤の検討—特に血管撮影計測法との関連について

著者: 長澤史朗 ,   菊池晴彦 ,   金南奎 ,   米川泰弘

ページ範囲:P.959 - P.964

I.序論
 顕微鏡手術の発達,脳局所解剖の普及などにより,脳動脈瘤の手術成績は近年著しく向上してきた.なかでも内頸動脈後交通動脈分岐部動脈瘤(以下ICPC動脈瘤と略す)は,比較的頻度が高く,また視交叉部という手術する機会が多い部位に存在するため,この手術は比較的容易であるとされている.しかしながら内頸動脈の血流量は大きく,また多くの内頸動脈分枝や重要な脳神経が近接しているため,術中のトラブルは患者の予後に強く影響する.したがって他の困難とみなされている部位の動脈瘤と同様あるいはそれ以上に充分な心構えのもとに手術に臨む必要がある.今回,クリッピング操作に困難を感じたICPC動脈瘤症例につき,術前の血管撮影所見と術中所見との関連性を検討したので報告する.

徐放性薬剤と脳槽ドレナージ併用による脳血管攣縮の治療

著者: 織田祥史 ,   小西常起 ,   奥村禎三 ,   姜裕 ,   菊池晴彦 ,   上條純成

ページ範囲:P.965 - P.970

I.はじめに
 くも膜下出血後の遅発性脳血管攣縮の予防および治療に関しては,数多くの報告がなされているが,まだ,これを完全に解決し得た方法は見つかっていない.
 我々は,血管攣縮の最終段階としての,平滑筋へのCaイオンの細胞内への流入を阻止して,この問題を解決するために,diltiazemあるいは塩酸パパベリンを,局所に持続的に投与して,血管を拡張させることを企図した.

症例

特発性頸動脈海綿静脈洞瘻に対するMatas手技による治療—網膜出血の併発について

著者: 三木保 ,   永井恭介 ,   斎藤裕 ,   小野寺良久 ,   大場広 ,   生駒洋

ページ範囲:P.971 - P.976

I.はじめに
 近年,外傷性頸動脈海綿静脈洞瘻は血管内手術法が治療の主流となっているが,特発性頸動脈海綿静脈洞瘻spontaneous carotid cavernous sinus fistula(以下,特発性CCFと略す)は,その病態に未だ不明の点も多く,治療法も一定していないのが現状である.非手術的療法としてMatas手技が従来より日常臨床で施行されているが,自然治癒と併せてその治癒機転についての報告は散見されるにすぎない.最近,われわれはdural in—ternal type特発性CCFに対してMatas手技を施行し,比較的早期に瘻孔の消失,症状の改善をみたが,経過中に網膜出血を併発した3例を経験したので若干の考察を加えて報告する.

中人脳動脈塞栓症に対する急性期塞栓除去術の経験

著者: 北見公一 ,   土田博美 ,   相馬勤 ,   浜島泉 ,   酒巻靖弘 ,   竹田保

ページ範囲:P.977 - P.982

I.はじめに
 中大脳動脈閉塞症の原因としては血栓症と塞栓症があるが,血栓症に比べ塞栓症特に心由来のものは予後不良とされる1-3).原因としては側副血行の発達が十分でなく,虚血性脳浮腫が広範に出現することや,再開通に伴う出血性梗塞の頻度が高いことが挙げられる1-3).塞栓除去術は1954年Welch8)により初めて行われたが,24時間以内に行われた急性期塞栓除去術に限ると,1985年のMeyerらの報告6)以外にはまとまった数の報告は少なく,その結果も著明な改善をみたものから,術後悪化し死亡した例までさまざまである.しかし術直後より十分な血行再開が期待され,発症後早期に行ったものでは著明な症状の改善をみる場合が多い6,7)ことを考えると,適応を選んで急性期に塞栓除去術を行うことは必要と思われる.われわれは過去2年間に5例の中大脳動脈塞栓症に対して,急性期に開頭による塞栓除去術を試み,文献上の自然経過予後との比較において良好な結果を得たので,手術適応や術後の問題点などにつき考察を加え報告する.

前頭蓋底脳瘤—2症例報告とその分類についての発生学的考察

著者: 北原行雄 ,   高木宏 ,   市川文彦 ,   山田勝 ,   大塚英司

ページ範囲:P.983 - P.988

I.はじめに
 basal encephaloceleは,出生35.000—40.000に1例のencephaloceleの約1-10%であると報告されている13).また,その約半数は顔面奇形などの他の合併異常,鼻閉による呼吸障害,哺乳障害などにより1歳未満に発症し,以後は髄膜炎,鼻漏,耳鼻科乎術などにより5歳をpeakとして散発的に発症する二峰性年齢分布を示し,成人発症は20%と少ない3).一方,basal encephaloceleの分類は,頭蓋骨欠損部位,あるいはencepha—loceleの突出部位による類型分類が行われてきた13).今回われわれは成人例で耳鼻科手術により偶然発見された,他の発生異常を合併しない2例を経験した.この2例が他の発生異常を合併しなかった原因につき発生病理学的考察を加えたところ,従来の類型分類は手術方法の選択など臨床的には有用であるが,発生病理の点からは必ずしも適当でないと考えられた.
 われわれはここにbasal encephaloceleの発生病理に基づいた新分類を提唱し,従来の類型分類にわれわれの新分類を加えることにより,basal encephaloceleのより深い理解が得られると考えられたので,われわれの2症例の症例報告とともに文献的考察を加え報告する.

Ossified choroid plexus papillomaの1例

著者: 川俣貴一 ,   久保長生 ,   河村弘庸 ,   岩田幸也 ,   加川瑞夫 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.989 - P.994

I.はじめに
 頭部単純撮影におけるchoroid plexus papillomaの石灰化像は文献的に4-25%の症例で認められるとされているが2,11,16,23),骨化が確認されたものは極めて少なく,これまで3例が報告されているにすぎない7,15,18).われわれは頭部単純撮影およびCT—上右側脳室下角に石灰化巣と思われる所見を認め,摘出標本の病理組織学的検索により骨組織の認められたchcoroid plexus papillo—maを経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

"Adenoid formation"を示したGlioblastomaの電顕像

著者: 新宅雅幸 ,   平野朝雄 ,  

ページ範囲:P.997 - P.1003

I.緒言
 gliosarcomaにおいて,腫瘍性のastrocyteが上皮性腫瘍を思わせるような索状もしくは管状の細胞配列を示し,腺癌の転移と紛わしい組織像を呈する場合があることは,Kepesら6)により最初に報告された.同様の所見はglioblastomaにおいても稀に見いだされるが6),本邦ではいまだこの種の腫瘍は報告されていないようである.またその電顕像については,Kepesらの原著にごく簡略に記載されているが,著者らの知る限り,それ以外に報告は見られない.
 われわれはglioblastomaの1手術例において,同様の腺癌類似の所見(adenoid formation)を見出したので,その電顕像を中心に記載する.

中頭蓋窩海綿状血管腫に対する放射線療法—特に遅発性効果について

著者: 柴田尚武 ,   森和夫

ページ範囲:P.1005 - P.1008

I.緒言
 中頭蓋窩海綿状血管腫は,脳内に発生したものと異なり,その著しい出血のため摘出が困難である.そこで,左中頭蓋窩を満たす巨大な海綿状血管腫の1症例において,放射線照射を行ったところ,50Gy終了時では照射前の63%までしか縮小しなかったが,その後は時間経過とともに縮小し続け,1年7カ月後にはほぼ消失し,2年後の現在も消失したままである.中頭蓋窩海綿状血管腫に対する放射線療法の遅発性効果について報告する.

特発性浅側頭動脈動脈瘤の1例

著者: 西岡達也 ,   近藤明恵 ,   青山育弘 ,   任清 ,   下竹克美 ,   田代晴彦 ,   高橋淳 ,   日下博文

ページ範囲:P.1009 - P.1012

I.はじめに
 浅側頭動脈に発生する動脈瘤は稀であるが,浅側頭動脈は走行が長く,かつ頭蓋骨上で,頭皮下の比較的浅い層を走行しているため,その報告例の殆どは外傷に起因したものであり,いわゆる"偽性動脈瘤1-3,6,8,9,11)"と呼ばれるものである.今回著者らは特に外傷の既往を認めず,組織学的にも"真性"であると思われた稀な浅側頭動脈動脈瘤の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

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「引用」についての豆知識 フリーアクセス

ページ範囲:P.958 - P.958

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基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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