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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科16巻9号

1988年08月発行

雑誌目次

脳神経外科と高齢化社会

著者: 竹内一夫

ページ範囲:P.1021 - P.1021

 人生50年,70歳を古稀と呼ぶようになった時代に比べると,最近は何処に行っても老人の姿が目につく.そもそも何歳以上が老人かはっきりしないが,先日の第1回老年脳神経外科研究会の世話人会を傍聴すると,どうも65歳以上を一応老人とすることに落着きそうである.私自身がその年齢に近付くと,歳には暦年齢以外に精神年齢や肉体年齢があって,たとえ歳をとっても精神や肉体はいつまでも若く保ちたいという気持が強くなる.
 われわれが脳神経外科を始めた頃は,病室に行ってもまず老人の姿は見られなかった.同居していた一般外科には老人が珍しくなかったが,「あたま部屋」と称する脳外病室は子供や青・壮年ばかりであった.その頃読んだ文献でも,老人の脳腫瘍は珍しいこと,診断が困難なこと,悪性腫瘍が多いこと,手術適応が少ないこと,予後が不良なことなどがそろって特長として挙げられていた.

研究

脳虚血に関する研究・1—脳虚血症状の可逆性とCT所見

著者: 氏家弘 ,   加川端夫 ,   中原明 ,   佐藤和栄 ,   青木伸夫 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.1023 - P.1028

I.はじめに
 脳動脈の閉塞性疾患は,内頸動脈及び中大脳動脈に高頻度に発生する.これらの動脈の閉塞による症状は,閉塞完成までの時間,脳虚血の程度,持続時間,部位によってさまざまに修飾される。さらに梗塞完成後の脳循環動態の変動,脳浮腫,再開通現象等は,急性期の病像を一層複雑なものにしている.
 本稿の目的は,中大脳動脈領域虚血病巣の転帰をre—trospectiveに検討し最も神経学的可逆性が残されているCT上の形態像を求めることである.さらにlacune,periventricular hypodensity(PVH)が脳虚血の可逆性にどのように関与するかについても考察を加えた.

Oligodendrogliomaの免疫組織化学的検索と臨床像について

著者: 久保長生 ,   田鹿安彦 ,   遠山隆 ,   田鹿妙子 ,   坂入光彦 ,   片平真佐子 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.1029 - P.1035

I.はじめに
 Oligodendrogliomaの病理組織像はBailey and Cushingによって報告されて以来,円形の核を有する細胞からなり,その細胞の核周囲の胞体は明るく抜けていわゆるperinuclear haloを持つ細胞となりhoney—combed appearanceで特徴づけられている.しかし,最近,本腫瘍の細胞構成および,臨床病理像について議論されるようになった1,12,15)。超微像については氷室など多数の報告があるが6,13,25),その記載は一定していない,同様に,免疫組織化学的検索も次第に行われてきたがその結果はまだ,まちまちである7,11,17,23)
 われわれは従来の組織学的方法と免疫組織化学的方法によりOligodendrogliomaを再検討し臨床像との関係を調べたので報告する.

誘発電位による脳ヘルニアの病態把握ならびに予後判定に関する実験的研究—第2報 天幕下加圧実験

著者: 高家幹夫 ,   森竹浩三 ,   小西常起 ,   諏訪英行 ,   南川順 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.1037 - P.1044

I.はじめに
 急性の後頭蓋窩占拠性病変は,脳幹に直接・間接の影響を及ぼし,しばしば生命徴候の急激な変化を来すことがある.そのため脳幹機能を客観的にモニターできる方法が求められていた.われわれは既に,ネコで天幕上硬膜外バルーン法による頭蓋内圧充進モデルを作成し,頭蓋内圧充進時の脳幹機能モニター法として誘発電位法が有用なことを報告した10).今回,後頭蓋窩急性占拠性病変のモデルとして天幕下で硬膜外バルーン法による同様の加圧実験を行い,頭蓋内圧の上昇に伴う各種誘発電位の経時的変化を観察した.そして,これらの結果を分析することによって,脳幹圧迫性後頭蓋窩病変を有する患者における脳幹機能モニター法として臨床上有用なパラメータを選び,脳幹機能の可逆性を判断するための診断基準の設定を試みた.

第三脳室拡大例における視床の側方座標について

著者: 前田隆寛 ,   横地房子 ,   楢林博太郎

ページ範囲:P.1045 - P.1052

I.はじめに
 最小の凝固で最大の効果を得ることを日的とする定位脳手術において,放射線学的に第三脳室の正確な計測を行うことが,最も重要なpointの1つである.
 しかしさまざまな程度の第三脳室幅の拡大例に遭遇する上で,このような症例での視床核の側方座標計測値を正確かつ明らかにした内容はまだ報告されていない.正常第三脳室幅についても異論があり,Taveras16)らは7mmまで,Robertson13)は9mmまでが正常で通常は4−6mmとしている.Hawrylyshyn8)らは幅が小さい場合はthalamocapsular borderは内側に寄り,大きい場合は外側に寄る傾向があるとしている.そこで著二者は視床Vim核での微小電極による細胞電気活動記録を行い,その109例について上肢—上肢帯に関与するVimneuronの側方座標を検討した.

頭蓋内原発Germ Cell Tumorに対するCisplatinを含む多剤併用療法

著者: 宮町敬吉 ,   会田敏光 ,   阿部弘

ページ範囲:P.1053 - P.1058

I.はじめに
 頭蓋内原発germ cell tumorの治療に対してCisplatinを含む多剤併用療法が行われて数年を経過しているが,化学療法の抗腫瘍効果も症例により異なること,放射線治療との関連における薬剤の使用時期,薬剤による副作用等,検討すべき点が多く認められる.われわれは,yolk sactumor 1例,embryonal carcinoma 1例,HCG産生germinoma 1例,histologically unknown HCG産生腫瘍2例にCisplatinを含む多剤併用療法を行った.これらの症例に対して上記の問題点を考察した.

頭部外傷における経時的短潜時体性感覚誘発電位モニタリングの臨床的意義—特に頭蓋内圧亢進との関係

著者: 川原信隆 ,   刈間理介 ,   名取穣二 ,   小見山高士 ,   西田昌道 ,   石川泰郎 ,   鈴川正之 ,   佐々木勝 ,   三井香児 ,   坂本哲也 ,   有賀徹 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.1059 - P.1066

I.はじめに
 頭部外傷症例においては,脳幹部障害の有無やその程度が予後を決定する因子として重要であり,その客観的評価方法として聴性脳幹反応(auditory brainstemresponse,以下ABR)が広く用いられ14),われわれもその有用性を報告してきた10,19).しかし,2次的脳幹障害を未然に防ぐためにはテント上病変の程度を正確に把握し,いわゆるwarning signを捉えることが必要である.今回,このような理由から,われわれが従来より用いてきた多次元脳機能monitoring system10,18)にテント上脳機能評価法として短潜時体性感覚誘発電位(shortlatency somatosensory evoked potential,以下SEP)を加えて,特にその経時的monitoringの意義について検討し,臨床的有用性を認めたので報告する.

脊髄動静脈奇形に対するembolization therapyの問題点について

著者: 宮本享 ,   菊池晴彦 ,   唐沢淳 ,   永田泉 ,   山形専 ,   鳴尾好人 ,   光木徹 ,   宍戸尚 ,   光野亀義 ,   山添直博 ,   秋山義典

ページ範囲:P.1067 - P.1072

I.はじめに
 選択的脊髄血管造影およびこれを利用した人工塞栓術の開発により脊髄動静脈奇形の診断,治療は飛躍的な進歩を遂げ,今や本症はintervascular surgeryの最も良い適応のひとつと考えられている 1-3,5,6,8,9,11).著者らはこれまでに40例の脊髄動静脈奇形を経験し,うち22例は人工塞栓術のみで治療している.この中で頻回にわたる塞栓術の途中で新たな流入動脈の出現を認めた6症例から本症に対する人工塞栓術の持つ問題点を検討したので以下に報告する.

症例

頸部への放射線照射による頭蓋外内頸動脈瘤の1症例

著者: 田代隆 ,   伊古田俊夫 ,   山下耕助 ,   小玉孝郎

ページ範囲:P.1073 - P.1078

I.はじめに
 頸部への放射線照射後,頸動脈に動脈硬化類似の内膜肥厚を呈したり,出血を起こす等の報告は散見される6,11,12,14,18).しかし放射線照射後に動脈瘤を生じた症例は極めて稀で4),その発生病理については不明な点が多い.今回,われわれは頸部への放射線照射後,およそ30年目に内頸動脈より仮性動脈瘤を生じた1例を経験し,その病態と発生機序について検討を加えたので報告する.

Temporary clip部に発生したaspergillus脳動脈瘤の1例

著者: 浅利正二 ,   西本詮 ,   村上昌穂

ページ範囲:P.1079 - P.1082

I.はじめに
 細菌性脳動脈瘤のうちで真菌によるものは稀であり報告例もまだ少ない.
 われわれは脳動脈瘤の手術後に,術中temporary clipをかけた部位に一致して新生脳動脈瘤が発生しその破裂により死亡した症例で,剖検により発生部位にasper—gillusの増殖を認めた稀な1例を経験した.この新生脳動脈瘤の発生機序を中心に若干の考察を加えて報告する.

プラジカンテルによる脳嚢虫症の1治験例

著者: 新居康夫 ,   中川秀光 ,   瀧琢有 ,   中林敏夫

ページ範囲:P.1083 - P.1088

I.はじめに
 脳嚢虫症(cerebral cysticercosis)は,有鉤条虫(taeniasolium)の嚢虫による中枢神経系への感染症である.近年アメリカ合衆国では,メキシコなどの多発地域からの移民による本疾患の急増が指摘されており2,12,16),また新しい駆虫剤praziquantelが非常に有効であることが報告され,本疾患が注目されている.本邦ではきわめて稀な疾患であるが,CTスキャンの出現以来報告が増加してきており3,4,7,9,11,17,20),また韓国や中国などの多発地域との国際交流が深まるにつれ更にその重要性が高まるものと予測される.今回の症例は,外科的摘出に加えて,praziquantel投与によって治癒し得た本邦初症例であり,文献的考察を加えて報告する.

前交通動脈瘤を伴った内頸動脈欠損の1例

著者: 吉田雄樹 ,   栃内秀士 ,   村上峰子 ,   村上寿治 ,   斎木巌 ,   金谷春之

ページ範囲:P.1089 - P.1094

I.はじめに
 内頸動脈の一側もしくは両側欠損は比較的稀であるが,現在までに一側欠損53例,両側欠損11例の報告がある.これらの中に脳動脈瘤の合併は一側欠損では19例,両側欠損では3例があり,一側欠損19例中11例は前交通動脈に,両側例では中大脳動脈の細菌性動脈瘤例を除くと,2例とも脳底動脈先端部に発生している.著者等は67歳の女性がクモ膜下出血で発症し,脳血管撮影と剖検で左内頸動脈欠損と前交通動脈瘤の合併を確認し得た.この一側内頸動脈欠損と脳動脈瘤の合併例について文献的考察を加え報告する.

頭蓋内伸展を示したChondroblastomaの1例

著者: 山本章代 ,   徳力康彦 ,   山下純宏 ,   岩崎孝一 ,   菊池晴彦 ,   米川泰弘

ページ範囲:P.1095 - P.1099

I.はじめに
 軟骨芽細胞腫(chondroblastoma)の多くは長管骨骨端に発生し,骨原発性腫瘍の約0.5-1%を占めている7)が,顔面骨,頭蓋骨,さらに頭蓋内に発生することは極めて稀であり,文献上では,頭蓋骨からの発生とされているものが19例,さらに頭蓋内伸展を生じたものが14例報告されているにすぎない1,3,10).組織学的には,巨細胞腫(giant cell tumor:GCT)との鑑別が問題になるものである.最近,われわれは中頭蓋底に発生し,さらに頭蓋内伸展を示した本腫瘍を経験したので,神経放射線学的所見,及び組織学的所見を中心として,若干の文献的考察を加え報告する.

Galactorrheaを伴った男性Acromegalyの1例

著者: 徳永孝行 ,   林隆士 ,   本田英一郎 ,   菊池直美 ,   宇都宮英綱

ページ範囲:P.1101 - P.1105

I.はじめに
 下垂体腺腫のうちprolactin産生腫瘍女性例では,月経異常・乳汁分泌で発見される例が多い.一方末端肥大症を呈す男性腺腫例では,乳汁分泌を伴うものは稀であり3,7,8)その臨床的意義も不明瞭である.今回われわれは,鞍内から海綿静脈洞,蝶形骨洞さらには節骨洞へと伸展したmixed GH-PRL adenomaで乳汁分泌を呈した男性末端肥大症例を経験した.男性下垂体腺腫例における乳汁分泌出現の機序を中心に若干の文献的考察を加えて報告する.

Persistent primitive trigeminal arteryを伴ったモヤモヤ病—症例報告と文献的考察

著者: 金城利彦 ,   六川二郎 ,   高良英一 ,   仲宗根進 ,   久田均 ,   石川泰成

ページ範囲:P.1107 - P.1112

I.はじめに
 モヤモヤ病は日本人によりはじめて報告され,両側の内頸動脈終末部に狭窄,閉塞を来たしそれに伴い脳底部に異常血管網がみられる原因不明の疾患である.日本人に多発し,その正確な発生頻度は明らかではないが,日本においては1年間に約200人前後が発症していると考えられ,現在では患者数は2000人を越えると推定されている4,16).一方,persistent primitive trigeminalartery(以下PTAと略す)は胎生期遺残血管の1つであり,脳血管撮影施行例の0.1-0.3%1)に発見され,脳血管障害とくに脳動脈瘤の合併が多いことが知られている.
 モヤモヤ病とPTAが合併した報告は,大槻らの類モヤモヤ病B症例も含めてこれまでにわずか5例5,6,9,13)であり,いずれも本邦における報告である.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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