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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科17巻11号

1989年11月発行

雑誌目次

生と死—その医療文化人類学的考察

著者: 松角康彦

ページ範囲:P.997 - P.998

 生きること,生きていること,を最も具体的に認識するのは,死についての想いを語るときであり,不幸にして死と身近に直面したときである.
 悦びや感激に酔いしれる幸せの最中にあっては,死を想うことはなく,生命の躍動には無限の人生すらも信じさせる.

研究

小脳AstrocytomaにおけるAstrocyte-Endothelial Interface

著者: 上松右二 ,   平野朝雄 ,   河野寛一 ,   F.Llena

ページ範囲:P.999 - P.1004

I.はじめに
 Astrocytomaの腫瘍血管の微細構造に関する報告は,今日まで数多くなされている1,5,6,9-11,13,14,16).しかし,そのAstrocyteと血管のinterfaceについては,その中で簡略に触れられているのみで,そのことに注目した報告は見あたらない.本論文では,良性・小脳astrocyto—maにおけるastrocyte-endothelial interfaceの微細構造について報告する.

悪性グリオーマの局所脳循環代謝—Positron Emission Tomography(PET)による腫瘍局所別の定量解析

著者: 笹嶋寿郎 ,   峯浦一喜 ,   古和田正悦 ,   宍戸文男 ,   上村和夫

ページ範囲:P.1005 - P.1013

I.はじめに
 悪性グリオーマは形態学的および生化学的に多様な腫瘍細胞で構成されており,in vivoにおける腫瘍局所の循環代謝の検討は病態の解明に重要な課題である.腫瘍細胞の放射線感受性は腫瘍組織の循環代謝動態によって変化し2,17),脂溶性制癌剤は局所血流量に,水溶性制癌剤は血液脳関門の障害程度に関連して腫瘍内に到達し12),腫瘍局所の循環および代謝動態の把握は放射線化学療法の成績向上にも大いに関連している.われわれはグリオーマの局所脳循環代謝量をpositron emissiontomography(PET)で測定し,腫瘍部における酸素代謝の低下と組織悪性度に伴う糖代謝の亢進を報告している13)
 今回,悪性グリオーマの腫瘍活性部,壊死部および周辺浮腫部の循環代謝量をPETで解析したので報告する.

SPECTによる脳循環測定からみた水頭症の機能予後

著者: 平井収 ,   西川方夫 ,   渡辺修 ,   山川弘保 ,   木下良正 ,   宇野晃 ,   半田肇

ページ範囲:P.1015 - P.1021

I.はじめに
 超音波診断装置の開発によって胎生早期から先天性水頭症の診断が可能となり,対応の選択にも幅が出てきたが2,11,15,16,19),胎児手術の是非あるいは生後の髄液短絡術の機能予後におよぼす効果は未だに明らかにされていない3).一方,実験的水頭症においては,傍脳室組織を中心とした血管構築が破壊され,微小循環障害がおこることは証明されているが5,17,18,24),小児水頭症の臨床例における脳循環についての報告はほとんどない.今回われわれは短絡術が施行された小児水頭症5例の慢性期にSingle Photon Emission Computed Tomography(SPECT)を用いた脳循環測定を行い,機能予後との関係,および成人交通性水頭症との比較において若干の知見を得たので報告する.

Split Rib Cranioplasty

著者: 川上勝弘 ,   高原衍彦 ,   山内康雄 ,   諏訪純 ,   松村和哉 ,   池田裕 ,   河村悌夫 ,   松村浩

ページ範囲:P.1023 - P.1027

I.はじめに
 脳神経外科領域において,頭蓋形成術は外傷や血管病変をはじめとする種々の病態で頭蓋骨の欠損状態となった症例に対して日常的に行われる手術であるが,保存自家頭蓋骨が用いられない場合,tantalumやmethylmethacrylateなどの人工物が通常広く用いられている15,17).しかしながらこれら人工物を用いて頭蓋形成術を行った場合にはどうしても局所異物反応としての感染が術後の合併症として生じる恐れがあり,数多くの頭蓋形成術の中には,この感染のため頭蓋骨の欠損状態を余儀なくされ治療に難渋している症例が散見されるのではないかと思われる.
 近年,われわれはこのような難治性であった骨欠損症例に対して肋骨を半切したのち骨移植するsplit rib cra—nioplastyを施行しているが,機能的にも外観上も良好な成績が得られたので,本法を紹介するとともにその臨床的価値について文献的考察を加えて報告する.

中枢神経系奇形の胎内出生前診断と治療選択における新たな臨床歴史段階

著者: 大井静雄 ,   松本悟 ,   片山和明 ,   望月真人

ページ範囲:P.1029 - P.1035

I.緒言
 先天性中枢神経系奇形の治療法と治療適応に関する見解には,過去半世紀に及ぶ歴史的な変遷がみられてきた6,14,18).そして,近年その胎内出生前診断法の進歩と共に胎生期におけるlegal terminationの適応8,11,22)という手段が導入されはじめた.また,一方では,胎内出生前治療も考慮され1,12),中枢神経系奇形の臨床は,新たな歴史段階を迎えつつあるといえる.
 本邦においての実際の臨床にあたって,α—fetopro—tein等のマーカー検査は徹底するに及ばず,中枢神経系奇形の出生前診断法には画像診断法が広く普及するに至っている.そのため多くの中枢神経系奇形は,legal ter—minationの許容期間を過ぎたthird trimesterに診断されているのが現状である9,19).これらの本邦における諸問題を前提として自験の症例の分析を行い,中枢神経系奇形の臨床における今後の課題を検討した.

症例

脳内出血に続発した脳膿瘍の1例

著者: 栗原秀行 ,   三井恒太 ,   河野徳雄

ページ範囲:P.1037 - P.1040

I.はじめに
 脳血管障害に続発した脳膿瘍の報告は稀であり,しかも大部分は閉塞性脳血管障害1,4,5,10-12)に続発した症例で,脳内出血に続発した脳膿瘍の報告は5例2-4,6)に過ぎない.この度われわれは右被殻出血後4カ月を経て血腫部に脳膿瘍が続発した1例を経験し,穿刺排膿術にて全治せしめたので若干の文献的考察を加えて報告する.

小脳橋角部より発生した顔面神経鞘腫の1例

著者: 片山伸二 ,   坪井雅弘 ,   鈴木健二 ,   国友忠義

ページ範囲:P.1041 - P.1046

I.はじめに
 神経鞘腫は原発性頭蓋内腫瘍の約8%を占め,多くは聴神経,三叉神経などから発生し,顔面神経から発生することは比較的稀である,1930年Schmidt49)が最初に報告して以来,本邦を含め150余例の報告があるが,多くは側頭骨内の顔面神経より発生したもので,小脳橋角部(以下c-p angle)に発生した症例は極めて稀であり,今までに数例報告されているに過ぎない2,12,45).今回われわれはc-p angleに発生した顔面神経鞘腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

頭蓋内原発T Cell Type悪性リンパ腫の1例

著者: 吉野公博 ,   伊藤隆彦 ,   藤本俊一郎 ,   溝渕光一 ,   寺井義徳

ページ範囲:P.1047 - P.1050

I.はじめに
 近年CTの発達による頭蓋内病変に対する診断進歩により,頭蓋内原発悪性リンパ腫の報告は増加の傾向にある.悪性リンパ腫の診断は,従来形態学的な病理診断が行われていたが,治療方針や予後を考える上で免疫組織化学的検索も重要な意味を持つようになった.
 頭蓋内原発悪性リンパ腫は,ほとんどがB cell typeであり,T cell typeは稀で,現在まで8例が報告されているだけである2,5-8,11).本施設で表面マーカーを検討し,頭蓋内原発T cell type悪性リンパ腫と診断し得た症例を経験,治療したので,CT所見を中心に文献的考察を加え報告する.

鈍的外傷による椎骨動脈損傷の経験

著者: 飯田秀夫 ,   川野信之 ,   遠藤昌孝 ,   斎藤元良 ,   広瀬隆一 ,   大和田隆 ,   矢田賢三

ページ範囲:P.1051 - P.1056

I.はじめに
 鈍的外傷による頸動脈損傷は現在まで多数報告されているが,椎骨動脈損傷の報告は少ない1-32).今回,われわれは鈍的外傷により椎骨動脈損傷をひきおこし,さらに小脳および脳幹梗塞を来たした3症例を経験したので報告する.また,過去の報告例と自験例と合わせて,本症の診断,治療および予後について考察したい.

眼窩内伸展を伴う甲状腺癌の頭蓋骨転移の1例

著者: 中尾直之 ,   大岩美嗣 ,   森脇宏

ページ範囲:P.1057 - P.1061

I.はじめに
 甲状腺癌はしばしば血行性転移をきたし,頭蓋骨への転移も決して稀ではない.しかし頭蓋冠への転移で,眼窩内伸展をきたし眼球突出を呈した例は極めて稀であり,われわれが検索し得た範囲内では,その報告例は見当たらない.
 今回,われわれは眼球突出,側頭部腫瘤を主訴として来院した眼窩内伸展を伴う甲状腺癌の頭蓋骨転移の症例に対し,術前栄養血管塞栓術を施行し,これを全摘し得たので,若干の文献的考察を加えて報告する.

頭蓋内骨軟骨腫の1例—特にそのMRI像について

著者: 畑山徹 ,   関谷徹治 ,   鈴木重晴 ,   岩淵隆

ページ範囲:P.1063 - P.1066

I.はじめに
 頭蓋内骨軟骨腫(osteochondroma)は全頭蓋内腫瘍の0.1%以下を占めるとされる極めて稀な脳腫瘍である10,11,13).これまでにそのCT像についての報告はあるが2,4,5,7,8,12,13),MRI像については報告されていないようである.われわれは,頭蓋底から発生した骨軟骨腫の1例を経験し,CT,MRIにて検索する機会を得たので報告する.

Microfibrillar Collagen Hemostat(Avitene®)の脳内使用後に特異なCT像を呈した3例

著者: 権藤学司 ,   山下俊紀 ,   石渡祐介 ,   枚田一広 ,   佐藤正純

ページ範囲:P.1067 - P.1071

I.はじめに
 脳神経外科の手術においては,他の領域の手術と比較して確実な止血操作が要求され,従来より各種の局所止血剤が使用されてきた.最近開発された微線維性コラーゲン止血剤(microfibrillar collagen hemostat,以下Avitene)もその1つで,優れた止血効果をもつことから外科,整形外科,脳神経外科領域などで広く使用されている1,8-10).しかしAviteneは牛真皮由来の異種蛋白であり,生体内での吸収の遅延や抗原性等の問題が指摘されてきた.今回,著者らはAviteneの脳内使用後に脳膿瘍,残存あるいは再発腫瘍に類似した造影CT像を呈した3例を経験したので報告する.

MRIにより確定診断し得た特発性脊髄硬膜外血腫の1例

著者: 金井真 ,   江頭誠 ,   村田高穂 ,   岩井謙育 ,   関昌彦

ページ範囲:P.1073 - P.1076

I.はじめに
 脊髄硬膜外血腫(spinal epidural hematoma)は比較的稀な疾患であり,また胸髄領域の病変の診断は従来のレントゲン学的診断法の弱点である.最近著者らは,突然の背部痛により発症し胸髄CT scanで新生物を疑わせたが,magnetic resonance imaging(以下MRIと略す)により硬膜外血腫の確定診断を得,手術により著明な症状の改善を認めた,胸髄部特発性脊髄硬膜外血腫の1例を経験したので報告し,文献的に考察を加える.

骨増殖性変化を示した肺癌の頭蓋骨転移の1例

著者: 上野雅巳 ,   板倉徹 ,   奥野孝 ,   中井國雄 ,   林靖二 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.1077 - P.1081

I.はじめに
 悪性腫瘍の骨転移は原発巣の治療が進歩し,生存期間が延長されるにつれ,近年増加の一途をたどっている.骨転移を好む悪性腫瘍は肺癌,乳癌,大腸癌,膀胱癌などである.そのうち肺癌の骨転移は一般的に骨破壊型であり,骨増殖型転移を示すものは極めて稀でわれわれの調べ得た範囲では報告例はみあたらない.今回骨増殖型頭蓋骨転移を認めた肺腺癌の1例を経験したので骨転移様式を中心に文献的考察を加えて報告する.

DICを合併した破裂脳動脈瘤2症例についての検討

著者: 豊田収 ,   野尻健 ,   中島英雄

ページ範囲:P.1083 - P.1087

I.はじめに
 DIC(Disseminated intravascular coagulation)は前川らによると年間2-5万人の発病が推察されており8),臨床上遭遇することの多い疾患と言えるが,診断面,治療面等で未解決の問題も多く,死亡率も高い疾患である.しかしながら,破裂脳動脈瘤とDICの合併例の報告は意外に稀であり1,3,6,11,12,17),その診断法に難しい点が存在するためと思われる.今回われわれは破裂脳動脈瘤急性期に重症DICを合併した2症例を経験し,うち1例においては手術待機中に比較的急激な経過で進行した重症DICを合併したが,早期治療により治癒できた例を経験したので報告し,早期診断に特に入念な血液検査が必要であることを強調したい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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