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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科17巻12号

1989年12月発行

雑誌目次

ゴルフェッサー—脳神経外科医の栄光と悲惨プロローグ

著者: 朝倉哲彦

ページ範囲:P.1095 - P.1096

 開頭の際にもっぱらGigliの線鋸を用いていた時代には,脳神経外科医が運動不足を訴えることなど全くなかった.尤も食糧事情も余りよくなかった上に,麻酔用酸素ボンベを運搬したり,麻酔器のバッグを手で押し続けたりで,結構肉体労働が激しかったからでもあろう.
 いつの頃からか,脳神経外科医が運動不足をかこつようになったのである.気が付いてみると,エアトーム,キューサー,レーザーと人力に変って作業をすすめるツールがやたらに導入され,顕微鏡下に微細な手術をやっていると,肩凝りは起っても,決して運動をやったことにならない.私の恩師の一人は,手術中は脳幹網様体を刺激するために立ってやれとおっしゃっていたが,最近ではanastomosisのためにやむを得ず座ってやる機会も増えている.

解剖を中心とした脳神経手術手技

ニューロナビゲーター

著者: 渡辺英寿

ページ範囲:P.1097 - P.1103

I.はじめに
 CTスキャンやMRIなどのような,コンピュータを用いた画像診断装置の登場によって,脳神経外科領域における診断法は画期的な進歩を遂げた.これらのコンピュータを用いた画像診断法は,一連の2次元断面画像として表示されるのが通例であるが,断面上にX軸Y軸を,断面に垂直にZ軸を想定すると,これはとりもなおさず頭蓋内構造が3次元座標として表わされていることにほかならない.われわれはこのことを通常,無意識のうちに了解し,3次元的な観点から日常の読影を行っているわけである.しかしCTの持つこのような3次元情報を,より積極的な形で利用する手段として,CTの3次元再構成法などが既に実用化の兆をみせている3,4,10).また,同様の情報を手術中に活用する分野にCT定位脳手術法があり,やはり近年飛躍的に開発が進んでいる2,5,6).この方法の詳細はすでに本シリーズにも伊関による解説がある5)
 この方法により穿頭孔からCTで観測される脳腫瘍あるいは脳内血腫を目標にして穿刺針を挿入し,腫瘍生検や血腫吸引除去を,かなりの精度で行うことができる.しかしこれらのCT定位法は穿頭孔からの穿刺針誘導には適しているが,従来の開頭術に用いることは,はなはだ困難である.患者の頭部と穿刺針保持器を固定するフレームが邪魔になるためである.

研究

高血圧性小脳出血の臨床的検討—手術適応と血腫量測定について

著者: 吉本尚規 ,   藤田浩史 ,   太田桂二 ,   吉川正三 ,   大庭信二 ,   柴田憲司 ,   高橋勝 ,   三上貴司 ,   魚住徹

ページ範囲:P.1105 - P.1110

I.はじめに
 高血性小脳出血はCT scanの導入によって診断が極めて容易となり,血腫の大きさ,局在,脳室穿破,水頭症の有無等が正確に把握され,その結果,手術適応は血腫径(血腫径3cm以上の症例が手術の対象)を主体にして決定される様になった4,5,17).しかし最近.多数の臨床経験の積み重ねにより,血腫径3cm以上の症例でも保存的治療で予後の良好な症例が散見される様になり,この手術適応基準に疑義が持たれてきている1,8)
 われわれは高血圧性小脳出血の治療方針を導き出す目的で諸種臨床的因子,治療方法と退院時,長期機能予後について比較検討し,手術適応基準としての血腫体積測定の意義について考察を加えたので報告する.

聴神経鞘腫聴力温存企図手術における聴力消失例について—MRI導入以後の経験から

著者: 関谷徹治 ,   岩淵隆 ,   鈴木重晴 ,   畑山徹 ,   石井正三 ,   尾田宣仁

ページ範囲:P.1111 - P.1117

I.はじめに
 最近は,聴神経鞘腫の摘出に際して,有効残存聴力を温存しようとする努力がなされるようになってきたが,現状では小腫瘍であっても有効聴力温存率は極めて低い1,3,4,7,9).一方,MRIの出現によって,内耳道内における腫瘍の状態も把握できるようになり聴神経鞘腫診断は新しい局面を迎えた2).ここでは,MRI導入後,聴力温存を企図して手術をしながら,術後,聴力消失をみた5耳の経験を述べ,聴力温存手術の現況と問題点について論及する.

重症頭部外傷患者の予後判定における脳動静脈酸素濃度較差の再評価

著者: 竹内東太郎

ページ範囲:P.1119 - P.1124

I.はじめに
 脳のエネルギー源の大部分はブドウ糖代謝により産生される.このブドウ糖代謝を中心とする脳代謝を臨床で評価する方法として,局所脳代謝ではpositron emis—sion tomography(PET)を中心とする局所脳酸素代謝率(regional cerebral metabolic rate of oxygen content:rCMRO2)や局所脳ブドウ糖代謝率(regional cerebralmetabolic rate of glucose:rCMRG)の測定が広く行われている8,9,17.一方,全脳代謝の評価として,脳室内lactoacidosis測定5)や脳動静脈酸素濃度較差(cerebralarterio-venous difference of oxygen content:c—AVDO2),脳酸素代謝率(CMRO2)の算出などが行われている8,9)
 今回は患者の生命予後という観点より,脳挫傷が主病態である重症頭部外傷患者10例を対象として,従来臨床で行われている全脳代謝の判定因子の1つであるc—AVDO2の再評価を行った.

髄膜腫術後再発例の検討

著者: 梶原浩司 ,   札場博義 ,   津波満 ,   植田浩之 ,   三谷哲美 ,   西崎隆文 ,   青木秀夫

ページ範囲:P.1125 - P.1131

I.はじめに
 髄膜腫は全ての原発性頭蓋内腫瘍の約21.5%17)を占めており,一般に良性で発育は緩徐であり,外科的全摘出により治癒が可能といわれている.しかし,2.3%から30%の再発率が報告されており3),外科的摘出後も少なからず再発が生じているのが現状である.今回われわれは,髄膜腫の再発例に関してretrospectiveに検討し,再発に関与する因子を臨床像および組織学的見地より検討を加えた.

Diffuse Axonal Injuryの診断におけるMagnetic Resonance Imaging(MRI)の意義

著者: 横田裕行 ,   小林士郎 ,   中澤省三 ,   辻之英 ,   谷口禎規

ページ範囲:P.1133 - P.1138

I.はじめに
 以前より頭蓋内血腫や脳挫傷を伴うことが少ない一方,軸索損傷や小血管の破綻による点状出血を多数認め,予後が不良である病態の存在が知られており,剖検例の検索からdiffuse degeneration of the cerebral whitematter(Strich),shearing injury of the brain(Peerless)あるいはcentral cerebral trauma(Jellinger)などの名称8,14,18,19)で呼ばれていた.近年,AdamsやGennarelliらはdiffuse axonal injury(DAI)としてこのような病態を詳細に検討1,4)している.これらに共通する所見としては,白質,基底核,脳梁,脳幹部,脳室上衣下,脳室内の小出血あるいは虚血性変化が知られている.しかし,過去の報告はいずれも剖検例あるいは重症例を中心とした病理学的及びCT所見でありMagnetic resonance imaging(MRI)所見や軽症例,中等症例に関する報告は少ない.われわれは,DAI症例のMRIによる検索からこれらの症例の診断,病態の把握に対するMRIの有用性について考察し若干の知見を得たので報告する.

脳原発悪性リンパ腫の腫瘍血管の超微形態

著者: 越智章 ,   柴田尚武 ,   森和夫

ページ範囲:P.1139 - P.1143

I.はじめに
 脳原発悪性リンパ腫の腫瘍血管について他の脳腫瘍と超微形態学的に比較,検討を行った.

MRIによる血管閉塞部位の推定—脳梗塞例における検討

著者: 関原芳夫 ,   今野公和 ,   川口正

ページ範囲:P.1145 - P.1151

I,はじめに
 脳梗塞のMRI所見については,急性期よりT1強調画像でlow intensity,T2強調画像でhigh intensityを呈し,CTで所見の認められない超早期に病巣を認めることもあり,その有用性が報告されている.一方,MRI画像上血流のある部位は黒く抜けて描出され,signalvoid phenomenonといわれ,脳動脈瘤の診断,経過観察などにも利用されている.今回われわれはこの現象に着目し,脳梗塞症例について特にその病変血管に注目して検討したところ若干の所見が得られたので報告する.

症例

外傷性脳血管障害に対するバルビタール療法の経験

著者: 谷中清之 ,   目黒琴生 ,   塚田篤郎 ,   杉本耕一 ,   久保洋昭 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.1153 - P.1157

I.はじめに
 バルビタール系薬物は,脳保護作用を示す薬物として知られており1),近年臨床に於いても有用との報告が散見される.しかし,バルビタール療法の適用される範囲は限られており,主に頭部外傷後の脳圧亢進状態及び破裂脳動脈瘤後の脳血管攣縮に対して用いられている.今回われわれは外傷に起因する脳虚血病態にバルビタール療法を施行し,良好な結果を得,今後バルビタール療法の臨床への応用範囲が広がる可能性が示唆されたので報告する.

分娩外傷による新生児後頭蓋窩硬膜下血腫—保存的療法の2症例

著者: 菅野三信 ,   下瀬川康子 ,   小沼武英

ページ範囲:P.1159 - P.1164

I.はじめに
 分娩外傷による頭蓋内出血の中で,後頭蓋窩硬膜下血腫は比較的稀で重症例が多く,それらは延髄の呼吸中枢の圧迫により急激な臨床経過をたどり死亡することが多い.そのため生前に診断,治療される症例は少なかったが,最近のCTの普及に伴い救命される例も散見されるようになった.われわれは2例の分娩外傷による後頭蓋窩硬膜下血腫症例を経験したが,いずれもCT上血腫は厚かったものの非手術的治療により軽快したのでCTスキャンの経時的変化を呈示し報告する.

両側性椎骨動脈狭窄に対するPTAの1例

著者: 田中公人 ,   和賀志郎 ,   小島精 ,   清水健夫 ,   小川裕之 ,   坂倉充 ,   宮崎真佐男

ページ範囲:P.1165 - P.1168

I.はじめに
 従来,動脈硬化性椎骨動脈狭窄による椎骨脳底動脈血流不全に対する外科的治療には種々の血管手術法があるが,最近,より簡便で有効な治療法としてpercu—taneous transluminal angioplasty(PTA)が施行されている.PTAはDotterとJudkins7)らにより始められ,Gruntzig balloon catheterの導入により冠状動脈,腎動脈等の全身の閉塞性血管病変に対して広く施行されるようになり良好な結果が得られている18).しかしPTAの脳神経外科領域病変への適応には,梗塞などの合併症が大きな障害となるため症例の選択が必要とされる.今回,われわれは椎骨脳底動脈血流不全により発症し内科的治療が無効であった両側性の椎骨動脈起始部狭窄病変を有する症例にPTAを施行し良好な結果を得たので,閉塞性脳血管病変に対するPTAの適応および問題点につき文献的考察を加えて報告する.

後大脳動脈—後側頭動脈分岐部動脈瘤の1例

著者: 吉永真也 ,   福島武雄 ,   平川俊彦 ,   朝長正道

ページ範囲:P.1169 - P.1173

I.はじめに
 後大脳動脈瘤は,脳動脈瘤の中でも比較的少なく,Pia10)らはすべての脳動脈瘤の1%とも,椎骨脳底動脈瘤の15%とも述べている.今回著者らは,脳内出血で発症した四丘体槽部後大脳動脈瘤1例を経験したので,これまでの報告例と合わせて文献的考察を加えて報告する.

クリッピング9年を経過し,急性硬膜下血腫を伴った破裂中大脳動脈瘤の1例

著者: 新村富士夫 ,   中鳥智 ,   丸山敏文 ,   東幸郎

ページ範囲:P.1175 - P.1179

I.はじめに
 急性硬膜下血腫の発生原因として,頭部外傷による脳挫傷,動脈瘤や脳動静脈奇形からの出血,血液凝固異常,転移性硬膜腫瘍,特発性硬膜下血腫などがある9).破裂脳動脈瘤に基づく頭蓋内出血のなかで,脳占拠性病変を示し緊急手術を要する急性硬膜下血腫は比較的稀である1-4,6-8,10-15).今回,1例を経験したので文献的検討を加えて報告する.

Intrasellar GangliocytomaとPituitary Adenomaの合併例

著者: 田鹿安彦 ,   久保長生 ,   竹下幹彦 ,   田鹿妙子 ,   清水隆 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.1181 - P.1186

I.はじめに
 中枢神経系におけるgangliocytomaは稀な腫瘍であり,本邦では0.2%の頻度である19).好発部位は第三脳室底が多いとされていたが10,23),最近は側頭葉が最多14,28)で,小脳,頭頂後頭葉,前頭葉,脊髄にも発生することが報告されている12-14).トルコ鞍内の発生は渉猟しえた範囲で31例の報告がある1-3,5-9,11,15-18,20-2224-26)
 今回われわれはGH産生下垂体腺腫の疑いで手術を行った症例にintrasellargangliocytomaの合併を認めた極めて稀な1例を経験したので報告する.

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ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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