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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科17巻2号

1989年02月発行

雑誌目次

Lights in the Great Darkness—脳神経外科の将来

著者: 永井政勝

ページ範囲:P.107 - P.108

 表題の"Lights in the Great Darkness"はワイルダー・ペンフィールドが1971年のHarvey Cushing orationで掲げたものである(J Neurosurg 35:377-383,1971).この時Harvey Cushing Societyは丁度創設40周年目であった。日本脳神経外科学会は先般創立40周年を盛大に祝ったが,単純計算で行くと米国に17年先を越されているということになる.ペンフィールドはこの演説の中で,前世紀から発展のめざましいNeurologyが治療の面ではなお無力であることにあきたらない人々が,天才的なクッシングを中心にして夢を追い求め,殆ど未開の暗黒の領域に次々と光をともして行く過程を描いている.そして手術手技も発展して来たがそれだけに満足していられず,脳神経外科医であると同時に神経生理学者としての眼を持てるようになってはじめて水平線のかなたにあまたの光を見ることが出来るようになったと言っている.彼の偉大な業績を思えばまことによく理解できる言葉である.彼にはまたカハールのもとでの研鑽に基いた神経病理学の大著書があるのも御存知の通りである.
 1965年の秋,ペンフィールド博士がたまたま東大脳神経外科に来られる機会があり,この偉大な学者の謦咳に接することが出来た.佐野教授が椿山荘に招待され,ともに食事をしながらわれわれ若い医局員にもまことに気さくに話しかけられた.

総説

神経病理学における選択的脆弱性(Selective Vulnerability)の問題—最近の研究から見たC. Vogt,O. VogtとW. Spielmeyerとの間の歴史的論争

著者:

ページ範囲:P.109 - P.116

 近年,神経科学の大幅な進歩がみられた.神経解剖学・神経生理学・神経化学の分野で得られた知識を疾患プロセスの研究に役立てることが多くの場合可能となった.同時に,神経疾患の病理学とその解剖学的基礎を実験的に研究することに強い関心がはらわれるようになった.それと並行して脳疾患に際しての選択的脆弱性の現象の重要性が認識され,実験的研究—例えば,脳虚血の実験的研究—が開始される重要な契機となった(Kogure et al, 1985).神経病理学の伝統は長い.特に選択的脆弱性の現象は研究の当初から研究者を魅了し,はげしい論争を呼び起こした.選択的脆弱性のメカニズムに新たな関心が寄せられるようになって,歴史上の論争の数々の争点が再び取り上げられるようになった.この総説の目的は,ドイツの神経病理学における選択的脆弱性論争の歴史的な記載をすることである.脳疾患の根本に関する最初の論争は,脳研究者のC. Vogt,0. VogtとW. Spielmeyerとの間で行われた.
 その論争を記述する前に,いくつかの規定と限定をしておく必要があると思う(Scholz, 1957:Cervos-Navarro, 1980:Brierley and Graham, 1984).

研究

くも膜嚢胞の検討—特に中頭蓋窩発生例を中心にして

著者: 坂井昇 ,   熊谷守雄 ,   上田竜也 ,   岩村真事 ,   西村康明 ,   三輪嘉明 ,   清水言行 ,   平田俊文 ,   安藤隆 ,   山田弘

ページ範囲:P.117 - P.123

I.はじめに
 computed tomographic(CT)scansの進歩・普及および最近ではmagnetic resonance imaging(MRI)の登場により頭蓋内嚢胞性病変の診断は容易となり,さらに偶然に発見される例も加わって多くの症例に遭遇するようになった.特にMRIはその解剖学的情報を詳細に提供してくれる.頭蓋内嚢胞性病変中くも膜嚢胞(arachnoidcyst, AC)の発生頻度は高いものの,成因・定義に関しては曖昧な点が多く十分確立したとは言い難く,かつ治療方針についても異論がある.本稿では自験AC例を通して,症候,神経放射線学的診断,手術適応および予後などの点に検討を加え,若干の知見を得たので報告する.

EC-ICバイパス術の血行動態モデル解析—第2報 浅側頭動脈に関する検討と内頸動脈狭窄モデルの臨床応用解析

著者: 長澤史朗 ,   菊池晴彦 ,   大槻宏和 ,   森竹浩三 ,   米川泰弘

ページ範囲:P.125 - P.132

I.はじめに
 第1報(前報)ではautoregulationを考慮した流体および理論解析モデルを用いて,内頸動脈狭窄症ならびにEC-ICバイパス路を設置した場合の血行動態の解析を試みた.ところでバイパス路(多くの場合浅側頭動脈:STA)それ自体の内径や長さといった形状については,従来から吻合手技上の関連で議論されてはいたが19),4,0-7,5ml/minから74-86ml/minと報告されている13,19)その開放端流量との関連で検討されることは少なかった.また一般に内径と流量とはPoiseuilleの法則に従うとされているが11),この臨床的な事象への応用には後述のようにいくつかの問題が含まれている.さらにEC—ICバイパス術の共同研究17)の結果を受け止める際に,どのような血行動態の症例に本手術が施行されてきたかの詳細な検討は重要であるが,いまだ充分になされてはいない.
 本報ではSTAの形状と流量との関係を流体モデルを作製して検討した.また理論解析モデル応用の一例として,内頸動脈狭窄症例で全身血圧が低下した場合の血行動態,ならびに血圧低下時に既に設置してあったバイパス路による低灌流予防効果と,血圧を上げた場合の効果の相違について,模擬実験を行った.さらにSTA—MCA吻合術時に皮質動脈内圧とバイパス流量とを測定し,モデル実験で得られた結果と比較した.

脳動静脈奇形における頭蓋内出血の臨床的意義—特に,脳室内出血について

著者: 宮坂佳男 ,   田中柳水 ,   常盤嘉一 ,   市川文彦 ,   諏訪知也 ,   高野尚治 ,   大高弘稔 ,   倉田彰 ,   遠藤昌孝 ,   斉藤元良 ,   矢田賢三 ,   北原孝雄 ,   大和田隆

ページ範囲:P.133 - P.138

I.はじめに
 種々の原因に起因する脳室内出血(IVH)の報告は数多く見られる1,2,4,5,8,9,11,13).脳動静脈奇形(AVM)に伴うIVHと神経症状およびその予後についてもPia9,10)が詳細な報告を行っている.しかし,CT出現以降のAVMとIVHに関する報告は10例未満を対象としているにすぎない1,2,4,5,8,11,13).従って,AVMに起因するIVHについて,十分に把握されていない可能性がある.われわれはCTにて確認された,AVMに起因する頭蓋内出血について臨床的分析を行い,特にIVHが出血後急性期におけるAVM症例の神経症状およびAVMの治療成績にどの程度関与するか検討したので報告する.

特発性頸動脈海綿静脈洞瘻—脳血管写所見に基づいた治療法の選択について

著者: 水野誠 ,   高原衍彦 ,   松村浩

ページ範囲:P.139 - P.146

I.はじめに
 Carotid-cavernous sinus fistula(CCF)は,その発生機転によりtraumatic CCF(TCCF)とspontaneous CCF(SCCF)に分けられる.TCCFは,内頸動脈本幹と海綿静脈洞が直接交通する‘direct shun’を有し,しかもhigh flowであるがゆえに重篤な眼症状を呈することが多い.しかしその治療法については,血管内手術法の発達に伴ってdetachable balloonを用いた瘻孔閉塞が劇的に効を奏し,現在では確立された治療法になりつつある2)
 一方SCCFに対してはいまだ確立された治療法はなく,保存的療法6,7),放射線療法9),さらに症例によっては種々の栓塞物質を用いたembolization1)やballoon法2)が行われており,また最近では直達手術によって静脈洞内にoccluding spring embolusを挿入したり4)elec—trothrombosisを行った報告11)もみられる.元来SCCFはTCCFと異なりdirect shuntをもつものはむしろ少なく5,8),大部分は内頸,外頸動脈の硬膜枝と海綿静脈洞が交通(dural shunt)して起こる一種の硬膜動静脈奇形と考えられており5,8),関与する流入動脈の数と分布により種々の複雑なarteriovenous networkを形成している.

頭皮熱傷瘢痕癌7例の検討

著者: 坂本哲也 ,   峯浦一喜 ,   菊地顕次 ,   古和田正悦 ,   今野昭義

ページ範囲:P.147 - P.151

I.はじめに
 Marjolinによる詳細な報告10)以来,瘢痕組織を発生母地とする悪性腫瘍はMarjolin ulcerと呼ばれて予後不良であり18),とりわけ頭皮瘢痕に発生した有棘細胞癌は頭蓋骨や脳組織へ浸潤するため,治療が困難である4,6,11,14,16,18)
 私たちはこれまでに頭皮熱傷瘢痕癌の7例を経験しているので,特徴的臨床像,治療および予後について検討して報告する.

Anterolateral Uncoforaminotomy for Cervical Spondylotic Monoradiculopathy

著者: ,   ,  

ページ範囲:P.153 - P.158

 Twenty patients with cervical spondylotic monoradi—culopathy treated with anterolateral uncoforaminotomy were analysed.Spondylotic spur of the level associated with radiculopathy was revealed to be continuous from the uncovertebral joint to the posterior ridge of the ver—tebral body in 18 patients and was observed postero—laterally in two.Anterolateral uncoforaminotomy wasfound to safely remove the continuous type of spur, re—sulting in decompression of the cord-root complex,which shifted anteriorly after surgery.As a result, no neurological symptoms were observed in 19 of 20 radi—culopathy patients.

症例

Cis-platinを主体とした化学療法が著効を呈した卵巣癌の1例

著者: 相場豊隆 ,   小山京 ,   渡辺達雄 ,   宮沢登

ページ範囲:P.159 - P.161

I.はじめに
 これまで転移性脳腫瘍の治療には専ら手術,放射線療法が用いられ化学療法は補助的な治療に留まることが多かった.
 今回われわれはCis-platinを含む化学療法のみでCT上完全寛解を見た卵巣癌の脳転移例を経験したのでここに若干の考察を加えて報告する.

脳腫瘍の放射線治療とCerebrovasculopathy

著者: 京井喜久男 ,   桐野義則 ,   榊寿右 ,   角田茂 ,   橋本宏之 ,   平松謙一郎 ,   内海庄三郎

ページ範囲:P.163 - P.170

I.はじめに
 近年,悪性脳腫瘍に対して化学療法剤と放射線照射による強力な治療が行われるようになり,著しい効果を上げている.しかし,一方では,放射線照射による種々の副作用や二次的障害が報告されるようになり,なかでも,白質脳症や脳血管障害などの重大な中枢神経系の障害は患者の一生を左右する点で重大な問題として論議されている.
 1967年,Leeら8)が,脳腫瘍の放射線治療後に脳血管障害を発生したradiation vasculopathyと考えられる小児例を報告して以来,同様の症例が漸次報告されてきている.

胸椎,腰仙椎に発生したSpinal Lipomaの1乳児例

著者: 本田英一郎 ,   林隆士 ,   宇都宮英綱 ,   佐藤洋介 ,   橋本武夫 ,   堀川瑞穂 ,   徳永孝行

ページ範囲:P.171 - P.175

I.はじめに
 Spinal lipomaは1857年Johnson14)が二分脊椎に合併した乳児例を報告したのが最初で,ついで1876年Gowers11)が脊髄円錐部の脂肪腫を報告している.いずれも乳児の二分脊椎などの閉鎖不全症の存在下に見い出されており,脊髄脂肪腫は先天奇形との相関がある9).本例は胸椎と腰仙骨部に多発した脊髄脂肪腫であり,側彎症を合併していた.特に乳児例での胸椎脊髄脂肪腫の報告は数少ない.ここに貴重な1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

老年者外傷性脳内血腫とTalk and Deteriorate

著者: 柴田尚武 ,   森和夫

ページ範囲:P.177 - P.180

I.はじめに
 Talk and deteriorateの経過をとった老年者外傷性脳内血腫2例(遅発性脳内血腫と短時間の血腫拡大)を報告し,臨床的特徴とrepeated computed tomography(CT)の必要性について検討を加えた.

Syringomyeliaを伴った頸髄髄外腫瘍の1例

著者: 西浦巌 ,   小山素麿 ,   阿部和夫 ,   亀山正邦

ページ範囲:P.181 - P.185

I.はじめに
 Gardner5)の報告以来,脊髄空洞症は脊髄の変性疾患でなく,その多くがChiari奇形の二次的変化であることは,疑いのないこととなった.また,脊髄空洞症の主要な原因として,脊髄髄内腫瘍があることも今日では周知のことである1).しかし,脊髄髄外腫瘍に脊髄空洞症が合併したという報告は,極めて少ない.
 われわれは,17年前に発症し,その後平山氏病と診断され,神経脱落症状が徐々に進行してきたため,その時々に脊髄撮影,CT,MRIなどの検査を受けてきた症例を経験した.

軽度外傷後に生じたと思われる脊髄髄内空洞(嚢胞)の1例

著者: 佐藤慎哉 ,   溝井和夫 ,   藤原悟 ,   天笠雅春 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.187 - P.191

I.はじめに
 脊髄外傷を契機として,脊髄髄内に空洞を形成する外傷性脊髄空洞症は,脊髄外傷症例の0.3-3%に生ずる比較的稀な疾患とされているが,近年MRI等の画像診断の発達にともない脊髄髄内疾患への関心が高まり外傷性脊髄空洞症の報告例も散見されるようになってきた.しかしながらこれらの報告の多くは,対麻痺・四肢麻痺を生ずる重症の外傷後に発生したものであり,軽微な外傷後の報告例は少ない.
 今回著者らは,軽度の頸椎外傷に起因したと思われる脊髄髄内空洞(嚢胞)の症例を経験したので,その臨床経過と発生機序に関し若干の文献的考察を加え報告する.

腫瘍内出血を繰り返した頭蓋内Radiation Induced Fibrosarcomaの1例

著者: 山本章代 ,   橋本信夫 ,   山下純宏 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.193 - P.196

I.はじめに
 放射線治療後に発生する頭蓋内肉腫は,よく知られた放射線治療の副作用の一つであるが,頭蓋咽頭腫の放射線治療後9年後に出血性梗塞を思わせる腫瘍内外出血を繰り返したfibrosarcomaの症例を経験したので報告する.

Von Recklinghausen病に合併した大脳半球内Multifocal Gliomaの1例

著者: 向井完爾 ,   北村克司 ,   浅野登 ,   大島勉 ,   本藤秀樹 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.197 - P.202

I.はじめに
 Von Recklinghausen病に,gliomaの合併をみることはさほど稀ではない18).特にoptic gliomaの合併例は数多く報告されている17)が,大脳半球glioma合併例の報告は比較的少ない.また本症例のごとく同一大脳半球内に多発性gliomaの発生をみたとする報告は極めて稀である.今回,われわれは,本症例の腫瘍組織について,電顕像とともに,免疫組織化学的検討を加えたので,報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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