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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科17巻3号

1989年03月発行

雑誌目次

今年の初夢

著者: 和賀志郎

ページ範囲:P.211 - P.212

 「40過ぎたら人を褒め」と説教されたのは東海地域に来てからだ.前任地が討論の自由の本家家元のようだったので,東北の片田舎で素直に育った男が,都に出て身につけた悪癖はかなり悪性でなかなか治癒しなかった.ようやく10年経って生存率が何%かに向上したのか,何かの薬物が効を奏したのか,最近は褒めることが多くなった.褒めないまでも悪口を言わないように気をつけている.知らない人は老化したのか痴呆化したのかと思っているに違いない.「違うんです.人格が高貴になったんです.」と広告を出したい位だ.
 教官生活も20年以上になった.自分では良い事をして来た方が多いと信じているから辞表を出さなくてよいというものだろう.教官殿にはどういうわけか,多分他所では勤まらないためなのだろう,変人奇人が多いと信じられている.多分自分もそう思われているのだろうが,その本人でさえ奇人変人とはこのような人かと思う人が必ずいる.これらの人々が"まとも"で,こちらが"変"なのかと錯覚(?)するほどである.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(2)Oligodendroglioma(乏突起膠腫)

著者: 森照明

ページ範囲:P.213 - P.222

I.はじめに
 Oligodendroglioma乏突起膠腫(OLG)は1926年Baily and Cushing1)によりoligodendrocyteから発生するgliomaとして分類され,3年後Baily and Busy2)がその臨床,病理像について初めて13例を報告した.その後現在まで多くの報告が見られるが近年,その病理学的所見については議論の多いところである.従来,光顕上本腫瘍と診断されたもののなかに,電顕や免疫組織学的検索の結果,別の脳腫瘍と確診されるものが増え5,16,18,43),光顕上特徴的とされた所見は,いろいろな脳腫瘍が示しうる一形態にすぎないと言う意見や,OLGの存在を疑問視する声もある19).一方ではtight junction等特有所見とする意見もあり,発生,分類,診断上種々の問題点が指摘されている15).従って現時点ではOLGの診断は光顕,電顕所見にさらに免疫組織学的検索,臨床データの検討を加え,総合的な判断で行うことが大切である.
 ここではこれまで報告されてきたOLGの病理組織学的所見を中心に述べる.

研究

同時に発生した多発性高血圧性脳内出血の検討—5症例の報告と文献的考察

著者: 丹野裕和 ,   小野純一 ,   須田純夫 ,   烏谷博英 ,   山上岩男 ,   礒部勝見 ,   渡辺義郎

ページ範囲:P.223 - P.228

I.はじめに
 CTの出現以来,高血圧性脳内出血に関しては詳細な研究が相次いでいる.しかし,同時に多発性に発生した例は極めて稀で,これまでに数例が報告されているにすぎず,さらにその多くはテント上の両側大脳半球に限局している 1,4,7,9,11-16).今回著者らは,当院において1982年から1986年までの5年間と千葉県救急医療センターにおいて1980年から1984年までの5年間に,主にCTにて診断した高血圧性脳内出血679例の中で,同時に発生した多発性脳内出血5症例(うち3症例はテント上下に発生)を経験したので報告する.またこれらの5症例を中心に文献例と対比し,主としてその臨床像,病態,手術適応,予後について検討を加えた.

脳内増殖腫瘍のMHC抗原制御機構に関する分子生物学的解析(第1報)

著者: 山崎俊樹 ,   菊池晴彦 ,   山下純宏 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.229 - P.237

I.はじめに
 主要組織適合複合体(Major Histocompatibility Com—plex, MHC)抗原は多重遺伝子群(26-32遺伝子)より構成されており,極めて遺伝的変異性に富み,その多型性が細胞障害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte, CTL)や抗体などとの自己識別機構において"self"receptor分子あるいは抗原決定基として適切に対応するという免疫学的役割の重要性が指摘されている.さらに,MHC抗原は腫瘍に対する宿主の生体防御機構に重要な役割を担っている免疫応答遺伝子とも密接に連鎖していることから,腫瘍のtumorigenicityあるいはimmunogenicityにも影響を及ぼす遺伝子産物としての機能を有しているものと考えられている4,5,7-9,26-29,31).近年,飛躍的に発展した遺伝子組換え技術や分子生物学的手法は,生体組織や培養細胞株などからDNAあるいはメッセンジャーRNA(mRNA)を抽出し,これに対する相補的塩基配列を有するDNA(complementary DNA, cDNA)のクローニングを可能にし,遺伝子DNAコードの解析を可能にしている.最近,MHC抗原系においても抗原認識機構の調節系に関与した遺伝子が存在し,他の遺伝子制御機構におけると同様に,遺伝子発現(転写・翻訳)と最終遺伝子産物の生成が直列的に連関していると示唆されている21,23,30)

脳血管奇形における脳血流異常—Cold Xenon CT法による検討

著者: 内田耕一 ,   田村清隆 ,   高山秀一 ,   小滝浩平 ,   河瀬斌 ,   志賀逸夫 ,   戸谷重雄

ページ範囲:P.239 - P.246

I.はじめに
 脳血管奇形の循環動態を把握し,周辺正常脳組織がどのような影響をうけるかを知ることは,その臨床症状,外科的治療の是非を検討する観点からも重要である.しかし,脳血管奇形周辺脳組織の循環動態に関して,CT,脳血管撮影により得られる情報は少ない.脳動静脈奇形(以下AVM)に関しては,従来より種々の測定法を用いた検討がなされ,その周辺脳組織の循環動態に言及した報告が散見されるものの1,3,7,12,13,15,17,21),AVM周辺に乏血域が存在するか否かに関し必ずしもその結果は一致せず,また他の脳血管奇形に関しては,その循環動態及び周辺脳組織への影響に着目し詳細に検討した報告はない.今回われわれは,AVM,ガレン大静脈瘤(以下AVG),脳静脈性血管腫(以下VA)等の種々脳血管奇形における周辺部脳血流量をXenon-enhanced CT法(以下Xe CT)により測定し若干の知見を得たので報告する.

びまん性軸索損傷の臨床と病理

著者: 中沢省三 ,   小林士郎 ,   横田裕行 ,   志村俊郎

ページ範囲:P.247 - P.253

I.はじめに
 近年,頭部外傷を,脳損傷の力学的発生機序から,局所性損傷(focal injury)とびまん性脳損傷(diffuse braininjury)に大別する傾向にある6).衝撃の力学的機序により,主に脳の限局した部位に損傷が生じた場合を,局所性損傷と呼び,脳全体に損傷が及んだ場合をびまん性脳損傷として区別している.具体的には,前者には,大脳皮質の挫傷や硬膜上,下血腫,脳内血腫などが入り,後者には,脳振盪をはじめ,びまん性脳腫脹,大脳基底核部出血,脳室内出血,脳幹損傷,軸索損傷など多くの病態がこれに包括される4,11,14,19,23)
 Gennarelli8)は,びまん性脳損傷を,Table 1に示すように,意識障害の程度と神経学的所見から,脳振盪群と遷延性意識障害群に分かち,遷延性意識障害群をびまん性軸索損傷(diffuse axonal injury)と定義している.

難治性めまい症例に対する椎骨動脈起始部の屈曲矯正と星状神経節切除の有用性について

著者: 西嶌美知春 ,   原田淳 ,   野上予人 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃

ページ範囲:P.255 - P.261

I.はじめに
 反復するめまい発作を主訴として脳神経外科を受診する患者は少なくないが,その多くの症例では十分に原因の検索がなされないまま内科治療を受けているものと思われる.外科治療としては,Powers syndrome12)やSubclavial steal syndrome等のように血流障害の部位が明らかな疾患に限られており,最近では第8神経に対する神経血管減圧術6)等も試みられている.
 著者らは難治性のめまい発作をもつ症例に対して脳血管撮影を行ってきたが,その約88%の症例で椎骨動脈起始部に病変を認めることができた.また,このうち薬物治療にて十分に効果の得られない症例やめまいの再発した54例に対して,椎骨動脈起始部の屈曲の矯正と星状神経節切除の併用を行った.本論文では,はじめにこの椎骨動脈撮影所見について検討し,次に薬物及び外科治療の成績について調べたので報告する.

症例

内頸動脈内膜剥離術後に瘢痕性内頸動脈狭窄を来した1例

著者: 新川修司 ,   山川弘保 ,   小林裕志 ,   服部達明 ,   大熊晟夫

ページ範囲:P.263 - P.266

I.はじめに
 最近,頸部頸動脈閉塞性病変に対する手術適応,手技に関する見解は,ほぼ確立されつつあると思われるが,手術に伴う合併症も数多く報告されており2-4,12),安易に行うべきものではない.われわれは頸動脈内膜剥離術(CEA)後,周囲軟部組織の瘢痕収縮に伴い,顎二腹筋,舌下神経および外頸動脈枝による絞扼により頸動脈に再狭窄を来した症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

高ナトリウム血症を呈した視床下部腫瘍—血漿ADHからみた発症機序の考察

著者: 松本圭吾 ,   垣田清人 ,   福間誠之

ページ範囲:P.267 - P.271

I.はじめに
 視床下部の器質性病変では視床下部症候群hypothala—mic syndromeとよばれる多彩な臨床症状が現れ,その病因としては脳腫瘍が最も多く,そのなかではcranio—pharyngioma,次いでgerminomaが多いとされている.われわれは著明な高ナトリウム血症(以下高Na血症),るいそうなどの視床下部症状で発症した第三脳室近傍のgerminomaと考えられる1例を経験した.高Na血症の原因である浸透圧調節系の障害につき,臨床症状と内分泌学的異常とくに血漿浸透圧に対する血漿抗利尿ホルモン(以下ADH)の反応性の異常の面よりその発症機序について考察を加え報告する.

False Localizing Signとして三叉神経障害を呈した第4脳室Choroid Plexus Papillomaの1例

著者: 西沢茂 ,   忍頂寺紀彰 ,   植村研一 ,   龍浩志 ,   横山徹夫 ,   下山一郎 ,   杉浦康仁 ,   高橋宏史

ページ範囲:P.273 - P.277

I.はじめに
 False localizing signとは,頭蓋内病変そのものにより直接引き起こされた症状ではなく,病変から離れた部位が間接的に障害されることによって起こる症状で,それには外転神経麻痺がよく知られている.顔面の知覚異常,三叉神経痛等を呈する三叉神経障害もこのfalse localizing signの一つとして知られてはいるものの,今まで報告された例は少ない1-8).また報告例のほとんどが,後頭蓋窩の一側に偏在する病変を有するものであり2,4,5,7),後頭蓋窩正中部病変による報告例は見られない.われわれはfalse localizing signとしての三叉神経障害を唯一の症状として発症した第4脳室choroidplexus papillomaの1例を経験したので症例を報告するとともに,その発生機序ならびにその臨床的意義について考察を加えたい.

舌下神経鞘腫の1例

著者: 芹澤徹 ,   山浦晶 ,   大里克信 ,   中村孝雄 ,   峯清一郎

ページ範囲:P.279 - P.283

I.はじめに
 頭蓋内舌下神経鞘腫は稀な疾患で診断が困難なため,発見が遅れ,予後が不良であるとされてきた8).本疾患を疑うポイントは,長期にわたる一側の舌下神経麻痺とX線学的に舌下神経管の拡大を認めることであり9),確診はCTでなされることが多い14).今回,一側の舌下神経麻痺と舌下神経管の拡大を認めながら,CTでは腫瘍像が得られずMRIで初めて腫瘍像が確認された頭蓋内舌下神経鞘腫の1例を経験したので報告する.

ノカルジア脳膿瘍の1例

著者: 山口由太郎 ,   三宅博久 ,   中原昇 ,   増沢紀男

ページ範囲:P.285 - P.289

I.はじめに
 ノカルジア脳膿瘍は,死亡率が高く,治療上困難を伴うことが多い.われわれは,数回の手術とSulfametho—xazole-Trimethoprim合剤(S-T合剤)投与により軽快せしめたノカルジア脳膿瘍を経験したので報告する.

外傷性眼動脈上眼静脈瘻の1例

著者: 田伏順三 ,   岩田隆 ,   多根一之 ,   太田富雄

ページ範囲:P.291 - P.295

I.はじめに
 頭部外傷に続発する動静脈瘻の好発部位は,内頸動脈海綿静脈洞部であり1),中硬膜動脈領域4),および浅側頭動脈領域11)の報告も散見される.しかしながら,外傷により眼窩内に発生した動静脈瘻の報告は極めて少なく,われわれが検索し得た限りでは過去2例の報告を見るのみである5,9).そして,何れの報告も穿通性外傷による直接的血管損傷によるものである.今回われわれは,非穿通性頭部外傷に起因すると思われる,きわめて稀な眼窩内動静脈瘻の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

AtypicalなCT像を示した髄膜腫の1例

著者: 宮田伊知郎 ,   津野和幸 ,   正岡哲也 ,   西浦司 ,   原田泰弘 ,   石光宏

ページ範囲:P.297 - P.300

I.はじめに
 髄膜腫はCTによる診断が比較的容易な腫瘍と一般に考えられているが,嚢胞性髄膜腫に代表されるようにatypicalなCT像を示し,放射線学的に診断を誤まりやすい例も報告されている8,12)
 われわれは,CT上ring enhancementを示し,術前cystic meningiomaと診断したが,cystの見られなかったmeningiomaの1例を経験し,組織学的に検討したので若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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