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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科17巻4号

1989年04月発行

雑誌目次

平成改元と大正生まれ

著者: 最上平太郎

ページ範囲:P.309 - P.310

 昭和64年1月7日昭和天皇御崩御とともに激動の昭和時代が終りを告げ,翌8日平成と改元され,新しい時代の幕明けを迎えた.私など大正も末に生れたものにとっては遠のき過ぎ去っていく大正・昭和に何ともいえない郷愁を感ずる.これまで明治生れというとずい分年配のお年寄りを連想したものであるが,今度はこっちがそう見られる破目になってしまった.昭和改元の日「降る雪や明治は遠くなりにけり」と詠まれた先人の句がこのときほどしみじみ感じられたことはない.
 自分自身ではまだ若いつもりで,大学を卒業したのもついこの間のことと思ってはいたが,周囲がそうは思ってくれる筈もない.新人類といわれる若い人達にいわせると,この年齢ともなると前世紀の遺物か化石人間なのだそうだ.そういっている連中もいずれ同じ運命を辿ることになるのにいい気なものである.曰く,近頃話がどうも冗長になってくどい.同じことを繰返す.話の途中から脱線して,中々本論に入らない.とみに忘れっぽくなった等々.息子達の話だと近頃の世の中のことがよく判っていない.話が古すぎてとんちんかんなことをいう.いらぬお節介をやきすぎてうるさい.すぐに説教につながるので話ができない,ついていけそうもない由.まあよくもいろいろと"御託"を並べられたものである.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(3)Gangliocytoma(Ganglioglioma)

著者: 田村勝

ページ範囲:P.311 - P.317

I.定義,名称,分類
 成熟神経細胞が主体をなし,腫瘍によってさまざまな発達段階の神経細胞を含む神経細胞系腫瘍で,間質として,腫瘍性格をほとんど示さないかあるいは腫瘍性格を示す細胞膠細胞を含む腫瘍である.
 腫瘍構成細胞を反映してgangliocytoma,ganglioneuroma,ganglioglioma,neuroastrocytoma,ganglioneuroblastoma,neuroblastomaなど,さまざまな名称で呼ばれてきた.Courville5)は神経細胞と神経膠細胞の二要素からなる腫瘍をgangliogliomaと名付け,ganglioneuromaという名称は末梢神経の腫瘍の場合には適当であるが"neuroma"に相当するSchwann細胞の増殖は中枢神経系ではみられないので不適当であると述べている.この腫瘍は神経細胞が腫瘍の主要構成成分を占めるものから神経膠細胞が主体を占めるものまであり,また同一腫瘍でも部位により異なることもあり,さらに未分化な神経細胞が混在することもある.腫瘍性格や腫瘍細胞由来についても依然議論の多い腫瘍である.

研究

髄膜腫におけるMRI腫瘍周囲異常信号域の検討

著者: 露無松平 ,   磯谷栄二 ,   成相直 ,   鈴木龍太 ,   松島善治 ,   平川公義

ページ範囲:P.319 - P.325

I.はじめに
 髄膜腫のX線CT像における周囲低吸収域の本態は脳浮腫という報告 4,5,9,20),CSF spaceとの報告4,5,11,17,18),腫瘍表面の血管21),壊死17),あるいはその複合であるとの種々の報告があり,その本態,発生機序については未解決な点が多い.そこでわれわれは髄膜腫のX線CT像とMRIを検討して以下の結果を得た.

くも膜下出血急性期の病態—Multimodality Evoked Potentials(MEPs)とTranscranial Doppler(TCD)による検討

著者: 重森稔 ,   森山匠 ,   中島裕典 ,   島本宝哲 ,   西尾暢晃 ,   原田克彦 ,   菊池直美 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.327 - P.334

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血(SAH)急性期の病態,とくに脳機能や脳循環障害の程度は治療方針の決定や患者の予後を判定する上で極めて重要である.これらは通常,患者の神経症状のほかCTや脳血管写上の所見などから判定されるが,ベットサイドで簡便に利用しうる検査法は少ない.
 今回著者らはSAH急性期例において,Multimodality Evoked Potentials(MEPs)およびTranscranialDoppler(TCD)法1)による中大脳動脈血流速度(MCAFV)を指標として脳機能や脳循環状態の経時的観察を行い,本症急性期の病態について検討したので報告する.

重症多発外傷患者における凝固線溶異常と頭蓋内血腫の拡大

著者: 黒川泰任 ,   端和夫 ,   上出廷治 ,   松村茂樹 ,   柏原茂樹 ,   石黒雅敬

ページ範囲:P.335 - P.341

I.はじめに
 近年中枢神経系の損傷部位および程度が正確に把握でき,また治療法の選択も的確に行いうるようになり,頭部の単独外傷の生命予後はGlasgow Coma Scale(G.C.S.)6以下の重症例を除いて著明に改善された1).しかし重篤な多発外傷例においては合併損傷に由来する病態が予後に大きな影響をおよぼす場合が少なからず経験され,病態の把握や治療の面で多くの未解決の問題が残されている.本報告では全身性外傷を合併した頭部外傷患者のうち凝固線溶系の異常を呈した例における頭蓋内出血病変の経時的変化について検討した.

視床出血の脳循環(第2報)—急性期脳血流量減少の成因

著者: 上田幹也 ,   松本行弘 ,   大宮信行 ,   三上淳一 ,   佐藤宏之 ,   井上慶俊 ,   大川原修二 ,   松岡高博 ,   武田聡

ページ範囲:P.343 - P.350

I.はじめに
 高血圧性視床出血により脳血流量(CBF)が減少することは,近年比較的容易に脳循環測定が可能となり,よく知られるようになった1,2,3,7,10,11,13,14).しかしCBF減少の成因に関しては,血腫およびその周囲の脳浮腫により頭蓋内圧が亢進し脳還流圧が低下するため,あるいは視床・内包などの障害により神経線維連絡が遮断され神経線維により連絡される部分のCBFおよび代謝が低下するため(diaschisis)などが考えられているが,報告も少なく2,11,13,14),明確な結論は得られていない.またCBF減少の成因を明らかにすることは,最近行われるようになった定位的脳内血腫除去術の手術適応について,脳循環動態の面から知り得る可能性があると思われる.
 著者らは視床出血急性期のCBF減少の成因を明らかにする目的で,急性期にSingle Photon EmissionCT(SPECT)を施行しSPECT所見とCT所見とを比較検討した.

体位変換時におけるLPシャント内の髄液移動に関する研究

著者: 石渡祐介

ページ範囲:P.351 - P.358

I.はじめに
 Spetzlerや桑名らにより開発された腰部脊椎くも膜下腔—腹腔短絡術(以下LPシャントと称する)は8,9),脳実質を穿刺することなく容易に髄液の移行が可能であるという利点から,正常圧水頭症をはじめとする各種の脳神経疾患の治療に用いられてきている3,4,6,10).最近では,腰椎側カテーテル,腹腔側カテーテルおよびその中間の髄液貯留槽よりなる当初のスリー・ピース・タイプ以外にも,単一のカテーテルよりなるより単純な構造のワン・ピース・タイプが開発され7),広く利用されている.このような構造上の単純性は,手術手技を一段と簡便にさせたが,髄液貯留槽がない機構が逆に災いし,同部から造影剤を注入して行う従来からの検査法では,シャントの開存性の評価が不可能となった.そこで著者らは,腰部脊椎くも膜下腔に造影剤を注入し,被検者の体位変化に伴う造影剤の移動状況から,その開存性を評価する新たなシャント造影法(以下LP shuntography法と称する)を考案し,その有用性をすでに報告してきたが5),さらに今回は,脳室—腹腔短絡術のシャント開存性に対する評価法として用いられてきたthermistor法1,2)をLPシャントに応用し,患者の体位変化が及ぼすシャント内の髄液流量の変化を非侵襲的に検討した.

パーソナルコンピュータによる脳幹構造と脳幹病変の三次元表示

著者: 船橋利理 ,   桑田俊和 ,   大岩美嗣 ,   今栄信治 ,   中井三量 ,   辻直樹 ,   駒井則彦 ,   藪本充雄

ページ範囲:P.359 - P.364

I.はじめに
 MRの出現により,CTでは同定困難であった中枢神経構造が明らかになり,しかも中枢神経の病変がCTよりも早期に,しかも明瞭に描出されるようになった.MRの診断能力は脳幹の小病変のさいにいっそう威力を発揮する.たとえばCTでは捉えられないような赤核・黒質・内側縦束・下オリーブ核などが画像化され13),脳幹小梗塞ではT2強調画像で高信号域として,明確にしかも発症早期に表現される7,11).しかしこのような最先端の画像診断技術をもってしても,現在のところ多くの脳幹小構造,たとえば各種脳神経核・運動路・感覚路などを同定することは困難であり,従って脳幹病変とこれら脳幹小構造との位置関係を明らかにすることは未だ不可能である.そこで,CT・MRIで描写される脳幹病巣とアトラスから得た脳幹小構造(脳神経核・神経路)をパーソナルコンピュータを用いて三次元表示する方法を考案し,病変と小構造の位置関係を立体的に捉えた.主として三次元表示方法について述べる.

症例

前大脳動脈水平部(A1部)紡錘形破裂脳動脈瘤の2症例

著者: 大庭正敏 ,   鈴木倫保 ,   小沼武英

ページ範囲:P.365 - P.368

I.はじめに
 脳動脈瘤のうちアテローム硬化をもとに形成される紡錘状の動脈拡張は紡錘形脳動脈瘤と称され,脳底動脈,内頸動脈,中大脳動脈に稀ならず認められるが,前大脳動脈にこの種の動脈瘤をみることは少ない.われわれはすでに前大脳動脈水平部すなわちA1部に発生した動脈瘤26例の検討を行い,そのうちで紡錘形のものが2例ありA1部に発生するのは稀であると報告した8).今回この2症例の紡錘型動脈瘤に注目し,若干の文献的考察を加えたので報告する.

側頭葉てんかんを示したthrombosed AVMの1例

著者: 合志清隆 ,   横田晃 ,   木下良正 ,   松岡成明

ページ範囲:P.369 - P.373

I.はじめに
 脳血管撮影で造影されないoccult AVMと呼ばれるものの中には2つの病態がある.1つは小さいかあるいは血流が緩徐であるために造影されないAVMであり,出血によって発症することが多い2,22,23).他の1つは器質化されたために造影されないthrombosed AVMと呼ばれるものであり,しばしばてんかんで発症し,手術によって診断されることが多いと言われているがその報告は少ない3-7,9-12,14,15,18,21-24)
 今回われわれは,側頭葉てんかんを示したthrom—bosed AVMの症例を経験したので,放射線学的特徴とくにCTとMRI所見について文献的考察を加えて報告する.

海綿静脈洞部巨大脳動脈瘤に対する頭蓋内内頸動脈Bypassの試み

著者: 本田英一郎 ,   林隆士 ,   李宗一 ,   金谷幸一 ,   大島勇紀 ,   宇都宮英綱 ,   本多義明 ,   佐藤洋介 ,   福島孝徳 ,  

ページ範囲:P.375 - P.380

I.はじめに
 巨大脳動脈瘤の好発部位は内頸動脈が多く,全体の約40%1)の頻度で報告されている.この中でも海綿静脈洞部は高頻度であり,11-25%1,6)に相当する.
 海綿静脈洞部の巨大脳動脈瘤による臨床所見は眼窩部痛,眼球突出,III,IV,VIの脳神経麻痺を呈する,いわゆるcavernous syndromeとして発症し,硬膜外に位置するため,クモ膜下出血をきたすことはまれである.この部位に対する外科的治療の適応,また治療方法(内頸,総頸動脈のligation, EC-IC bypass+内頸動脈のligation, electrothrombosis, neuroradiological interven—tion)に関してはさまざまな意見,方法が論議されている.Sekhar12)はcadaverを用いて海綿静脈洞部に対する種々の外科的approachおよび解剖所見を報告している.その中でpetrous ICAとsupraclinoid ICA間のgraft bypassが可能であることを述べている.
 今回われわれはこの所見を基に頭蓋内内頸動脈By—passの試みとしてC5(interosseous portion)とC2(cis—ternal portion)の間をvenous graftを用いてbypass術を行い,良好な経過を示した1例を経験したので,これらの手技・利点などについて報告する.

脳梗塞巣に生じた脳膿瘍の1例

著者: 一見和良 ,   石栗仁 ,   木田義久 ,   木野本武久

ページ範囲:P.381 - P.385

I.はじめに
 CTの出現以来,脳膿瘍の早期発見が容易となり,そのCT所見に関して,初期脳炎の段階から脳膿瘍の形成,治癒に至るまでの経時的な観察も可能となった.しかし,脳梗塞に続発して脳膿瘍が形成されたとする報告は少なく,一般に脳卒中の合併症としての脳膿瘍の記載をみない。われわれは,脳梗塞発症2カ月後,梗塞部位に脳膿瘍を生じた1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

下位脳神経症状にて発症した前下小脳動脈動脈瘤の1例

著者: 上井英之 ,   小川彰 ,   桜井芳明 ,   嘉山孝正

ページ範囲:P.387 - P.391

I.はじめに
 前下小脳動脈動脈瘤は,現在まで33例の報告があるが1-15,17-28,30),その大部分は内耳動脈分岐部に発生したものであり,内耳動脈分岐部以外の発生は稀である.今回われわれは,内耳動脈には関与せず,下位脳神経症状で発症した,前下小脳動脈動脈瘤の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Diastematomyeliaの2例—MRI診断

著者: 小山誠剛 ,   関戸謙一 ,   山口和郎

ページ範囲:P.393 - P.398

I.はじめに
 Diastematomyeliaは,脊椎管に関連した脊椎骨と神経軸の先天性発生異常により,脊髄,脊椎管が2つに分離したもので,通常,骨性あるいは軟骨性,線維性の中隔を伴う.
 今回,われわれはMRIが,その診断,病態の把握に有用であったdiastematomyeliaの2症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

モヤモヤ病疑診例から確診例への移行を示した1例

著者: 青木伸夫 ,   加川瑞夫 ,   鰐渕博 ,   竹下幹彦 ,   井沢正博 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.399 - P.403

I.はじめに
 モヤモヤ病は脳血管撮影上,両側内頸動脈終末部の進行性閉塞性病変とそれに伴う脳底部の異常血管網を特徴としている.その閉塞性病変の経時的変化については,鈴木ら6,7)の報告にみられるように小児例における経時的血管撮影より閉塞性病変の進行が確認されている.
 しかしながら,成人例については多数例の検討から閉塞性病変の進行をある程度推察しうるものの8,11),個々の症例について既存の閉塞性病変の進行及び対側の閉塞性病変の形成を確認,報告した例は,われわれが調べ得た限りではまだない.今回われわれは,モヤモヤ病成人例で,発症後5年間に頻回の虚血発作を繰り返し,血管撮影上既存の閉塞性病変が進行し,さらに対側にも閉塞性病変が形成され進行した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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