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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科17巻5号

1989年05月発行

雑誌目次

言葉について思うこと

著者: 木下和夫

ページ範囲:P.411 - P.412

 文章を書くことが下手でいつも苦労している私にとって,この"扉"を書くのは重荷であるが,お断わりする理由もない.以前もこの欄で言葉について書いたが,日頃その大切さを痛感しているので,今回も少し内容を変えて書いてみたい.
 言葉は生きていて,時代と共に変化して行く.ある言葉は長い間意味が変わらず,古い形のまま残り,あるものは意味が変化しながらも生き長らえ,あるものは死語となる.単語だけでなく,文章も変化する.私はその時代による変化は文学作品の方が,医学関係のものより強いのではないかと感じている.しかし,英語の医学論文と,日本語の医学論文とを比べてみると,後者の方の変化が激しいと思う.明治20年から30年頃のわが国の医学論文を読むと,現在でも読み直す要のある論文でもあり,書いた人も優れているとは思うが,文章といい,内容といい優れたものが多い.最近のものと,私が大学を出た頃のものと比べても色んな点で変化している.良くなったかというと逆である.最近わが国のある作家が脳死に関した日本語医学論文を読んで,こんなに悪文が多いのには驚いたというような事を書いていた.私もそんな感じがする.年のせいだけでもないと思う.これら変化の中で気付いたものをいくつか取り上げる.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(4)Neuroblastoma,Neurocytoma

著者: 辻田喜比古

ページ範囲:P.413 - P.419

I.はじめに
 Neuroblastomaはperipheral neuroblastomaとcentral neuroblastomaとに分けられる.前者は副腎や後腹膜の末梢神経系に発生し,頻度も高く,乳幼児の代表的悪性腫瘍の1つである.後者は中枢神経系に発生するが,頻度は極めて低く,疾患概念にも未だ曖昧な点がある.
 ここではcentral neuroblastomaについて述べる.central neuroblastornaは更にcerebral neuroblastomaとcerebellar neuroblastomaとに分けられる,またcerebral neuroblastomaでは大脳半球に発生したものと,脳室内に発生したものとでは,臨床像に大きな差があり,後者を特に,central neurocytomaと呼ぶことがある6,23)

ニュース

西独でJapanische Bibliothek—森鷗外記念館(東伯林)で鴎外展も

著者: 長谷川泉

ページ範囲:P.419 - P.419

 日独合作の「舞姫」の映画が本年5月に完成する(篠田正浩監督で,東・西伯林が協力)折から,東西独逸で鴎外を核にした国際文化交流が盛り上る機運にある.
 西独のInsel Verlagから本年中に4冊のJapanische Bibliothek(日本文庫)が出る.その中の1冊はWolfgang Schamoni教授(ハイデルベルク大学)のIm Umbauと題する鴎外短編集である.西独では既にミュンヘン及び西ベルリン(旧大使館跡を修復した日独センター)で鴎外展が開かれ話題となった.両展を編成したのはシャモニ教授であった.

研究

高血圧性小脳出血に対する定位的血腫溶解排除術の臨床効果

著者: 横手英義 ,   駒井則彦 ,   中井易二 ,   上野雅巳 ,   林靖二 ,   寺下俊雄

ページ範囲:P.421 - P.426

I.はじめに
 高血圧性小脳出血に対する治療法としては,保存的療法や開頭血腫除去術,急性水頭症を伴う場合には,脳室ドレナージ術が行われており,その治療方針についてはなお議論の残るところである.
 最近,CTの発達に伴い,小脳出血の大きさ,脳幹部への圧迫の程度,第IV脳室の圧迫閉塞による水頭症の程度などがよくわかるようになってきた.

Phenytoinの虚血脳保護機構に関する研究

著者: 黒沢久三 ,   今泉茂樹 ,   木内博之 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.427 - P.434

I.はじめに
 Phenytoinが優れた膜安定作用を有することは良く知られており,その主要な薬理作用は細胞内外の陽イオンの濃度偏移に対する抑制作用にあると考えられている10).われわれはすでに低酸素脳や虚血脳において,phenytoinが優れた脳保護作用を有することを報告してきた1,12).今回その作用機序解明の目的で,phenytoinの虚血脳における遊離脂肪酸(以下FFA),energy代謝に及ぼす影響を検討し,さらに脳皮質Na,K—ATPase活性,水分量,Na,K濃度の変化についても検討を加えたので報告する.

三叉神経痛と頭蓋内三叉神経活動電位

著者: 五十嵐正至 ,   尾崎文教 ,   小山素麿

ページ範囲:P.435 - P.441

I.はじめに
 近年感覚誘発電位法の普及がいちじるしいが知覚神経刺激による体制感覚誘発電位のほかに,最近では三叉神経知覚系の機能評価として三叉神経感覚誘発電位(trigeminal sensory evoked potential=TSEP)についての報告もみられるようになった1-4,8-15,20,21,23-28)
 先にわれわれはTSEPの正常波形と各電位の起源について報告した15).その後,この起源を明らかにするために開頭術中の頭蓋内で三叉神経幹上や橋,延髄表面で三叉神経の誘発電位を記録してきた.その結果,神経幹上での活動電位は三叉神経痛を有する症例と有さない症例では一定の差があることが示唆され,この差は三叉神経痛における三叉神経一次求心線維の刺激伝達の特徴ではないかと考えられた.かつ,これらの結果は上記の早期成分の起源について新たな示唆を与えるのみならず,三叉神経痛の病因を考察するうえで1つの示唆を与えるものと思われたので報告する.

早期脳動脈瘤手術中での脳血流およびCO2反応性—発症より手術までの経過時間による影響について

著者: 大町英世 ,   宮下和広 ,   川崎洋 ,   並木昭義

ページ範囲:P.443 - P.447

I.はじめに
 脳動脈瘤の破裂によりクモ膜下出血(SAH)がおこると,脳血流量(CBF)が低下し,脳血管のCO2反応性,自己調節能が障害される.さらにこれらの現象は,SAH症例の重症なもの程著しいことが知られており4-6,12),しかもこのことについて著者らは,早期動脈瘤手術の術中においても認められることを報告した9,10).しかし,早期手術例について,SAH発症から手術までの経過時間の違いによって,術中のCBFやCO2反応性がどのように異なってくるのかについての報告はない.そこで,早期手術を行ったGrade I(Hunt & Hess分類)の症例だけを対象とし,発症から手術までの経過時間によって3群にわけ,頭蓋内操作中のCBFやCO2反応性をCerebral Circulatory Index(動脈血酸素含量と内頸静脈血酸素含量較差の逆数:CCI)を用いて比較検討した.

MRI誘導定位脳手術の基礎的研究

著者: 久間祥多 ,   林明宗 ,   小田切邦雄 ,   中前晴雄

ページ範囲:P.449 - P.455

I.はじめに
 MRIによる脳腫瘍の検査の長所としては,任意のスライスがえられる.周囲の解剖学的な位置関係の描出にすぐれる,骨のアーチファクトがない,血管腔の描出にすぐれる等があげられており,急速な勢いで普及しつつある.一方,CT誘導定位的生検は,脳深部の腫瘍の組織を確認し,治療方針を決定するための有力な手技であるとの地位が確立されている.MRI下で定位脳手術を行えば,前述の如き長所より,より多くの情報がえられることが考えられる.当施設ではBRW型MRI定位的脳手術装置の基礎的検討を行い,その上で13例の脳腫瘍の手術を行う機会をえたのでその結果を報告し,その有用性,問題点を整理し,将来の展望について考察を加える.

自家骨骨屑とBiobond®(EDH-Adhesive)を用いたCosmetic Cranioplasty—Technical Note

著者: 土持廣仁 ,   長坂進 ,   山田治行 ,   松野治雄 ,   三宅悦夫

ページ範囲:P.457 - P.459

I.はじめに
 開頭術後の患者で頭蓋骨の穿頭部に一致した頭皮の陥凹を見ることがある.特に前額部の場合醜形となり患者の精神的負担は大きい.われわれは開頭時の骨欠損部や穿頭孔の骨形成に対して開頭時に得られた骨屑とBiobond®(EDH-Adhesive)を混和,半固形にしたもので骨欠損部の形成を行い良好な結果を得ているので紹介する.

症例

視床下部に原発し尿崩症を合併した頭蓋内悪性リンパ腫の1例

著者: 平田勝俊 ,   伊崎明 ,   堤圭介 ,   上之郷真木雄 ,   馬場啓至 ,   柴田尚武 ,   森和夫 ,   島田修 ,   津田暢夫

ページ範囲:P.461 - P.466

I.はじめに
 視床下部に腫瘤性病変として原発し,かつ,尿崩症を来たした原発性頭蓋内悪性リンパ腫の症例は極めて稀である.今回,われわれはステロイド剤が短期間で著効を示し,臨床及びCT所見に一致し髄液中のβ-2-microglobulin(β-2-MG),及び免疫グロブリン(IgA,IgG,IgM)の変動がみられた視床下部原発性の悪性リンパ腫について,若干の文献的考察を加え報告する.

塩酸Trihexyphenidylが有効であった外傷後遷延性意識障害の2例

著者: 貝嶋光信 ,   福田博 ,   苫辺地正之 ,   程塚明

ページ範囲:P.467 - P.471

I.緒言
 遷延性意識障害の患者は,頭部外傷後,脳血管障害後など,日常の診療においてしばしば経験されるが,有効な治療法がなく,その対策に苦慮しているのが現状である.これまでに,thyrotropin-releasing hormone11),L—dopa4,6)などが試され,ある程度の効果が報告されているが,いずれも効果は不確実で,新たな治療手段が待望されているところである.
 われわれは,外傷後の遷延性意識障害の2症例に,抗コリン剤である塩酸trihexyphenidyl(以下THPと略す.商品名Artane)を投与し,明かな症状の改善を見た.2症例の特徴と,臨床経過を分析し,外傷後パーキンソニズムとの関係,THPの作用機序について考察する.

受傷6年後に髄液耳漏をきたした側頭骨骨折の1例

著者: 陶山一彦 ,   堀本長治 ,   堤健二 ,   安永暁生 ,   麻生裕明 ,   岡本健

ページ範囲:P.473 - P.476

I.はじめに
 外傷性髄液耳漏は側頭骨錐体部の骨折直後に出現することが多く,その大多数は自然治癒する11).われわれは受傷6年後に発症した遅発性髄液耳漏の症例を経験し,修復術を行った.遅発性髄液耳漏の機序と手術適応について若干の文献的考察を加えて報告する.

出血を繰り返した脊髄海綿状血管腫の1手術例

著者: 森内秀祐 ,   清水恵司 ,   山田正信 ,   桜井幹己 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.477 - P.479

I.はじめに
 数年にわたり神経症状の増悪を繰り返し,術前MRI検査にてSpontanmeous hematomyeliaと診断され,術後組織診断にて出血を繰り返した海綿状血管腫と確定診断された一手術例に対し,その術前MRI所見について比較検討を加え,さらに若干の文献的考察を行ったので報告する.

頭蓋骨に発生したIdiopathic Massive Osteolysisの1例

著者: 長谷川洋 ,   尾藤昭二 ,   田村和義 ,   小橋二郎

ページ範囲:P.481 - P.484

I.はじめに
 Idiopathic massive osteolysisは進行性の骨融解が起こる原因不明の稀な疾患であるが,頭蓋骨に発生したものはさらに稀である.最近上記と思われる1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

脊髄性くも膜下出血を来した馬尾神経鞘腫

著者: 古野正和 ,   西浦巌 ,   小山素麿

ページ範囲:P.485 - P.488

I.はじめに
 脊髄くも膜下出血は比較的稀な疾患であり,くも膜下出血の約1%を占めると言われている.その原因疾患としては脊髄血管奇形,外傷や血液疾患(白血病,血友病,出血性素因)などが知られている.しかし,脊髄腫瘍が原因となるくも膜下出血は稀である.
 出血を来す腫瘍の多くはependymomaであり,caudaequinaのneurinomaがくも膜下出血を来した報告例はきわめて少ない14)

神経症状で初発したSLEの1例

著者: 吉本哲之 ,   上野一義 ,   井原達夫 ,   加藤功 ,   橋詰清隆 ,   蓑島聡

ページ範囲:P.489 - P.493

I.はじめに
 全身性エリテマトーデス(以下SLE)は,全身性慢性炎症性疾患であり,精神神経症状もその症状の1つであるが,そのなかでSLEに直接起因する脳血管障害によるものは少ない.また,その精神神経症状をSLEの初発症状として認めることや,脳血管障害の病変の主座が脳大血管に認めることは稀である.今回,われわれは神経症状で初発し,脳血管撮影にて中大脳動脈主幹部閉塞,および内頸動脈にfibromuscular dysplasia(以下FMD)を認めた,稀な1症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

脳転移巣症状で発症した肺小細胞癌の松果体部転移の1例

著者: 欅篤 ,   牧田泰正 ,   鍋島祥男 ,   鄭台頊 ,   高橋潤 ,   新阜宏文 ,   南部静洋 ,   北村溥之

ページ範囲:P.495 - P.499

 I.はじめに 転移性脳腫瘍の中では,肺癌を原発巣とするものが最も高頻度にみられるが,転移部位としては大脳半球が最も多く松果体部転移は比較的稀である2,3,13).一方,原発巣よりも松果体転移部の神経症状で発症し治療された報告例はみられない.今回,われわれは松果体部転移巣による症状にて発症した肺癌転移性脳腫瘍の1例を経験したので高齢者松果体部腫瘍の鑑別診断について若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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