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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科17巻6号

1989年06月発行

雑誌目次

般若の心

著者: 太田富雄

ページ範囲:P.507 - P.508

 「近代科学文明の合言葉は自然破壊である」といった人がいる.そうかも知れない.ランドサットからみるアマゾン流域の緑の荒廃ぶりは目を覆うものがある.また,安住の地を追われた動物達も,食物を求めて田畑を荒らし,自己防衛から人間にも危害を加えざるをえなくなっている.
 一方では,このような問題は,きっと科学自身が解決してくれるに違いないといっている人もいる.石油が枯渇しても,原子力があるし,太陽エネルギーの利用も可能である.過剰に放出される炭酸ガスの温室効果で北極・南極の氷が解け,ほとんどの陸地が水没しても,海底に居住地を移し,海上空港式の浮かぶ陸地をチョモランマ島に係留し,そこに娯楽施設や病院を建設すればよいと,実際,幸福を測る絶対的尺度がない限り,すべての者がそのような環境下に住むというのなら,何も問題は起こらないのかも知れない.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(5)Schwannoma,Neurilemoma(神経鞘腫)

著者: 西尾俊嗣 ,   福井仁士

ページ範囲:P.509 - P.513

 神経鞘腫はSchwann細胞に由来する良性腫瘍である.あらゆる年齢層に生ずるが,小児よりも成人に多く,脳神経,脊髄神経,末梢神経に発生する.主に知覚神経がおかされ,脳神経では聴神経,とくに前庭神経の内耳道付近で中枢性髄鞘のoligodendrogiiaと末梢性髄鞘のSchwann細胞が置き換わる付近から発生するといわれてきた.しかし画像診断の進歩により,末梢性髄鞘の部に相当する内耳道内に限局した腫瘍も多く見出されるようになってきた.次いで三叉神経に多く,まれにその他の脳神経からも発生する.ただし嗅神経と視神経にはSchwann細胞がないので生じない.脊髄でも知覚神経,すなわち後根に発生することが多い.頸,胸,腰,仙髄いずれにも発生し,多くは硬膜内に存在する.まれに硬膜をつきやぶり硬膜外へ発育することや,また脊髄内に発生することもある.末梢神経からの発生は,四肢,躯幹,頭頸部などの軟部の比較的深い位置,主に肘部,手首,膝部の伸展側にみられ,しばしば肉眼的に神経幹と密着している.軟部腫瘍の中では脂肪腫に次いで多く見られる.
 末梢神経から発生する本腫瘍はごくまれに悪性化するが,頭蓋内あるいは脊髄後根から発生したものはまず悪性化しない.von Recklinghausen病ではグリオーマ,髄膜腫,神経鞘腫,神経線維腫が種々の組み合わせで中枢神経および脊髄神経根に生じることがあり,互いの組織学的鑑別診断が困難なこともある.

研究

モヤモヤ病のSynangiosisに用いる各組織の血管新生能

著者: 今泉俊雄 ,   端和夫 ,   中村徹 ,   田辺純嘉

ページ範囲:P.515 - P.520

I.はじめに
 モヤモヤ病に対しては直接的血行再建術としてのEC—ICバイパスの他に,間接的血行再建術として,側頭筋・大網・頭皮下動脈・帽状腱膜・硬膜等を脳表に接着させる手術が行われ,それぞれについて側副血行路の新生が報告されている11).しかし,それぞれの方法における血行改善能力は,用いた組織の血管新生能と脳組織の虚血の程度によって左右されるため比較検討は困難である.一方,最近の血管新生の研究によると,血小板19),macrophage15),脳7,21),心臓4),胎盤18),悪性腫瘍3,9)などの組織から血管内皮細胞の増殖・遊走化を促進し,血管新生を引き起こす血管新生因子(Angiogenic Factor=AF)と呼ばれるものが数種発見され,それらの生体内での働きや臨床への応用が検討されつつある.
 本報告では,AFの存在を考慮に,モヤモヤ病に対する間接的血行再建に用いられる各組織の血行再建能力を,組織そのものの血管新生力という観点より比較検討した.

脳神経外科領域におけるnitroglycerinによる術後血圧管理—特に頭蓋内圧変化について

著者: 神谷健 ,   永井肇 ,   山下伸子 ,   三沢郁夫

ページ範囲:P.521 - P.524

I.はじめに
 脳神経外科領域において,術中及び術後管理における血圧調節は,患者の予後に対して重要な要素を持っている.現在用いられている術中降圧薬としては,sodium nitroprusside, trymetha—phan,そして術後には,niphedipine等が汎用されている.nitroglycerinは,古くから冠血管拡張剤として,広く用いられてきた薬剤であるが,脳神経外科領域においては,1979年Kistlerらによって,くも膜下出血後の脳血管攣縮に対する効果を検討されて以後8)多くの報告を見ない.このni—troglycerinの持つ降圧作用は,最近特に内科領域で,狭心症などの心疾患を持つ患者のhyper—tensive crisisに対して広く安全に用いられるようになってきている.脳神経外科領域において,降圧薬特に血管拡張薬は,1975年Stullkenらが,血圧下降に伴って頭蓋内圧の上昇することを報告10)して以来,使用に際して大きな問題点を有している.過去に報告されたnitroglycerin投与後の頭蓋内圧変化の報告は,Gagnonらの報告3)を除いて,正常頭蓋内圧の症例における報告が多い.われわれは,開頭術後の頭蓋内圧上昇時における全身血圧の上昇に対して,nitroglycerin点滴静注を行い,その際の硬膜外頭蓋内圧変化を検討したので報告する.

症候性脳血管攣縮への血管周囲アシドーシスおよび血小板凝集の関与—実験的研究

著者: 木村正英 ,   鈴木重晴 ,   岩渕隆

ページ範囲:P.525 - P.531

I.はじめに
 クモ膜下出血後の脳血管攣縮による脳虚血症状発現には,従来,血管の機能的あるいは器質的内腔狭窄による循環障害が重要視される傾向があったが,近年,血管内因子,特に血小板の役割も指摘されるようになった2,6,10,14),その機序として,血管攣縮発生が予測される症例では,脳血管は多量のクモ膜下腔凝血塊中に埋没して一定時間経過する事実から,凝血塊の嫌気的解糖によって生じる低pHの環境にさらされることが血小板凝集を引き起こす誘因となるとの意見8,9,10)があり,また,脳血管攣縮好発期の手術時,頭蓋内洗浄液には低pH値を示す生理食塩水は好ましくないという報告11)もある.しかし,クモ膜下出血後の脳血管攣縮あるいは脳虚血症状へのクモ膜下腔アシドーシスの関与を指摘した動物実験の報告は極めて少ない12).そこで,今回,実験的にクモ膜下出血を作成した動物の,クモ膜下腔を低pH溶液で灌流してアシドーシス環境の増強を行い,その虚血症状発現に対する影響を高pH溶液での灌流結果と比較検討したところ若干の知見を得たので報告する.

脳神経外科患者にみられた肺塞栓症の検討

著者: 目黒琴生 ,   松木孝之 ,   樋口修 ,   中田義隆 ,   福田幾夫 ,   和田光功

ページ範囲:P.533 - P.537

I.はじめに
 脳神経外科領域における肺塞栓症についての報告は欧米では多くみられるが,わが国では少ない,しかしながら,面管障害における疾病の西欧化のみられる現在,肺塞栓症の増加も当然予想される.肺塞栓はその存在を疑わなければ,たやすく見逃される疾患であり,日本における頻度も今後診断率の上昇とともに増えていく可能性がある.われわれは過去二年間に入院した脳神経外科患者に於て5例の肺塞栓を経験したので,これらの経験をもとに脳神経外科患者の合併症としての肺塞栓症について検討を加えた.

中枢性低Na血症の治療効果からみた発生機序

著者: 森永一生 ,   田伏久之 ,   大川原修二

ページ範囲:P.539 - P.544

I.はじめに
 脳血管障害および頭部外傷の急性期に低Na血症が発生することは,よく知られている.従来,このような中枢性低Na血症は,ADH分泌異常症(以下SIADH)によると考えられていたが,体液量や血清ADHレベルの詳しい検討が行われるにつれ,SIADHの病態に該当しない症例が多数含まれていることが明らかになった6).われわれも中枢性低Na血症の発生機序を検討し,報告してきた5)が,今回はこれら中枢性低Na血症の症例に対して種々の治療を試み,その治療効果から低Na血症の発生機序を考察してみた.

第7,8脳神経のNeurovascular decompression時における術中ABR monitoringについて—Warning pointはどこか

著者: 杉山憲嗣 ,   横山徹夫 ,   龍浩志 ,   植村研一 ,   宮本恒彦 ,   下山一郎

ページ範囲:P.545 - P.553

I.はじめに
 術中Auditory brain stem monitoring(以下ABRmonitoring)は後頭蓋窩の手術時に,脳幹機能や聴神経機能のモニターとして用いられており,殊に第V,第VII脳神経に対する神経血管減圧術の際,術後聴力障害発生を予防する目的で広く用いられるようになって来た.しかし,モニターに際し,ABR上,どの様な変化が現れた時に術者に警告をあたえるべきか,即ち「Warning pointはどこか」という,最も重要であり,また基本的である問題点が不明確のまま残されている.
 われわれはこの点に関し,1980年より術中ABRの潜時と関係なく,波形の消失時または極端な振幅の低下時をWarning pointとしてきた.この様にして術後に著明な聴力障害を来した例は一例も見られず,良好な結果を得ているので報告する.

ラットgliomaモデルにおける加温療法,放射線療法および両者併用療法における急性期変化—腫瘍細胞Bromodeoxyuridine(BUdR)標識率の推移

著者: 田村勝 ,   塚原隆司 ,   国峯英男 ,   坐間朗 ,   玉木義雄 ,   新部英男

ページ範囲:P.555 - P.559

I.はじめに
 癌の温熱療法は単独でも有効であるが,放射線や化学療法との併用で相乗効果も期待できる治療法である1,5,8).ラットgliomaモデルを用いてのin vivoの慢性実験で加温療法や加温療法に放射線を併用した場合の有効性をすでに報告した12)
 今回は同じラットgliomaモデルを用い,加温療法,放射線療法,両者併用療法における急性期腫瘍細胞傷害を経時的に観察した.通常の光顕標本のほかHoshinoら2)の方法を応用してBromodeoxyuridine(BUdR)を投与しin vivoでの腫瘍細胞増殖抑制効果につき検討した.

症例

両鼻側下1/4半盲を呈した下垂体腺腫の1症例

著者: 田代隆 ,   伊古田俊夫 ,   田宮宗久 ,   小玉孝郎 ,   阿部弘

ページ範囲:P.561 - P.565

I.はじめに
 下垂体腺腫の鞍上進展に伴う視野障害は視神経,視交叉の構築上の特徴から両耳側半盲を呈することが一般的である1,4,6).しかしながら今回,われわれは急速な視力低下とともに両鼻側下1/4半盲をきたした嫌色素性下垂体腺腫の1例を経験したので,その発現機序について文献的考察を加え検討した.

多発性脳出血で初発した急性骨髄芽球性白血病の1症例

著者: 藪本充雄 ,   龍神幸明 ,   今栄信治 ,   亀井一郎 ,   岩本宗久 ,   栗山剛 ,   杉本直紀 ,   静木厚三

ページ範囲:P.567 - P.571

I.はじめに
 白血病,殊に急性白血病に頭蓋内出血性病変を合併することはよく知られた事実であり,脳出血,くも膜下出血,慢性硬膜下出血等,その経過中において約10%に認められ,死因の20%を占めると報告されている16).しかしながら,頭蓋内出血性病変で初発した急性骨髄性白血病の症例の報告は少なく,Grochら5)は93例中7症例,約8%,うち致命的な症例は1例のみとしている.今回,特徴のあるCT所見を呈した1例を経験したので,文献考察を加えて報告する.

治療経過中のCT scanにて頭蓋内に異常低吸収域と石灰化を認めた大脳基底核部germ cell tumorの1例

著者: 志村俊郎 ,   中澤省三 ,   安久津靖彦 ,   松本正博 ,   葛原正昭 ,   吉田大蔵

ページ範囲:P.573 - P.577

 I.はじめに
 近年放射線および化学療法の進歩がみられている反面,これらの治療によりひきおこされる白質変性1,3,13,18),石灰化16,17)あるいは脳萎縮13)等の副次的病態も注目されてきた,特に抗癌剤を局所投与することによりひきおこされるleukoencephalopathyの病態は1975年Ru—binstein12)の報告を嚆矢に,現在もその増加をみている.著者らは,頭蓋内germ cell tumorの放射線および化学療法の経過中に,経時的なCT scanにて異常低吸収域と石灰化を認めた症例を経験したので石灰化形成過程等の病態について若干の文献的考察を加え報告する.

頸部打撲による脳血管閉塞症

著者: 大西寛明 ,   伊藤治英 ,   池田清延 ,   東壮太郎 ,   早瀬秀雄 ,   東馬康郎

ページ範囲:P.579 - P.584

I.はじめに
 外傷性脳血管閉塞症は稀な疾患であり,比較的軽微な外傷にも合併し,一定の潜伏期を持って発症することが知られている.また,病状の発現をあらかじめ予測することは困難であり,ほとんどの症例において治療以前に不可逆的な脳梗塞が完成しているのが現状である.今回,閉鎖性頸部外傷による頸部内頸動脈損傷によって引き起こされたと思われる脳血管閉塞症3例を経験し,それぞれ脳血管撮影上特徴的な所見を呈したので,その発生機序を中心に文献的考察を加え,報告する.

両側中大脳動脈閉塞に合併した前交通動脈瘤の1例

著者: 倉田浩充 ,   玉木紀彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.585 - P.587

I.はじめに
 脳動脈瘤の発生にhemodynamic stressが関与していることは,脳動静脈奇形,脳主幹動脈閉塞等に脳動脈瘤が合併しやすい報告例からもよく知られている.われわれは両側中大脳動脈起始部閉塞に合併した前交通動脈瘤の1例を経験したので報告する.

結核性髄膜炎に伴う水頭症の1治験例

著者: 川尻勝久 ,   松岡好美 ,   沈炳輝 ,   金井真

ページ範囲:P.589 - P.592

I.はじめに
 結核性髄膜炎はわが国では稀な疾患であるが,われわれは最近,水頭症を合併した結核性髄膜炎の乳児の1例を経験し,シャントにより良好な結果を得たので,その治療法を中心に報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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