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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科17巻7号

1989年07月発行

雑誌目次

HoustonのNeurosurgery

著者: 岩田金治郎

ページ範囲:P.601 - P.602

 今春,Washington DCのAANSに出席した折,radiosurgeryや血管内手術の白熱した討論で出席者は満足げでありました.その他,総会としてHarvey Cushingの顕彰の企画が大きく取り上げられました.Tindall会長によれば,最近のレジデントはCushing先生の逸話をしても,〈Harvey Who?〉と聞き返す若者がみられる時代になったとかで,seniorにはgood old daysを懐古させ若い世代には昔の文献にも目を通すようにとの配慮を感じました.私はこの機会にTexas州はHoustonのNeuro—surgeryの今昔を紹介しご参考に供します.
 学問に洋の東西は問いません.特にNeurosurgeryは伝統的にuniversalな領域であります.しかし,学風はその土地の文化の現われでもあります.

総説

脳梗塞急性期の外科的処置

著者: 吉本高志

ページ範囲:P.603 - P.607

I.はじめに
 1970年代からの顕微鏡手術の普及により,頭蓋内外バイパス手術や頭蓋内での血管の手術等が比較的容易に行われるようになった,それに伴い,閉塞性脳血管障害に対する外科治療が臨床の場で取り上げられ,その中で,虚血急性期における血行再建術の問題も議論されてきた.しかし,それらの結果は,成功例も散見されてはいるが5,6,10),否定的な意見も多い4,7,27)
 本報では急性期血行再建術に関する種々の考え方を述べ,更に近年注目されている脳保護物質とその臨床応用及び自験例をもとに臨床上の諸問題について検討する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Transoral Transclival Approach—とくに椎骨脳底動脈瘤など斜台下背部病変に対しての応用

著者: 早川徹 ,   山田和雄 ,   吉峰俊樹

ページ範囲:P.609 - P.614

I.はじめに
 脳底動脈近位部ないし椎骨脳底動脈接合部など斜台背面の中—下1/3で正中近くに存在する病変に対するsur—gical approachは極めて困難とされ,かってDrakeはこの部分を"no man's land"と称した4)
 近年microsurgical techniqueの進歩により,この部の病変に対しても上方よりはsubtemporal transtentorialあるいはtrans-Sylvian approachなどにより,また下方よりはlateral suboccipital approachなどにより到達可能とされてきたが,いずれにしても視野は深く,狭く,また脳の強いretractionを要するのが常であり,さらに各種脳神経の走行が手術手技を制約し,術後神経脱落症状を招来することが多く,練達の士でなくてはやはり困難な接近部位であることに変わりがない.

研究

脳動静脈奇形と脳動脈瘤合併症例における治療

著者: 賀川潤 ,   福田忠治 ,   東幸郎 ,   三輪哲郎 ,   伊東良則 ,   田島賢一

ページ範囲:P.615 - P.623

I.緒言
 脳動静脈奇形(以下AVM)や脳動脈瘤は頭蓋内出血を来す疾患としてわれわれ脳神経外科医は日常診療で多く経験する.これらの疾患に対しその出血(多くは再出血)を防止するために外科的治療を行うが,AVMも脳動脈瘤もその局在部位,形態,親動脈との関連等によりその外科的治療に困難を極めることも少なくない.ところが,この2者が合併することが稀ならずある.この合併例について両者の位置関係を分析し,その血行力学的考察などよりその合併機序等に関しての報告は多くあるが,その治療方針等に関しては未だ確立されておらず,その治療に苦慮することが少なくない.今回,われわれは9例のAVMと脳動脈瘤の合併例を経験したのでその治療方針等について検討を試みたので報告する.

頭蓋外脳血管内視鏡の応用—血管内視システムの開発

著者: 宮本享 ,   菊池晴彦 ,   永田泉 ,   山形専 ,   金子隆昭 ,   秋山義典 ,   伊藤建次郎 ,   金秀浩 ,   光野亀義

ページ範囲:P.625 - P.628

I.はじめに
 血管内視鏡の歴史は比較的古い2,9,10).しかし,用いる内視鏡が太すぎることや,血液を視野から排除することの困難さが問題となり,十分な時間良好な画像を得ることができず,開心術中など特別な場合を除けば臨床応用にはこれまで限界があった1,4,6,8,11,14).今回は0.6—0.75mmの直径を持つ微細径fiber catheter, double lu—men balloon catheterを利用し,頭蓋外閉塞性脳血管障害6症例に対して,血管内視鏡検査を行い有意な所見を得ることができたので,preliminary reportとして以下に報告する.

脊髄誘発電位測定(脊髄刺激法)による実験脊髄損傷の検討—脊髄誘発電位の経時的変化並びに脊髄損傷後の電位回復と下肢運動機能との相関性について

著者: 井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   秋野実 ,   阿部弘

ページ範囲:P.629 - P.634

I.はじめに
 実験脊髄損傷に対する脊髄機能の電気生理学的評価法としては,従来より,大脳皮質知覚誘発電位2-4,8,14,15,17)や末梢神経刺激法による脊髄誘発電位測定が行われて来た.しかしながら,これら検査法,とくに大脳皮質知覚誘発電位では,麻酔剤等の薬物投与や電気的アーチファクトにより影響を受けやすく,経時的波形分析が困難なことが多い.一方,脊髄刺激法による脊髄誘発電位測定法5-7,11,19,20,23)では,種々の条件下でも,明瞭な波形が得られ,脊髄損傷の重症度判定や波形の経時的変化を評価することが可能と思われる.今回,われわれは,硬膜外衝撃法による急性実験脊髄損傷犬に対して,受傷前後の脊髄誘発電位測定(脊髄刺激法による)を行ったので,各外傷群(300 gm-cm外傷,400 gm-cm外傷,500 gm-cm外傷)における脊髄誘発電位の経時的変化(受傷5時間後まで)を報告する.又,受傷後の脊髄誘発電位の回復程度と実験犬の下肢運動機能回復との相関関係についても,検討を加えた.

グリセロールの脳血流量・脳血液量・脳酸素代謝に及ぼす影響

著者: 石川正恒 ,   菊池晴彦 ,   永田泉 ,   山形専 ,   滝和郎 ,   小林映 ,   米倉義晴 ,   西澤貞彦

ページ範囲:P.635 - P.640

I.はじめに
 グリセロールは頭蓋内圧降下剤や脳浮腫治療薬としてよく用いられているが,本剤の脳循環や脳代謝に及ぼす影響については未だ不明な点も多い.今回,われわれは髄膜腫にて頭蓋内圧亢進症状がみられ,CTにてperi—focal edemaを有する症例を対象に15O標識ガスとポジトロンエミッションCTを用いてグリセロールの脳循環代謝に及ぼす影響について検討を加えた.

Nd:YAG Laserの脳血液関門ならびに脳表血管に対する急性効果

著者: 榊寿右 ,   角田茂 ,   京井喜久男 ,   内海庄三郎 ,   ,  

ページ範囲:P.641 - P.646

I.はじめに
 手術用Laserの使用により脳腫瘍の摘出や機能的に異常な神経組織の切除に際し,健常な脳組織を損傷させないで,無血的に手術操作が遂行されるようになった.そして現在のところ,CO2 laserとNd:YAG laserが脳神経外科領域で広く使用されている.さらにNd:YAG laserは水やガラスによりそのenergyが全く吸収されない事を利用して,細いglassfiberを利用した内視鏡的手術にも用いられるようになっている6)
 脳神経外科領域へのlaserの使用頻度が増加するにつれて,神経組織に対するlaser照射の影響についての動物実験を含むさまざまの見地からの研究が行われている8,10,18,22).これらの著者の大部分は主としてlaser照射によって生じる神経の組織学的所見をみているものであり,脳血液関門の障害や脳血管の反応性といった機能的な変化に対する検討はほとんど加えられていない.Toyaら27)はfluorescein angiographyを用いて,脳の微小循環に対するCO2laserの効果について調べ,そしてfluoresceinの通過しない領域と細小動脈の血栓形成を観察した.最近では,Tiznadoら25,26)が高いenergyのCO2laser照射をウサギの脳に行って,照射部まわりの脳血液関門の傷害,照射側大脳半球の脳波の徐波化,そして脳水分量の増加についての記述を行った.

症例

原発性大脳半球間裂部硬膜下膿瘍の1治験例

著者: 加川玲子 ,   島健 ,   松村茂次郎 ,   岡田芳和 ,   西田正博 ,   山田徹 ,   沖田進司

ページ範囲:P.647 - P.652

I.はじめに
 原発性大脳半球間裂部硬膜下膿瘍は稀な病態で,われわれの調べ得た範囲では,自験例を含め24例が報告されているに過ぎない.今回著者らは,CTスキャン及びmagnetic resonance imaging(MRI)で術前に的確な診断をし得た原発性大脳半球間裂部硬膜下膿瘍の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

両側性網膜芽細胞腫の治療15年後に発生した頭蓋内線維肉腫—Cisplatin, VP−16併用化学療法の有効性

著者: 水野正明 ,   吉田純 ,   下澤定志 ,   口脇博治

ページ範囲:P.653 - P.657

I.はじめに
 網膜芽細胞腫は二次性腫瘍の多発する疾患として知られている.特に両側性網膜芽細胞腫ではその頻度が高く,その原因として遺伝的素因が関係していると言われている.
 今回われわれは両側性網膜芽細胞腫の治療後約15年経て発生した左眼瞼部より頭蓋内に進展した巨大線維肉腫に対し,手術後CisplatinとVP−16併用化学療法にて完全寛解した症例を経験したので報告する.

後大脳動脈末梢部(P4 segment)動脈瘤の1例

著者: 石橋安彦 ,   小沼武英

ページ範囲:P.659 - P.662

I.はじめに
 後大脳動脈瘤は椎骨脳底動脈領域の動脈瘤の7-33%(約15%)16)であり,特にP1,P2部に多く,P3以下のdistal PCA動脈瘤は稀なものと思われる.今回,われわれは,硬膜下血腫,脳内血腫,脳室内出血を伴った後大脳動脈末梢部(P4)動脈瘤を経験したので,文献的考察を加え報告する.

気管支喘息様発作を伴って発症した第4脳室Epidermoidの1例

著者: 坂本学 ,   瀬尾善宣 ,   深見常晴 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.663 - P.668

I.はじめに
 頭蓋内epidermoidは,脳腫瘍全国統計(1969-1981)では全脳腫瘍の約0.9%と比較的稀な腫瘍であり,脳底傍正中部の小脳橋角部,傍トルコ鞍部がその好発部位で,第4脳室に発生することは極めて稀で,頭蓋内epidermoidの約7%にすぎない.第4脳室epidermoidに特徴的な症状はないが,歩行障害,頭痛,めまい等で発症することが多い.今回,われわれは嘔気,嘔吐で発症し,その後喘息様発作を来した極めて稀な第4脳室epidermoidを経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

老年期痴呆患者に生じた慢性硬膜下血腫の4例

著者: 西村謙一 ,   林忠実 ,   岩永大 ,   田中三男 ,   田淵和雄

ページ範囲:P.669 - P.672

I.はじめに
 高齢者にみられる慢性硬膜下血腫(chronic subdural hematoma,以下,CSHと略す)は,痴呆症状を呈することがあり,老年期痴呆と鑑別すべき重要な疾患のひとつであることは広く知られている10).また,既に痴呆状態の患者に,CSHを生じる例も,当然あり得るが,このような症例報告は非常に少ない10,11).われわれは,痴呆患者にCSHを生じた4症例を経験したので報告する.

小脳萎縮を伴った小脳橋角部類上皮腫の1症例

著者: 布施孝久 ,   高木卓爾 ,   大野正弘 ,   永井肇

ページ範囲:P.673 - P.677

I.はじめに
 頭蓋内の類上皮腫は胎生期に迷入した上皮細胞由来の腫瘍と考えられ,全脳腫瘍の1.1%を占め小脳橋角部腫瘍ではその3.0%を占める比較的稀な良性腫瘍である5).類上皮腫は腫瘍被膜の上皮細胞から脱落したコレステロールを含むkeratin debrisを内包しながら緩徐に発育するため,かなりの大きさに達するまで臨床症状が出現しない場合が多い8)
 小脳橋角部の類上皮腫が症状を発現する場合には腫瘍の存在範囲にとらわれずに,いくつかの神経系とくに第V, VII, VIII脳神経や小脳,さらには視覚系にも障害を認める場合がある.また無菌性髄膜炎も発症しうることから症状は多彩なものとなり神経学的に理解しがたく,特発性三叉神経痛として放置されたり多発性硬化症などに誤診される可能性もある6)

環椎外側塊単独骨折—1症例の報告

著者: 白坂有利 ,   遠藤光俊 ,   松澤裕次 ,   杉原央一 ,   酒井直人 ,   忍頂寺紀彰 ,   植村研一

ページ範囲:P.679 - P.682

I.はじめに
 環椎骨折は頻度が少なく,頸椎骨折の2-13%,全脊椎骨折の1.3%とされている12).神経学的にも,他覚的所見に乏しく,非特異的な自覚症状のみであることが多い.診断についても,頸椎単純撮影のみでは困難な場合が少なくない.今回著者らは環椎骨折の中でも極めて稀な外側塊単独骨折の1例を経験し,その診断から治癒過程に到るまでをCTにて観察しえたので,CTの有用性を強調するとともに,本症例の紹介および若干の文献的考察を試みた.

急性水頭症で発症した脳内原発性悪性リンパ腫の1例

著者: 近藤威 ,   玉木紀彦 ,   長嶋達也 ,   穀内隆 ,   松本悟 ,   小川良一 ,   中尾実信

ページ範囲:P.683 - P.686

I.はじめに
 原発性頭蓋内悪性リンパ腫は,全脳腫瘍中,O.5%—1.5%前後6-8),本邦の脳腫瘍全国統計でも0.9%14)と,比較的稀とされてきた.しかし,近年の画像診断の進歩,および種々の免疫能低下状態におかれる患者が増加するに従い,その頻度は急増する傾向にある.その診断において,近年の免疫組織学の進歩にともない,単にT細胞系,B細胞系の同定のみならず,それぞれの系の中の,どの分化段階での腫瘍化かを推定できるようになりつつある.今回われわれは,急性水頭症で発症し,髄液細胞診で悪性リンパ腫と診断された1例を経験した.頭蓋内には腫瘤陰影を認めず,臨床的には脳原発性髄膜播種性悪性リンパ腫と考えられ,その免疫組織学的検査結果を含めて,若干の文献的考察と共に報告する.

急性硬膜下血腫で発症した小髄膜腫の1例

著者: 佐藤清貴 ,   菅原孝行 ,   藤原悟 ,   溝井和夫 ,   吉本高志

ページ範囲:P.687 - P.690

I.はじめに
 急性硬膜下血腫は頭部外傷に伴って生じることが多いが,特発性の報告も散見される.一方,頭蓋内出血で発症する脳腫瘍は少なくないが,急性硬膜下血腫で発症することはまれである.今回われわれは,急性特発性硬膜下血腫の診断で開頭術を行い,術中所見より髄膜腫からの出血による急性硬膜下血腫と考えられた1症例を経験したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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