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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科17巻8号

1989年08月発行

雑誌目次

自主学習

著者: 戸谷重雄

ページ範囲:P.699 - P.700

 最近数年間は私共の大学でも卒前教育の見直しに迫られ,従来からあった教育関係の委員会すなわち教育委員会,学務委員会の他に,昨今の委員会ばやりにならって,学部長直属の教育刷新委員会,教授会下部組識としての総合授業小委員会,カリキュラム小委員会,自主学習小委員会などが生れ,私もこの中のいくつかに関係した.そして約2年間にいろいろな議論が尽されて,新しい教育カリキュラムが発足することとなった.その中での目玉は自主学習という制度を新しく設けたことである.
 なにしろ,私たちの大学では授業への学生の出席率が悪い.基礎科目の出席はまあまあといわれているが,臨床科目では,臨床実習は別として,各論系統講義と称するものの出席は悪い.一般論としてよくいわれる様に,講義に魅力が無いとか一部反省をこめて議論もされたが,結局それだけではないことがわかった.というよりはむしろ根本的な原因はわからなかった.勿論出席をとったり,小試験を繰返し行なえば出席率はよくなるが,大学教育でありながら出欠ばかりとるのは潔しとしない向きもあって,この方法は徹底しなかった.そこで,この問題の解決も含めて新しい時代に即応し,かつ先取りするようなカリキュラムを作ろうということになった.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(6)Meningiomas(髄膜腫)

著者: 山下純宏 ,   山嶋哲盛

ページ範囲:P.703 - P.711

I.発生母地
 髄膜腫はその発生早期より硬膜に付着しているため,古くは硬膜より発生するとされていた.ところが,1864年グラスゴーの解剖学者Clelancl3)が髄膜腫は組織学的にパキオニー顆粒に似ていることを指摘した.後年,Schmidt15),Cushing5)あるいはBailey1)らも本腫瘍はクモ膜絨毛のarachnoid cell clusterに似ているとした.したがって,髄膜腫の発生母地がクモ膜絨毛であることは今日,教科書的な事実となっている.
 クモ膜絨毛は髄膜腫の発生母地であると同時に脳脊髄液の吸収部位でもあるため,その形態と機能については,Weed19)以来多数の研究がなされてきた.しかし,その多くは実験動物を対象としたもので16),ヒトの材料を用いた研究はきわめて少ない18,22,23)

研究

慢性硬膜下血腫治療における重篤合併症の経験—その対策としての穿頭閉鎖式緩徐減圧ドレナージ術

著者: 山田洋司 ,   藤田稠清 ,   妹尾栄治 ,   川口哲郎

ページ範囲:P.713 - P.716

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫の治療は穿頭による洗浄術,あるいはその後にドレナージを設置するという方法が一般にとられている.しかし本法における合併症が報告されてから閉鎖式ドレナージを推奨する文献が散見され,その有用性が強調されている2,4,5,9).当院でも当初は穿頭洗浄術を施行していたが,術後の重篤な合併症例を経験し,これが急激な減圧による可能性が十分にあることを反省し,その後は穿頭後に緩徐に減圧を行う閉鎖式ドレナージ術を施行してきた.そこで今回は両者の治療法を同一施設において比較検討が可能であったので,重篤合併症例を呈示するとともに報告する.

MHC抗原欠損変異株を用いた脳内NaturalResistance機構に関する実験的解析

著者: 山崎俊樹 ,   菊池晴彦 ,   山下純宏 ,   ,   ,  

ページ範囲:P.717 - P.723

I.はじめに
 一般に,宿主の生体防御機構は自然抵抗性(naturalresistance, NR)と獲得免疫抵抗性(acquired immunity)に分けられ,前者はマクロファージ,ナチュラルキラー(NK)細胞,多核白血球あるいは補体を中心とする種々の血清蛋白などが,後者では主にT細胞が関与しているといわれている5,11,17).脳における免疫監視機構に関して,従来より脳は部分的に"immunologically pri—vileged organ"と考えられているが,これは主にT cell—dependentな免疫反応に対して検討された概念1,3,18,22,24,26)であり,特にNRメカニズムに関しては不明な点が多い.今回,脳腫瘍に対する生体のNR機構,特にNK細胞の関与する脳内での免疫応答が機能しているかを検索する目的で,以下に述べる理由からマウスYAC−1リンパ腫を用い,実験的脳腫瘍モデル系を確立し脳内におけるT cell-dependent surveillance機構と比較することによりNK cell-dependentな免疫監視機構を解析した.

Pathological Analyses on the Compressed Cord by the Experimental Spinal Metastasis

著者: 真鍋昌平 ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.725 - P.731

 The purpose of the present experimental spinal metastasis developed in rats by inoculation of Walker's cancer cells through the spinous process is to find the factor which causes the initial damage of the cord in this disorder.In the early stage of paralysis, microan—giogram exhibited that the degenerated posterior funi—culus originated from the small hemorrhagic area in the posterior column of the involved cord.Scanning elec—tron microscopic findings showed that the hemorrhage was of the intrinsic vein resulting from the disturbance of venous drainage in the compressed portion.

高血圧性橋出血に対するCT定位血腫除去術—保存的治療との比較検討

著者: 高浜秀俊 ,   森井研 ,   佐藤光弥 ,   関口賢太郎 ,   佐藤進

ページ範囲:P.733 - P.739

I.はじめに
 橋出血の診断は,従来,神経放射線学的に困難であったが,CT scanの出現・発達により,血腫の部位・大きさ・伸展方向等が正確に描出されるようになり容易になった.また一方,CTの発達と共に,定位的血腫除去術が容易に,しかも安全に施行し得ることが明らかになっている.
 われわれは,最近,高血圧性橋出血に対しても機能予後の改善を期待して,CT定位血腫除去術を行っている.そこでこの度,高血圧性橋血に対するCT定位血腫除去術の治療効果並びに手術適応を検討するため,血腫除去術例と保存的治療例との転帰を比較検討したので報告する.

ACNU髄腔内潅流療法—神経毒性および薬動力学に関する実験的研究

著者: 河内正人 ,   倉津純一 ,   三原洋祐 ,   井上信博 ,   高木修一 ,   末吉信之 ,   曾山直宏 ,   植村正三郎 ,   生塩之敬

ページ範囲:P.741 - P.746

I.はじめに
 最近の治療法の進歩により,悪性gliomaの生存期間は延長し,それに伴って腫瘍の髄腔内播種が臨床上問題になっている1,15,16,28).これに対する治療として,現在,照射療法,全身および髄腔内化学療法が行われている.髄腔内化学療法に用いられる抗癌剤としては,me—thotrexate3,6,10,18,19,20,23),cytosine arabinoside6,7,10),thio-TEPA6,8,9,18),bleomycin24),neocarzinostatin12,13,21,22)などがあり,種々試みられているが,いずれも効果は認められていない27)
 Nitrosourea系の抗癌剤であるACNU(nimu—stine hydrochloride)は悪性gliomaに対する全身化学療法に広く使用されている薬剤である.われわれはgliomaの髄腔内播種に対する治療法として,ACNUの髄腔内投与,とくに潅流療法に着目し24-27),犬を用いた実験を行い,神経毒性および髄腔内薬物動態について検討を加えたので報告する.

症例

長期透析患者にみられた手根管症候群の1例

著者: 諏訪英行 ,   花北順哉 ,   阪井田博司 ,   西正吾 ,   太田文人 ,   森典子 ,   長峰隆 ,   谷山清己

ページ範囲:P.747 - P.750

I.はじめに
 手根管症候群は,上肢におけるentrapment neuropa—thyのうちで最も頻度の高いものである.その発症原因の一つとして,1975年Warren17)らにより長期透析患者に本症候群が高頻度に発症することが報告されて以来,人工透析に関与する医師達を中心にその病態の解明,治療方法,予後等につき研究がすすめられてきた.しかしながらこの興味ある病態についての脳神経外科医の関心は薄く,いまだ十分に知れわたっていないものと考えられる。
 昨今,本邦の脳神経外科医の治療対象は脊髄,末梢神経領域へも拡大の一途をたどっており,この長期透析患者に好発する手根管症候群は脳神経外科医としてぜひとも知っておくべき病態と考えられたので,われわれの経験した1例を報告し,文献的考察を加えた.

外傷後脳空気塞栓症の1例

著者: 棟田耕二 ,   西本健

ページ範囲:P.751 - P.754

I.はじめに
 脳空気塞栓症の診断は従来それが起こり得る条件の存在と臨床症状に基づいていたが,最近CTで空気像が認められる例が報告されるようになった.剖検においても血管内に空気を証明することは容易でなく,放射線学的な方法の方が良いという意見もある.われわれの施設でもCTと頭蓋単純写真で脳血管内に空気を認めた症例を経験したので文献的考察を加えて報告したい.

仮性脳動脈瘤の破裂による脳室内出血を繰り返したもやもや病の1例

著者: 定藤章代 ,   米川泰弘 ,   諸岡芳人 ,   今北正

ページ範囲:P.755 - P.758

I.はじめに
 もやもや病に合併した動脈瘤の報告例は少なくなく,ウイリス輪及び,その周辺に出来るものと,末梢血管に出来るものとが報告されている.末梢血管のものに限れば,多くの場合は血管写上偶然に発見され,重大な出血を起こすことは少ないが,また出血した場合でも経過観察上自然消失することが多いと言われている.本例は出血を繰り返し,また手術的に動脈瘤を切除し得たもので,組織学的所見も加えて報告する.

慢性硬膜下血腫術後に合併した脳内出血の2例

著者: 城山雄二郎 ,   池山幸英 ,   青木秀夫 ,   植田浩之 ,   三谷哲美

ページ範囲:P.759 - P.762

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫は脳神経外科医にとって比較的予後良好な疾患として安易に治療される場合がある.しかし,その術後合併症には感染,血腫の再貯留,水頭症,痙攣,SIADH,脳浮腫,脳内出血などのさまざまな報告がなされている4).今回,われわれはこのなかで比較的稀な術後急性期における脳内出血の2例を経験したので,これらの病態について若干の文献的報告を加え検討した.

進行癌に続発した慢性硬膜下血腫3例の検討

著者: 金城利彦 ,   六川二郎 ,   高良英一 ,   堀川恭偉

ページ範囲:P.763 - P.768

I.はじめに
 進行癌の硬膜転移に続発した非外傷性の硬膜下血腫は1904年のWestenhoeffer22)以来1987年までに30例の報告1-16,19-23)がある.われわれは最近,胃癌2例と原発巣不明の腺癌1例に続発した慢性硬膜下血腫3例を経験した.2例は癌の広範な骨髄転移を伴い,1例でもそれが疑われるので,検査所見も含めて報告する.

新生児髄芽腫の1例

著者: 清水宏明 ,   嘉山孝正 ,   上之原広司 ,   桜井芳明 ,   小川彰 ,   和田徳男

ページ範囲:P.771 - P.776

I.はじめに
 新生児脳腫瘍は小児脳腫瘍の約1.0%前後15,16)と稀であり,なかでも新生児髄芽腫は現在までに20数例が報告されているにすぎない.これら新生児脳腫瘍の治療結果は未だに悲観的であるが,問題点としては,手術療法が困難であることや放射線療法の副作用等があり,今後解決されねばならない点が多い.最近われわれは新生児髄芽腫に手術,放射線および化学療法を施行した1例を経験したので,治療に関する若干の文献的考察とともに報告する.

両側対称性Distal ACA動脈瘤

著者: 新島京 ,   米川泰弘 ,   河野輝昭

ページ範囲:P.779 - P.781

I.はじめに
 脳動脈瘤の中で前大脳動脈に発生するものは30—40%といわれている.そのうちの殆どは前交通動脈瘤であって,末梢性前大脳動脈瘤(DACA AN)は5%以下と考えられている1,5).両側対称性に存在するDACAANとなると更に少ないと思われる.
 両側の傍脳梁動脈(Pcal)と脳梁辺縁動脈(CM)の分岐部に動脈瘤を有する症例を経験し治療したので,これを報告するとともに若干の文献的考察を加える.

下垂体腺腫の放射線照射後に発生したMalignant Astrocytomaの1例

著者: 須田良孝 ,   峯浦一喜 ,   古和田正悦 ,   大石光

ページ範囲:P.783 - P.788

I.はじめに
 脳腫瘍の放射線治療において,照射後に組織学的に異なる腫瘍が発生する放射線誘発腫瘍が問題とされているが,中枢神経系誘発腫瘍の多くは髄膜腫と肉腫で12,20,27,33,34),グリオーマは少数であり,渉猟し得た限りでは38例の報告1-3,5-7,10,11,13-19,21-27,29-32,34)がある。本邦では1977年にKomakiら14)が頭蓋咽頭腫の放射線照射後6年目に右側頭葉に発生したglioblastoma例を記載して以来,2例14,21)の報告をみるに過ぎない.
 今回,下垂体腺腫に対して放射線療法を行い,4年6カ月を経てmalignant astrocytomaが右側頭葉に発生した放射線誘発腫瘍の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

報告記

第3回中性子捕捉療法国際シンポジウム

著者: 畠中坦

ページ範囲:P.769 - P.769

 1983年の第1回(於マサチューセッツ工科大学),第2回(1985年,於帝京大学)に引続き第3回の中性子捕捉療法国際シンポジウムが西独ブレーメン大学で開催された.参加者・参加国ともに膨れ上って第1回の100名弱,第2回の230名,第3回の約300名となり,これ迄の中心的な米,日,スウェーデン,西独,英,スイス,オーストラリア,オーストリアなどの西側諸国に加えて,今回はソ連,チェコスロバキア,ブラジルなどが加わって,ますますグローバルに拡がって来たという感じとなった.共産圏の人々が参加するためには政府の承認,支援がなくては不可能なので,それだけ硼素中性子捕捉療法が有力視されて来たという証左であろう.
 今回のシンポジウムでは95題の演題が集ったが,学術集会の他に学会の運営・構成についてかなりの政治的駆引きが舞台裏で激しく行われた.これもまた中性子捕捉療法が有望になって来たことに起因する一種の「先陣争い」という見方も可能である.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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