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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科17巻9号

1989年09月発行

雑誌目次

上手な手術—うまい手術と良い手術

著者: 坪川孝志

ページ範囲:P.797 - P.798

 ある脳神経外科教室の教授選考に際して,従来よりの研究業績と推薦状の他に,最近の主要手術の一覧表を提出するように求められているのをみた.確かに脳神経外科の教授はその施設での診療・研究・教育の三つの面で指導すべき責任があり,とくに治療の面では手術が上手でなければ,その施設での治療成績の向上は望むべくもない.治療成績の向上のないところに,斬新な研究や優れた教育など期待することは土台無理な話である.この大学では,手術症例を提示させることで,上手な手術のできる脳神経外科医を求めるための一つの評価法としようとしたに違いない.確かに提出しないよりは,目安をうるには優れた方法ともいえる.
 しかし,手術症例の一覧表を選考委員の先生方がチェックして,どのような症例を,どれ程の症例に手術の機会があったかを知るにとどまり,選考委員の先生方が期待している上手な手術ができる脳神経外科医を選び出すことは困難であるばかりか,上手な手術という概念すら歪めかねないおそれさえ感じられる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

頭蓋咽頭腫に対するInterhemispheric,Trans-lamina Terminalis Approach

著者: 浅野孝雄

ページ範囲:P.799 - P.812

I.はじめに
 頭蓋咽頭腫は,pituitary stalk(hypophyseal duct orRathke's pouch)に発生し,主としてoptic chiasm後方に発育する.通常,この腫瘍は,数cm以上の大きさに達して初めて発見されるが,そのとき腫瘍は,Circle ofWillisとその分枝,optic chiasm and tract,第3脳室壁(視床下部,視床),さらにlimbic systemの構成要素(mammilary body,fornix,septal areaなど)によって取り囲まれている.これら,重要な機能を有する脳領域,動脈分枝を傷付けずに腫瘍を摘出することを目的として,多くのアプローチ(進入経路)が考案されてきた1,2).即ち,subfrontal3),pterional4),transcallosal5,6),transsphenoidal7),interhemispheric8)approachなどであり,第3脳室内腫瘍の摘出に当たっては,lamina terminalisから脳室内に入ることも試みられてきた9).しかしpterionalなど,片側からのアプローチでは,lamina terminalisを開いたとしても直視できる第3脳室壁の範囲は限られている.

研究

腰部脊柱管狭窄症における各種神経放射線学的診断法の有用性とその限界

著者: 西正吾 ,   花北順哉 ,   諏訪英行 ,   太田文人 ,   阪井田博司

ページ範囲:P.813 - P.819

I.はじめに
 腰部脊柱管狭窄症は術中における脊柱管の形態からVerbiestにより提唱された概念である43-46)が,その後この病態に関する腰椎単純撮影2,3,10,13,15,36,37,41,42),腰椎断層撮影9,45),CTスキャン11,31,34),脊髄造影26,27,38),メトリザマイドCTスキャン6,12,16,23,44)などの各種神経放射線学的診断法による所見が多数,報告されており,最近では,MRIを用いての検討もいくつか行われている,
 今回,手術により確認し得た腰部脊柱管狭窄症の自験51例を対象として,腰椎単純撮影,脊髄造影,メトリザマイドCTスキャン,MRIの各種検査法の所見をもとに,この病態に対する各種神経放射線学的検査法の有用性及び,その限界につき検討した.

脳虚血再開通後に見られる遅発性神経機能障害

著者: 山形専 ,   菊池晴彦 ,   橋本研二 ,   南川順 ,   松本正人

ページ範囲:P.821 - P.826

I.はじめに
 脳虚血に対する脳機能の回復は脳虚血の程度とその持続時間により決定される.すなわち脳波あるいは誘発電位などの脳機能はこれらの完全消失に到らない軽度ないし中等度の虚血においてはかなり長時間の虚血に対して回復しうる.これに対しこれの反応が全く消失するような強い虚血においては回復可能な虚血時間は極端に短くなる.そしてこのような虚血においては機能の回復は虚血の持続時間と非常に良く相関すると言ってよい.これまでわれわれは猫を用いた全脳虚血モデルにおいて,脳皮質の機能は脳皮質の直接刺激による反応が全く消失するような強い虚血において5分以内の再開通では全例で,15分後では約半数でほぼ完全な回復が期待できる一方,30分以後の再開通では完全な回復が期待できないことを報告してきた12,13)
 このような脳虚血からの脳機能の回復に関する報告は散見されるが,多くの場合回復・非回復の判断は虚血再開通後6ないし8時間の短時間で行われているように思われる1,4-6,9).しかしながら,われわれのこれまでの検討の中で虚血後再開通により回復の見られていた脳皮質機能が数時間後より悪化する現象を観察し13),このような短時間での回復の判断が必ずしも正確でないことが示唆される.

慢性硬膜下血腫の機能予後に関する因子

著者: 平井収 ,   山川弘保 ,   西川方夫 ,   渡辺修 ,   木下良正 ,   宇野晃 ,   半田肇

ページ範囲:P.827 - P.833

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫は脳神経外科領域の中で最も予後の良い疾患のひとつで,ほとんどの症例は穿頭血腫除去および硬膜下ドレナージで治癒せしめることが出来ると考えられている.また局所麻酔下で手術が行えるために,高齢者や全身状態の悪い患者に対しても比較的安易に手術が施行されているのが現状と思われる.
 しかし中には治療効果の上がらない症例もあることは以前から指摘されており1,6),さらに最近では患者の高齢化に伴い,その傾向が増強している感がある.過去にも機能予後について論じた報告はあるが,主に手術法の優劣の比較という見地からなされたものであった6,13,16).そこで当施設において経験した症例をretrospectiveに調査し,主に機能予後におよぼす因子という面から本疾患における最近の発症傾向について検討した.

顕微鏡下超音波吸引装置Micro Ultra-Sonic Aspirator(MUSA)の開発および改良について

著者: 伊関洋 ,   天野恵市 ,   河村弘庸 ,   谷川達也 ,   川畠弘子 ,   能谷正雄 ,   長尾建樹 ,   岩田幸也 ,   平孝臣 ,   梅沢義弘 ,   清水常正 ,   荒井孝司 ,   川崎弘遠 ,   黒須昭博 ,   村尾昌彦 ,   今永浩寿 ,   杉浦誠 ,   松本圭蔵 ,   上島繁

ページ範囲:P.835 - P.839

I.はじめに
 超音波吸引装置の臨床応用は1967年の白内障手術が最初である.その後キャビトロン社の超音波吸引装置(CUSA)が超音波メスとして外科領域で広く使用されている.脳神経外科領域では,1978年Flammら2)により初めて脳腫瘍の摘出に超音波吸引装置が用いられた.CUSAなどの従来の超音波吸引装置のハンドピースは通常の開頭術には操作しやすい大きさであるが,必ずしも顕微鏡下での操作性には優れていない.そこで,著者らは徳島大学脳神経外科で開発された脳内血腫除去用の超音波吸引装置(NIIC Ultra-Sonic Hematoma Aspirator:以下NIIC USHAとする)8)を基礎にして,ハンドピースの軽量化および超音波振動の強度を術者が調節できる手元コントローラーの導入により,顕微鏡下での操作性の向上を計った超音波吸引装置(Micro Ultra-SonicAspirator:以下MUSAとする)を開発したので報告する.

Dynamic CTを用いた脳腫瘍の血管透過性に関する検討

著者: 寺田友昭 ,   西口孝 ,   兵谷源八 ,   宮本和紀 ,   中村善也 ,   津浦光晴 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.841 - P.848

I.はじめに
 近年脳腫瘍に対する化学療法の進歩とともに,薬剤の投与方法も検討され,マニトールによるblood brainbarrier(BBB)opening therapyも行われている4,7,9,10,12).しかし,本法により,腫瘍への薬物移行が増加する反面,正常脳組織へも薬物が大量に入ってしまうという問題点もあり,その適応に関しては意見の一致を見ていない4,9,).そこで,各腫瘍組織の血管透過性を知ることができれば,本法の適応を確立し得ると考えられるが,脳腫瘍の血管透過性については,現状では実験的には調べられているものの1,17),臨床的には造影CTでその程度が推測されているに過ぎない.また,造影CTでのcontrast enhancement(CE)の機序には,血管床容積の増加と血管透過性の亢進の二つが考えられ,造影CTでは血管透過性のみを評価できない14).今回,われわれは脳腫瘍の血管床容積と血管透過性の程度をdynamic CT(DCT)を用いて検討した結果,glioma群で特徴的な所見が得られ,本法がBBB opening therapyの適応決定に役立つと考えられたので報告する.

症例

抗血小板療法中に急性脊髄硬膜外血腫を合併した1症例

著者: 三島一彦 ,   有竹康一 ,   森田明夫 ,   宮川尚久 ,   瀬川弘 ,   佐野圭司

ページ範囲:P.849 - P.853

I.はじめに
 脊髄硬膜外血腫は比較的稀な疾患であるが,早期診断,早期手術が必要であるという点で,臨床上重要な疾患である.今回われわれは,脳梗塞再発予防を目的とした抗血小板療法中に,急性脊髄硬膜外血腫を合併した1例を経験し,早期診断,早期手術を行い良好な結果を得たので若干の考察を加え報告する.尚,抗血小板療法中に腰椎穿刺等のtraumaticな誘因なく本症を発症した症例は,われわれの調べた範囲では本例がはじめてである.

小児の外傷性脊椎・脊髄損傷例の検討

著者: 重森稔 ,   徳富孝志 ,   弓削龍雄 ,   山本文人 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.855 - P.860

I.はじめに
 幼小児の脊椎,脊髄損傷は稀であるが,open epiphy—sesその他の構造上の特徴により成人の脊椎や脊髄損傷と比較して,異なる臨床像や経過をとることが知られている.発育途上にある幼小児においては,損傷の初期治療はもとよりその後の管理やリハビリテーションに関しても,将来的視野に立ったより長期のfollow upが必要であり,成人に対するのとはまた別の配慮が要求される.今回は当科で経験した15歳以下の小児の外傷性脊椎,脊髄損傷例5例の臨床像や経過について,文献的考察もまじえて検討したので報告する.

頭位変換による環椎軸椎関節部での椎骨動脈狭窄

著者: 藤本俊一郎 ,   吉野公博 ,   伊藤隆彦 ,   寺井義徳 ,   河内正光 ,   中川実

ページ範囲:P.861 - P.865

I.はじめに
 頭位変換により頭蓋外椎骨動脈がfirst portion,second portion,環椎軸椎関節(atlantoaxial joint:AAJ)部,後頭環椎関節部で閉塞され椎骨脳底動脈循環不全症をきたすことが稀にある3).最近椎骨脳底動脈循環不全症を主訴として来院し,両側椎骨動脈撮影で正中位では異常がないが頭部回転により回転と反対側の椎骨動脈が,AAJ部で狭窄あるいは閉塞をきたした3症例を経験したので症例を呈示するとともに,頭位変換によるAAJ部での椎骨動脈閉塞の病態とその治療法について文献的考察を加え報告する.

術後の癒着性クモ膜炎とExtradural Cystに伴ったSyringomyeliaの1例

著者: 堀本長治 ,   笠伸年 ,   柴田尚武 ,   森和夫

ページ範囲:P.867 - P.870

I.はじめに
 Syringomyeliaの成因及び治療については未だ議論の多いところであるが,今回われわれは頸部神経鞘腫の術後にextradural cystと癒着性クモ膜炎を伴ったsyringo—myeliaの症例を経験し,syringomyeliaの成因に関して示唆に富む症例と思われたので報告する.

Lymphocytic Adenohypophysitisと考えられた1例—MRI所見を中心として

著者: 三上貴司 ,   魚住徹 ,   山中正美 ,   迫田勝明 ,   金沢潤一 ,   香川佳博 ,   梶間敏男

ページ範囲:P.871 - P.876

I.はじめに
 トルコ鞍部腫瘍と鑑別を要する疾患としてlymphocy—tic adenohypophysitisが知られている.今回われわれは,妊娠後期に視力視野障害で発症した本疾患と考えられる1例を経験し,その自然経過をMRIでfollow upし得たので,若干の文献的考察を加えて報告する.

多発性骨髄腫を合併したCerebral Astrocytomaの1剖検例

著者: 加藤一郎 ,   木内博之 ,   今泉茂樹 ,   片倉隆一 ,   吉本高志

ページ範囲:P.877 - P.881

I.はじめに
 多発性骨髄腫とは異常形質細胞が骨髄中に増殖し,末期に骨髄機能の低下をきたして死亡する骨髄増殖性症候群である.本疾患は高率に重複腫瘍を合併することが知られているが脳腫瘍を合併した例は極めて少ない.われわれは最近,多発性骨髄腫にastrocytomaを合併した,稀な同時性重複腫瘍の1剖検例を経験したのでその発生機序等につき,若干の文献的考察を加えて報告する.

極めて稀な尿管原発転移性脳腫瘍の1剖検例

著者: 佐久間司郎 ,   中川翼 ,   今村博幸 ,   竹田誠 ,   磯部正則 ,   石井伸明 ,   黒田敏 ,   藤田美悧 ,   館山美樹

ページ範囲:P.883 - P.886

I.はじめに
 転移性脳腫瘍の原発巣として尿路系悪性腫瘍の頻度は4-5%といわれているが8),尿管が原発巣となる例は非常に稀でありこれ迄報告をみない.今回,われわれは剖検により尿管原発の転移性脳腫瘍と判明した1症例を経験したので報告する.

脳原発の悪性黒色腫の1例—特徴的なMRI所見について

著者: 山下弘己 ,   鳥羽保 ,   安永暁生 ,   柴田尚武 ,   森和夫 ,   島田修

ページ範囲:P.887 - P.891

I.はじめに
 中枢神経系に原発する悪性黒色腫は,1987年の脳腫瘍全国集計調査報告17)によると,全脳腫瘍の0.07%を占めるにすぎない.
 最近著者らは,脳軟膜に原発したと思われる悪性黒色腫の1例を経験したが、MRIにおいて腫瘍の一部がT1強調像で高信号域を,T2強調像で低信号域を呈していた.他の脳腫瘍と異なるこの特徴的なMRI所見について報告するとともに,その発現機序についても若干の文献的考察を加えた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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