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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科18巻1号

1990年01月発行

雑誌目次

Don't You Think It Strange?

著者: 端和夫

ページ範囲:P.5 - P.6

 日本脳神経外科学会の機関誌である「神経外科」が英語の雑誌になってしまった.日本の脳神経外科は今や世界の有力なメンバーとなったので,国際語でcommunicateしなければという主旨であろうが,正直なところ,これは何とも憂鬱な話である.
 日常の仕事に追われ,読まなければと思って机の上に積んである書類や雑誌の山が,毎日少しずつ高くなって行くような状態ではなおのことである.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(8)Pituitary Adenoma

著者: 寺本明

ページ範囲:P.7 - P.14

I.はじめに
 現在,下垂体腺腫は臨床の分野においてprolactino—ma, acromegaly, Cushing disease, non-functioning ade—nomaと分類されたり,または腺腫が分泌する(と考えられる)ホルモンの名称を冠して命名されている.後者の場合,例を挙げるとGH producing adenomaとかTSH-PRL secreting adenomaという具合である.
 一方,病理組織学的には,未だにchromophobe, eosi—nophilic, basophihcないしこれらのmixed typeといった分類が用いられている場合と,免疫組織学的に極めて詳細な診断がなされている場合がある.免疫組織化学は,古典的なacid-base stainに比し,腺腫の有するホルモン産生能を特異的に表現し21),当初は臨床内分泌学と非常に密接な関連を有していた28-30).しかし,ごく少数のホルモン陽性細胞がみられるような場合にもこれを腺腫の命名分類に用いると,臨床面とのずれが問題となり始める.

総説

脳血管の間接的吻合術

著者: 松島善治

ページ範囲:P.15 - P.23

I.はじめに
 近年,ことに日本に於て,主としてモヤモヤ病に対してさまざまの間接的血管吻合術が行われるようになった3,9,25,26,31,41,71,72).その効果が次第に明らかになるにつれて10,11,24,39,43,63),脳の間接的血管吻合術はようやくその市民権を獲得したように思われる52)
 脳の血流を増加させる手段としては,STA-MCAanastomosisで代表される直接的血管吻合術と,ここに述べる間接的血管吻合術とがあるが,直接的吻合術の有効性については何人も疑義を持たないところであろう.ところが先年の世界的規模の協同研究に於てSTA—MCA anastomosisは,多くの場面に於て内科的治療と比較して統計学的に有意の差が無い,という結果に終わった.このことはわれわれが脳にとって良かれと考えることが,必ずしも脳の立場からは好ましいものとは限らないことを意味しており,手術の適応の決定は慎重であらねばならないことを意味している.この点間接的吻合術は,いわば脳自体に適応を決定させるような手術であり,今後ますますその適応を拡大してよい手術と考えられる.逆の言い方をすれば,間接的血管吻合術が効果のある様な症例がすなわち脳の側からすれば直接的血管吻合術の本当の適応の有る患者といえるのでは無いだろうか.

研究

視床出血に対する定位的血腫吸引術のSingle Photon Emission CTによる評価

著者: 上田幹也 ,   森永一生 ,   松本行弘 ,   大宮信行 ,   三上淳一 ,   佐藤宏之 ,   井上慶俊 ,   大川原修二

ページ範囲:P.25 - P.31

I.はじめに
 高血圧性視床出血に対する外科的治療は合併する閉塞性水頭症を改善する目的で脳室ドレナージが主に行われ,血腫自体に対する外科的治療は手術侵襲が大きく一般には行われていなかったが,最近手術侵襲の少ないCT・エコーを用いた定位的血腫吸引術が発達し,視床出血に対しても行われるようになった2,6-8).また視床出血に対する定位的血腫吸引術の成績については保存的治療と比較して機能予後の改善が得られると報告されている2,8)
 著者らは経時的脳血流量(CBF)測定を行いえた視床出血16例について,保存的治療群(保存群)と定位的血腫吸引術施行群(吸引群)の2群に分け比較検討し,CBFの面から見た定位的血腫吸引術の有用性について検討したので報告する.

脳神経外科領域における非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡例の検討

著者: 松村明 ,   篠原明 ,   橋川正典 ,   久木田親重 ,   小松洋治 ,   高野晋吾 ,   牧豊

ページ範囲:P.33 - P.38

I.はじめに
 非ケトン性高浸透圧性糖尿病性昏睡(以下NHC)は軽度糖尿病や糖尿病既往の無い患者で比較的高齢者に多く見られる病態であり,ケトアシドーシスを伴わない高血糖,高Na血症が特徴とされている7,8,16,21,24)
 一般的には感染や脱水を誘因とし7,8,16,21,22),脳神経外科領域においてはマニトールやグリセオールなどの高浸透圧利尿剤2,10,13,18,20),ステロイド10,14),ジフェニールヒダントイン6)などがNHCの誘因となることが知られている.加えて意識障害や嚥下障害のために経管栄養や経静脈的高カロリー輸液(以下IVH)もしばしば用いられ,高血糖が誘発されやすい状態となっている.

遷延性意識障害例に対するDCS療法—その適応に関する検討

著者: 横山哲也 ,   神野哲夫 ,   亀井義文 ,   庄田基 ,   井上孝司 ,   笠間睦 ,   阿部守 ,   金岡成益 ,   尾内一如

ページ範囲:P.39 - P.45

I.緒言
 著者らは既にDCS(Dorsum Column Stimulation)が遷延性意識障害例の臨床症状を改善し,局所脳血流量の増加,及び髄液中のカテコールアミン代謝を賦活させる可能性が強いことを報告4,5)した.
 以後症例を重ね,現在まで23例の遷延性意識障害例にDCS療法を行った.そして現在までに8例の臨床的改善を認めた.

実験的クモ膜下出血における血管内皮細胞の血小板付着・凝集抑制能の低下

著者: 大熊洋揮 ,   鈴木重晴 ,   野々垣洋一 ,   相馬正始

ページ範囲:P.47 - P.52

I.はじめに
 血管内皮細胞はprostacyclin(以下PGI2)の合成などを介して血小板の血管内面への付着,凝集を予防する作用(以下血小板付着・凝集抑制能)を有すること12,26)が知られているが,クモ膜下出血およびその後に好発する脳血管攣縮(以下攣縮)に際しては,PGI2合成能の低下を含む内皮細胞の各種機能障害の生ずることが指摘されている2,10,11,13,18-20).一方,攣縮に伴う脳虚血に影響を与える要因として血小板機能亢進状態さらには血栓形成の関与が注目されている8,15,23)が,この血小板賦活状態をもたらす原因として内皮細胞障害が大きく関与するものと推察される.しかしクモ膜下出血に際しての血管内皮細胞障害の発生時期および程度と内皮細胞の血小板付着・凝集抑制能低下との具体的関連性に関しては未だ充分証明がなされていない.
 そこで攣縮発生における血管内膜の経時的形態的変化を走査電顕下に観察し,さらにそれに伴う血小板付着・凝集抑制能の変化を検索する目的で以下の実験を行った.

腰仙部脊髄髄膜瘤における水頭症発現とその治療時期の検討

著者: 奥山徹 ,   平井宏樹 ,   清水一志 ,   丹羽潤 ,   久保田司 ,   相馬文勝 ,   高橋義男 ,   堤博

ページ範囲:P.53 - P.58

I.はじめに
 脊髄髄膜瘤は中枢神経系の先天奇形であり,多くの症例で水頭症を合併することはよく知られている1,2,8,10,13).頭囲拡大や脳室拡大の程度は症例によりさまざまで,すでに出生時に認められるものから生後に著明に進行するものまで症例に因って異なる8).そのため,脳室拡大が頭蓋内圧亢進を伴い治療の対象となるものであるかどうか診断が難しく,またその治療はいつ行うべきかについてはっきりした基準はなく,臨床症状や大泉門の状態,CT所見などから経験的にシャント手術が行われているのが現状である.
 われわれは9例の腰仙部脊髄髄膜瘤に合併した水頭症について,臨床症状,頭囲と頭囲拡大率,出生時の脳室の大きさと生後の脳室拡大率,頭蓋内圧からretrospec—tiveにシャント手術の必要性とその実施時期について検討した.

症例

聴神経より発生したMalignant Schwannomaの1例

著者: 松元幹郎 ,   坂田義人 ,   三瓶建二 ,   小名木敦雄 ,   寺尾栄夫 ,   二藤玄恵

ページ範囲:P.59 - P.62

I.はじめに
 聴神経より発生するschwannomaは病理組織学的には一般には良性腫瘍14)で,聴神経由来の‘malignant schwannoma’の報告は,われわれが調べた限りでは見い出し得ない.
 われわれは右聴神経より発生した腫瘍で,組織学的に‘malignant schwannoma’の所見を示し,極めて急激な臨床経過をとった1例を経験した.本症例の病理組織学的所見に関しては既に他誌に詳細に報告したので12),今回はその臨床経過を中心に若干の文献的考察を加えて報告する.

再発病巣が化学療法のみで消失した腎癌の転移性脳腫瘍の1例

著者: 佐藤清貴 ,   嘉山孝正 ,   小川彰 ,   桜井芳明 ,   和田徳男

ページ範囲:P.63 - P.66

I.はじめに
 転移性脳腫瘍の原発巣としては肺が最も多く,腎臓は約4%を占めるとされている.いずれにしても予後は不良であり進行期症例の治療は絶望的と言える.今回われわれは腎細胞癌の脳転移に対し開頭術を行い,その後脳腫瘍が再発したものの,化学療法のみで消失した症例を経験したので報告する.

興味ある経過を呈した外傷性小脳損傷の2例

著者: 横田裕行 ,   中沢省三 ,   小林士郎 ,   谷口禎規 ,   辻之英

ページ範囲:P.67 - P.70

I.はじめに
 外傷性小脳損傷は極めてまれで,死亡率も46-82%と高く予後不良の疾患1,16,17)である.今回われわれは,経過中に内側縦束症候群(Medial longitudinal fasciculus syndrome:MLF症候群)あるいはcerebellar mutismという多彩な臨床症状を呈し,予後良好であった2症例を経験し若干の知見を得たので報告する.

Ectopic Large Pituitary Adenomaの1例

著者: 岩井謙育 ,   白馬明 ,   勝山諄亮 ,   永田安徳 ,   西村周郎 ,   阿部一清 ,   朝倉保 ,   井上祐一

ページ範囲:P.71 - P.75

I.はじめに
 異所性下垂体腺腫は非常に稀であり,現在までに17例が報告されているに過ぎない1-3,5,8-15).著者らは,鞍上部に発生し,橋前面にまで伸展した巨大な本腫瘍を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

脳内出血で発症した内頸動脈欠損症の1例

著者: 上原久生 ,   中野真一 ,   丸岡伸比古 ,   脇坂信一郎 ,   木下和夫

ページ範囲:P.77 - P.81

I.はじめに
 内頸動脈欠損症は,非常に稀であり頭蓋内血管性病変の際の検査により偶然見つかることが多い.その病変としては,脳動脈瘤が圧倒的に多く,その血行動態に基づく発生が論じられている13).今回われわれは,脳内出血で発症し血管撮影上,一側内頸動脈欠損症が見られ,出血源は小動静脈奇形が疑われた症例を経験した.これに文献的考察を加えて,本症における頭蓋底thin slice CT scanとsingle photon emission CT(以下SPECTと略す)の有用性について報告する.

播種性転移を示した延髄血管芽腫の1例

著者: 遠山隆 ,   久保長生 ,   草野良 ,   三浦直久 ,   氷室博

ページ範囲:P.83 - P.88

I.はじめに
 血管芽腫の多発例はしばしば経験するが,広範な播種をきたした症例の報告は文献上2例のみである7).今回,われわれは延髄area postremaに発生した血管芽腫の術後,5カ月で右被殻部の脳内出血をきたし,剖検にて天幕上下くも膜下腔への広範な播種性転移を認めた症例を経験したので報告する.

画像診断と生検によるGliomatosis Cerebriの臨床診断—自験4例にもとづいて

著者: 植木敬介 ,   松谷雅生 ,   中村治 ,   長島正 ,   中村正直

ページ範囲:P.89 - P.93

I.はじめに
 Gliomatosis cerebriは,Nevin(1938)によって提唱された病態で11),主に大脳半球を中心に,ときに脳幹,小脳を含めた中枢神経系にび漫性,浸潤性に増殖する悪性グリオーマの一型である.diffuse glioma, glioblastosisなどとも呼ばれる.きわめて稀な病態で,1985年Arti—gasらが自験例を含めた48例をreviewしており1),その後もいくつかの報告が散見されるのみである16,18,20)
 Sheinker & Evans(1943)による病理学的定義は,①腫瘍域がび漫性に腫大するが肉眼的構築はほぼ正常に保たれる,②正常の神経組織に浸潤するグリア細胞の増殖,③ミエリンの破壊はみられるが,軸索や神経細胞はほとんど壊されない,の3点である15)

Persistent Primitive Hypoglossal Artery Aneurysmの1例

著者: 継淳 ,   松前光紀 ,   池田公 ,   佐藤修

ページ範囲:P.95 - P.100

I.はじめに
 胎生期における4本の内頸動脈脳底動脈吻合血管(carotid-basilar anastomosis)の遺残動脈の1つであるpersistent primitive hypoglossal artery(以下PHAと略す)は,1889年,Batujeff1)により報告されて以来,脳血管撮影の普及により,近年その報告例が増加している.遺残動脈が臨床上問題とされるのは,血管奇形,特に脳動脈瘤を合併する確率が高いと論じられるためである.最近著者らは,右PHA自体に形成された動脈瘤を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

報告記

第8回国際脳腫瘍研究・治療カンファランス印象記

著者: 永井政勝

ページ範囲:P.102 - P.103

 「脳腫瘍研究・治療カンファランス」はもともとUCSFのDr.Wilson, Dr.Levinらがアメリカ国内を対象として始めた集りである.脳腫瘍の研究に打ち込んでいる学者,医師が一堂に会し3日間に亙って,発表と討論を行うが,通常の学会と異なり小人数で討論の方に重点を置くことを目的とし,これがこの会の特色となっている.またその回毎に少数のテーマを決めて討論の焦点を絞っている.
 第1回目は1975年,アメリカ西海岸の有名なアシロマ—会議センターで行われ,その後も時々ここに戻る.会は2年に一回開かれる.筆者は第3回から参加しているが,はじめは日本人は半ばお客様であった.1981年に第4回のカンファランスが東京大学の高倉教授を会長とし,U.S.—Japanese Conferenceと銘打って日光で開催されて以来日本も有力なメンバーとなり,同時にヨーロッパからの参加者も増加してきた.そして第6回からはついにInternationalと名付けられるようになったのである.第7回は筆者が会長を仰せつかり箱根で開催し,日本からも多くの参加者にお出で頂いた.

第1回国際脳卒中会議に参加して

著者: 菊池晴彦

ページ範囲:P.104 - P.104

 平成元年10月15日−19日の4日間にわたり,Thelst International Stroke Congressが,京都都ホテルで行われた.参会者は31カ国よりの外国人参加者266名を含む862名であった.
 この会の当初計画から参加させていただいた私にとり,無事,盛会裡に終了し,Stroke Societyも発足し,第2回,第3回への計画も順調に進んだことは,大変喜ばしいことであった.この会の計画は,約4年前に相沢豊三会長,尾前照雄,後藤文男,田崎義昭先生を中心に6,7名の準備委員ではじめられた.日本で脳卒中に関する多くの研究がなされてきて,その成果が死亡原因第1位から第3位への低下をもたらしたことでもあり,是非,わが国で国際脳卒中学会を発足させたいというのがその主旨であった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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