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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科18巻11号

1990年11月発行

雑誌目次

ベッドの高さから見た医療

著者: 林實

ページ範囲:P.987 - P.988

 暫く体調を崩して入院することがあり,ベッドに横たわった視点から医療の現場を観察し,考える機会を得た.そして今まで頭の中では理解していたつもりでいたが実感として分からなかった「患者」の立場を体験することになった.
 まずベッドに病人として横たわってみると立って話しかけてくる医師は患者を見おろしている位置になる.その上最近の大型診断機器による画像を見せられて,断定的に病気の説明をされたりするとそれだけでも相当の威圧感を受ける.それはまさに医師は「絶対」であり患者は「弱者」の関係に近い.さらに若い医師達について感じたのであるが,彼らのちょっとした言葉の端々に感じられる患者に対する思いやりのない不用意さが気になってくる.最近の若い人の一部には人と人との関係を作るのが苦手で,したがって患者に希望を持たせるようにうまく話の出来ない人がいるように思う.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Encephalo-duro-arterio-synangiosis—解剖と手術手技

著者: 松島善治

ページ範囲:P.989 - P.999

I.はじめに
 直接的にしても間接的にしても外頸動脈系動脈—内頸動脈系動脈の血管吻合術を行うにあたって最も重要な役割をするのは,浅側頭動脈系の血管と後頭動脈である.これらの血管,特に前者に関しては比較的多くの記載があるが,血管吻合術のdonorと言う立場からの記載は多くはない.そこで,ここでは主として間接的血管吻合術の代表的手術とも言えるencephalo-duro-artemio—synangiosis(以下EDASと略す)18)の手術手技という立場から,これらの血管について文献的・解剖学的解説を行いつつ,本手術149側(小児モヤモヤ病124側,20歳以上のモヤモヤ病18側,非モヤモヤ病小児5側,20歳以上非モヤモヤ病性脳虚血2側)の経験から考察・検討を加える.

研究

Bispecific Antibodyを用いた悪性グリオーマの治療

著者: 新田泰三 ,   石澤敦 ,   伊藤昌徳 ,   八木田秀雄 ,   奥村康 ,   佐藤潔

ページ範囲:P.1001 - P.1006

I.はじめに
 頭蓋内に発生する悪性グリオーマに対してこれまで種種の治療が試みられてきた.しかし手術,放射線,化学療法を行っても大多数は発症後1年以内に再発を認め未だ予後不良であることは周知の事実である2,18,23).この悪性グリオーマ患者に対して,担グリオーマ患者末梢血より誘導したLymphokine activated killer(LAK)細胞を手術中および,手術後頭皮下に留置したオンマヤー管(Ommaya Reservoir)より注入する養子免疫療法(Adoptive Immunotherapy)が行われてきた1,7)。この養予免疫療法は1985年,Rosenbergらが悪性腫瘍に対してLAK細胞を全身的に投与し有効例を報告したことに端を発する14,15).しかし現在までに臨床各施設で行われてきたが,in vitroのデータに比較して十分満足すべき結果が得られていないのが実情のようである.一方Kitaharaらは患者より採取したグリオーマ細胞を用いて感作した細胞障害性T細胞(killer T cell)を臨床応用した結果を報告しているが,大量のリンパ球注入に伴う水頭症の発現,また一部のケースでは治療にも拘らず腫瘍の再発を認めており十分な効果は得られていない4).

悪性グリオーマの組織内温熱療法—Implant Heating Systemによる検討

著者: 木田義久 ,   森美雅 ,   服部智司 ,   小林達也

ページ範囲:P.1007 - P.1014

I.はじめに
 温熱療法は,悪性腫瘍に対する治療法の中で,手術療法,放射線治療および化学療法についで第四の治療法としてその地位を確立しつつある.脳腫瘍に対する治療法としても,RF19)あるいはmicrowave11-15)を用いた温熱療法の臨床応用の成果が報告されている.Glioma群,特に悪性のgliomaはその特性として多くが浸潤性の発育を示すため,手術的に全摘することが困難であり,また放射線あるいは各種の化学療法に対する反応に乏しいことが知られている16,21).われわれは1982年来Im—plant Heating System(以下IHS)の開発を行い,動物実験など8,10,20)を経て,まず転移性脳腫瘍への臨床応用を試み6),一定の成果を得た.今回はさらに悪性glioma群に対する臨床応用が可能かどうか,およびその有効性と安全性について検討した.

マウス神経芽細胞腫に対するHybrid Resistanceとその抗腫瘍機序

著者: 山崎俊樹 ,   森竹浩三 ,   菊池晴彦 ,   Kärre ,   ,  

ページ範囲:P.1015 - P.1022

I.はじめに
 Hybrid resistance(HyR)は雑種第一代(F1 hybrid)に親の骨髄細胞が生着しないという認識の特異性がみられる移植拒絶現象に対して提唱された概念である30).その後,腫瘍に対する免疫応答系においてもこのような認識過程の免疫学的特徴の存否に対して精力的な解析が行われてきた1,3,5,8-11,13,15,16,21,22,24,28-30,32,33).その中でもKleinら病理組織学的に異なった多種類のマウス腫瘍のみならず異なったマウス(系統)山来で病理組織学的には回種の腫瘍などを用いた研究が注目される15,16).彼等は,一部の例外はみられるものの,ある種のマウス腫瘍に対しparental strainよりもそのsemi-syngeneicな関係にあるF1 hybridにおいて宿主の腫瘍増殖に対する抵抗性(HyR)が誘導される事を実証している.

小脳橋角部手術における術中ABRの検討—V波潜時と振幅の関係について

著者: 時村洋 ,   朝倉哲彦 ,   時村美香 ,   厚地政幸 ,   肝付兼能 ,   佐藤栄志 ,   福島孝徳

ページ範囲:P.1023 - P.1027

I.はじめに
 小脳橋角部手術において,手術操作による聴神経の牽引,あるいは聴神経周囲の操作で術後聴力障害を発生することは大きな問題である.この術後合併症を未然に防ぐ目的で,術中ABRモニタリングを行うことが今日では一般的となってきた.1980年,Hashimoto et al3)が初めての報告を行ってから,この問題に関して広範な検討が成されている1,2,6-11,16,17).術中ABRに異常を来たさないような手術操作が重要であるとされ,各々criticalpointが設けられている.その殆どが術中ABRV波潜時の延長に着目しているが1,2,6-11),指標とすべき潜時の延長については現在でも意見の一致を見ない可潜時の延長よりも振幅の急激な低下が重要とする報告もある16).これらのABR異常は,小脳半球の圧排により二次的に聴神経が牽引され,内耳動脈がspasmを起こす16),あるいは引き抜き損傷を起こすことによると考えられている12,13)

頰骨弓部顔面神経の温存について

著者: 関谷徹治 ,   岩淵隆 ,   岡部慎一 ,   滝口雅博 ,   尾田宣仁

ページ範囲:P.1029 - P.1033

 I.はじめに 手術後の頭蓋,顔面の変形は患者に多大の精神的苦痛を強いる.これによって患者の主病変治療による満足感さえ減じてしまうことがある.したがって手術に際しては術後のcosmeticな面への配慮は不可欠である.特に最近では,眼窩や頭蓋底近傍の病変に対して頰骨を切離してアプローチする方法が多く用いられるようになってきた8,9).これによって従来摘出の困難であった病巣を過度の脳圧排を伴うことなく摘出可能になったが,その反面,頰骨弓近傍で顔面神経が損傷される機会は明らかに増加していると思われる.
 ここでは,われわれが行っている頰骨弓部顔面神経の簡便かつ確実な同定方法を述べると共に,これまでの成書では必ずしも充分に記述されていなかったきらいのある頰骨近傍の外科的解剖につき詳述する.

症例

放射線治療により主幹脳動脈の広範な狭窄性変化と多発性脳梗塞をきたした髄芽種の1例

著者: 山上岩男 ,   菅谷雄一 ,   佐藤政教 ,   大里克信 ,   山浦晶 ,   牧野博安

ページ範囲:P.1035 - P.1039

I.はじめに
 脳腫瘍に対する放射線治療後,脳内の細小動脈や毛細血管に限らず,内頸動脈や中大脳動脈などの主幹脳動脈に閉塞・狭窄性病変が発生することが,最近注目されている2,3,7,9).しかし,放射線治療後の主幹脳動脈の閉塞・狭窄性病変は,ほとんどがトルコ鞍近傍の比較的良性な脳腫瘍に合併したものであり,髄芽腫や膠芽腫などの悪性脳腫瘍に合併したという報告はいまだない3).今回,われわれは髄芽腫に対する放射線治療後,両側性の広範な主幹脳動脈の狭窄性病変と,それに起因すると思われる多発性の脳梗塞を合併した女児例を経験したので報告する.

小脳橋角部類上皮腫癌の1例

著者: 魏秀復 ,   善積秀幸 ,   長尾聖一 ,   西岡達也 ,   宇野淳二 ,   藤田雄三

ページ範囲:P.1041 - P.1045

I.はじめに
 類上皮腫は,頭蓋内腫瘍のうち約0.5-1.0%の発生頻度でやや稀な良性腫瘍であるが特異なCT所見のため診断は容易である.しかしながら時として悪性変化した類上皮腫があり悪性類上皮腫または類上皮腫癌と呼ばれきわめて稀である.神経放射線学的には術前診断は困難であり,頭蓋内癌性病変のため予後は絶対不良である.われわれは興味ある臨床経過をしめした小脳橋角部の類上皮腫癌の一例を経験したので若干の文献考察をくわえ報告する.

痴呆症状の改善に有用であった浅側頭動脈・中大脳動脈吻合術の経験

著者: 阿美古征生 ,   松永登喜雄 ,   山下哲男 ,   藤井正美 ,   青木秀夫

ページ範囲:P.1047 - P.1052

I.はじめに
 平均寿命が非常に伸びてくるにつれて,老年期における痴呆患者は増加し,近年,社会問題となっている.老年期で痴呆症状を呈する疾患は多いが,その双璧は脳血管性痴呆と老年痴呆(Alzheimer病を含む)である.両疾患の罹患頻度に関しては,欧米では,1対5-10ぐらいの比率で老年痴呆が多く,本邦では,1対3-5ぐらいの割り合いで脳血管性痴呆が多いと報告されている6).われわれは最近,突発性症状で発症し,その後次第に知能障害を呈した両側内頸動脈閉塞症の2症例に浅側頭動脈・中大脳動脈吻合術(以下STA-MCA bypass)を行い,著明な臨床症状および高次脳機能の改善を認めたので,症例を呈示するとともに,血管性痴呆の診断やその手術適応について若干の文献的考察を加え報告する.

鬱血乳頭を伴ったGangliogliomaの1例

著者: 宇野昌明 ,   関貫聖二 ,   本藤秀樹 ,   上田伸 ,   松本圭蔵 ,   檜沢一夫

ページ範囲:P.1053 - P.1058

I.はじめに
 Gangliogliomaは全脳腫瘍の0.4-9.0%の頻度といわれており2-4,9,11,12,16,17,20,21),比較的稀な腫瘍といえる.また症状としては難治性てんかんであることが多く,頭蓋内圧亢進症状で発症する症例は少ない.今回われわれは鬱血乳頭を伴った視力障害で発症した症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

小脳橋角部脂肪腫の1例

著者: 松本健五 ,   国塩勝三 ,   小野恭裕 ,   吉本祐介 ,   中村成夫 ,   西本詮

ページ範囲:P.1059 - P.1064

I.はじめに
 頭蓋内脂肪腫は稀な疾患であり,全脳腫瘍中約0.1%とされており,その約半数は脳梁脂肪腫である13,17,20).小脳橋角部脂肪腫は,極めて稀であり,現在まで24例の報告があるに過ぎない.小脳橋角部脂肪腫は他の頭蓋内脂肪腫と臨床症状また治療方針も異なるとされている2).われわれは最近,小脳橋角部脂肪腫の1例を経験したので,CT, MRIを中心とした神経放射線学的所見およびその治療について若干の文献的考察を加え報告する.

Transsphenoidal Meningoencephaloceleの1例

著者: 小林聡 ,   宮崎瑞穂 ,   宮城修 ,   淀縄昌彦 ,   清水信三

ページ範囲:P.1065 - P.1070

I.はじめに
 頭蓋底髄膜瘤は,35000の出生ごとに1例の割合で発生するとされている稀な疾患であり,その病態や治療法は未だ確立されていない.今回,われわれは頭蓋底髄膜瘤の中でも治療成績が不良とされるtranssphenoidaltypeの頭蓋底髄膜瘤の1例を経験したので報告し,その手術適応について若干の文献的考察を加えた.

Carotid-Anterior Cerebral Artery Anastomosisの3例の経験

著者: 伴貞彦 ,   中津正二 ,   松本茂男 ,   佐藤慎一 ,   本崎孝彦 ,   山本豊城

ページ範囲:P.1071 - P.1077

I.はじめに
 Carotid-anterior cerebral artery anastomosisは1959年Robmson11)が剖検例の報告を最初にして以来,過去21例の報告を見るのみである.また名称も,1)infraoptic course of the anterior cerebral artery(ACA),2)anomalous branch of ICA,3)anomalousorigin of ACA,4)inter-optic course of ACAなどと呼ばれており1-9,11-17),その起源についても定説はない.著者らは,同血管奇形に脳動脈瘤を合併し,クモ膜下出血(SAH)で発症した2例と脳内出血で発病症した1例について,文献的考察を加え報告する.

報告記

Tenth International Symposium on Microvascular Surgery for Cerebral Ischemiaに参加して

著者: 三宅英則

ページ範囲:P.1078 - P.1078

 平成2年7月13日から15日にわたり,San Francis—coでUCSFのWeinstein教授の主催で,第10回目の脳虚血に対するmicrovasculam surgeryのシンポジウムが開催され出席した.
 San Franciscoと言えば一昨年の地震で大きな被害が出たところだが,高速道路もほぼ完全に復旧しておりその影響はほとんど認められず,地震を思い起こさせたのはBay Bridgeの入口が1カ所閉鎖されていた事ぐらいであった.

第一回日中脳神経外科シンポジウムに出席して

著者: 近藤達也

ページ範囲:P.1079 - P.1079

 天安門事件以来ちょうど一年が経ち,日本ではその情勢が気にかかっていた頃であったが,5月30より6月2日までの4日間,中国の四川省重慶で「第一回日中脳神経外科シンポジウム(首届中日神経外科学術報告会)」が開かれた.予想に反して中国の情勢は平静そのものであった.これには,中国各地より約250名の教授,副教授クラスの脳外科医が参集し,日本からは,高倉公朋(東京大学),金谷春之(岩手医科大学),間中信也(帝京大学市原病院),村岡勲(国立精神神経センター)の各先生,そして私の5人が参加した.もともと,高倉公朋教授及び,北京脳神経外科研究所王忠誠教授の肝いりでこの会の設立があり,北京にある中日友好医院の左煥琮副教授のお骨折りにより開催に漕ぎつけることが出来たと言って差し支えない.
 会場の重慶医科大学内では,例によって熱烈歓迎の垂れ幕,花束贈呈,重慶副市長の挨拶も行われ,万里の長城と富士山を配した特別なシンボルマークまで準備され大変な力の入れようであった.演者は日中あわせて18名で,一人約60分の講演が行われ,かなり活発な討論がみられた.日本人の溝演に際しては,一節毎に通訳があり,内容は略々リアルタイムに伝えられた.中国側の演題の特徴は,症例数の圧倒的多さであろう.例えば,クッシング病に対する経蝶形骨洞の手術例が一施設(北京の協和医院)で100例もあり,しかもそれが良い手術成績を伴っており,この国のレベルは施設によって,また医師によって非常に高いことがわかった.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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