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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科18巻12号

1990年12月発行

雑誌目次

論文を書きながら思うこと

著者: 井奥匡彦

ページ範囲:P.1087 - P.1088

 古い昔から今日に至ってもなお,輝かしい光を放っている優れた作品に注意深く接していると,益々興味が湧いて面白さを覚えるものです.それが詩,随筆,小説,論文のいずれであっても,後世に残る資格を備えているということを考えれば,私どもが文章を書くに当たっても非常に参考になります.
 正岡子規の随筆に,「文章は簡単ならざるべからず,最も簡単なる文章が最も面白きものなり」という言葉がみられます.なるほどと思われますし,医学論文も決して例外ではないと思うのです.しかし,最も簡単な文章は誰にでも書けるとしても,最も面白いものに作り上げるにはやはり文筆の才能がものをいうのではないでしょうか.ここにいう文筆の才能とは,美文を書いたり,巧みな言い廻し方のできることをいうのではありません.

総説

MRI時代のてんかん外科

著者: 森竹浩三

ページ範囲:P.1089 - P.1099

I.はじめに
 1886年Sir Victor Horsleyが難治性てんかんに対する外科的手術例をはじめて報告して以来すでに100年が過ぎた83)。しかし最近まで,てんかんの外科的治療への関心は薄く手術は極めて限られた施設でのみ行われてきた3,68).このようにてんかん外科が一般に定着しなかったのは,1)余りに薬物療法に頼り過ぎ,発作がコントロールされずに漫然と投薬が続けられた,2)てんかんの外科治療には特別の訓練を受けたスタッフと特殊な設備,機器を必要とした3),3)かつて画像診断が未発達な時代に行われた脳葉切除や大脳半球切除などが後年批判され,“てんかんの手術”がタブー視される傾向にあった,などの理由による68)

研究

聴神経腫瘍に対するStereotactic Radiosurgery

著者: 山本昌昭 ,   NORÉNNorén

ページ範囲:P.1101 - P.1106

I.はじめに
 われわれは1969年以来,230例の聴神経腫瘍に対しstereotactic radiosurgeryを試みてきている5,9).このうち,1981年までに治療され,かつ良好なfollow-upができた57例でみると,腫瘍の縮小・不変をあわせた有効例は48例(84%)であった15).この治療成績には,当然のことながら初期の頃の症例もふくまれている.また1981年までの13年間には,stereotactic radiosurgeryそのものにも絶えず改良が加えられてきていた.また,この間における神経放射線学的診断器機の急速な進歩は,本治療法における基本的問題である,照射部位および範囲の決定を,より正確でかつ容易にしてきた.そこで本稿ではhigh-resolution, thin-section CTの導入や,dose—planningの手法等,今日のgamma-unitでのroutine workがほぼ完成した,1982-1984年の間に治療された症例に関し治療成績を報告したい.調査期間を1984年までとした理由は,これ以降の症例では長期間の追跡例が少ないばかりでなく,母集団における追跡率が未だ50%以下であることから,これらを加えると,治療例全体の傾向を,反映しなくなる恐れが大きいことによる。

脳出血に伴う脳室内血腫の臨床的検討—第III脳室内血腫を中心として

著者: 中島重良 ,   水野誠 ,   三平剛志 ,   鈴木明文 ,   安井信之

ページ範囲:P.1107 - P.1113

I.はじめに
 脳室内血腫(IVH)は高血圧性脳出血をはじめとして様々な頭蓋内出血に伴ってみられ,高度なものでは予後不良の兆候とされている.特に第III脳室,第IV脳室を充満しこれをexpandするようなIVHにおいては髄液循環を妨げることによる急性水頭症に加え,IVHによる周囲組織,特に視床下部,脳幹のvital centerへの直接の圧迫が意識レベルに大きな影響を及ぼしていると考えられる.現在外科的治療として持続脳室ドレナージ(CVD)が広く行われており,可及的早期の血腫排出を期しUrokinase(UK)注入も試みられているが,その効果を定量的に評価した報告は少ない.今回視床出血および尾状核出血に伴って第III脳室内に高度なIVHを形成した症例を中心に,第III脳室,第IV脳室内血腫が意識レベルに与える影響,CVDの有無およびその方法の違い(CVD catheter先端を側脳室でとどめるか或は第III脳室まで挿入するか)によるIVH消失の動向,またCVDが意識レベルの改善にどの程度反映するのかを明らかにすることを目的として検討を行った.

巨大脳動脈瘤のMRI—増大機序および血栓形成について

著者: 永田泉 ,   菊池晴彦 ,   山形専 ,   宮本享 ,   金子隆昭 ,   安里令人

ページ範囲:P.1115 - P.1120

I.はじめに
 巨大脳動脈瘤では高頻度に壁在血栓が形成され,このことが出血頻度が低い原因の一つと考えられている.しかし巨大脳動脈瘤の20%以上ではくも膜下出血を来し,血栓形成が認められるい巨大脳動脈瘤においても出血頻度は低くないことが報告されている2-5,8,9).また巨大脳動脈瘤は出血以外にも占拠性病変として種々の神経症状を来すことが知られている.すなわちある程度の大きさを持ち血栓形成がある巨大脳動脈瘤においても破裂—増大機序が働いていることになる.
 今回,MRI所見より巨大脳動脈瘤における血栓の形成や増大機序を検討したので報告する.

症例

後下小脳動脈末梢部動脈瘤の2例—診断上のpitfall

著者: 坂本学 ,   泉谷智彦 ,   瀬尾善宣 ,   石橋章

ページ範囲:P.1121 - P.1127

I.はじめに
 椎骨脳底動脈系に生ずる動脈瘤は全頭蓋内動脈瘤の約10%前後で,その好発部位は脳底動脈分岐部,次いで後下小脳動脈分岐部であり,後下小脳動脈末梢部に発生する動脈瘤は1%以下と稀である.今回,われわれは2例の後下小脳動脈末梢部動脈瘤を経験したので,主に診断上のpitfallについて若干の文献的考察を加えて報告する.

脳底動脈窓形成を伴った破裂脳動脈瘤の2例

著者: 宮城潤 ,   重森稔 ,   広畑優 ,   吉武靖博 ,   杉田俊介 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.1129 - P.1133

I.はじめに
 脳底動脈窓形成の頻度は剖検上0.5-5.3%また,脳血管撮影上0.6%とされており,極めて稀な血管奇形といえる8,11).一方,脳底動脈に窓形成があり同部に動脈瘤が見られた症例は渉猟しえた限りでは,現在までに文献上36例の報告があり,このうち直達手術が行われたのは10例にすぎない1,3-9,14)
 今回著者らは,脳底動脈窓形成部の破裂脳動脈瘤に対し直達手術を行った1例と,多発性動脈瘤例に認められた脳底動脈窓形成の1例とを経験したので文献的考察を加えて報告する.

脊椎腫瘍に対するSpinal Instrumentation Surgeryの1例—重複癌への施行例について

著者: 谷中清之 ,   江頭泰平 ,   高野晋吾 ,   岡崎匡雄 ,   牧豊 ,   森田裕巳 ,   井上雅樹 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.1135 - P.1139

I.はじめに
 Spinal Instrumentation Surgery(SI)は近年めざましい発展を遂げ,各種脊椎疾患の外科治療成績の向上に貢献している.特に脊柱変形の矯正・固定,損傷脊柱の整復,神経障害の改善・除痛等を目的に行われ,その意味では脊椎腫瘍はSIが適応となる疾患の1つであり,脳神経外科領域でも注目を浴びつつある.今回われわれは,頸椎の多発性骨髄腫に前立腺癌を合併した重複癌に対し,SIを施行し良好な結果を得たので報告する.

結核性髄膜炎に伴った虚血性脳血管障害—フレーリッヒ症候群と片麻痺を示した症例

著者: 柏木史郎 ,   阿美古征生 ,   原田有彦 ,   山下勝弘 ,   伊藤治英

ページ範囲:P.1141 - P.1145

I.はじめに
 小児の結核性髄膜炎は,抗結核剤の発達した現在においても後遺症なく治癒するものは約30%にすぎず,生存しても,多くは知能障害,片麻痺,水頭症などの重篤な神経学的後遺症を残す予後不良な疾患である4,11,13).近年CTの普及に伴い,本症に合併する様々な頭蓋内病変が明らかにされてきたが,その中でも,脳梗塞の合併が神経学的予後を不良にする重要な因子として注目されている1-3,9)
 著者らは小児期に結核性髄膜炎に罹患し,片麻痺とフレーリッヒ症候群を続発した患者において,脳血管造影,手術を施行する機会を得,頭蓋底部石灰化病変と脳底部主幹動脈閉塞についての興味深い知見を得たので,結核性髄膜炎後遺症と虚血性脳血管障害の関連について文献的考察を加えて報告する.

骨折線内に椎骨動脈,脳底動脈が挾み込まれた斜台縦走骨折の1例

著者: 佐藤晴彦 ,   堺常雄 ,   植村研一

ページ範囲:P.1147 - P.1150

はじめに
 交通事故により一次脳幹部損傷に加え,斜台縦走骨折内に右椎骨動脈及び脳底動脈が挾みこまれた1剖検例を経験した.頭蓋底骨折の中でも斜台の頻度は低く,その中でも斜台縦走骨折線内に閉じ込められ動脈閉塞にまで至ったのは過去5例の報告を見るに過ぎず1,3,4,9,10,13,14),極めて稀な所見と思われた.本症例と過去5例の臨床所見と,受傷から動脈が閉じ込められるまでの機序を,斜台骨折の一般的見解と照らし合わせて検討した.

出血で発症,再発を繰り返した高齢者頭蓋咽頭腫

著者: 増田良一 ,   塚本栄治 ,   武田茂憲 ,   古市晋 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃

ページ範囲:P.1151 - P.1155

I.はじめに
 トルコ鞍内出血による眼症状の急性増悪にて発症し,その後短期間に腫瘍の症状変化および再発・増大により手術を繰返した高齢者の頭蓋咽頭腫の1例を経験した.本腫瘍は高齢者には少なく,また下垂体卒中様の病態で発症する例は下垂体腺腫に比し明らかに頻度が少ない2,3,6,12,14).本稿ではその臨床経過,画像所見及び術中肉眼所見を中心に報告し,その病態と治療上の問題点について若干の考察を加える.

馬尾神経に発生した転移性Grawitz腫瘍の1例

著者: 高橋功 ,   井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   秋野実 ,   高橋明弘 ,   阿部弘 ,   北川まゆみ ,   小島英明 ,   井上和秋 ,   斎藤久寿

ページ範囲:P.1157 - P.1160

I.はじめに
 馬尾神経腫瘍の多くは原発性腫瘍であり転移性腫瘍は極めて稀である.文献的に渉猟し得た限りでは7例の報告をみるのみであり3,4,10,11),Grawitz腫瘍による転移例の報告はない.今回,われわれは馬尾神経に発生した転移性Grawitz腫瘍の1例を経験したので症例を供覧するとともに若干の文献的考察を加えて報告する.

放射線治療が有効であった頭蓋内動静脈奇形の4例

著者: 陳茂楠 ,   今屋久俊 ,   中沢省三

ページ範囲:P.1161 - P.1166

I.はじめに
 Arteriovenous malformation(AVM)の治療法には外科的摘出術,流入動脈結紮術,塞栓術等いろいろの方法がある.放射線治療も古くから試みられている方法であるが否定的な報告が多かった2-4,10,12).しかし1960年のSvien and Peserico18)の発表以来,本法が有効であるとする報告1,5,7,13,14,19,30)が幾つかみられるようになり,再び注目されるようになった.近年Stereotactic gammaencepllalotomy(radiosurgery)16)やBragg peak陽子線療法6)が試みられ,その有用性が報告されている.最近われわれは2例のdural AVMと2例のintracerebralAVMの計4例に放射線療法を行った.2例のduralAVMと術後の残存AVM 1例には高圧X線療法を,深部AVMの1例にradiosurgeryを行い,良好な結果を得たので報告する.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第18巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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