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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科18巻2号

1990年02月発行

雑誌目次

綜合臨床医教育と脳神経外科

著者: 千ヶ崎裕夫

ページ範囲:P.113 - P.114

 脳神経外科は臨床医学の中でも最も専門的領域と呼ぶのにふさわしい例としてよくあげられる.学ぶべき知識や技術は広く深く細かく,一般医が志したとしても自習することは難しく,まず簡単に手をだせる範囲をはるかに越えている.この事は脳神経外科が一般外科より専門領域として独立してきた歴史が証明している.過去に一般外科の人々が片手間に脳神経外科領域の疾患の手術を行って何と惨憺たる成績に終ったことか.脳神経外科の真の発展が自ら専門医であると自覚してそれに生きるという強い意志をもった事が最大の原動力となったのではないかと私は思う.現在脳神経外科の専門医の資格が外国でも日本でも他の領域に比べて,かなり厳しい訓練をつみ苛酷とも思われる試験を合格しなければ与えられないのはその内容からみて当然のことのように思われる.
 一方,医学の専門化がすすみ細分化されればされる程,医学全体との関係が問題になってくる.特に臨床医学においては,我々は治療の目的は一つの病気を治すのではなく,病をもった一人の人間を扱っているという全人的治療が要求される.従って自分の専門領域のみに如何に精通していても狭い視野に囚われて全体を把握できない医師は医師としての資質が欠けているといわれても止むを得ない.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(9)Dermoid, Epidermoid

著者: 小林達也

ページ範囲:P.115 - P.120

 類表皮嚢胞(epidermoid cyst)と類皮嚢胞(dermoid cyst)は胎生期3-4週に起きる神経管(neural tube)形成の際の閉鎖不全に伴うepithelial rest由来の嚢胞である3,13).両者共に被膜の内面は,表皮の角化扁平上皮細胞(keratinizing squamous epithelium)で覆われているがepidermoidが上皮成分と結合織のみから成るのに対して,dermoidでは皮脂腺,汗腺,毛嚢など皮膚付属器を含む.

解剖を中心とした脳神経手術手技

斜台腫瘍への頭蓋底アプローチ

著者: 河瀬斌

ページ範囲:P.121 - P.128

I.はじめに
 斜台への手術アプローチは三方向に大別される.すなわち,中頭蓋窩経由の a)subtemporal-transtentorial ap—proachおよび b)transpetrosal-transtentorial approach,後頭蓋窩経由の c)suboccipital approach,そして前方からの d)transsphenoidal approachおよび e)transoralapproachである.このうちa),c)は最も一般的な方法であるがいずれも視野が狭く十分な腫瘍郭清を行えないことが多い.また脳幹や脳神経の牽引による損傷を来たすことも多い.最も一般的な髄膜腫ではまた頭蓋底骨や硬膜に広く侵入することが多く,これらを除去できないアプローチでは頭蓋内に突出した部分を郭清したとしても根治されたとは言い難い.一方,脊索腫はその大部分が硬膜外腫瘍で硬膜が自然の防壁となっているため,硬膜を切ってアプローチすることは再発を生じた場合に不利と考えられる.ここではこの欠点を補うtranspetro—sal-transtentorial approachおよびcombined transsphe—noidal-transpalatal approachを紹介する.

研究

Minor Leakを示した脳動脈瘤症例の検討

著者: 藤田勝三 ,   林賢浜 ,   白國隆行 ,   玉木紀彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.129 - P.132

I.はじめに
 脳動脈患者の治療成績を向上させるためには,いかにして重症くも膜下出血(SAH)の発生を予防するかにかかっている.このためには,未破裂動脈瘤にたいする積極的治療及び重症SAHの発生前に認められるminorleakを示す症例を早期に診断し治療することにより達成することができると考えられる.今回minor leakを示した症例の臨床所見および治療成績を検討した結果,興味ある知見が得られたのでその概要を報告する.

頸部椎間板障害のMR診断—特にGradient Echo(GRASS)MR Imagingの有用性について

著者: 飛騨一利 ,   秋野実 ,   岩崎喜信 ,   井須豊彦 ,   阿部弘 ,   松沢等 ,   野村三起夫 ,   斉藤久寿

ページ範囲:P.133 - P.138

I.はじめに
 MRI(Magnetic resonance imaging)はその登場以来,特に神経疾患の診断に於いて高い評価を得ており,頭蓋内疾患のみならず脊髄,脊椎疾患においても表面コイルの工夫,MR装置の改善により,臨床的有用性が確立されてきている1,2,15,20).そのなかでも頸部椎間板障害におけるMRIの画像情報は従来のMyelography(以下MLGと略)及びCT myelography(以下CTM)とは異なる有用な情報を提供することが指摘されてきている2,11,13,15,18,20).今回われわれは超電導MRIを用いた頸部椎間板障害のMRI画像についてMLG,CTMとも比較し,現時点に於けるMRIの限界点について検討した.

圧可変式シャントシステムの使用経験

著者: 布施孝久 ,   高木卓爾 ,   大野正弘 ,   永井肇

ページ範囲:P.139 - P.144

I.はじめに
 最近,圧可変式シャントが水頭症,硬膜下水腫(血腫),slit ventricle syndromeなどのシャント手術に用いられるようになり,その有用性についての報告が散見されるようになった2,5,10).われわれも小児の水頭症例の手術に圧可変式シャントを用いて,その有効性について既に報告したが3),今回さらに成人の水頭症5症例と硬膜下水腫(血腫)2症例にこのシャントを用いて手術する機会を得たので,既に報告した小児水頭症例も含めて若干の文献的考察を加えて報告する.

脳血管攣縮と補体系—経時的血清補体価(CH50),補体(C3,C4)測定の意義

著者: 河野輝昭 ,   米川泰弘

ページ範囲:P.145 - P.152

I.はじめに
 くも膜下出血後の遅発性脳血管攣縮の発生原因については今までに多くの説が唱えられて来たが,引金となるものを問わず炎症説が最も有力であると思われる21).攣縮後の脳血管壁の組織学検討に加え,動物実験あるいは臨床例においても抗炎症剤であるibuprofen, predniso—loneが有効であったとするのもこの炎症説を裏付けるものである2).ところで,今までは血管攣縮が遅発性ということを利用して,重症度を問わず早期手術を行いくも膜下出血の除去としての脳槽ドレナージ,灌流,更にはhypervolemic-hypertension therapyがなされてきた.
 特に術前CTでFisherのgroup 3のものは高頻度に血管攣縮が起こるとされ積極的な抗攣縮対策がなされている.しかしながら術前のCTで術後血管攣縮は必発であろうと予想されたものでも案外軽く経過したり,逆に予想以上に攣縮の程度が強い症例もあるのが現状である.CT導入以来術後血管撮影がなされることは稀になり,血管攣縮が起こっているか否かは臨床症状(不穏状態,神経学的巣症状の出現など)で捉えられるが,攣縮の程度を判定する客観的な手段が無かったと言える.

凍結脳損傷における延髄網様体刺激の頭蓋内圧におよぼす影響

著者: 長尾省吾 ,   河内正光 ,   谷本尚穂 ,   久山秀幸 ,   西本詮

ページ範囲:P.153 - P.159

I.はじめに
 われわれは今までに脳幹の脳血管緊張中枢とされている視床下部背内側核(DM),中脳網様体(MBRF)および延髄網様体(MORF)の電気刺激.破壊を行い,頭蓋内圧(ICP),局所脳血液量(CBV)の変化から,これら中枢の病巣拡大,多発性損傷で脳血管緊張がより低下すること,くも膜下出血を作成してICPを亢進させ頭蓋腔をあらかじめタイトにしておけば,これら脳幹の脳血管緊張中枢の機能異常がICPに及ぼす影響は更に大きいことを報告してきた10,11,16)
 この一連の実験で,特にMORFのNucleus reticular—is parvocellularis近傍を電気刺激すると,最も脳血管緊張が低下する事が示された11).そこで今回脳挫傷の実験モデルとされている凍結脳損傷を作成し,基礎ICPが上昇した状態でMORFの刺激を行うとICPがどの様な影響をうけるか実験的に検討したので報告する.

経腕動脈選択的脳血管造影法

著者: 東保肇 ,   唐澤淳 ,   宍戸尚 ,   森迫敏貴 ,   沼沢真一 ,   山田圭介 ,   永井成樹 ,   芝元啓治

ページ範囲:P.161 - P.166

I.はじめに
 脳神経外科領域における脳血管造影は必須のものであることは言及するまでもない.しかし,通常選択的脳血管造影は入院後施行されているのが現状であるが,入院の上脳血管造影を施行することは,対象患者によっては不可能なことが起こり得る.今回,われわれはdigitalsubtraction angiography(DSA)systemを用いた経腕動脈選択的脳血管造影14)を外来患者を中心に合わせて123症例に施行しその臨床的有用性につき検討したので報告する.

慢性期脳虚血症例における脳血流不全の診断—133Xe SPECTにおけるDiamox testの有用性について

著者: 黒田敏 ,   瀧川修吾 ,   上山博康 ,   阿部弘 ,   桜木貢 ,   本宮峯生 ,   中川端午 ,   三森研自 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.167 - P.173

I.はじめに
 脳虚血症例に対するExtracranial-intracranial bypass(以下,EC-IC bypass)は,将来の脳虚血発作を予防する上で内科的治療と比較してより有効な手段とはいえない,と報告されて以来4),その手術適応に関して多くの議論がなされている1,3).しかし,現時点においては,脳虚血発作がembolic mechanismではなく,脳灌流圧の低下,または,脳血流不全によって生じている場合,EC-IC bypassは,脳循環動態を改善し,さらに今後の脳虚血発作を予防する可能性があると考えられている2,6,14)
 われわれは,慢性期脳虚血症例において脳血流不全の診断の目的で,133Xe吸人法によるsingle photon emission CT(SPECT)において,安静時の脳血流量の測定に加えて,acetazolamide(Diamox)負荷時の脳血流量測定を行ってきたが,その有用性を検討する上で,今回,種々の血行再建術前後の脳循環動態の変化について検討したので報告する.

シャント術後頭蓋内圧の変化—完全埋め込み型頭蓋内圧計による術前,術後脳室内圧測定

著者: 山口由太郎 ,   山口崇 ,   梁木健 ,   増沢紀男

ページ範囲:P.175 - P.182

I.はじめに
 髄液短絡術(以下シャント)は,水頭症をはじめとする異常髄液貯留病変に汎用されている.しかし,術後の頭蓋内病態の変化については充分に解明されていないのが現状である.そこで,その一端を解明する目的で,われわれは長野計器製完全埋め込み型頭蓋内圧計ICPセンサー(以下NS 20)を使用し,シャント後脳室内圧を観察した.

症例

肺,眼サルコイドーシスを併発したリンパ球性下垂体炎の1症例

著者: 徳永孝行 ,   重森稔 ,   潟山雅彦 ,   倉本進賢 ,   林秀樹 ,   山田研太郎 ,   野中共平 ,   笹栗靖之 ,   森松稔

ページ範囲:P.183 - P.188

I.はじめに
 妊娠や分娩を契機に,視力障害や下垂体前葉機能不全で発症する下垂体病変の1つにリンパ球性下垂体炎がある.その発生機序として自己免疫系の関与も示唆されているが,確定診断後の臨床経過の推移をとらえた報告は少ない.今回,われわれはリンパ球性下垂体炎後の下垂体前葉機能不全に対し内分泌補充療法を継続していたところ,6カ月後に肺および眼サルコイドーシスを併発した極めて稀な1例を経験した.両疾患とも現在のところ明らかな病因は不明であるが,全身の免疫異常の観点から非常に興味がある症例と思われたので若干の文献的考察を加えて報告する.

洋傘による頭蓋底穿通の2例

著者: 時津学 ,   中村正直 ,   横山治久 ,   渡辺煕 ,   原充弘 ,   竹内一夫

ページ範囲:P.189 - P.192

I.はじめに
 洋傘の先端が,頭蓋底部より頭蓋内まで穿通した症例の報告は意外に少ない.しかし,この頭蓋底穿通損傷は頭蓋内異物,頭蓋内気腫,髄液漏,頭蓋内感染症,外眼筋麻痺,視力・視野障害,外傷性脳動脈瘤など,種々の合併症を併発する9).われわれは,洋傘による頭蓋底穿通外傷2例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

原発性頭蓋内扁平上皮癌の1剖検例

著者: 戎谷大蔵 ,   浜崎房光 ,   岡博文 ,   岡田順 ,   大島勉 ,   松本圭蔵 ,   泉啓介

ページ範囲:P.193 - P.198

I.はじめに
 原発性頭蓋内扁平上皮癌(primary intracranial squamous cell carcinoma:以下PISCCと略す)とされる例は,頭蓋内類表皮嚢胞または類皮嚢胞が悪性化した症例も含め渉猟し得た範囲では約30例が報告1-17)されている.
 われわれは,頭痛,嘔吐にて発症し,腫瘍細胞より少量のβ-HCGとCEAを産生し,おそらく頭蓋内原発性と思われた扁平上皮癌(PISCC)の1剖検例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

頭蓋咽頭腫術後尿崩症経過中に肺塞栓症を来した1例

著者: 高村幸夫 ,   上出廷治 ,   端和夫 ,   氏家良人 ,   塚本勝 ,   住田臣造 ,   木村弘通 ,   原田尚雄 ,   金子正光

ページ範囲:P.199 - P.203

I.はじめに
 肺塞栓症は,長期臥床患者,うっ血性心不全患者,あるいは骨盤臓器の術後に発生することが多い予後不良の疾患で,救命のためには速やかな診断と治療が要求される.脳神経外科領域でも,術後合併症としての肺塞栓症は重要な問題であるが,近年鞍上部腫瘍に伴う,血液凝固異常が注目され,それに伴なう肺塞栓症の報告も散見される9)
 今回われわれは,頭蓋咽頭腫摘出術後の尿崩症に対し,ピトレッシン補償療法を行っている過程で,肺塞栓症を合併した1例を経験した.肺塞栓症の発症の要因を考察すると共に,患者管理上重要な示唆を与えるものと思われるので,文献的考察を加え報告する.

脳内海綿状血管腫に合併した血小板無力症の1手術成功例

著者: 宮川尚久 ,   有竹康一 ,   斎藤延人 ,   三島一彦 ,   瀬川弘 ,   佐野圭司 ,   岩田純一

ページ範囲:P.205 - P.208

I.はじめに
 今回われわれは,血小板無力症を基礎疾患に持ち,脳内海綿状血管腫より脳内出血を繰り返した症例に,血小板輸血・新鮮血輸血を行うことで,血管腫摘出術を施行しえた症例を経験したので報告する.

Primitive Trigeminal Arteryが関与していた三叉神経痛の2例

著者: 時村洋 ,   厚地政幸 ,   川崎卓郎 ,   佐藤栄志 ,   轟木耕司 ,   朝倉哲彦 ,   福島孝徳

ページ範囲:P.209 - P.213

I.はじめに
 特発性三叉神経痛は,触覚や痛覚の低下または脱失が認められない三叉神経知覚枝領域にわたる発作性激痛である.本症は,三叉神経が脳幹にはいる部位=root entry zoneにおいて,屈曲した動脈あるいは静脈により圧迫されて起こる場合が多いと言われている.1976年Janetta5)により,顕微鏡下にこれらの圧迫血管を剥離し,筋肉片あるいはスポンジを挿人する方法,神経血管減圧術が確立されてから,本症の治療成績は革命的に進歩した.当院においても,昭和56年より本疾患に対する治療を手がけ,現在までに131例の手術を行い,良好な結果が得られている.その中で,胎生期遺残動脈が関与していた稀な2例を経験したので,症例を呈示し,若干の文献的考察を加える.

報告記

前橋で行われた国際学会—第10回国際定位的・機能的脳神経外科学会

著者: 大江千廣

ページ範囲:P.214 - P.215

 昨年の十月三日から五日までの三日間,前橋で第十回国際定位的・機能的脳神経外科学会が行われた.今回,我々群馬大学脳神経外科の主催で前橋で開かれたのはチャンスにめぐまれたとはいえ大変に名誉なことであった.
 前橋での開催が決まってから我々が第一に考えたのはこの伝統のある会をこれまで以上に学問的にがっちりと企画することであったが,同時に,世界各国から来てくれる人達に東京などの大都会では味わうことの出来ない地方の小都市の良さ,前橋の良さを示すことが出来たらという事であった.準備にとりかかってみると前橋ではそのような規模の国際学会は未だ開かれたことがなく,従って県や市でも前例がないというので色々と苦心されたことだったが,今や国際都市を目指す前橋としても今後のための勉強をかねて出来るだけ手伝いましょうと,積極的に協力をして下さったのは大変有難かった.経済的なご援助の他,色々と便宜を計っていただいた.

第9回国際脳神経外科学会印象記

著者: 福井仁士

ページ範囲:P.216 - P.217

 第9回国際脳神経外科学会は,1989年10月8日より13日の6日間にかけて,常夏の国インド・ニューデリーのタージ・パレスホテルにて行われた.最終日にRamamurthi会長に尋ねたところ、参加者総数は2200名程度であったとのことである.参加者が最も多かったのは米国,次いで日本であった.日本からの参加申し込みは当初400名程度あったらしいが,実際はかなりそれを下まわった様である.ソ連から25名の参加があり,このような数のソ連からの参加は今までになかったとのことである.ただ,会全体としては予定された座長・演者のかなりの人達が参加しなかったのは,残念であった.
 開会式では,インド・Kothari教授が釈迦,Gandhi,Einstein,Penfieldについてふれ,心と脳の関係の哲学的な側面に注意を喚起した.次いで,WFNSの会長であるKemp Clark教授より3名の本会の功労者,J.Chandy(インド),K.Kristiansen(ノルウェー),半田肇(日本)各先生に名誉のメダルの授与が行われた.半田先生へのメダル授与は,日本脳神経外科学会にとっても名誉なことであり,心から御祝い申し上げたい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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