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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科18巻4号

1990年04月発行

雑誌目次

教育する立場に立たされて

著者: 伊藤治英

ページ範囲:P.319 - P.320

 山口大学に赴任して萩市の松陰神社境内にある松下村塾を訪ねる機会があった.それは物置を改造した粗末な背の低い木造平屋建ての8畳と10畳敷の講義室である.明倫館は萩の藩校で官学に相当し,松下村塾は私学である.吉田松陰による1年半ほどの短期間の開講で,明治維新と明治時代に活躍した多数の首相,大臣,および軍人を輩出した.山口言葉が標準語の母体になるなど,日本に与えた影響は大きい.真の教育は学歴や立派な教育施設ではない.それは物質的環境を越えた精神の偉大な影響力による.教育内容は当時の主流であった朱子学,それに対立する陽明学に加えて,国学と海外の情報を教えている.青春時代に接触する教師の影響力は絶大である.学生や新入局の教育に当り責任の重大さが心に沁みる.学生は卒業するまでに膨大な知識の詰め込みが要求され,教科書の理解と記憶により人間の価値が決められる.ゆっくり考えていたのでは取り残される時世である.好奇心に満ちた輝く児童の眼は卒業までに失われる.医学部学生の教育目的の第一は知的好奇心を植え付けることである.一時代前は一度習った知識は一生通じた.今では数年経ずして時代遅れとなる.知的好奇心の持続が要求される.膨大な知識の蓄積でなく,将来身につけるための頭脳の鍛錬,即ち精神の集中と固定法を指導する.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(11)Hemangioblastoma

著者: 鷲山和雄 ,   田中隆一

ページ範囲:P.323 - P.328

 Hemangioblastomaは小脳に好発する良性腫瘍である.病理組織学的には血管内皮細胞増殖による豊富な網状の毛細血管様構築からなるが33),この構築に介在するstromal cellのhistogenesisをめぐっては,古くからvasoformative cells6,24),primitive mesenchymal pre—cursors36),endothelial cells5,12,21),pia mater, astro—cytes25),neural or neuroendocrine Cells3,11,19),micro—glia, macrophageなどが挙げられているが,現在なお決着のつかない極めて興味深い腫瘍である.

総説

悪性グリオーマに対する自家骨髄移植を併用した大量化学療法—骨髄造血因子(CSF)を用いた援護療法

著者: 山下純宏 ,   川村哲朗 ,   正印克夫

ページ範囲:P.329 - P.338

I.はじめに
 悪性グリオーマは,外科的治療,放射線治療および化学療法を併用した集学的治療法を行っても,その長期的治療成績は極めて悪いのが現状である.病理学的に壊死巣を伴うのを特徴とするglioblastom multiformeでは,生存期間の中央値すなわちmedian survival time(MST)は8カ月であり,anaplastic astrocytomaでは,27カ月である9,38).わが国の統計では,glioblastomamultiformeの診断確定後のMSTはおよそ12カ月であり,治療5年後の生存率は10%以下である40,69)
 グリオーマに対する外科的治療に関しては,その手術手技は既にほぼ確立されているといえる.放射線療法の分野では,現在用いられている標準的な外照射には一定の評価が与えられているが,その効果には限界がある60)

研究

大網移植による頭蓋底部形成法

著者: 上出廷治 ,   柏原茂樹 ,   今泉俊雄 ,   田辺純嘉 ,   端和夫

ページ範囲:P.339 - P.346

I.はじめに
 口腔や鼻咽腔の腫瘍が頭蓋内に進展したり,頭蓋内腫瘍が頭蓋外に進展した場合,その摘出に際して最も問題となるのは摘出術の難易度ではなく,腫瘍摘出後に生じた頭蓋底部の欠損をどう補填し,髄液漏,二次感染をいかに防止するかという点である.従来より,種々の頭蓋底形成法が報告されてきたが,いずれも充分とは言い難い.近年われわれはこうした症例の頭蓋底部欠損に対して,自家大網を血管吻合を行うことにより移植,生着させ,良好な補填効果を得ている.その方法を報告し,症例を呈示する.

胎仔大脳皮質の成体ラット小脳への移植—小脳求心系と大脳皮質移植片の線維連絡

著者: 北上明

ページ範囲:P.347 - P.353

I.はじめに
 近年,中枢神経への神経組織の移植実験が盛んに行われるようになり,神経細胞の分化,生長,再生,シナプスの形成などの基礎的問題の検討がなされている.また中枢神経の機能低下を神経組織の移植により改善させようとする試みも数多く行われ,特にパーキンソン病においては臨床的にも試みられている1,13).神経組織の移植においては移植された組織(移植片)が単に生着するだけでなく,移植片と宿主との問にシナプスを介した線維結合が形成されることが機能回復のためには重要な点であると思われる,動物実験では,黒質線条体系6,10,16),海馬への透明中隔の移植4,17),セロトニン破壊ラットに対する胎仔縫線核の移植21),新生児ラット大脳への胎仔大脳皮質の移植7-9,11,15)などにおいて移植片と宿主の線維連絡が可能であることが示されClarkeら10)は,電顕的に宿主の黒質線条体系と線条体移植片の間のシナプスの形成を確認している.このような実験系は,宿主と移植片の間に解剖学的に特異的な関係があるものが大部分であった.一方,移植片を本来解剖学的連絡のない組織に移植した場合の移植片と宿主の線維連絡形成については十分に検討されていない.

開頭術をデザインするためのCT再構築像と脳血管像の自動合成処理

著者: 菊地顕次 ,   古和田正悦 ,   小鹿山博之 ,   笹沼仁一 ,   渡辺一夫

ページ範囲:P.355 - P.360

 I.はじめに 最近,X線CTやMRIの三次元表示などの画像処理技術が著しく進歩し6,14,16),脳神経外科領域においても手術シミュレーションに応用されている9,15).デジタル医用画像データベース(EFPACS−500)の導入にあたり,脳神経外科領域における最適画像処理の一環として,CT水平断画像の病巣を再構築して脳血管画像上に自動的に投影・表示する画像合成処理のソフトウェアを作成し,頭蓋内手術に際して皮切および開頭部位を決定する参考にしているので,その方法と応用例を報告する.

症例

甲状腺癌の多発性脳転移に脳動脈瘤を合併した1例

著者: 山本文人 ,   丸岩昌史 ,   金谷幸一 ,   松尾浩昌 ,   重森稔 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.361 - P.365

I.はじめに
 近年,CT scanの導入により転移性脳腫瘍発見の比率が増加しているが,これらの治療方針や手術適応については未だ議論のあるところである17,18,23,24).今回,著者らは甲状腺癌手術後3年の経過を経て,多発性脳転移にて発見され,同時に未破裂脳動脈瘤を合併した症例を経験し,脳腫瘍の全摘手術と脳動脈瘤のネッククリッピングを一期的に施行した.そこで症例を呈示し,若干の文献的考察を加えて報告する.

破裂脳動脈瘤術後に発生した頭蓋内原発悪性リンパ腫の1例

著者: 西ケ谷和之 ,   木村良一 ,   長沼博文 ,   深町彰 ,   貫井英明 ,   小林愼雄

ページ範囲:P.367 - P.372

I.はじめに
 脳腫瘍の中で頭蓋内原発悪性リンパ腫はまれな腫瘍であるとされていたが20),近年増加の傾向にある13).その理由として,CT scanなどによる診断技術の向上12),免疫抑制剤の使用14),放射線の影響や本腫瘍に対する認識の高まり22)などが考えられている.種々の免疫抑制状態に本腫瘍が併発した報告や1-3,7,9),免疫抑制剤を投与された臓器移植患者やacquired immunodeficiency syn—drome(AIDS)患者に多く発生したという報告が散見され14,17),免疫学的監視機構を含めた免疫機能と本腫瘍の発生との関係に多くの関心が向けられている.今回われわれは,破裂脳動脈瘤のneck chpping術7カ月後に,頭蓋内原発悪性リンパ腫を併発したまれな1例を経験したので,その特異なCT像と臨床診断および本症例における免疫機能の低下と本腫瘍との関連について若干の文献的考察を加えて報告する.

Burr Holeを介しTranscranial Anastomosisを形成した成人モヤモヤ病の1例

著者: 安川浩司 ,   奥寺敬 ,   本郷一博 ,   水野正彦

ページ範囲:P.373 - P.378

I.はじめに
 成人モヤモヤ病は,出血によって発症することが多く4,8,13),出血予防の観点から種々の外科的治療が試みられているが1,6,11,14),未だ確立された方法が無いのが現状である.今回われわれは脳室ドレナージの際に設けたburr holeを介して,7年後の脳血管撮影でtranscranial anastomosisを形成していた成人モヤモヤ病の1例を経験した.これはモヤモヤ病成人例の外科的治療法の新たな可能性を示唆する興味深い症例と思われたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

脳主幹動脈閉塞症に伴った同側皮質下出血の2症例

著者: 江面正幸 ,   関博文 ,   鈴木晋介 ,   溝井和夫

ページ範囲:P.379 - P.383

I.はじめに
 大脳皮質下出血は脳動静脈奇形,脳腫瘍,出血性素因などの基礎疾患を有する場合発生しやすいことが知られている.しかし実際にはこのような基礎疾患を確認できる症例はむしろ少なく,出血原因を特定できない特発性大脳皮質下出血が多い.今回われわれは大脳皮質下出血で発症した症例に対し脳血管撮影を施行したところ,出血側の脳主幹動脈閉塞とよく発達したleptomeningealanastomosisが認められた症例を2例経験したので,その皮質下出血の原因が脆弱な側副血行路にあるのではないかと考え,若干の考察を加え報告する.

後頭蓋窩破裂動脈瘤症例に対する脳槽凝血塊除去を目的としたテント上開頭について

著者: 丹羽潤 ,   久保田司 ,   奥山徹 ,   清水一志 ,   平井宏樹

ページ範囲:P.385 - P.389

I.はじめに
 後頭蓋窩破裂動脈瘤の予後はウイリス輪前半部破裂動脈瘤同様に再出血と血管攣縮をいかに予防するかにかかっている.現在後頭蓋窩破裂動脈瘤に関しては,一部の脳外科医が再出血を予防するために早期手術を行っているに過ぎず2,9,13),遅発性血管攣縮の原因となるテント下のみならずテント上のくも膜下凝血塊の処理についてはほとんど議論されていない.
 今回われわれはCT上basal cisternにまでくも膜下凝血塊が及ぶ後頭蓋窩破裂動脈瘤症例に対し早期に根治手術を行い,引き続きテント上開頭によりbasal cisternの凝血塊の除去を試みたので報告する.

6年間の経過観察でCystの増大がCT上確認された脳有鉤嚢虫症の1例

著者: 寺田耕作 ,   妹尾包人 ,   上津原甲一 ,   朝倉哲彦

ページ範囲:P.391 - P.395

I.はじめに
 人体有鉤嚢虫症は有鉤条虫(Taenia solium)の幼虫である有鉤嚢虫(Cysticercus cellulosae)が全身の諸臓器に寄生するために惹起される疾患であり,脳神経外科領域においても脳有鉤嚢虫症として古くより知られている16)
 今回われわれは,6年の経過にてcystの増大をCT上確認し外科的に摘出しえた脳有鉤嚢虫症の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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