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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科18巻5号

1990年05月発行

雑誌目次

三つの記憶

著者: 植村研一

ページ範囲:P.405 - P.405

 加齢と共に物忘れが目立ってくると「ボケ」て来たのではないかと不安になるのは人情である.しかし中高年の正常者が気にする「物忘れ」は,痴呆の中核症状をなす記憶障害とは異質のものである.従来,記憶は短期記憶と長期記憶に二分され,脳疾患や加齢は短期記憶を障害し易いが,長期記憶はよく温存されることが知られている.しかし短期と長期の二分点を明確に定義した成書は見当たらない.近年記憶機構の基礎(生理学・生化学・薬理学等)研究が盛んに行われているが,僅か数時間の動物実験結果から長期記憶機構を論じている研究もあり,数十年の長期記憶を持つ人間を診療している臨床家の立場からは承服できない.
 臨床的にも生理学的にも,海馬が記憶と深い関係にあるのはよく知られているが,海馬が記憶の全てをまかなっているわけではない.また記銘障害と記憶障害もきちんと区別する必要がある.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(12)転移性脳腫瘍(Metastatic Brain Tumors)

著者: 野村和弘

ページ範囲:P.407 - P.411

 転移性脳腫瘍は最近特に注目されてきている.それは癌の治療が進歩して原発巣あるいは他の臓器への転移がある程度制御できるようになってきたのに対し,脳への転移のみが制御出来ずに残ることが多いからである.これは血液脳関門の存在が,抗癌剤の脳病巣への到達を阻んでいることが一因と理解される1).さて,脳実質に転移を来す腫瘍は癌の血行性転移によって生ずるとされている.したがって,脳転移は全ての癌で起こり得るのである.しかも全身に発生する癌の種類は数多くあり,これらの全てについて論ずるわけにはいかないので,代表的な癌の脳転移の病理組織像について紹介することとした.

解剖を中心とした脳神経手術手技

松果体部腫瘍に対するLateral-semiprone PositionによるOccipital Transtentorial Approach

著者: 田中隆一

ページ範囲:P.413 - P.422

I.はじめに
 松果体部腫瘍は脳深部に存在することや,重要な深部静脈系にとり囲まれていることから,顕微鏡手術導入以前には,頭蓋内腫瘍のうちで最も摘出が困難な腫瘍の1つであるとされてきた.この腫瘍に対しては,先人により様々な到達法が提唱されてきたが,顕微鏡手術が導入されるまでは,一般的にはその結果は決して満足すべきものではなかった.
 しかし,顕微鏡手術の時代になり,従来から提唱されてきた松果体部腫瘍に対する到達法が再評価され,最近では脳実質や血管など,正常構造の犠牲を最小限にとどめる到達法として,infratentorial supracerebellar ap—proach12,20)とoccipital(interhemispheric)transtentorialapproach10,13)がよく用いられており(Fig.1),良好な結果が得られるようになった.

研究

Ca++拮抗剤NimodipineとInduced Hypertension併用における脳血管反応性,脳血流,脳浮腫および脳梗塞に対する影響—ネコの1時間中大脳動脈閉塞Modelを用いた検討

著者: 榊寿右 ,   石田泰史 ,   笹岡保典 ,   角田茂 ,   内海庄三郎

ページ範囲:P.423 - P.430

I.はじめに
 Nimodipineはdihydropyridineの誘導体であり,脳血流を有力に増加させるCa++拮抗剤として知られている.nimodipineは脳の動脈や細小動脈を拡張させることが知られており2,16),そして脳局所血流がこれの投与で増加することは,一般的に受け入れられた事実となっている12,13,19).そして臨床の場でも,くも膜下出血後の脳血管攣縮による脳虚血の予防や治療の目的で広く使用されている3-5)
 一方induced hypertensionも虚血脳における血流維持の上で最も有効な手段の一つとされ9,22),実際われわれの日常においても,血圧の上昇で神経症状に改善をみることは度々経験されることである.したがって,両者の併用は,脳虚血の治療により良い効果をもたらすものと考えられる.そこで,われわれはネコの1時間の一時的中大脳動脈閉塞modelを用いて,正常血圧下およびin—duced hypertensi下でのnimodipine使用による脳血管反応性,脳局所血流,脳浮腫および脳梗塞の程度をcontrol群(Ringer液のみを使用した)と対比検討,その脳虚血に対する効果を調べた.

脳腫瘍血管透過性の超微形態—播種,転移性髄芽腫の腫瘍血管

著者: 柴田尚武 ,   越智章 ,   森利夫

ページ範囲:P.431 - P.438

I.はじめに
 髄芽腫は髄腔内播種を生じやすく,最終的には約半数に認めるといわれている.また,骨やリンパ節等の遠隔臓器にも転移しやすいことが知られている.そこで髄芽腫の原発巣と髄腔内播種巣およびリンパ節転移巣の腫瘍血管について,超微形態学的に観察し,比較検討を行った.

クモ膜下出血後の髄液吸収障害—クモ膜下腔線維増殖との関係

著者: 岡部慎一

ページ範囲:P.439 - P.445

I.はじめに
 クモ膜下出血(SAH)に続発する慢性期の交通性水頭症の主な原因は,SAHに対する反応として起こるクモ膜下腔での線維増殖あるいは癒着であると言われており4-7,18,21,22),この病態は正常圧水頭症(normal pressurehydrocephalus,以下NPH)1)として主に,髄液短絡術効果の評価に関連して論議されてきた.しかし,NPHの発生原因についてはいまだ明らかにされたとは言い難い.
 そこで,本研究においては,髄液吸収障害発生におけるクモ膜下腔線維増殖の意義を検索する目的で動物実験を行った.即ち,イヌにSAHを作成し,慢性期にKatzman & Husseyら9)によるsteady-state法を用いたinfusion testを行い,髄液吸収抵抗を測定し,その結果を走査電顕下に観察分類したクモ膜下腔線維増殖の程度と比較検討を行った.

頭蓋底,眼窩手術における外眼筋誘発筋電図の直接記録

著者: 関谷徹治 ,   岩淵隆 ,   鈴木重晴 ,   前田修司 ,   畑山徹 ,   滝口雅博

ページ範囲:P.447 - P.451

I.はじめに
 術後に外眼筋麻痺を生じると,たとえ視力は温存されたとしても機能的失明(functional blind)の状態となることがある.
 最近,頭蓋底病変に対して手術的にアプローチされることが多くなったが,腫瘍の摘出と引き換えに患者の外眼筋機能に障害を来すような結果になると,患者の満足感は大いに減じ充分な治療効果を上げ得ない結果に終ってしまう.
 われわれは前方から眼科的アプローチにて外眼筋を露出し,これに直接電極を設置して外眼筋誘発筋電図を直接導出する方法を考案した.この術中モニタリングは手術操作に伴う外眼筋麻痺の防止上きわめて有用であった.

症例

術中ポータブルDSAにより脳内血腫の出血源の検索が有効であった1例

著者: 目黒琴生 ,   松村明 ,   鶴嶋英夫 ,   松丸祐司 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.453 - P.456

I.はじめに
 手術中の脳血管撮影は手術の安全性,確実性を高めるために有用であると言われているが2,11,15),設備のコスト,手段の煩雑さより,まだ広く普及しているとは言えない.われわれは手術用ポータブルX線透視装置を使った簡便型ポータブルDSA(digital subtraction angio—graphy)装置を開発し,様々な臨床例で使用してきた4,12).今回脳内血腫によって脳ヘルニアを起こしつつある患者で,術中血腫除去とほとんど同時にポータブルDSA装置を使って出血源の検索を行い,血腫除去および動静脈奇形摘出を施行し,患者を救命し社会復帰させることができたので報告する.

髄膜腫の嚢胞形成—2症例と考察

著者: 尾金一民 ,   野々垣洋一 ,   畑山徹 ,   鈴木重晴 ,   岩渕隆

ページ範囲:P.457 - P.461

I.はじめに
 髄膜腫の中で嚢胞を伴うものの頻度は,2.6%(Cushingら3),1938),あるいは1.2%(佐藤ら16),1971)などの報告があり,概ね1-2%で比較的まれとされている.しかし,近年CTなどの診断技術の進歩に伴い,診断も容易となり,その頻度は増加しているものと思われる.われわれの経験した髄膜腫は,過去87例を数えるが,その内嚢胞を伴ったものは2例(2.3%)であった.そこで,2症例を報告し,嚢胞性髄膜腫のCT所見,および嚢胞形成機序などについて,若干の文献的考察を加える.

Von Recklinghausen氏病に合併した脊髄異種腫瘍の1例

著者: 本田英一郎 ,   林隆士 ,   後藤伸 ,   大島勇紀 ,   菊池直美 ,   宇都宮英綱 ,   小笠原哲三 ,   本多義明 ,   佐藤能啓

ページ範囲:P.463 - P.468

I.はじめに
 Von Recklinghausen氏病(Neurofibromatosis)(以下VRD)には種々の外胚葉系由来の腫瘍や奇形の合併を生じやすい事は周知の事実である1,16,17)
 今回は胸腰椎部の硬膜下腔に発生した巨大meningi—omaと隣接する小豆大のschwannomaの異種脊髄腫瘍を伴い,さらに同一部位(TI2, L1, L2)の椎体後面に著しいscallopingが見られた54歳の女性VRD症例を経験した.VRDに合併する多発脊髄腫瘍(ほとんどがneurofibroma)は散見される7,17,18)が,異種脊髄腫瘍は極めて稀である.これら腫瘍及び椎体のscallopingの発生機序も含め,文献的考察を加え,報告する.

孤立性第4脳室内出血で発症した椎骨動脈巨大動脈瘤の1例

著者: 入倉哲郎 ,   坂井春男 ,   中原成浩 ,   長谷川譲

ページ範囲:P.469 - P.473

I.はじめに
 頭蓋内脳動脈瘤は破裂時,ほとんどが蜘蛛膜下出血で発症するが比較的高率に脳実質内出血や脳室内出血を伴う.しかし脳動脈瘤からの出血が直接脳室内に流入し「一次的な脳室内出血」を起こすことは稀である.さらにこの中で脳動脈瘤破裂により明らかな脳実質内出血や蜘蛛膜下出血を認めない「孤立性の脳室内出血]をきたすことはきわめてまれで現在まで数例の報告があるにすぎない.またこのような孤立性の脳室内出血をしめした椎骨動脈瘤症例の報告は現在までのところ無い.われわれは孤立性の第4脳室内出血発症しその原因が椎骨動脈巨大動脈瘤であった1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

髄膜炎による感染を伴ったAzygos Anterior Cerebral Artery部分的血栓性巨大動脈瘤の1例

著者: 三島一彦 ,   渡辺卓 ,   佐々木富雄 ,   斎藤勇 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.475 - P.481

I.はじめに
 われわれは,髄膜炎を契機に発見され,経過中急速に増大し,広範な脳浮腫により臨床症状悪化を来したazygos antcri cerebral arteryの部分の血栓性巨大動脈瘤を経験し,摘出した動脈瘤の病理組織学的所見より,本症例における動脈瘤の感染と,動脈瘤の増大機序及び脳浮腫の発生につき考察し,さらに治療上の問題点につき若干の知見を得たので報告する.

頭蓋内浸潤を呈したNeuroendocrine Carcinomaの1例

著者: 馬目佳信 ,   山岡龍平 ,   結城研司 ,   羽野寛 ,   北島具秀 ,   池内聡

ページ範囲:P.483 - P.487

I.はじめに
 鼻腔内に発生し嗅細胞への分化を示す腫瘍としては,neuroblastomaが第一に挙げられる.しかし,これと鑑別すべきものとしてneuroendocrine carcinomaがあり,これらは共に頭蓋内に浸潤することが知られている.われわれは今回neuroendocrine carcinomaが頭蓋底より脳実質内に浸潤し,経過中,髄液鼻漏を呈した症例を経験したので報告する.

海外だより

米国における動物実験の現状

著者: 池田幸穂

ページ範囲:P.488 - P.489

 脳神経外科領域における動物実験は,臨床的研究とともに,ますますその重要性が認識され,日本の各施設で積極的に行われているのが現状であろう.筆者は,1986年から2年間,教室の中澤教授の御尽力により米国Baltimore市Johns Hopkins大学医学部脳神経外科学教室(主任Prof.Donlin M.Long)へ留学する機会を得,ここでネコ,ウサギを使った実験的脳浮腫に関する研究に従事した.その体験から,米国における動物実験の実情,米国人の動物に対する考え方について触れてみたい.
 米国留学中,医学雑誌で米国における動物実験の現状に関する記事に接する機会があった.その中で1986年NIH(National Institues of Health)で起きた事件が大きく取り上げられていた.これは動物愛護団体のメンバーの1人がNIHの職員となり,動物実験中の様子をマスコミに写真入りで公表したことである.この1件は,一時,研究活動に大きな制約を強いられたとのことである.同様の事件が米国各地で生じ,動物実験に対する厳しい規制が各施設で施行され,その下で動物実験が行われるようになってきたわけである.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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