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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科18巻6号

1990年06月発行

雑誌目次

印度の旅から

著者: 倉本進賢

ページ範囲:P.497 - P.498

 昨年10月,脳神経外科学国際会議に出席のために私は初めて印度を訪ねて強烈な印象を受けた.この学会には日本からも多くの方々が出席されていたので,私と同じ経験をされた方が多いと思うが,私なりの旅の思い出を述べてみたい.
 学会もどうやら無事に済んで安堵し,あとの2日間はゆっくりした気持ちで観光に廻ることになった.翌日,午前6時10分発の急行列車でアグラに行くために朝早くニューデリー駅に着いた.まだ明けやらぬ駅舎は構内を塒にしている人々の様々な姿で溢れていた.寝ている人,うづくまっている人,眠たそうな眼をこする人,立っている人,歩いて来る人,その人々が憂愁に満ちた眼差しで私共を見つめていた.そこには貧困な人々の赤裸な姿があったが,特に苦悩と憂いにみちた瞳が私にはなによりも堪えがたく思われた.私はその人々の間を縫うようにしてホームに入り,特別列車の指定席に坐って,ほっとした安堵を感じた.この時,私は自分が特別の人間,駅にうづくまっている人々とは別の生活の人間であることを無意識に感じていたのである.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(13)脊索腫(Chordoma)

著者: 峠本勝司

ページ範囲:P.499 - P.506

I.はじめに
 脊索腫は1856年Luschka1)が斜台から頭蓋内に突出、した腫瘍を記載したのが最初であると考えられるが,胎生期脊索(Notochord)の遺残組織から発生する腫瘍である事を初めて指摘したのはMuller(1858年)2)である.Chordomaという病名は1895年にRibbert3)によって命名されている.発生部位により頭蓋型,脊椎型,仙尾型の3種類に分類されるが,大部分は頭蓋底部と仙尾骨部に発生する.好発部位が限局している関係で,文献的な報告は整形外科,耳鼻科,脳神経外科領域がほとんどであるが,外国ではWang James(1968)4)の550例が最も多く,本邦では広瀬(1968)5)の67例が多い.頭蓋内の脊索腫は,大部分が斜台部に発生するが,全頭蓋内腫瘍の0.1-0.5%を占めるに過ぎず,比較的まれな腫瘍といえる.

研究

慢性硬膜下血腫再発及び治癒遷延例の検討—Ommaya reservoir設置法

著者: 堀本長治 ,   宮崎隆義 ,   宮崎久弥 ,   川野正七

ページ範囲:P.507 - P.510

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫の術後再発例や治癒遷延例が臨床上しばしば経験される.これに対してわれわれは穿頭血腫除去後にOmmaya reservoirを設置し,術後に血腫腔内貯留液の積極的な排除を行ってきた.しかし依然として再発例や治癒遷延例が認められる.今回これら再発及び治癒遷延の要因を検討したので報告する.

出血傾向に合併した頭蓋内血腫—治療の実際と文献的考察

著者: 福田忠治 ,   秋元治郎 ,   陳美利 ,   伊東洋 ,   三輪哲郎 ,   蓮江正道

ページ範囲:P.511 - P.520

I.緒言
 従来出血傾向に合併した頭蓋内血腫(Intracranialhematoma,以下ICrH)の転帰は不良とされて来たが,近年の止血機構の研究の進歩や凝固因子製剤の開発に伴い転帰は改善し,手術の成功も多く報告されて来ている.著者らは各種出血傾向に合併したICrH 15例を経験したのでその治療,転帰を検討し,文献的考察と合わせ報告する.

Implant Heating Systemによる転移性脳腫瘍の温熱療法—A preliminary clinical report

著者: 木田義久 ,   石栗仁 ,   一見和良 ,   小林達也

ページ範囲:P.521 - P.526

I.はじめに
 近年加温法と加温機器の進歩により,悪性腫瘍の治療法の1つとして温熱療法が,各種領域において臨床応用されるようになった.脳腫瘍の治療法としても,近年温熱療法の試みが報告されているが,頭蓋内病変であるという特殊性から,加温法と測温技術の問題が多く,他の領域に比べ,いまだ十分な成果が得られていない現状である.従来用いられたのは,マイクロ波9-11)あるいはRF波16)を利用した局所加温法であるが,われわれは1982年来,組織内加温法であるImplant Heating Sys—tem(以下IHSと略す)の開発を行い,動物実験等5,7,8,17)を経て,臨床応用を開始している.今回は転移性脳腫瘍に対するIHSの適用の可能性を臨床的に検討し,さらにその安全性,有効性の評価を行った.

脳腫瘍血管透過性の超微形態—脳原発性悪性黒色腫の腫瘍血管

著者: 柴田尚武 ,   越智章 ,   山下弘巳 ,   安永暁生 ,   森和夫

ページ範囲:P.527 - P.531

I.はじめに
 脳原発性悪性黒色腫(以下原発性黒色腫)は脳軟膜に存在するmelanocyteを発生母地とするが,比較的稀で,脳腫瘍全国集計調査報告2)によると,22,898例中16例,0.07%にすぎない.
 原発性黒色腫の腫瘍血管について,他の原発性脳腫瘍と超微形態学的に比較,検討を行った.

脳腫瘍のP−31 MR Spectroscopy

著者: 宮町敬吉 ,   阿部弘 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.533 - P.537

I.はじめに
 MRIの導入と時期を同じくしてMR spectroscopyの臨床応用が始まり,脳における代謝の解明に大きな期待を抱かせた.初期の報告においてはリン酸エネルギー代謝物の解析を可能にするものとして注目を集め,脳腫瘍における代謝の検討に大きく寄与するのではないかと考えられた5,8,9,16),これまでの脳腫瘍におけるMR spec—troscopyの検討の結果として,Pi,PME,PDEの上昇,PCrの低下,pHの増加が一般的な事柄として述べられているが2,4,6,15,18-20),より詳細な知見は得られていない.この為,最近では31P-MR spectroscopyによる脳の代謝の解析においての限界が議論されているのが現状である.
 今回,われわれは31—PMR spectroscopyによる脳腫瘍例の検討を行い,特に悪性腫瘍と良性腫瘍における代謝の違いについて比較し,新たな知見を得たので報告する.

症例

前立腺癌の硬膜転移に続発した硬膜下水腫の1例

著者: 田崎薫 ,   島健 ,   松村茂次郎 ,   岡田芳和 ,   西田正博 ,   山田徹 ,   沖田進司 ,   加川玲子

ページ範囲:P.539 - P.542

I.はじめに
 悪性腫瘍の硬膜への転移は,10-12%に認められているが6-8),硬膜転移に硬膜下血腫または硬膜下水腫が続発した症例の報告は,著者らが調べ得た限りでは,自験例を含め,文献上31例1-5,10-22)に過ぎない.
 著者らは,前立腺癌の硬膜転移に続発した硬膜下水腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

橋出血で発症した頭蓋内軟骨腫の1例

著者: 古井倫士 ,   岩田金治郎 ,   山本英輝 ,   村上昭彦

ページ範囲:P.543 - P.546

I.はじめに
 軟骨腫が頭蓋内に発生することは稀で,全頭蓋内腫瘍の0.1-0.2%といわれている15,24).多くは頭蓋底に発生し,腫瘍の増大に伴う脳神経症状を初発症状として発見される.最近われわれは同腫瘍が脳幹に進展し,そこからの出血によって発症するという稀少な症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

Suprasellar Germinomaの再発を疑わせたForeign-body Granulomaの1例

著者: 古閑比佐志 ,   六川二郎 ,   金城利彦 ,   久田均

ページ範囲:P.547 - P.550

I.はじめに
 最近,私どもはsuprasellar germinomaの摘出及び放射線治療後1年で再発が疑われて再開頭し,組織学的に異物性肉芽腫と診断された1例を経験した.脳腫瘍摘出後に発生した異物性肉芽腫の報告は少ない2,17-19).異物性肉芽腫の術前診断について術前MRIも加えて考察し報告する.

下位脳神経麻痺で発症した後頭蓋窩くも膜嚢胞の1症例

著者: 武智昭彦 ,   魚住徹 ,   山中正美 ,   金沢潤一 ,   畠山尚志 ,   隅田昌之 ,   梶間敏男

ページ範囲:P.551 - P.554

I.はじめに
 頭蓋内くも膜嚢胞は,Computed Tomograpy(CT)導入以来,発見される機会が多くなってきたが,後頭蓋窩くも膜嚢胞についての報告は少なく,その大部分は正中部又は小脳橋角部に発生する.この度われわれは,初回のCTスキャンでは診断不能で,Magnetic ResonanceImaging(MRI)にて診断された,lateral cerebellomedullary cisternのくも膜嚢胞を経験し,手術で良好な結果を得たので,若干の文献的考察を加えて報告する.

新生児仙尾部奇形腫の2例

著者: 篠浦伸禎 ,   近藤達也 ,   村岡勲 ,   塚本泰 ,   吉岡真澄 ,   宮沢広文

ページ範囲:P.557 - P.561

I.はじめに
 仙尾部奇形腫は小児期に発症する特異な腫瘍で出生児4-5万人に1人と稀な疾患に属する.われわれは最近成熟型及び未熟型の2例の仙尾部奇形腫を経験したので報告する.

外傷性大脳基底核部出血の1例—CT誘導定位脳手術による治療例

著者: 山本文人 ,   江口議八郎 ,   吉村恭幸 ,   重森稔 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.563 - P.565

I.はじめに
 外傷性大脳基底核部出血しはCT scanの導入後その報告例も増加しており,孤立性のものと他の部位の出血巣を随伴してみられるものとがある5).今回,孤立性の外傷性大脳基底核部出血の小児例に対し,高血圧性脳出血に対し行われているCT誘導定位的脳手術1,4,9,13)による血腫吸引除去術を施行し,良好な結果を得たので若干の文献的考察を加えて報告する.

巨大内頸動脈瘤Clipping術後に発生した対側硬膜外血腫の1例

著者: 勇木清 ,   児玉安紀 ,   江本克也 ,   恩田純 ,   湯川修

ページ範囲:P.567 - P.570

I.はじめに
 術後合併症の一つである硬膜外血腫は,開頭術野やburr holeに近接した局所に生じるのがほとんどであるが,まれに後頭下開頭,脳室ドレナージ,シャント術の術後予期せぬ遠隔部に生じることが知られている1,9).これに対し天幕上開頭術において手術野と直接関係のない反対側に硬膜外血腫が生じたとの報告は少なく,なかでも脳動脈瘤clipping術後に発生した対側硬膜外血腫はきわめて稀である.今回われわれは巨大内頸動脈瘤clipping術後,予期せぬ対側硬膜外血腫を生じた1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血をきたしたSLEの1例

著者: 児玉晋一 ,   朝倉哲彦 ,   門田紘輝 ,   笠毛静也

ページ範囲:P.571 - P.575

I.はじめに
 SLE(全身性エリテマトーデス)は全身の結合組織性疾患であり,その臨床症状は多臓器にわたり多彩である.われわれ脳神経外科医にとっても中枢神経系症状がしばしばみられること及び脳梗塞・脳出血を伴いやすいこと等から重要な疾患の一つである.しかし,このように多彩な症状を呈するSLEでも脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血をみることは極めて稀であり,現在までにその報告はあまりみられない.今回われわれはこのような一例を経験し良好な経果を得たので,術前術後の患者管理の面を含めその成因について文献的に考察し報告する.

スパイナルドレナージ後に軽快した顔面痙攣の1症例

著者: 新島京 ,   米川泰弘 ,   郭泰彦

ページ範囲:P.577 - P.580

I.はじめに
 腫瘍や血管腫などによらない,いわゆるidiopathicな顔面痙攣(hemifacial spasm(HFS))の成因として,neurovascular compression theoryを考えるものが多い3,4).実際にHFSに対してmicrovascular decompres—sion(MVD)が行われ良好な成績が得られている4,5)
 未破裂脳動脈瘤と反対側のHFSを合併した患者に,動脈瘤のネッククリッピングを行ったが,その際に蝶形骨洞が一部分開放された.そのため,髄液鼻漏の発現を予防する目的でスパイナルドレナージを施行したところ,約2週間後にHFSが軽快した.

総頸動脈閉塞を伴った高位脳底動脈分岐部動脈瘤の1例

著者: 白川典仁 ,   村山佳久 ,   上田伸 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.581 - P.585

I.はじめに
 閉塞性脳血管病変に脳動脈瘤を合併した報告は,しばしば散見される.そのなかには,一側または両側の内頸動脈欠損1,17,24,26)や形成不全15),硬化性病変による後天性内頸動脈閉塞4,5,8,14,18,22,23),あるいは大動脈炎症候群による頸動脈閉塞7,9,12)に脳動脈瘤を合併したものなどが多い.閉塞部位としては,内頸動脈が多く,動脈硬化性病変による総頸動脈閉塞に脳動脈瘤を合併した症例の報告は極めて少ない5,14).今回われわれは,左総頸動脈が起始部より閉塞し,高位脳底動脈瘤破裂により発症した1例を経験した.その脳血流動態と脳動脈瘤発生との関連性及び,外科治療上の問題点につき文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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