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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科18巻7号

1990年07月発行

雑誌目次

Quality of lifeとQuantity of life

著者: 上田聖

ページ範囲:P.593 - P.594

 症例検討会等で優位半球の,あるいは劣位半球であってもmotor area近辺に発生した悪性脳腫瘍の症例が呈示されると必らず出てくる言葉がQuality of life,あるいはuseful lifeという言葉である.昨今の医療界で殆ど流行語に近いこの言葉を口にする人は悪性脳腫瘍の治療に対しては消極的な意見を持つ人に多い.あらゆる治療法を駆使してもたかだか1年程度の生存期間しか期待出来ないのであれば,extensiveに腫瘍を切除してneurological deficitを強くしたり,新たに作ることは好ましくなく,survivaltime(Quantity of life)を犠牲にしても現状維持が出来るだけ長くなるように保存的治療に努めようという意見である.悪性脳腫瘍とりわけGlioblastoma multiformeの治療に対して消極的な立場をとる人は古くからあり,その主旨も概ねこれと同じであろうと思われるが,これにQuality of lifeという言葉が新しく附加されたために説得力を生じた.

総説

脳腫瘍の悪性度

著者: 伊藤治英 ,   上領俊文 ,   梶原浩司 ,   西崎隆文 ,   大下昇

ページ範囲:P.595 - P.599

 脳腫瘍の組織診断による悪性度の判定は予後推定,治療法の選択,および治療効果の判定に極めて重要である.組織学的に悪性度は細胞密度,核分裂像,核の異形性・多形性と染色性,壊死,組織構築,および血管反応を基礎に分類されている.ところが次のような問題がある.余りにも多数の脳腫瘍の分類法が報告され,それぞれ分類基準が異なり,汎用されている4段階分類であるKernohan分類15)とWorld Health Organization(WHO)分類31)とにおいてさえ判定基準が多少異なる.組織の悪性度判定に検者の主観が入る.さらに腫瘍組織内の部位による不均一性がある25).これらの問題解決のために種種の方面から研究されている.

研究

悪性脳腫瘍に対する放射線化学療法の非病巣部脳血流量への影響—Single photon emission CTによる検討

著者: 荒木有三 ,   今尾幸則 ,   平田俊文 ,   安藤隆 ,   坂井昇 ,   山田弘

ページ範囲:P.601 - P.608

I.はじめに
 脳腫瘍に対する放射線化学療法は腫瘍自身の循環代謝の低下18)を招来させると同時に,一方では,非病巣部の脳壊死などの器質的変化の出現に先行して,循環代謝の変化が認められることが報告されている3,7,12)
 正常脳では脳血流量と脳代謝量は一致した動きを示すが,病的状態においては,異なった変化を示す9)ため,正確な循環動態の把握には両者の測定が必要である.しかし,脳血流量は比較的測定が容易なため,脳機能を客観的に評価するには有効な手段となる.

脳神経外科におけるDICおよびDIC準備状態に対するFOY療法の有効性の検討

著者: 湧井健治 ,   竹前紀樹 ,   小林茂昭

ページ範囲:P.609 - P.617

I.はじめに
 脳神経外科疾患を基礎として発症した播種性血管内凝固症候群(以下DIC)およびDIC準備状態の治療に関し,多数例をもとに蛋白分解酵素阻害剤メシル酸ガベキサート(以下FOY)の治療効果を検討した報告は脳神経外科領域では認めない.そこでDICおよびDIC準備状態の患者に対しFOYを投与し,その臨床症状,検査所見の推移を検討しFOYの有効性につき評価を行ったので報告する.

症候性脳血管攣縮に対するGIK(Glucose-Insulin-Potassium)療法の効果

著者: 堀本長治 ,   堤健二 ,   辻村雅樹

ページ範囲:P.619 - P.622

I.はじめに
 脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血では症候性脳血管攣縮をきたした症例に対し,種々の治療法が試みられている.とくにhypervolemia-hypertension療法は臨床的にその有効性が証明され,最も一般的に行われている治療法である.しかしこのhypervolemia-hypertension療法中には,うっ血性心不全などの循環不全をきたし予後に重大な影響を及ぼす症例がある.このような症例に対し,循環不全の正常化と虚血脳への保護作用を目的としてGIK療法を試み,その有効性について臨床的に検討したので報告する.

Coordinate Softwareの定位的血腫吸引除去術への応用

著者: 谷中清之 ,   江頭泰平 ,   岡崎匡雄 ,   高野晋吾 ,   久木田親重 ,   吉澤卓 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.623 - P.629

I.はじめに
 高血圧性脳出血の外科治療は,従来開頭血腫除去術が主に行われてきたが,CTの普及とともに,より非侵襲的な定位的血腫吸引除去術の有効性が広く認められるところとなった.しかしながら,定位的血腫吸引除去術では,高血圧性脳出血の急性期に施行しても,必ずしも血腫を十分に排除できず臨床的に有効な方法とはならないとの意見もあり13),drainage tubeを留置しUrokinaseを注入する定位的血腫溶解排除術といった工夫も報告されている3).しかしこの方法にも感染等の危険性を伴う.従って,定位的に,かつ血腫を一期的に十分排除できることが本症の治療法としては理想と考えられる.今回われわれは,この理想を満たすべく,Coordinatesoftwareを用いたCT誘導定位的血腫吸引除去術を施行したので,症例を提示しつつ,従来の方法との血腫除去率・臨床結果などを比較検討し,本法の有用性を確認できたので報告する.

症例

静脈性梗塞により発症し,離脱型バルーンにより治癒した特発性頸動脈海綿静脈洞瘻の1症例

著者: 笠間睦 ,   片田和広 ,   神野哲夫 ,   杉石識行 ,   安倍雅人 ,   庄田基 ,   石山憲雄 ,   佐野公俊 ,   竹下元

ページ範囲:P.631 - P.636

I.はじめに
 carotid-cavernous fistula(以下CCFと略す)は片側性眼球突出,結膜の充血浮腫.雑音を3主徴とすることで知られているが,稀には拡張した静脈の破裂により脳内血腫を生じることが報告されている8).今回著者らは,静脈圧上昇により静脈性梗塞を生じ,離脱型バルーンによる緊急塞栓術を施行し,良好な経過をたどった1症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

下垂体機能低下症で発症した鞍内,鞍上部Meningiomaの1例

著者: 長尾省吾 ,   河井信行 ,   大本尭史 ,   大橋威雄

ページ範囲:P.637 - P.642

I.はじめに
 トルコ鞍の拡大,視力・視野障害および下垂体機能不全症を示し,下垂体腺腫が強く示唆されたが,手術および剖検で鞍隔膜より発生したと思われる鞍内・鞍上部髄膜腫の1例を経験したので報告する.

慢性期に穿頭術で軽快した外傷性急性大脳半球間裂血腫の1例

著者: 長沢史朗 ,   大槻宏和 ,   長安慎二 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.643 - P.646

I.はじめに
 動脈瘤や動静脈奇形のような脳血管障害に由来する場合を除き,頭部外傷による大きな急性硬膜下血腫が主として大脳半球間裂に認められる例は一般に少ない3-6).われわれはこのような外傷性急性大脳半球間裂血腫に対し急性期には保存的療法を余儀なくされたが,発症1カ月後に局所麻酔下に血腫除去を行い残存症状の著しい改善が得られた症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

脳神経減圧術後に見られた前庭神経,顔面神経損傷の1例

著者: 関谷徹治 ,   鈴木重晴 ,   岩淵隆 ,   高橋敏夫 ,   藤原文明 ,   安田肇

ページ範囲:P.647 - P.651

I.はじめに
 小脳橋角部手術の合併症としての聴力障害についてはこれまでに多くの論及がなされている7,9).しかし前庭神経の損傷については殆ど論じられていない.今回,われわれは脳神経減圧術後に聴力は良好に温存されたが,前庭神経と顔面神経が選択的に損傷された症例を経験し詳細な神経耳科的検討を行った,本症例は小脳橋角部手術による合併症としての前庭神経,顔面神経損傷の発生機序を考察する上で貴重な症例と考えられたので報告する.

子宮癌の脊髄髄内転移の1例

著者: 佐久間司郎 ,   岩崎喜信 ,   井須豊彦 ,   秋野実 ,   杉本信志 ,   高橋明弘 ,   阿部弘 ,   井上和秋

ページ範囲:P.653 - P.657

I.はじめに
 悪性腫瘍の背髄髄内転移は比較的稀でありCostiganらの報告によると,悪性腫瘍剖検例の2.1%に背髄髄内転移を認めたとされる4).しかも,その大部分は悪性腫瘍末期の全身播種の結果として見られるもので,予後は非常に悪く神経症状出現後3カ月以内に80%以上の者が死亡している7)
 今回われわれは,子宮体癌の背髄髄内転移を示した1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

出血で発症した舌咽神経鞘腫の1例

著者: 箕倉清宏 ,   井上丈久 ,   長嶺由啓

ページ範囲:P.659 - P.663

I.はじめに
 腫瘍内出血をきたす頭蓋内腫瘍としては一般に神経膠腫や下垂体腺腫などがよく知られているが,symptoma—ticな出血をきたす神経鞘腫はまれと考えられ,文献的にも15例の報告を見るのみである1-3,5,6,9,10,12,14-18,20).われわれは大量の出血を契機に診断された舌咽神経鞘腫の1例を経験したので,その出血機序などを中心に考察を加え報告する.

被殻出血を呈した基底核Cryptic Arterio-venous Malformationの3症例

著者: 丹羽潤 ,   奥山徹 ,   久保田司 ,   清水一志 ,   平井宏樹

ページ範囲:P.665 - P.668

I.はじめに
 高齢者で高血圧症の既往があり,CT scanで被殻出血を認めた症例は高血圧性被殻出血と診断し,神経学的重症度と血腫量によって方針を決定することが一般的である4)
 今回著者らは1986年1月から1988年12月までの3年間に当科に入院し高血圧性被殻出血と診断した107例のうち神経学的重症度がIII以上の17症例に対して開頭血腫除去術を行った.このうち3例で術中に大脳基底核部に異常血管網を認めた.これら3症例の臨床像,放射線学的所見および病理学的所見について検討したので報告する.

Seizures Induced by Movementについて

著者: 兜正則 ,   林實 ,   久保田紀彦 ,   古林秀則 ,   野口善之 ,   中川敬夫 ,   久保田鉄也

ページ範囲:P.669 - P.674

I.はじめに
 若年者にみられる急激な運動の開始によって誘発される一過性の四肢の強直を主体とするseizures induced bymovement12)(paroxysmal kinesigenic choreoatheto—sis10))は比較的稀な疾患と考えられているが,これはこの疾患が一般にあまり知られていないために見過ごされたり,誤診されている例が多いことも一因と考えられる.特に脳外科医にはほとんど知られていないためか,運動により誘発される一過性脳虚血発作としてモヤモヤ病のような脳血管障害を疑われ,脳血管撮影などの検査の結果,結局は原因不明として見過ごされている場合が多いと思われるので,文献的考察を加え自験例を報告する.

大脳基底核部発生のEmbryonal Carcinomaの1症例

著者: 前田泰孝 ,   馬淵英一郎 ,   小山隆 ,   狩野光将 ,   有田憲生

ページ範囲:P.675 - P.680

I.はじめに
 頭蓋内原発germ cell tumorの発生部位は,松果体部と鞍上部が多く,組織型はgerminomaが多い2,5).今回,われわれは大脳基底核部に発生したgerm celltumorで病理組織学的にembryonal carcinomaとtera—tomaのmixed typeと診断された症例を経験した.embryonal carcinomaが大脳基底核部に発生した症例の報告は極めて少ない1,12,17,19)ようであるので文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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