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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科18巻8号

1990年08月発行

雑誌目次

第3回脳死・脳蘇生研究会について

著者: 魚住徹

ページ範囲:P.689 - P.692

 平成2年6月2日(土),第3回脳死.脳蘇生研究会が広島市で開催された.脳蘇生について14演題,脳死について19演題が発表された.特別講演として,熊本大学麻酔学,森岡亨教授の「脳蘇生の現況と将来」,及び新潟大学脳研究所,生田房弘教授の「脳死の神経病理学」が行われ,いずれもその学問の深奥は聴衆に大きな感銘を与えた.
 会長講演として私が「脳死問題について」を話させて頂いた.要旨以下の如くである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

痙性斜頸に対する副神経減圧術

著者: 島史雄 ,   福井仁士

ページ範囲:P.693 - P.700

I.はじめに
 痙性斜頸は,頸筋の不随意収縮を特徴とする神経疾患で,頭位の変化により,1)体軸を中心に水平に回転するhorizontal torticollis, 2)前後軸を中心に一側に傾斜するrotatory torticollis, 3)前後方向へ傾くantecollis又はretrocollisに分類できる12).また,筋収縮のパターンの違いにより,spasmodic torticollisとmyoclonic tor—ticollisが区別される.本症は,他の不随意運動と同じように精神的緊張で増悪し,体位により症状が著しく変る.症例によっては,示指を下顎に触れただけで症状が軽減する奇異な現象(corrective gesture)を示すことはよく知られている.30-40歳台に発病することが多く,一般に,薬物や心理療法などの保存的治療に抵抗し難治性である.症例によっては増悪と寛解を繰り返す.しかし,長期的な予後は良好で数年から10数年後に自然寛解することが少なくないと言われている19)

研究

電磁流量計とポータブルDSAによる内頸動脈内膜剥離術の術中評価について

著者: 目黒琴生 ,   松村明 ,   塚田篤郎 ,   鶴嶋英夫 ,   中田義隆

ページ範囲:P.701 - P.706

I.はじめに
 頸動脈内膜剥離術(以下CEAと略す.)の目的は塞栓の原因となる内膜潰瘍性病変の除去と血流低下の原因となる血管内腔狭窄の改善である.手術によって,この二つの目的が果たされたかどうかを術中に評価できれば,手術を更に安全に行うことができると思われる.われわれは電磁流量計とポータブルDSAによるCEAの術中評価を行い若干の知見を得たので報告する.

Volume ExpanderとInduced Hypertension併用による脳への影響

著者: 榊寿右 ,   笹岡保典 ,   石田泰二 ,   森本哲也 ,   角田茂 ,   内海庄三郎 ,   村田吉郎

ページ範囲:P.707 - P.714

I.はじめに
 Volume expanderにより脳血流を増加させて脳虚血から守ろうとする試みは,くも膜下出血後の脳血管れん縮の際や,手術中の一時的な血流遮断,脳血栓症等の急性期などの際に行われている.実験的研究からは,脳を栄養する大きな動脈間での,脳が本来有している解剖学的なanastomosisを介しての側副血行を増加させることにより脳梗塞の大きさやその後遺症を減じるという報告がある16,20,21).そして実際に,臨床の場で急性期の脳虚血発作症例に対し使用され,その有用性も認められている15,22).一方,induced hypertensionもまた,多くの病的な状況の結果生じる脳虚血状態を改善させる有効な治療法の一つであると認められており18),実際われわれも臨床の場で血圧の上昇に伴ない患者の神経症状の改善の得られることを経験することは少なくない.

頭蓋内原発悪性リンパ腫の治療成績

著者: 林明宗 ,   久間祥多 ,   桑原武夫 ,   藤津和彦 ,   篠永正道 ,   山口和郎 ,   関戸謙一 ,   千葉康洋 ,   山下俊紀 ,   小田正治 ,   桑名信匡 ,   藤野英世

ページ範囲:P.715 - P.720

I.はじめに
 頭蓋内原発悪性リンパ腫は2),脳腫瘍の0.2-2%7)を占める稀な疾患であるが,免疫抑制剤の使用,AIDS22)の流行などによってその発現頻度は増加していると言われている.CT scanの普及ならびにその特徴的なCT像8,10)により,その診断は比較的容易になってきてはいるものの,治療成績はかならずしも良好ではない11-13).Henry6)らによれば,発症からの平均生存期間は保存療法のみでは3.3カ月,手術療法で4.6カ月と悪く,放射線療法が15.2カ月と延命を期待させるのみである.
 今回,われわれは最近11年間に経験した頭蓋内原発悪性リンパ腫19例について,特に化学療法の効果に視点を定めてその治療成績を検討した.

Wallenberg症候群の原因としての椎骨動脈解離性動脈瘤

著者: 奥地一夫 ,   渡部安晴 ,   平松謙一郎 ,   多田隆興 ,   榊寿右 ,   京井喜久男 ,   内海庄三郎 ,   鎌田喜太郎 ,   大西英之 ,   下村隆英

ページ範囲:P.721 - P.727

I.はじめに
 1895年,Wallenbergは急性の球麻痺と交代性知覚障害にて発症した38歳の男性の症例報告において,その神経学的症状が後下小脳動脈(以下PICA)の閉塞により生じたと推定し21),6年後死亡した同症例の剖検所見から,予測どおりPICA閉塞によるものであることを証明し追加報告した22).その約半世紀後の1961年,Fisherらは18例のWallenberg症候群の剖検結果より,PICAの閉塞が原因となることは少なく,むしろ椎骨動脈の閉塞に起因するものが多いことを指摘した4).以来,Wallenberg症候群は椎骨動脈またはPICAの閉塞により発症すると考えられるようになり,一般にその血管閉塞は動脈硬化にもとづくものが多いとされてきた9)が,実際上,発症機序に関して詳細に検索した報告は極めて少ない.われわれは虚血病態であるにもかかわらず,Wallenberg症候群の発症時に多くの患者が訴える激しい頭痛に注目し,この頭痛が最近報告が増えつつある解離性動脈瘤による血管壁の障害に起因するもではないかと考え今回の検討を行った.われわれの経験したWallenberg症候群22例の臨床像および血管撮影所見を分析し,その結果に文献的考察を加え報告する.

破裂脳動脈瘤術後てんかんの臨床的検討

著者: 大熊晟夫 ,   川口雅裕 ,   杉本信吾 ,   柳本政浩 ,   服部達明

ページ範囲:P.729 - P.734

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤術後てんかんに関する報告は比較的少ない.術後てんかんの発生頻度,発生時期,発生のriskfactor,抗てんかん剤の予防的投与の必要性を明らかにするために自験例をもとに検討し,文献的考察を加える.

症例

被膜形成された慢性脳内血腫の像を呈した大脳基底核部静脈性血管腫の全摘出術例

著者: 隈部俊宏 ,   嘉山孝正 ,   桜井芳明 ,   小笠原邦昭 ,   新妻博 ,   和田徳男 ,   並木恒夫

ページ範囲:P.735 - P.739

I.はじめに
 血管撮影によって描出されない頭蓋内血管奇形をangiographically occult intracranial vascular malforma—tion(AOIVM)と呼び,頭痛,頭蓋内出血や難治性癲癇の原因として特にCT普及後多くの報告がなされている.AOIVMは,arteriovenous malformation, caver—nous angioma, capillary telangiectasia, venous angiomaへの分類5)が広く受け入れられている.
 AOIVMの中には,診断に関して,脳内血腫,腫瘍(腫瘍内出血)等の鑑別が困難であるものがある.今回われわれは,術前検査で腫瘍内出血を否定しきれなかった,大脳基底核部の被膜形成された慢性脳内血腫の像を呈した静脈性血管腫の全摘出例を経験したので,診断,病理,手術方法について報告する.

AIDS患者に発症した頭蓋内血腫の1治験例

著者: 高山謙二 ,   間中信也 ,   小出貢二 ,   鈴木英男 ,   指田純

ページ範囲:P.741 - P.744

I.緒言
 AIDSは1981年に最初に報告され,以来患者数は増え続けている.原因ウイルスは,human immunodefi—ciency virus(HIV)と呼ばれ研究が続けられているが,いまだに根本的な治療法は確立されていない.わが国でも血友病患者を中心に感染者は増え続けている.1989年4月現在のわが国の感染者数は1104人,発症数は103人とされている.今回,われわれはAIDS患者に発症した頭蓋内血腫を経験したのでその治療経験を報告する.

松果体部髄膜腫の1治験例

著者: 豊田章宏 ,   高橋明 ,   吉田雄樹 ,   村上寿治 ,   斎木巖 ,   金谷春之

ページ範囲:P.745 - P.749

I.はじめに
 松果体部髄膜腫は稀なものであり,報告は60例に満たず,頻度.性差などその臨床像には不明な点が多い.われわれは顔面痙攣の術前検査中に偶然に発見された松果体部髄膜腫を全摘出しえた1例を経験した.本腫瘍の特徴について文献的考察を加えて報告する.

側脳室・小脳橋角部に同時にみつかった悪性脈絡叢乳頭腫の1成人例

著者: 半田隆 ,   橋詰良夫 ,   六鹿直視 ,   高橋郁夫 ,   西村實

ページ範囲:P.751 - P.756

I.はじめに
 Chorold Plexus Papillomaは原発性脳腫瘍の0.4—0.6%1,10,19)で比較的少ない腫瘍であり,しかも悪性像を呈するものは,極めて稀である.いずれも小児に発生することが多いが,今回われわれは,右側脳室三角部と左小脳橋角部に,初診時に,同時に見つかったmalignantchoroid plexus papillomaの1成人例を経験したので報告する.

眼窩部痛にて発症した脳室内Arachnoid Cyst—症例報告と文献的考察

著者: 合田和生 ,   角田茂 ,   榊寿右 ,   中瀬裕之 ,   吉村佳子 ,   佐藤典子 ,   中川裕之 ,   岩崎聖

ページ範囲:P.757 - P.760

I.はじめに
 脳室内にarachnoid cystが存在したという報告はきわめて少ない.今回われわれは,右眼窩部痛発作を主訴とした,右側脳室前角部のarachnoid cystを経験したので文献的考察を加えて報告する.

特発性血小板減少性紫斑病に合併した慢性硬膜下血腫の1例

著者: 瀬部彰 ,   大島勉 ,   戎谷大蔵 ,   岡博文 ,   松本圭蔵 ,   吉嶋淳生

ページ範囲:P.761 - P.765

I.はじめに
 特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic thrombocy—topenic purpura,以下ITPと略す)患者には脳内出血やクモ膜下出血などをきたしやすいことが知られているが2,4,6,9,10,15,16),慢性硬膜下血腫を合併したという報告はきわめて少なく,文献上われわれが検索し得た範囲では僅かに3例の報告1,4,8)があるのみであった.今回われわれはITPに慢性硬膜下血腫を合併した症例を経験したので報告するとともに,慢性硬膜下血腫の発症に関し血小板数の減少ないし機能低下との関連について若干の考察を加え報告する.

興味あるMRI所見を呈した松果体部類上皮腫の1例

著者: 笠井治文 ,   川上勝弘 ,   山内康雄 ,   稲垣隆介 ,   河村悌夫 ,   松村浩

ページ範囲:P.767 - P.771

I.はじめに
 類上皮腫は小脳橋角部3,4,9,14,17,18),下垂体近傍部9,14,18)に好発するが,松果体部腫瘍の鑑別に際しても,常に念頭に置くべきものであるとされている18).そして,本症の画像診断に関してmagnetic resonance imaging(MRI)の有用性を指摘した報告が増えてきている3-6,9,10,13-15,17)が,最近では,本症のMRI上の所見がさまざまな多様性を有していることが注目されている4,6,17)
 今回われわれは松果体部に原発した類上皮腫の1例を経験したが,MRIならびにCT所見が興味あるものであり,術前診断が困難であったため,本症例を呈示するとともに文献的考察を加え報告する.

Achondroplasiaに合併した広範な脊椎管狭窄症の1例

著者: 大橋孝男 ,   森本哲也 ,   榊寿右 ,   京井喜久男 ,   内海庄三郎 ,   米沢泰司 ,   藤田豊久

ページ範囲:P.773 - P.777

I.はじめに
 achondroplasiaは,内軟骨骨化障害により四肢短縮型小人症を示す比較的稀な先天異常である.脊椎管にも障害がみられ,congenital/developmental spinal canal ste—nosisを合併する代表疾患とされる.最近われわれは,胸腰部脊椎管狭窄症を伴う本奇形を経験し,手術により良好な結果を得たので若干の文献的考察を加えて報告する。

追悼

追悼,鈴木二郎先生

著者: 吉本高志

ページ範囲:P.778 - P.779

 平成2年6月25日,未明の激しい雨も止み,晴れ間も覗く仙台の地で,江陽グランドホテル鳳風の間において全国各地から御参加された約1,300名の人々に見守られ,鈴木二郎先生の告別式が行われました.白い菊の花の中で先生はわずかに微笑んでおられました.
 先生が初めて明らかな御不調を訴えられたのは,御退官された7月,DetroitでAusman先生が主催した第9回Microsurgery for Cerebral Ischemiaにhonoredguestとして出席され,帰国の機上で痙攣発作を起こされたときからでした,飛行機は北太平洋上よりAnchor—ageへ急遽引き返し,先生はかの地の病院で入院治療を受けました.その後の諸検査により,左大脳基底核部を中心としたgliomaであることが判り,種々の治療を受けられましたが,平成元年9月末より入院生活を余儀なくされ,約8カ月間の闘病生活後,肺炎を併発され,美枝夫人を始め御家族の方々の懸命な看護にも拘らず,平成2年6月9日午後3時30分に御逝去されたのであります.享年65歳,私たちは今後,10年も20年も御指導いただけるものと思っておりましたのに,誠に諦め切れない思いで一杯であります.

熱戦記

第3回および第4回日本脳神経外科全国野球大会ノート

著者: 太田富雄

ページ範囲:P.781 - P.783

第3回大会
 第3回大会は,昭和63年8月26日(金),27日(土)の2日間,大阪球場で開催された.大会会長松本悟神戸大学教授(第47回日本脳神経外科学会会長)の挨拶,始球式が行われ,脳神経外科医の甲子園大会の幕開けとなった.会員相互の親睦と友愛の輪を築くために設けられた本大会であるが,話題の焦点は岡山大学の連覇をいかに阻止するかにあると思われた.しかし,最終的には岡山大学のV3で終わったが,九州大学との決勝戦では今大会2回目の延長戦となった.7回裏後攻の九大がワンアウトで2点をとり,なお,サードにランナーをおいている時には,誰しも“岡山大学敗れたり!”と思った.しかし,結果は非情で,再び岡山大学に名を成さしめた.戦いが終わり,球場の芝生には鳩が無心に戯れていたが,その横で福井教授は心なしか,大阪球場去り難しといった面もちで感慨にふけっておられた.
 第3回日本脳神経外科全国野球大会組み合せといった面もちで感慨にふけっておられた.

報告記

First International Conference on Stable Xenon/CT CBF

著者: 鈴木龍太 ,   瀬川弘

ページ範囲:P.785 - P.786

 1990年2月8日から11日まで米国フロリダ州のオーランドで初めての国際非放射性キセノンCT脳血流カンファレンスが開かれた.ピッツバーグ大学脳神経外科の助教授であるHaward Yonas先生が会長を務め,私供は日本の組織委員としてお世話させて頂いた.全体の参加者は130名ほどで,北米から約80名,西ドイツ,フランス,スイス,オーストリア,オランダ,デンマークの欧州から約20名,日本からは30名の参加があった.日本からの参加施設は脳神経外科が10施設と最も多く,神経内科2施設,神経放射線1施設であった.世界の主なCT製作会社が技術担当者を派遣しており発表していた.また関連機器会社,キセノンガス供給会社の参加もみられた.
 学会は初夏を思わせるフロリダの気候の中,プールサイドでの屋外の歓迎パーティーで幕を開けた。ゲスト講演者にDr.Niels LassenとDr,Walter Obristを迎えDr.David Gur,Dr.Walter F.Good,Dr.Yonasなどピッッバーグ大学で活躍中の人達の講演があり,方法論,データ解析,臨床データ,問題点等に分けて一般演題70題が発表された.会場は広大なリゾート地に孤立してそびえる巨大なホテルであり,外に一歩でもでれば荘漠たる平原である.何処に行ける訳でもなく,毎朝早くから参加者殆んどの顔ぶれが会場に揃い熱気溢れる討論が続いた.日本からの発表は23題あり,内容の水準が高く,若い方の発表も非常に熱意のあるものであった.発表には血流,組織分配係数(λ)等の測定値の妥当性および正常値についての検討(Fatouros,Segawa,Takagi,Meyer),安全性についての検討(Kobayashi,Kashiwagi)等があり,引続き多くの臨床応用が発表された。特にCO2 response(Shinohara,Stringer),Aceta.zolamide challenge(Tanaka,Tarr,Dean,Yamashita),brain death(Pistoia),head injury(Marion),tumor(Hartman,Nakamura)等は,Xe/CT CBFの利点である,繰り返し検査が容易にできる点,緊急に対応できる点,λが測定できる点等を生かした発表であり,既に臨床的検査法として定着しつつある印象であった.しかしキセノン吸入時間,濃度,CT scanのSchedule等に関して統一性がなく,CBFの計算方法も多くはsaturationcurveを使う発表であったがsaturationとdesaturationcurve両者を使うもの(Nakano,Karasawa),desatura−tion curveのみを用いるもの(Schuier)と様々であった.これはS/N比が低く,組織内キセノン濃度を連続的にモニターできない点を補うための試行錯誤であろうと考えられた.Dr.Lassenからはλを測定することに固執する必要はないではないかとの発言があった.問題提起として,呼気モニターの精度の検討(Kobayashi,Suga),Xenon吸入中の脳圧や脳血流の変化の検討(Darby,Plougmann,Love,Marks),Motion artifactの処理法(Kalender)等が発表された.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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