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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科19巻1号

1991年01月発行

雑誌目次

手術偶感

著者: 貫井英明

ページ範囲:P.5 - P.6

 手術を終え自宅に帰る自動車の中で,「今日の手術はこうすればもっと良い手術が出来たのではないか」という考えが頭の中を駆け巡り仲々離れないことが時々ある.
 そんな時は自宅に戻って,好きな肴を並べ好みの酒を呑んでも余りおいしくない.
 手術中は,「この方法が最善だ.あるいはこの状況下ではこの方法しかない」と思っても,手術が終り部屋に戻った頃から何となく落着かなくなり,色々な考えが頭に浮かんでは消えて行く.

解剖を中心とした脳神経手術手技

椎骨動脈起始部病変の手術—Vertebral to Subclavian Transposition

著者: 小川彰

ページ範囲:P.7 - P.13

I.はじめに
 近年,虚血性脳血管障害の病態解明が進み,本邦においても頭蓋外血管病変はさほど頻度の少ない疾患ではないことが明らかとなってきた.そのなかで椎骨脳底動脈系の脳虚血の占める頻度は少なくなく5,47),椎骨脳底動脈系の脳虚血の責任血管病変として,頭蓋外椎骨動脈病変の関与の重要性が指摘されてきている19).動脈硬化性の椎骨動脈起始部狭窄病変に対する外科的血行再建術としては,最近では椎骨動脈を総頸動脈に吻合するver—tebral to carotid transpositionが主流を占めてきている13-18,26,37).本報では,この部の外科的血行再建術の歴史を振り返り,われわれが行っている椎骨動脈を鎖骨下動脈に吻合するvertebral to subclavian transpositionの手術手技29-31)について解説し,その利点と有用性について述べる.

研究

海綿静脈洞内動脈瘤の治療成績—直達手術5例の検討

著者: 時村洋 ,   厚地政幸 ,   時村美香 ,   佐藤栄志 ,   轟木耕司 ,   朝倉哲彦 ,   福島孝徳

ページ範囲:P.15 - P.20

I.はじめに
 海綿静脈洞部の病変は,内頸動脈あるいは近接する脳神経との関係,洞よりの出血のコントロールの点から,従来,直達手術が困難とされて来た.しかし1983年,Dolenc4)によりcombined epi-and subdural approachが考案されて以来,同部の病変に対する直達手術が積極的に行われている.われわれは,昭和63年2月より,7例の海綿静脈洞内動脈瘤を経験し,うち5例に直達手術を行った.代表的な3例を呈示し,若干の文献的考察を加える.

脈絡叢腫瘍乳児例の検討

著者: 浅井昭雄 ,   ,   松谷雅生 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.21 - P.26

I.はじめに
 脈絡叢腫瘍(choroid plexus tumor, CPT)は頭蓋内腫瘍の中では0.5%前後を占める比較的まれな腫瘍であるが,小児原発性頭蓋内腫瘍の2ないし6%10,12,14,18,19),さらに乳児原発性頭蓋内腫瘍に限ればその20%を占め2),astrocytoma, primitive neuroectodermal tumor(PNET),teratomaと並ぶ乳児期の代表的腫瘍である.乳児期の脳腫瘍はその好発部位,臨床症状,治療方法,治療成績等,種々の面で特殊性を持っており,他の年代とは別個に議論されるべき点が多々ある.CPTもその例外ではない.今回,われわれはCTおよび顕微鏡下手術導入以後治療されたCPT乳児例を対象に,その疫学,治療,臨床上の問題点等を検討し,いくつかの知見を得たので報告する.

脳幹部海綿状血管腫—臨床徴候と手術適応

著者: 上出廷治 ,   野中雅 ,   滝上真良 ,   藤重正人 ,   田辺純嘉 ,   端和夫

ページ範囲:P.27 - P.34

I.はじめに
 脳内海綿状血管腫(CVM)は比較的稀な疾患で,自然経過も明らかでなく,その手術適応に関しても議論の多いところである.とりわけ,橋をはじめとする脳幹部はその好発部位であるにもかかわらず,脳幹部CVMの報告はきわめて少ない.摘出術を行い病理学的確定診断の得られた脳幹部CVMの5症例を報告するとともに,文献的考察を加え,症候学的特徴,神経放射線学的所見を明らかにし,手術適応について考按する.

症候性血管攣縮に対するOptimal Hypervolemic療法

著者: 下田雅美 ,   小田真理 ,   日高充 ,   柴田將良 ,   山本勇夫 ,   佐藤修 ,   津金隆一

ページ範囲:P.35 - P.40

I.はじめに
 現在,くも膜下出血(SAH)後の症候性血管攣縮(SV)に対する治療として血圧,体液量の種々な調節が試みられ,ある程度の効果が得られている1,7,−11).しかし,各各の症例において,至適血旺,体液量をいずれに設定するかについての論議はまだその結論をみるに至っていない.著者らはSVに対し,その症状の改善が得られるまで積極的にvolume expansionを行いその時点の体循環動態値をoptimal valueとして管理する療法(Optimal Hy—pervolemic Therapy:OHT)を行っており,その有効性,合併症等に関して報告する.

外傷性脊髄空洞症のMRI診断と外科的治療

著者: 井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   布村充 ,   秋野実 ,   小柳泉 ,   阿部弘 ,   斉藤久寿

ページ範囲:P.41 - P.46

I.はじめに
 脊髄損傷後,遅発性に神経症状が増悪する病態の中で,外傷性脊髄空洞症は治療可能な疾患として,近年,注目を集めている.しかしながら,本邦における報告は少なく5.10,15-17,22),その成因について未だ不明な点が多い.今回,われわれは,外傷性脊髄空洞症のMRI診断につき述べると共に,外科的治療の問題点について考察を加える.

症例

Subfrontal Schwannomaの1例

著者: 長尾聖一 ,   青木友和 ,   近藤精二 ,   魏秀復 ,   松永守雄 ,   藤田雄三

ページ範囲:P.47 - P.51

I.緒言
 頭蓋内に発生するneurinomaは,脳腫瘍全国集計調査報告では原発性脳腫瘍中8.9%(von Recklinghausen病を含む)を占め12),その90%以上が第8脳神経に発生する.稀に,動眼神経18),顔面神経6,10),滑車神経8),舌咽,迷走神経,副神経7,21),舌下神経25)からの発生の報告もあるが,subfrontal schwannomaの報告は極めて稀である.今回われわれはCTスキャン像で,嗅窩部髄膜腫と鑑別を要し,その発生母地に関しても議論のあるsubfrontal schwannomaの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Microvascular Decompressionが奏功した小児期発症の片側顔面痙攣

著者: 岡田順 ,   影治照喜 ,   本藤秀樹 ,   松本圭蔵 ,   蔭山武文

ページ範囲:P.53 - P.57

I.はじめに
 特発性の片側顔面痙攣の治療は,顔面神経の起始部,いわゆるexit zoneでの圧迫血管(offending vessel)を移動させ,これによる神経圧迫を除く手術がGardnerら5)により試みられ,Jannettaらによりmicrovascular de—compression(以下MVDと略)として確立6)されて以来,近年盛んに行われ成果をあげている.
 片側顔面痙攣の好発年齢はほとんど成人で福島の統計4)によれば40-60歳にピークがある.14歳以下の小児期に発症した特発性の例はわれわれの渉猟しえた限りではこれまで僅か5例を数えるのみであった7,11,14,16).そのうちMVDが行われ,治癒し得たとする例はJho,Jannettaらによる2例のみであった7).ここに報告するわれわれの経験した症例は,12歳時に右片側顔面痙攣が発症し,軽快傾向をみなかったので,16歳時にMVDを行い顔面痙攣の完全消失をみた。この症例を報告するとともに,小児及び若年例の病因などについても若干の考察を加えたい.

シリコン製代用硬膜の使用後11年目に後頭蓋窩出血を起こした1症例

著者: 権藤学司 ,   中山敏 ,   持松泰彦 ,   中島麓 ,   長谷川章雄

ページ範囲:P.59 - P.62

I.はじめに
 硬膜欠損部の補充や外減圧にさいし,種々の代用硬膜が用いられてきた.シリコン製代用硬膜もその一つで,かつてしばしば用いられたが,術後の出血合併症等の報告があり,最近ではほとんど使用されなくなった.
 今回著者らは,頭部外傷の手術より11年もの後に,後頭蓋窩出血をきたした症例を経験した.開頭の結果,シリコン製代用硬膜が出血の原因とわかり,未だに忘れてはならない合併症と考え報告する。

睾丸Seminomaが頭蓋及び頭蓋内へ転移した1例

著者: 神谷健 ,   山下伸子 ,   永井肇 ,   三沢郁夫

ページ範囲:P.63 - P.67

I.はじめに
 睾丸のgerm cell tumorが頭蓋及び頭蓋内へ転移をすることは珍しく,全転移性脳腫瘍中0.7%を占めるにすぎない.中でもseminomaは,睾丸腫瘍の5%を占めるにすぎないのでこれが頭蓋及び頭蓋内に転移するのは非常に稀なこと9)と考えられる.われわれは,睾丸に原発したseminomaが3年後,頭蓋及び頭蓋内に転移した症例を経験したのでその診断と治療経過について報告する.

延髄空洞症の1治験例

著者: 谷諭 ,   沼本ロバート友彦 ,   上久保毅 ,   中沢克彦 ,   小山勉 ,   篠田宗次

ページ範囲:P.69 - P.73

I.はじめに
 近年MRIの発達により脊髄空洞症,延髄空洞症等の脳幹部脊髄移行部病変の診断能力が飛躍的に進歩し症例数の増多とともに,その病態生理の解明も進んでいる.最近われわれは,歩行障害,頭痛にて発症しMRIにて診断し得た脊髄空洞症を伴わない延髄空洞症単独の一治験例を経験したので本症に関する文献的考察を加え検討し報告する.

摘出術後19年目に,大型化して再発が認められた脳動静脈奇形の1症例

著者: 樋口真秀 ,   尾藤昭二 ,   長谷川洋 ,   小橋二郎 ,   平賀章壽

ページ範囲:P.75 - P.78

I.はじめに
 脳動静脈奇形(以下AVMと略す)が,その経過中に増大傾向を示す場合があることは従来より注目されていた3-5,12,13).しかしAVM摘出術直後の脳血管撮影において,明らかな残存AVMは認めなかったにもかかわらず,その数年後に再発が認められた症例の報告は少ない.
 最近われわれは,脳出血で発症したAVMの摘出術直後に施行した脳血管撮影で,main nidusの消失を確認し,AVMは摘出し得たと判断されたにもかかわらず,術後19年の間に残存したと思われるAVMが成長し,術前よりもはるかに巨大化して発見された症例を経験した.AVMの術後再発機序及びその診断,治療方針に関する考察を加えて報告する.

Intraosseous Meningiomaの1手術例

著者: 弓削龍雄 ,   重森稔 ,   徳富孝志 ,   徳永孝行 ,   小島和行 ,   山本孝史 ,   倉本進賢 ,   岩井健次 ,   一ノ宮知典

ページ範囲:P.79 - P.82

I.はじめに
 硬膜外に発生する髄膜腫はextracalvarial meningiomaと呼ばれ,文献的には1904年にWinklerら19)が最初に報告している.そのなかでも,頭蓋骨内に主座をおき髄膜とはほぼ無関係に存在する髄膜腫はintraosseousmeningiomaと呼称され,1932年のAlpers1)らの記載以来,本邦ではわずか数例が報告されているのみである4-6,8,12,18)
 最近われわれはintraosseous meningiomaと考えられた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

塞栓術と放射線照射の併用療法が有効であった頸動脈海綿静脈洞瘻の3例

著者: 溝渕雅之 ,   三野章呉 ,   長尾省吾 ,   大本堯史 ,   大川元臣

ページ範囲:P.83 - P.87

I.はじめに
 頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous fistula,以下CCF)に対しては,原因,症状,及びfeederの部位と数,シャント量の程度等により,種々の治療法が行われている1,4).われわれは3例のmixed internal and exter—nal CCFに対して,外頸動脈からの塞栓術後に放射線照射を加え良好な結果を得たので,自験例を提示し若干の文献的考察を加え報告する.

左前頭葉Neurocytomaの1例

著者: 原田守 ,   森岡隆人 ,   西尾俊嗣 ,   福井仁士

ページ範囲:P.89 - P.92

I.はじめに
 Neurocytomaは最近認識されてきた神経細胞系腫瘍であるが4),脳室内に認められることが多く3,5),大脳半球に発生したという報告は少ない8).今回,われわれは発育緩徐な大脳半球の腫瘍性病変が電顕的検索によりneurocytomaと判明した1例を経験した.また,本腫瘍は左大脳半球のBrodmann44野を含んで存在していたため,術前に言語中枢の局在と言語機能の代償性についても検討した.

Human Tailの1例

著者: 山谷和正 ,   斉藤哲現 ,   大井政芳 ,   岡伸夫 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃

ページ範囲:P.93 - P.96

I.はじめに
 Human tail(caudal appendage)は稀な奇形であり,確実に記載されているものはこれまで数十例にすぎないようである.今回,我々はhuman tailとlipomyelo—meningoceleを有した稀な症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

報告記

第28回米国神経放射線学会に出席して

著者: 小林憲夫

ページ範囲:P.98 - P.99

 第28回米国神経放射線学会は,ロサンゼルスのCen—tury Plaza Hotelで,1990年3月17日から23日までの7日間にわたって開かれた(Fig.1).会場は高級ホテルの大広間を使って,講演会場,学術展示室,業者の展示場とも同一階に集めてあった.朝食,昼食,飲み物は会場内でとれるので便利がよく,時間的なゆとりがある.学会の初め2日間はCategorical Course,後の5日間はAnnual Meetingの二部から成る.会長はWisconsin大学のJoseph F.Sackettで,Anton N.Hasso, Robert A.Zimmermanらが役員として協力していた.この学会の構成員は主としてSenior Member(約1,500名)から成る.その資格は放射線科の専門医であって,特定の認定施設で2年間以上神経放射線の訓練を受けた西側半球の住人である.
 参加者は初日から大変多かった.学会の登録料を2週間前までに支払った人は,Advance Registration Listでみると約900名であるが,その後に都合をつけた人も少なくなく,会期中にツアーなどで私が知り合いになった数人は誰もリストに見当たらなかった.日本神経放射線学会も近年大きくなったとはいえ,その3倍ほどの出席者が居るように思われた.日本からの参加者は3名で,日本の施設から採用された演題はパネルに1題のみであった.参加者はほぼ全員が放射線科医であり,日本神経放射線研究会では脳神経外科医が過半数を占めるのとは対照的である.私は何人かに’Are you a neuroradiolog-ist?と質問されたが,neurosurgeonだと答えると,何となく変なムードであった.

第8回脳浮腫国際シンポジウムに参加して

著者: 田村晃

ページ範囲:P.100 - P.101

 第8回脳浮腫国際シンポジウムが,スイスの主都ベルンで,InselspitalのH.J.Reulen教授の主催の下に1990年6月17日より20まで開催されました.ベルンは,アーレ川が大きく蛇行した内側の島状(Insel)の台地に広がる中世の趣を残した美しい町です.旧市街には石畳の通りに石造りの回廊があり,商店やカフェ,レストランが軒を連ね,通りの中央には噴水がいくつもあり狩人,食人鬼,この町の象徴である熊などの像が立っています.シンポジウム会場のInselspital(以前はInselにあったのでこう呼ばれた)はこの美しい旧市街から少し離れたところにあり,緑につつまれたモダンな病棟の大きな窓からは雪を頂くアルプス連峰の景観が見わたせるとのことです.会場は,この一画にある小児病院の講堂でしたが,設備の整った近代的なホールで,運営はほとんど,Reulen教授の教室のスタッフらによりなされ,質素な学問的な雰囲気の中でのopeningでした.今回のシンポジウムは,鉄のカーテンが破れ,ベルリンの壁が崩壊した直後ということもあり,東欧からの参加を大きく呼びかけたのでハンガリー,ポーランド,ソ連などからの出席もやや多かったようです.日本からは,高倉教授,坪川教授,小暮教授(東北大神経内科),篠原教授(東海大神経内科)をはじめ,常連の伊藤先生(武蔵野日赤),古瀬先生(中津川市民病院),石川先生(京大),茂野先生(埼玉医大)など50人余りが参加し,海外在住の日本人を含めると参加者は最多のようでした.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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