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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科19巻10号

1991年10月発行

雑誌目次

近頃,諦めていること

著者: 古和田正悦

ページ範囲:P.911 - P.912

 毎年のように繰り返される楽しい会話に,初期研修医のういういしい症例呈示がある.
 「突然,激しい頭痛が出現して…」

総説

Glioblastoma Multiformeの発生

著者: 上田聖 ,   須川典亮 ,   法里高 ,   藤本正人

ページ範囲:P.913 - P.918

I.はじめに
 Virchowによってはじめてgliomaという名称を与えられた腫瘍のうちで,特に急速な腫瘍増大と症状の進行を示し,同時に組織学的にも多彩な形態を示すものはglioma apoplecticum又はvarigated glioma等という名で記載されたが,後年中枢神経の組織発生の観点からspongioblastoma multiforme(Globus & Strauss)12)と呼ばれ,Bailey & Cushing 1)も当初この名称を用いた.しかしその後Baileyはspongioblastoma polareと区別するためにglioblastoma multiformeという語を採用してから,この名称がひろく受け入れられ,いろいろの反論がありながらも今日まで一般的に使用されてきた.
 中枢神経の組織発生は1900年代の始めまでにHis,Held, Cajal, Shaper等によって一応大成され11),Bailey & Cushingはこれらの業績に基づき,中枢神経の組織(細胞)発生の各段階の細胞と腫瘍細胞を対比させることにより系統的な脳腫瘍分類を確立し,近代の脳腫瘍研究の基礎を築いた.膨大な資料の手術所見と光顕所見の研究からこのような腫瘍分類を完成させ,種々の修正が加えられてきたとはいえ,70年以上経た現在もなお生きつづけている.

研究

パーキンソン病に対するCograftを用いた移植療法—ドナー側の年齢要因について—

著者: 伊達勲 ,   浅利正二 ,   西本詮 ,  

ページ範囲:P.919 - P.924

I.はじめに
 副腎髄質クロマフィン細胞は一側黒質線条体ドーパミン系を破壊しておいたラットの線条体内に移植されると,apomorphineによる回転運動を減少させる11).また,1—methyl−4—phenyl−1, 2, 3, 6—tetrahydropyri—dine(MPTP)を用いて作成したマウスパーキンソン病モデルに副腎髄質を移植すると,宿主の内因性ドーパミン系の回復が促進される3).筆者らはこれまで,同モデルを用い,宿主に老齢マウスを用いた場合は内因性ドーパミン系の回復程度が若年マウスに比べて低いこと5),ドナーに老齢マウスの副腎髄質を用いた場合は若年マウスに比べて,クロマフィン細胞の生着率が低いこと9)を報告してきた.さらに,nerve growth factor(NGF)の源である末梢神経14, 22)を副腎髄質とcograftするとドナーが若年マウスの場合,クロマフィン細胞の生着率が著明に向上する10).しかし,パーキンソン病が高齢者に好発する神経変性疾患であることを考えると,ドナーに老齢マウスを用いた検討も必要である.

末梢性後下小脳動脈瘤(Distal PICA Aneurysm)—自験例10例からの検討

著者: 西野晶子 ,   桜井芳明 ,   佐藤博雄 ,   新妻博 ,   嘉山孝正 ,   小川彰 ,   大藤高志

ページ範囲:P.925 - P.932

I.はじめに
 後下小脳動脈瘤(PICA AN)は全脳動脈瘤中の0.5—3%12, 13, 21)を占め,比較的稀な動脈瘤である.更にその大部分は椎骨動脈・後下小脳動脈分岐部動脈瘤(VA—PICA AN)であり,その末梢に生じたいわゆる末梢性後下小脳動脈瘤(distal PICA AN)はさらに稀で,全PICA ANの15-30%12,13)を占めるに過ぎない.しかし,頭蓋内脳主幹動脈の末梢に生ずる非細菌性・非外傷性の末梢性脳動脈瘤の中では,distal PICA ANの占める割合は高く7),本動脈の末梢部位はいわゆる末梢性動脈瘤の好発部位とも言える.
 一方,発症24時間以内に死亡する,いわゆる“突然死”例の中では,くも膜下出血症例が多く20),その中でも後頭蓋窩動脈瘤患者の占める率が高く24),distalPICA ANに於いても,同様の報告が見られる13).今回,自験例を基に,その臨床像,治療法及びその結果を検討し,諸所見より推察される本部位動脈瘤のpatho—genesisについて考察を加え報告する.

天幕上下に同時に発生した高血圧性脳内出血の検討

著者: 宇野昌明 ,   本藤秀樹 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.933 - P.938

I.はじめに
 Computed tomography(CT)が脳神経外科の臨床に導入されて以来,脳出血の診断は飛躍的に進歩し,正確な血腫部位の診断,その周辺の病態,脳室穿破の有無も容易に診断できるようになった.従来より多発性の高血圧性脳出血のあることが知られていたが,その中でも時期を異にして出血をみた多発性のものはよく知られている.しかし,天幕上下にほぼ同時に出血し血腫形成のみられた高血圧性脳内出血は極めて稀なようである.今回われわれは天幕上下に同時に出血を認めた9症例を経験したので,その臨床像,治療方法,手術適応について検討し報告する.

重症頭部外傷における周波数解析を用いた脳波モニターの有用性—特に患者予後との関連から—

著者: 山上岩男 ,   中村道夫 ,   烏谷博英 ,   須田純夫 ,   小野純一 ,   礒部勝見

ページ範囲:P.939 - P.944

I.はじめに
 CTの出現以後,神経学的検査や血管撮影にのみ頼っていたそれまでと異なり,頭部外傷の診断・治療は飛躍的変貌を遂げ,現在CTは,重症頭部外傷の予後判定に関しても最も有効・不可欠な検査法となっている.しかし,神経学的検査およびCTを中心とした形態学的検査結果と重症頭部外傷の転帰が一致しないこともしばしば経験される.一方,CTの出現により,脳波は頭部外傷急性期において利用される機会が減少したが,脳の機能的側面を捕らえる点で,脳波は最も容易で,安全な検査法である,さらに,コンピューターを利用した周波数解析の出現は,脳波を定量・客観化することにより,脳波の長時間モニターを可能にした.重症頭部外傷における脳損傷は,局所的にとどまることはごく稀であり,広範に損傷された脳機能を時々刻々変化していく統合体として捕えていくことが,重症頭部外傷患者の管理上重要と考えられ,この点から,周波数解析を用いた脳波の長時間モニターは,有効であろうと考えられる.
 今回われわれは,重症頭部外傷患者において,周波数解析を用いた脳波の長時間モニターを経時的に行い,患者の予後判定の上で,いかに有用であるかを検討した.

未破裂脳動脈瘤の外科治療における問題点

著者: 波出石弘 ,   安井信之 ,   鈴木明文

ページ範囲:P.945 - P.949

I.はじめに
 近年脳血管障害に対する診断技術の向上と普及に伴い,日常臨床で未破裂脳動脈瘤を治療する機会は増える傾向にある.この未破裂脳動脈瘤に対しては,破裂予防を目的に根治術を念頭においた外科治療が優先する治療であるが,術後神経症状の出現または悪化する症例が稀ならず存在することも事実である9,11,17,20).われわれも術中脳圧排や穿通枝を含む動静脈に充分注意して処置したにもかかわらず,術後一過性の麻痺や失見当識などが出現した症例を経験している.術者にとってはいわゆる“罪の意識のない”これら術後悪化例では,通常問題とならない程度の軽微な手術侵襲が神経症状の悪化を引き起こすと考えられ,術前に脳組織の脆弱性または可逆性を知ることは手術適応を決定するうえで重要な問題といえる.
 今回われわれは未破裂脳動脈瘤患者の外科治療にあたり問題となる危険因子について,主に脳循環の立場から検討を加えたので報告する.

Microprolactinomaの長期手術成績

著者: 広畑泰三 ,   魚住徹 ,   向田一敏 ,   有田和徳 ,   栗栖薫 ,   矢野隆 ,   武智昭彦 ,   恩田純

ページ範囲:P.951 - P.956

I.はじめに
 プロラクチン産生下垂体微小腺腫(microprolacti—noma)に対する経蝶形骨洞手術は,すぐれた治療効果をもたらすことが報告されている1-5).しかし,これまでの報告は,術後血中プロラクチン(PRL)値の正常化率を中心にして手術成績を検討したものが多く,治療目的である術後の月経回復や妊娠分娩の達成についての長期追跡による検討は少ない.また,術後血中PRL値の正常化が患者にいかなる転帰をもたらすのか明らかにされていない.そのため,脳外科医として,患者を紹介する側である産婦人科医の信頼に充分に応えていないのが現状であると思われる,microprolactinomaに対する経蝶形骨洞手術は,言わば機能的手術として位置付けられるべきものであり,治療目的である月経の回復を望むためには,高PRL血症の是正はもとより下垂体前葉機能の温存が極めて重要となる.そこで今回著者らは,術後の追跡調査結果をもとに,手術療法の最大の利点である治療の根治性を中心として術後の下垂体前葉機能の状態を含めて手術成績を検討したので報告する.

症例

Large AneurysmとCCFに対するOccluding Spring EmbolusによるDirect Embolization

著者: 寺井義徳 ,   萬代眞哉 ,   鎌田一郎 ,   衣笠和孜 ,   西本詮 ,   中村成夫

ページ範囲:P.957 - P.961

I.はじめに
 Occluding spring embolus(Cook,Inc,Bloomington,IN,以下OSEと略す)は,1975年Gianturcoら5)の報告にはじまり,現在transcatheter embolizationにおける有用なembdic materialとして広く普及している.われわれは,neck clippingが困難な動脈瘤1例,および血管内手術が困難な頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid—cavernous fistula,以下CCFと略す)1例に対して,開頭により,動脈瘤あるいは海綿静脈洞に直接カテーテルを刺入してOSEを挿入し,良好な結果を得たので報告する.

外傷性MLF症候群

著者: 高野尚治 ,   遠藤昌孝 ,   宮坂佳男 ,   大和田隆 ,   向野和雄 ,   高木宏

ページ範囲:P.963 - P.967

I.はじめに
 脳幹部内側縦束の障害により,特徴的な眼球運動障害が生ずることは古くから知られており,内側縦束(MLF)症候群と呼ばれている.本症候群の臨床例は,1902年にBielschowsky3)により報告されて以来,数多くみられる.しかし,殆どの症例が多発性硬化症と脳血管障害によって生じたものであり,頭部外傷によって生じた本症候群の報告例は極めて少ない.われわれは頭部外傷後に片側性MLF症候群を呈した症例を経験したので,外傷性MLF症候群の特徴と,発現機序について文献的考察を行った.

脳膿瘍を合併したOsler-Weber-Rendu病の1症例—脳膿瘍発症機序およびその治療法に関する考察

著者: 樋口真秀 ,   大西丘倫 ,   有田憲生 ,   早川徹 ,   池田卓也 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.969 - P.974

I.はじめに
 Osler-Weber-Rendu病(遺伝性出血性毛細血管拡張症,以下O-W—R病と略す)は,皮膚・粘膜の多発性毛細血管拡張(telangiectasia),その部位からの頻回の出血及び家族内発生を主徴とする疾患で,遺伝形式は常染色体優性遺伝とされている6).本症には種々の合併疾患が見られるが,その中でも脳膿瘍は治療及びその発生機序において,controversialな点が多い9,10,13).今回われわれは肺動静脈瘻,収縮性心嚢炎及び脳膿瘍を合併したO-W—R病の1症例を経験し,さらに剖検を行うことができたので,本症と脳膿瘍との関連性及び脳膿瘍に対する治療方針についての考察を加えて報告する.

破裂脳動脈瘤に合併してみられた多発性脳血管奇形—前大脳動脈窓形成,副中大脳動脈,重複中大脳動脈—の1例

著者: 劉衛東 ,   山田恭造 ,   太田富雄 ,   高橋徳

ページ範囲:P.975 - P.978

I.はじめに
 前大脳動脈の窓形成,重複中大脳動脈および副中大脳動脈は何れも稀な血管奇形である.特に,重複中大脳動脈および副中大脳動脈は血管撮影上の頻度が0.2-4%11,19)程度と推察され,注意深く検討すれば,それほど稀でないとの報告もある19).しかし,これら中大脳動脈奇形が同時に存在した報告は,これまでに北見らの1例のみである10).頭蓋内血管の窓形成は椎骨脳底動脈系では時に経験されるが,内頸動脈系では稀であり,特に脳血管撮影による報告は非常に少ない.
 今回,われわれはこれら3種類の血管奇形が一側内頸動脈系に同時に存在し,重複中大脳動脈起始部に発生した内頸動脈瘤の破裂症例を経験したので報告する.

MRI上早期診断が困難であった悪性神経膠腫の1例

著者: 安田純 ,   増山祥二 ,   片倉隆一 ,   吉本高志

ページ範囲:P.979 - P.983

I.はじめに
 悪性神経膠腫のMRIによる画像診断上の特徴は,①T1強調画像で境界不明瞭な低信号域として捉えられ,②T2強調画像で境界不明瞭に広範に高信号域として捉えられること4-6,8,10),③mass effectを有すること5,10),④Gd-DTPAによって著明に増強され,その形態はringed enhancementであること10)などX線CTの所見と類似の所見を呈することである7,10).しかし,発生初期段階における悪性神経膠腫のMRI上の特徴については未だ明らかにされていない.今回著者らは発症直後のMRIにてglioblastomaと診断できず,その後の経過をMRIにて追跡した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

密封小線源治療を行った大脳基底核部Germinomaの1例

著者: 松本健五 ,   小野田恵介 ,   津野和幸 ,   重松秀明 ,   松久卓 ,   前城朝英 ,   三島宣哉 ,   古田知久 ,   西本詮

ページ範囲:P.985 - P.989

I.はじめに
 頭蓋内原発germ cell tumorは全脳腫瘍中3.3%を占めるが20),その殆どは松果体部,鞍上部などの頭蓋内正中部に発生する8).大脳基底核部に発生するgerm celltumorは,全頭蓋内germ cell tumor中3-10%と比較的発生頻度が低く17),また,CT所見が他の部位のそれと異なる事などが報告されており15,25),これらの理由から,術前診断が困難な事が多い.今回われわれは,stereotactic biopsyにて組織診断を確定した後,密封小線源を用いた放射線組織内照射(interstitial brachythe—rapy16)を行い,腫瘍の消失をみた大脳基底核部germi—nomaの1例を経験したので,その診断及び治療を中心に若干の文献的考察を加え報告する.

血液凝固機能異常に続発した慢性硬膜下血腫

著者: 金城利彦 ,   六川二郎 ,   中田宗朝 ,   金城則雄

ページ範囲:P.991 - P.997

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫(CSH)は軽微な頭部外傷後3週から数カ月間に発症することが多いといわれてきたが,近年,頭部外傷に起因しないCSHも報告されている.われわれはこの5年間に血液凝固機能異常に続発した非外傷性CSH11例を経験した.その多彩な病態と治療法,ことに手術の適応について症例の検討を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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