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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科19巻11号

1991年11月発行

雑誌目次

レールの上を歩こう—脳死判定に関連して

著者: 長島親男

ページ範囲:P.1007 - P.1008

 1960年傾,大ヒットした坂本九さんの「上を向いて歩こう」は海外でも歌われ,皆様よくご存知であると思う.それをもじって「レールの上を歩こう」という題にした.レールは列車が高速で走るためのものであるから「レールの上を走ろう」が本当かもしれない.それを承知で私が「レールの上を歩こう」としたのには少々理由がある.
 それは最近,国際学会(International Medical Society of Paraplegia)出席のため,10日間英国に滞在し,英国人気質の一端に接することができた.そして,今の日本人が失ってしまったこと,英国に学ばねばならないことなど,いくつかの点を肌で感じてきた.その1つが,この「レールの上を歩こう」なのである.2つの例をあげよう.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(18)Astrocytoma

著者: 石田陽一 ,   田村勝 ,   中里洋一

ページ範囲:P.1009 - P.1015

1.星細胞腫とその組織分類
 星形グリアの腫瘍である星細胞腫は原発性脳腫瘍のなかで最も頻度の高い腫瘍型(16.1%—全国統計13))で,小児にも成人にも発生する.成人では大脳とくにその前半部が,小児では小脳と脳幹尾側が好発部位である.星細胞腫の構成細胞は星形グリアで実質の変性の際,反応性に増生する星形グリアの形態を模倣する.しかし,発生部位によって主な構成細胞の形態がことなり,またdes—moplasiaも加わるので,下記に述べるような組織亜型に分類される.Bailey and Cushing1)がグリアの腫瘍を分類した際記戴された4型protoplasmic astrocytoma,fibrillary astrocytoma, astroblastoma, spongioblastomaunipolareもその中に含まれている17,20)

研究

高齢者の頸部脊髄症に対する前方除圧術

著者: 平井収 ,   近藤明悳 ,   青山育弘 ,   任清

ページ範囲:P.1017 - P.1023

I.はじめに
 頸椎椎間板ヘルニアや頸椎骨軟骨症による頸部脊髄症は,頸椎およびその支持組織の慢性退行性変性に起因することから,一般に加齢と共に頻度が増加するといわれている9).したがって近年の高齢化社会では,神経外科領域における本症の意義は益々重要になるものと予想される.
 頸部脊髄症は概して慢性的な経過をとるだけに12),特に高齢者では保存的治療の対象とみなされがちである.非手術例でも進行性に症状が悪化することは少ないかわり,保存的治療による機能予後は決して満足すべきものではなく12,21),特に高齢者では不良であることが指摘されている16).以上より,われわれは保存的治療を行っても改善を認めないものについては積極的に手術を行う姿勢をとってきた.また脊椎管狭窄があっても,直接脊髄を圧迫しているのは逸脱した椎間板や変性した椎体であり,手術の主目的はあくまでもこれらを除去することと不安定頸椎の矯正であるという立場より,全例に前方除圧および固定を行った.

ヒトの大脳皮質下刺激による視覚現象(phosphene)について

著者: 平孝臣 ,  

ページ範囲:P.1025 - P.1031

I.はじめに
 ヒトの視覚路や後頭葉視覚野を電気刺激した場合phospheneと呼ばれる視覚現象が観察される場合がある,Phospheneという言葉は一般にはなじみが薄いが,光以外の刺激によって出現する客観的視覚と定義され,眼球を圧迫した場合に網膜が機械的に刺激されて生じる光覚や,頭部を強打した場合に経験される閃光などをも含む概念である.この現象は主に後頭葉視皮質の刺激によって研究され2,3,6,10,16),この応用で盲人の視覚を人工的に取り戻す試みもみられる6,7,11).しかし視皮質刺激による人工視覚にはキンドリングや慣れの問題があり,皮質下の視覚路を刺激する可能性が示唆されている11)が,脳内を刺激した場合の視覚現象に関する報告は少ない.Buttonら4)は3症例で後頭葉内に挿入した電極を刺激し全例でphospheneが見られたと報告している.Nashold14)は上丘刺激でphospheneが誘発されることを報告し,Uematsuら22)は視皮質と視放線を刺激し両者でphospheneを認めたが前者の方がより容易に誘発されたとしている.Taskerら21)は視床や中脳の刺激によっても視覚現象が生じるが,皮質刺激の場合と異なり視野が暗くなったりぼやけたりすることが多いと述べている.このように皮質下刺激でも視覚現象が誘発されるが,刺激部位とphospheneの性状との関係についての報告はない.筆者らは定位脳手術中に後頭葉の脳内を中心に刺激を行い,刺激部位とphospheneの出現部位,色,形などの関係を検討し興味ある現象を認めたので報告する.

ペプタイド含有ニューロンの脳虚血に対する選択的脆弱性—免疫組織化学的研究

著者: 上野雅己 ,   板倉徹 ,   奥野孝 ,   仲寛 ,   中井國雄 ,   横井英義 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.1033 - P.1038

I.はじめに
 脳・脊髄などの中枢神経系細胞は,人体組織中虚血に対して最も脆弱である.しかし脳内各種神経細胞が虚血に対して等しく脆弱な訳ではなく,大脳新皮質,海馬,小脳のニューロンが特に選択的脆弱性を示すことが明らかにされている14).ところがこれらの部位で全ての神経細胞が虚血に対して一様の脆弱性を示すかどうかは明らかではない.そこで本研究では砂ネズミを用い脳虚血性病変における大脳皮質内各種ペプタイド含有ニューロンの変化を免疫組織化学法を用いて検討した.従来の脳虚血の研究では砂ネズミ短時間完全虚血時の海馬病変がモデルとして使用された7,8)が実際のヒト脳梗塞では完全虚血はむしろ少なく不完全虚血が長時間続くことによる脳梗塞が通常と考えられる.そこで本研究では砂ネズミ一側内頸動脈結紮による不完全虚血を作成しこの時の大脳皮質神経細胞の変化を組織化学的に検討した.またカテコラミン組織蛍光法をも施行してペプタイドニューロン系とカテコラミンニューロン系の虚血に対する脆弱性を比較検討した.

一時的脳虚血における脳のReversibilityに関する研究—脳血管反応性と組織学的変化から

著者: 石田泰史 ,   榊寿右 ,   笹岡保典 ,   西谷昌也 ,   辻本正三郎

ページ範囲:P.1039 - P.1046

I.はじめに
 Microncurosurgeryの発達やintravascular surgeryの普及により手術中に脳への血流を一時的に遮断する操作(temporary clipping)を行う機会2,3)が増加しているが,その際にいかなる時間でいかなる障害が生じるのかを知ることはきわめて大切である.一方,脳動脈閉塞症の急性期の血行再建に対して,積極的に肯定する意見1)と,反対に脳浮腫の助長や出血性梗塞の誘因になるとの理由で否定的な意見8,9)があり,その適応のcriteriaすら確立されていないのが現状である.こうした現況の中で,脳虚血後の脳梗塞の程度や脳浮腫の程度についての実験的報告は多数見られる12,19)が,虚血部位の脳軟膜微小血管の虚血に対する反応性に着目し,骨窓(以下cranialwindow)から直接血管を経時的に観察し,血管反応性の変化から脳組織のreversibilityとの関係について検討を加えた論文はない.脳血管反応性とは,元来CO2に対する反応性(CO2 response)と血圧に対する反応性(autoregulation)の両者を意味し,脳の環境を如実に反映するものである.今回われわれは虚血時間を様々に変えながら,再灌流により変化する脳表血管をcranialwindowから直接観察し,ICPの変化・BBBの障害・病理学的変化との相関関係を考慮しながら神経組織のreversibilityについて考察を加えた.

Alpha−1-antitrypsinを用いた神経膠腫の悪性度の検討

著者: 池山幸英 ,   織田哲至 ,   西崎隆文 ,   青木秀夫 ,   伊藤治英

ページ範囲:P.1047 - P.1051

I.はじめに
 ヒト神経膠腫に対して免疫組織学的面からその悪性度を検討し,その予後を推測する試みは多い.しかしながら,中間径フィラメントであるglial fibrillary acidicprotein(GFAP),vimentin,あるいはastrocyteのマーカーであるS−100 protein(S−100)を用いた検討は,結果は一定せず十分とはいえない.一方では,モノクローナル抗体であるbromodeoxyuridine(BUdR),Ki—67, DNA polymerase α等を用い,cell kineticsからみた悪性度の評価も試みられており7,14,15)これらは良好な成績を得ているが,簡便さの点でやや難がある.同じくcell kineticsの面から,より簡便な方法として,嗜銀染色を利用したNucleolar Organizer Regionsによる悪性度の評価も試みられている16)
 しかしこれらとは別に,ヒト神経膠腫に於いて浸潤度の面から悪性度を評価することは重要と思われる.このため今回われわれは,新たなマーカーとして生体のproteinase inhibitorの一つであるalpha-1-antitrypsin(α-AT)を用いて免疫染色を行い,組織学的悪性度及び予後との関連性について検討した.更に,GFAP, vimen-tin,及びS-100についても再検討を試みた.7例については,BUdR染色を施行し,併せて検討した.

標的細胞のインターフェロン処理による細胞性免疫に対する感受性の変化—腫瘍特異的CTLクローンおよびLAK細胞を用いた解析

著者: 宮武伸一 ,   近藤精二 ,   青木友和 ,   岩崎孝一 ,   大山憲治 ,   大塚信一 ,   織田祥史 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.1053 - P.1059

I.はじめに
 Interferon(IFN)はその化学構造28),および受容体1)の差異により,α,β(type I)とγ(type II)に分類され,多岐にわたる生物活性が知られている.その抗腫瘍効果は単に直接的な細胞増殖抑制7,30)のみならず,主要組織適合抗原(MHC)発現増強5,18,33)や,natural killer(NK)cell, macrophageの活性増強効果6,25)等,immuno—modulatoryな効果も知られている8).一方,type Iおよびtype II IFNでは異なった生物活性が存在するという報告もあるが10),その詳細な機構は不明である.
 最近われわれは,ヒトグリオサルコーマ培養株(GI—1)ならびにそれに対する特異的キラーT細胞(CTL)クローンを患者自家末梢リンパ球より樹立した21).またGI-1をIFN-γで処理することによりallogeneic lym-phokine-activated killer(LAK)細胞に対する感受性が低下することを明らかにしてきた22).本稿ではGI-1をtype I(β)およびtype II(γ)IFNで処理することによりこれらCTLおよびautologous LAK細胞に対する感受性がどの様に変化するか検討し,CTL,LAKの標的認識機構の差異を解析した.

症例

非外傷性急性硬膜下血腫の3例

著者: 芹澤徹 ,   佐藤章 ,   小林繁樹 ,   中村弘 ,   小瀧勝 ,   宮田昭宏 ,   渡辺義郎

ページ範囲:P.1061 - P.1065

I.はじめに
 急性硬膜下血腫は通常重症頭部外傷により架橋静脈や挫傷脳からの出血で生ずるが,近年皮質動脈の破綻や脳動脈瘤などの血管性病変を原因とする非外傷性急性硬膜下出血が注目されている1-5,7,8,11-17).今回興味ある臨床経過・手術所見を呈した非外傷性急性硬膜下血腫の3例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

頭蓋骨に発生したPlasma Cell Tumorの1例

著者: 原田薫雄 ,   魚住徹 ,   桑原敏 ,   木矢克造 ,   有田和徳 ,   小笠原英敬 ,   藤村欣吾

ページ範囲:P.1067 - P.1071

I.はじめに
 形質細胞由来の腫瘍性病変のうち骨原発性のsolitaryplasmacytomaはかなり稀な疾患であり,その形質細胞腫瘍としての分類については諸家により意見が分かれている.このうち頭蓋骨原発性のplasmacytomaに関してはさらに稀な疾患であり,その病態に関しても不明な点が多い.
 今回著者らは,9年前に頭頂後頭骨に発生し6年後に一過性に右肩関節に病変を示しながらも放射線治療により消失,その後,後頭骨腫瘍の増大が見られた為,腫瘍摘出術を施行したplasma cell tumorの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

下垂体腫瘍との鑑別が困難であったトルコ鞍部Germinomaの1例

著者: 有田和徳 ,   魚住徹 ,   桑原敏 ,   向田一敏 ,   隅田昌之 ,   杉山一彦 ,   渡辺憲司 ,   斉藤裕次

ページ範囲:P.1073 - P.1077

I.はじめに
 傍鞍部germinomaは小児期に発生し6,9,10),尿崩症をほぼ必発とし9,10),鞍上部腫瘍としてのCT所見などによって比較的容易に術前診断を得やすい腫瘍である.ところがわれわれは,無月経を主訴とし,臨床的に尿崩症を呈することなく,画像診断でも下垂体腺腫との鑑別が困難であったトルコ鞍部germinomaの成人女性例を経験したので報告する.

大脳鎌に発生した海綿状血管腫の1例

著者: 加賀明彦 ,   磯野光夫 ,   森照明 ,   日下部隆則 ,   岡田仁 ,   堀重昭

ページ範囲:P.1079 - P.1083

I.はじめに
 頭蓋内に発生する海綿状血管腫は比較的まれな疾患である.頭蓋内脳外としては中頭蓋窩に発生するものが知られているが,それ以外の部位のものはさらにまれである.われわれはこれまで報告のない大脳鎌に発生した海綿状血管腫を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

Optic Glioma放射線治療15年後に発生したHypothalamic Gliomaの全摘出例

著者: 金城利彦 ,   六川二郎 ,   宮城航一 ,   崎原永辰

ページ範囲:P.1085 - P.1089

I.はじめに
 Optic gliomaは全頭蓋内腫瘍中0.6-1.2%9)と比較的稀であり,眼窩内視神経から視交叉までに限局するanterior typeと視交叉から視索,視床下部に発生するposterior typeの二つに分けられる17)
 われわれは,1歳11ヵ月時にanterior typeのopticgliomaに対して放射線治療が行われ,15年後に視床下部にgliomaが発生した1例を経験し,bifrontal inter—hemispheric trans-lamina terminalis approach15)により全摘した.hypothalamic gliomaの全摘の可能性に関して,文献例も含めて手術アプローチを中心に検討し報告する.

胆嚢癌による転移性髄膜癌腫症の1例

著者: 竹内東太郎 ,   小川治彦 ,   笠原英司 ,   桜田正仁 ,   佐藤末隆

ページ範囲:P.1091 - P.1095

I.はじめに
 転移性髄膜癌腫症は,剖検で約8%に認められるが,臨床的に原発巣が診断されることはむしろ少ない6,7).今回著者らは,胆嚢癌転移による髄膜癌腫症の興味ある1例を経験したので,とくにその頻度と転移経路を中心に考察を加えて報告する.

頭蓋頸髄移行部にみられた硬膜内クモ膜嚢胞の1例

著者: 黒岩敏彦 ,   竹内栄一 ,   山田圭一 ,   太田富雄 ,   宮地芳樹 ,   小野村敏信

ページ範囲:P.1097 - P.1099

I.はじめに
 脊髄硬膜内クモ膜嚢胞は比較的まれな疾患とされているが,現在までに約130例の報告1-14)がある.しかし,頭蓋脊髄移行部に発生したものはきわめてまれである.また,その成因については先天発生説7,14)外傷説3,6,7,13,14),炎症説など諸説がある.今回われわれは,外傷16年後に,後頭蓋窩から上位頸髄に発生した硬膜内クモ膜嚢胞の1例を経験したので報告する.

海外だより

ニューヨーク・マウントサイナイより

著者: 新島京

ページ範囲:P.1101 - P.1103

 ニューヨークの目抜き通りである5番街,セントラルパークの真向かいにそびえ立つ,マウントサイナイメディカルセンター(正式には,Mount Sinai School ofMedicine, The City University of New York and TheMount Sinai Hospital)に来て9ヵ月が経とうとしている.New York StateのLimited Permitsもおり,仕事も順調に運んでいる.
 そもそも私がこちらでお世話になることになったのは,1971年以来マウントサイナイ脳外科のchairmanを勤めてこられたDr.Leonard I.Malisが,近々その職を後進に譲られると聞いたからである.ヨーロッパのDr.Gazi Yasargil(彼も今年中にもKantonsspitalを辞められ,private practiceに専念されると聞いているが)と並び称せられる,microsurgeryのpioneerとして一時代を築き上げた彼の最後の弟子となるべくニューヨークへ渡らせて頂いた次第である.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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