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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科19巻12号

1991年12月発行

雑誌目次

“まほろば”

著者: 神野哲夫

ページ範囲:P.1111 - P.1112

大和は国のまほろばたたなつく青垣山こもれる大和しうるはし
 まほろばの「ま」とは接頭語で,しっかりそろっているというほめ言葉,「ほ」は炎の「ほ」,稲穂の「ほ」ですぐれた所,「ろ」は接尾語ですぐれたありさまを言う.「ば」は場所.すなわちまほろばとは人間が住む「一番すぐれた所」である事を「佛の道を思う朝」(安田映胤,講談社)にて知った.何となく響きがよく,捨てがたい味があるので記憶にとどめている.
 私共の小さな病院や教室でも何とかまほろばを築き上げたいと日夜思うが,なかなかうまくいかない.以下は何故うまくいかないのか(不惑を10年前に過ぎていながら)筆者の一人言である.

解剖を中心とした脳神経手術手技

延髄部腫瘍性病変に対する手術

著者: 宮武伸一 ,   菊池晴彦

ページ範囲:P.1113 - P.1119

I.はじめに
 脳幹部,ことに延髄を中心とした下位脳幹部は,解剖学的,生理学的に非常に重要な部位であり,脳神経外科医に残された数少ない“no man's land”の一つである.他の中枢神経系と同様に,この部位にも腫瘍性病変は発生するが多彩な神経症状を呈することから,その的確な診断は難しく,またその治療も困難な場合が多いとされてきた.しかしながら最近の画像診断学の進歩,ことにmagnetic resonance imaging(MRI)の発達により,X線CTではartifactのため,診断が困難であった延髄部病変が直接かつ鮮明に描出でき,sagittal,coronal, axialのimagingにより病変の空間的広がりが正確に把握できるようになってきた24).また,近年のmicroneurosurgicaltechniqueの発達により延髄部の腫瘍性病変に対する摘出成功例の報告も散見されるようになってきた.本稿では1986年より当施設で経験した延髄部腫瘍性病変(海綿状血管腫をも含む)10例の経験を基にその手術手技,注意点,問題点を紹介する.

研究

高血圧性小脳出血に対する後頭下開頭血腫除去術と定位的血腫吸引術の比較検討

著者: 宇野昌明 ,   七條文雄 ,   本藤秀樹 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.1121 - P.1127

I.はじめに
 高血圧性小脳出血は手術適応のある症例が多く,外科的治療に関してはこれまでにも多くの報告がみられる.近年,高血圧性脳出血に対して,侵襲の少ない定位的血腫吸引術が多く試みられ,良好な成績が得られているが3,5,6,10),高血圧性小脳出血に対する吸引術のまとまった報告は未だ少ないようである4,12,13,18,20).また本法の手術成績を後頭下開頭血腫除去術の成績と比較検討した報告はわれわれの調べ得た限りではみられなかった.今回われわれは自験例について,定位的血腫吸引術の成績を後頭下開頭血腫除去術の成績と比較検討したので報告する.

パラフィンブロックを用いた髄膜腫核DNA分析の予後判定に対する有用性

著者: 赤地光司 ,   松本賢芳 ,   安江正治 ,   中村紀夫 ,   鎌田美乃里 ,   大野典也

ページ範囲:P.1129 - P.1134

I.はじめに
 髄膜腫は,一般的に良性の腫瘍とされ,全摘出により完治させ得る腫瘍であると考えられている.しかし,なかには再発を繰返し,臨床的に良性とは言えない例がある.局所再発に関しては,再発の原因を腫瘍の摘出度に求めたSimpsonのGrading25)が有名である.しかし,術後に局所再発のみではなく,他の部位への再発や多発を繰り返す例があり,このような例は,腫瘍細胞の性状が一般の髄膜腫とは異なる可能性があると考えられる.そこでわれわれは,予後のわかっている髄膜腫のパラフィンブロックを用いて,核DNAのploidy,cell kineticsをフローサイトメトリーにより分析し,病理学的悪性度との関係,ならびに臨床的な再発や多発との関係を検討した.

癌性髄膜炎における髄液生化学的腫瘍マーカーの検討

著者: 中川秀光 ,   久保重喜 ,   村澤明 ,   中島伸 ,   中島義和 ,   泉本修一 ,   早川徹

ページ範囲:P.1135 - P.1141

I.はじめに
 種々の髄液内腫瘍マーカー9,24)の中にβ—glucuroni—dase,polyamines(putrescine,spermidine,spermine),carcinoembryonic antigen(CEA)があり,β—glucuro—nidaseについては,癌性髄膜炎に特徴的に上昇することが知られている19,20,23).Polyaminesは,主に髄芽腫の再発や進展程度の指標としてその有用性は示されており2,5,14,21),その他にβ—glucuronidaseとともに癌性髄膜炎や悪性腫瘍で高い値を示し15,18),腫瘍の増殖度を表わすとされている2,18).CEAについては,転移性脳腫瘍に際し血清CEAの上昇が時に見られるが,髄液CEAの上昇は稀であり,それが高値を示すのは髄膜転移症例19)や100ng/ml以上の高い血清値を示す症例に多いとされている.
 今回,癌性髄膜炎におけるこれら髄液腫瘍マーカーを調べ他の良性脳疾患・脳腫瘍や充実性転移性脳腫瘍患者のそれと比較することにより癌性髄膜炎の病態の特徴を概要するとともに手術や髄腔内化学療法などによるマーカー値の変動を調べ,これら病態における髄液腫瘍マーカー測定の意義について検討した.

Transcranial Doppler Ultrasonographyによる脳血管攣縮の診断とCa拮抗剤の抑制効果

著者: 豊田章宏 ,   西澤義彦

ページ範囲:P.1143 - P.1150

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤後の脳血管攣縮(spasm)の治療において,症候出現以前にその予測を可能とすることは最も重要とされてきた.しかし脳血管撮影,CT scan,脳血正流測定などによる検討によってもretrogradeの判断は可能であるもののreal timeにspasmを把握することが出来なかった.
 最近,開発された超音波脳血流速度測定装置(Trans—cranial Doppler Ultrasonography:TCD)は,noninva—siveで,しかもreal timeな脳血流速度の測定が特徴であり,TCDは破裂脳動脈瘤後のspasmの病態の解明のみならず,各種薬剤の治療効果判定の指標にも有用な測定装置と考えられる2,8-11,17)
 本研究では,破裂脳動脈瘤症例に対し,TCDを用いて脳血流速度(Flow velocity:FV)測定を行い,FVの経時的変化,脳血管撮影によるspasmとの相関,さらにnicardipine脳槽内投与によるspasmへの抑制効果について検討した.

外傷性てんかんのリスクファクター—多施設共同研究

著者: 外傷性てんかん調査会

ページ範囲:P.1151 - P.1159

I.はじめに
 本論文は,ペンフィールド記念懇話会の活動として.1983年(昭和58年)より1990年(平成2年)までの8年間にわたって行われた外傷性てんかんの追跡調査をまとめたものである.本研究の目的は,抗てんかん薬の予防的投薬の効果を調査することと,外傷性てんかんの発生に関係する要因を探索することにあった.抗てんかん薬の予防的投薬の効果については別に報告する予定である.本論文は外傷性てんかんのリスクファクターについて分析した結果を報告する.

症例

側頭葉星細胞腫術後にみられたDisproportionately Large Communicating Fourth Ventricle—経過中Isolated Fourth Ventricleを示した1例

著者: 伊東聡行 ,   原充弘 ,   麻生有二 ,   門脇親房 ,   竹内一夫

ページ範囲:P.1161 - P.1166

I.はじめに
 Isolated fourth ventricle(以下IFV)は髄液短絡術後の合併症として第4脳室が髄液路より孤立し,種々の後頭蓋窩症状を呈する病態である.しかしこの中には中脳水道の開存がみられる症例が散見され1,11,13,15,20),これらはScottiら19)によりdisproportlonately large com—municating fourth ventricle(以下DFV)と呼ばれている.
 今回われわれは,右側頭葉の星細胞腫を摘除した後にDFVを呈し,その後IFV,そして再びDFVと経時的に変化した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

海綿静脈洞部軟骨肉腫の1例

著者: 古閑比佐志 ,   六川二郎 ,   宮城航一 ,   金城利彦 ,   原国毅

ページ範囲:P.1167 - P.1170

I.はじめに
 軟骨肉腫は整形外科領域では30-60歳の大腿骨・上腕骨の骨幹端と骨盤・脊椎の表面などに多く発生するが,頭蓋腔での発生は稀である.しかしその好発部位は中及び後頭蓋窩で,髄膜腫・神経鞘腫・脊索腫などとの鑑別診断はしばしば困難である.
 われわれは右海綿静脈洞部に発生し手術の結果,軟骨肉腫と判明した1例を経験したので,そのMRI所見を提示すると共に文献的考察を加え報告する.

Isolated Benign Cerebral Vasculitisと考えられた1例

著者: 高橋功 ,   上野一義 ,   小柳泉 ,   青樹毅 ,   竹田誠

ページ範囲:P.1171 - P.1174

I.はじめに
 中枢神経系の血管炎は,膠原病などの全身性疾患の部分症状として認められることが多い.しかし,全身性疾患を伴わない中枢神経系に限局する血管炎は稀な疾患である.
 今回われわれは,脳虚血症状で発症し,脳血管撮影上,前大脳動脈に進行性の多発性血管狭窄を認め,ステロイド療法により血管狭窄の改善を確認した脳血管炎と思われる症例を経験した.本例は1978年にSnyderら21)が報告したisolated benign cerebral vasculitisと考えられ,症例を供覧するとともに文献的考察を加えて報告する.

2度目の皮質下出血にて初めてAVMが確認された1症例

著者: 諌山幸弘 ,   中川原譲二 ,   武田利兵衛 ,   和田啓二 ,   瓢子敏夫 ,   佐々木雄彦 ,   中村順一 ,   末松克美

ページ範囲:P.1175 - P.1180

I.はじめに
 脳動静脈奇形(AVM)は胎生早期に生じる先天異常とされているが,後天的にその形態が変化するものがあることが知られている.すなわちAVMには自然消退あるいは,成長.増大するものが存在する.また,初回の脳血管造影上,異常血管が認められず,数年後,脳上血管造影にて,初めてAVMが確認された症例もごく稀ながら報告されている.
 われわれは,18歳時脳内血腫と診断され,脳血管造影,および術中所見では異常血管が確認されず,2年後再び同部位の脳内血腫で発症し,初めてAVMが発見された症例を経験したので,その治療経過を報告するとともにこのようなAVMの発生機序につき文献的に考察した.

頭蓋底に腫瘤を形成し動眼神経麻痺で発症したMultiple Myeloma(biclonal type)の1例

著者: 高野勝信 ,   大神正一郎 ,   米増祐吉 ,   福田博 ,   中井啓文 ,   苫米地正之 ,   川田佳克 ,   竹森信男

ページ範囲:P.1181 - P.1185

I.はじめに
 多発性骨髄腫は骨髄の形質細胞が腫瘍性に増殖し,免疫グロブリン異常,骨変化をきたす疾患である.その骨病変は主に頭蓋骨,椎骨,肋骨,骨盤に認められ,頭蓋骨では多数の骨溶解性の変化をきたし,X線写真上punched out lesionが見られることはよく知られている13).しかし,どの部位の骨病変であれ,腫瘤を形成するのは稀である.
 また,本疾患の免疫グロブリン異常でも,IgGのみ高値を示すmonoclonal typeが最も多いが,二種類の免疫グロブリンが高値を示すbiclonal typeは多発性骨髄腫の中でも0.5%と稀である14).われわれは頭蓋底に腫瘤を形成したIgG,IgA biclonal typeの多発性骨髄腫を経験したので報告する.

特発性血小板減少性紫斑病に合併した脊髄硬膜外血腫の1例

著者: 二渡克弥 ,   松岡茂 ,   古和田正悦

ページ範囲:P.1187 - P.1190

I.はじめに
 脊髄硬膜外血腫は比較的稀な疾患で,現在まで本邦では29例の報告をみるに過ぎない.本症は発生機序から特発性と二次性に分けられているが17),最近,私たちは特発性血小板減少性紫斑病(Idiopathic thrombocyto—penic purpura以下ITPと略す)に合併した二次性の脊髄硬膜外血腫を経験した.ITPに合併した脊柱管内出血例として脊髄出血の1例3)が報告されているが,脊髄硬膜外血腫の報告はなく,極めて稀な症例と考え,若干の文献的考察を加えて報告する.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第19巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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