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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科19巻2号

1991年02月発行

雑誌目次

Quo Vadis

著者: 朝長正道

ページ範囲:P.111 - P.112

 12月には,おつき合いが多く,連日のように夜の巷へ出かけました.大抵はすっきりした顔で帰りますが,時には年甲斐もなく杯を重ね,午前さまになることもありました.ある晩,家内をたたき起こし,おい,ママ帰ったぞ,とわめきましたら,どこのクラブだと思っているの,ママと言ってさえおればどこででも通るんでしょ,とやられました.酔った頭で,なるほど,そりゃそうだ,ママと呼んでおればお互いに幸せだし,高い飲み代もママ,ママと寄り添う濡れ落ち葉料か,と感心しました.
 考えてみると,このママと似たように使われているものがあります.それは先生という言葉です.われわれ医師や教員に弁護士,政治家に議員そして高級官僚,芸術家や芸事の師匠など,先生と呼ばれる職業はゴマンとあります.何と呼べば良いのか迷った時には,先生と言っておけば当たり障りなさそうですし,嫌な顔をする人は誰もいません.しかし先生と呼び掛けるほうは,何が先生か,でも世の中のしきたりだから,まあそう呼んでおいてやるわ,と腹の中で咳いていることも多いようだし,一方呼ばれるほうは,単純に喜んでいる人もいましょうが,呼びようがなくて先生と言ってるな,先生と言われるほどの馬鹿じゃないそ,しかし折角だから嬉しそうな顔をしておくか,と考えている人も少なくないようです.私などは,医者で学校の先生ですから,先生の自乗です.掛け合わせて1以上になれば良いんですが,それぞれが1以下の時には悲惨な評価になります.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(15)Pineocytoma,Pineoblastoma

著者: 熊西敏郎 ,   鷲山和雄 ,   阿部聰

ページ範囲:P.115 - P.120

はじめに
 松果体実質細胞腫瘍の病理を理解するには,他の腫瘍同様に,あるいはそれ以上に正常細胞とその組織構築を理解することが基本的に重要である.本稿では正常松果体と松果体実質細胞腫瘍を順に概説する。

研究

悪性グリオーマに対するインターフェロンを用いた集学的療法と患者免疫能の変動—Two color analysisによるリンパ球の解析

著者: 沼義博 ,   河本圭司 ,   松村浩

ページ範囲:P.121 - P.128

I.はじめに
 悪性神経膠腫に対する治療として,手術後放射線療法に化学療法インターフェロン(β—IFN)を加えた併用療法を行っている1).インターフェロンの抗腫瘍効果には,腫瘍細胞に対して細胞増殖抑制やDNA合成阻害などの直接作用と,免疫系を介する間接作用があり,natural killer(NK)細胞,マクロファージ,細胞障害Tリンパ球の活性増強作用が報告され,臨床的にもその有用性がいわれている11,21,29)
 われわれはすでに脳腫瘍患者のT細胞サブセットによる免疫能について報告しているが8),近年開発されたtwo-color analysisによるリンパ球の分析は少なくまた経時的な変化を検討した報告はない.今回悪性グリオーマ患者に対してインターフェロンを用いた集学的療法を施行し,その前から後にかけてのT細胞分画の変動,またNK細胞やγ—IFN産生能についても経時的に測定し,インターフェロンによる脳腫瘍の治療効果と免疫能の変動を検討したので報告する.

小児脳幹グリオーマに対する放射線治療の評価—CT所見と治療に対する反応

著者: 森修一 ,   田中隆一 ,   武田憲夫 ,   吉田誠一

ページ範囲:P.129 - P.135

I.はじめに
 小児脳幹グリオーマ(brainstem glioma)に対する治療は,その発生部位の特殊性のため外科的治療には制約があり,放射線療法を主体として補助的に化学療法や減圧術なども併用されている3,4,8,12,15,19)
 Brain stem ghomaに対して放射線治療を行うと多くの症例でCT上臨床上の寛解がみられ生存期間も延長すると報告されている7,9,15,17,20).しかしながらその効果は一時的であって腫瘍の再増大を来たし平均生存期間は1年未満であることなどから否定的な意見もみられ10,11),本腫瘍に対する放射線治療については必ずしも一定の評価は得られていない.

定位的脳手術支援ナビゲーションシステム(CANS navigator)の開発と臨床応用

著者: 加藤天美 ,   吉峰俊樹 ,   早川徹 ,   冨田美明 ,   池田卓也 ,   御供政紀 ,   原田貢士 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.137 - P.142

I.はじめに
 近年,CT,MRIをはじめとする画像診断情報が直接脳神経外科手術に利用されつつある.まず,従来のフレーム式定位脳手術装置をもとに,CTあるいはMRI定位脳手術6,7,9)が実用化され,血腫吸引,腫瘍生検にひろく用いられている.また発達のめざましいコンピューター画像処理技術を応用し,種々の手術ナビゲーションシステムが試作されている5,10,11).特に本邦で開発された「ニューロナビゲーター」15-18)はCTの位置情報を術野に直接反映させる方法のひとつとして新局面を開拓した.しかし,従来のいずれの装置も,位置決定のためフレームやアームを必要とし,術野の選択や手術操作に多少の制限は避けられない.今回,私達は,磁気変換式3次元位置測定装置を使用し,従来の手術手技になんら制限を加えることなく,手術操作位置をCTあるいはMRI画像上にリアルタイムに表示する新しい定位脳手術支援システムを開発した.その概要と手術への応用につき報告する.

脳膿瘍のCT誘導定位脳手術による治療

著者: 川崎浩遠 ,   天野恵市 ,   河村弘庸 ,   谷川達也 ,   川畠弘子 ,   伊関洋 ,   塩飽哲士 ,   長尾建樹 ,   平孝臣 ,   岩田幸也 ,   梅沢義弘 ,   清水常正 ,   荒井孝司 ,   村尾昌彦 ,   清水俊彦

ページ範囲:P.143 - P.148

I.はじめに
 脳膿瘍の治療法については,議論の別れるところであるが,一般には,急性炎症がおさまり,被膜が形成される時期に膿汁の穿刺吸引が行われる.そして数回の穿刺排膿を繰り返しても脳膿瘍が完全に退縮しない場合や,短期間に再貯留する場合には,被膜外摘出術が行われている.しかし従来行われてきたような用手的な穿刺法では,1回の穿刺で正確に膿瘍に的中させて,十分な排膿を行うことが困難な場合が少なからずある.
 そこで今回著者らは,主に深在性の脳膿瘍に対し,CT誘導による定位的吸引術を行ったので,手術成績および術後経過などについて報告する.

脊髄血管芽腫の診断と外科的治療

著者: 井須豊彦 ,   阿部弘 ,   岩崎喜信 ,   秋野実 ,   小柳泉 ,   飛騨一利 ,   宮坂和男 ,   斉藤久寿

ページ範囲:P.149 - P.155

I.はじめに
 脊髄血管芽腫は,全脊髄腫瘍中1.6-2.1%にみられるもの3)であり,比較的稀な腫瘍であるが,近年におけるCTscanner並びにMRIの普及により,容易に診断される様になって来た2,8,9,11,19,23-25).今回,われわれは,CT導入以後に経験した脊髄血管芽腫症例につき,診断並びに外科的治療の問題点について,検討を加えたので報告する.本報告では,とくに,脊髄血管芽腫の術前診断として,MRIが非常に有用であることを強調したい.

症例

透明中隔膿瘍の1例

著者: 小田真理 ,   下田雅美 ,   山田晋也 ,   津金隆一 ,   佐藤修

ページ範囲:P.157 - P.159

I.はじめに
 脳室腹腔短絡術施行後,短絡管を介したE.coliの逆行感染により,透明中隔に膿瘍を形成したと思われる1例を経験したので文献的考案を加えて報告する.
 透明中隔に膿瘍を形成した例は著者らが検索し得た限りでは,化膿性髄膜炎後に生じた1例が報告されているにすぎず極めて稀である.

腕神経叢引き抜き損傷に対し肋間神経—筋皮神経交差吻合術およびDREZ-tomyを施行した1症例

著者: 坂井恭治 ,   篠山英道 ,   諸岡弘 ,   難波真平

ページ範囲:P.161 - P.165

I.はじめに
 腕神経叢引き抜き損傷は,主にオートバイの転倒事故などにより惹起される外傷性疾患で,稀ならず経験するものである.今同われわれは令型腕神経叢損傷にもとつく患側肢の頑痛を発生した1症例を経験し,上肢機能再建に対しては肋間神経—筋皮神経交差吻合術を,そして頑痛に対しては脊髄後根進入部破壊術(DREZ-tomy)を施行し,共に良好な経過が得られたので文献的考察を加え報告する.

Chiari奇形と脊髄空洞症を合併したDisproportionately Large Communicating Fourth Ventricleの1例

著者: 鳥山俊英 ,   河内雅章 ,   小池譲治 ,   原田孝信 ,   村田哲 ,   京島和彦

ページ範囲:P.167 - P.172

I.はじめに
 第四脳室が髄液路で孤立して拡大しそれに起因する種種の後頭蓋窩症状を星するものにtrapped fourth ventri—cleがある.この中に明らかに中脳水道の開存している症例がありDisproportionately large communicating fourth ventricle(以下DLCFV)と呼ばれている.脊髄空洞症を合併したDLCFV例はわれわれが渉猟し得た限りでは見あたらない.本症例につき若干の文献的考察を加えて報告する.

巨大頸静脈球腫瘍の摘出術

著者: 甲村英二 ,   大西丘倫 ,   越野兼太郎 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.173 - P.177

I.はじめに
 巨大な頸静脈球腫瘍の摘出術は、腫瘍存在部位へのアプローチの困難性をはじめとし,術中の大量出血の問題や,術後に生じ得る嚥下障害や髄液漏といった合併症の予防など多くの問題点をかかえており従来より困難な手術の一つにあげられてきた.頭蓋内外にわたる巨大な頸静脈球腫瘍に対し,一期的摘出を行い良好な経過を得た症例を報告し,あわせて手術の要点について考察する.

疑診例(片側性)から確診例(両側性)へ移行したモヤモヤ病の2小児例

著者: 井上亨 ,   松島俊夫 ,   詠田眞治 ,   藤原繁 ,   藤井清孝 ,   福井仁士

ページ範囲:P.179 - P.183

I.はじめに
 モヤモヤ病の原因はいまだ不明であり,その特徴的脳血管撮影像により診断が行われている.厚生省ウイリス動脈輪閉塞症研究班の診断基準によると,両側内頸動脈終末部に,定型的な動脈狭窄・閉塞と異常血管網を示すものを確診例,そのような病変が一側にしかないものは疑診例とされている5).他方,モヤモヤ病の両側性閉塞性病変は経時的に変化することも知られている2,8,11,17,18).一側性病変が両側性へと進行するか否かはモヤモヤ病の発生原因を考える上で興味があり,疑診例と確診例の関係をも示唆するものと考えられる.
 われわれはモヤモヤ病の初期像を知る目的と片側性病変の存在の有無を追求するため,疑診例に注目してきた3,7,9,10).今回片側性病変から,両側性へと進行した2小児例を経験したので報告する.

頭蓋内病変を伴った全身性黄色肉芽腫症の1例—免疫組織化学的検討

著者: 宮地茂 ,   小林達也 ,   高橋立夫 ,   斎藤清 ,   杉田虔一郎 ,   橋詰良夫

ページ範囲:P.185 - P.190

I.はじめに
 頭蓋内に黄色腫様病変をきたす疾患は,古くより知られており,これまでにも数多くの報告がある1,3-5,7-14).その疾患概念や病態のメカニズムについては不明な点が多く,病名そのものについても混乱しているのが現状である15).特にHand-Schuller-Christian病などのhis—tiocytosis Xとの鑑別は容易でなく,類縁疾患としてまとめられてきた3,7,9,10).われわれは,頭蓋内病変を伴う全身性黄色肉芽腫症の自験例について,免疫組織化学的検討を行い新しい知見を得たので,文献的考察を加えて報告する.

異所性交叉性融合腎と一側椎骨動脈閉塞を伴ったKlippel-Feil症候群の1例

著者: 波出石弘 ,   石川達哉 ,   鈴木明文 ,   安井信之

ページ範囲:P.191 - P.195

I.はじめに
 Klippel-Feil症候群においては中枢神経系,骨格系,心血管系,泌尿生殖器系などほぼ全身にわたる合併奇形が報告されている5,7).今回稀な腎奇形である異所性交叉性融合腎(crossed renal ectopia with fusion)と左椎骨動脈閉塞を伴ったKlippel-Feil症候群の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.

報告記

神経腫瘍学の進歩に関する国際シンポジウム

著者: 生塩之敬

ページ範囲:P.196 - P.197

 地中海の“紺碧の海岸”に沿い,ニース,モンテカルロと並んで世界的な観光地として有名……と言うより,わが国ではその名を冠した音楽祭で名前の知られているサンレモで,“神経腫瘍学の進歩に関する国際シンポジウム・1990”と銘打った国際会議が行われた.会期は避暑地としての賑わいの余韻がわずかに感じられる9月の終わり,26日から29日までの4日間で,レストラン,宝石店,靴屋,ブチックなどが並んだ美しい街角の,一見映画館の門構えの建物で行われた.門構えに似合わずA会場は豪華な劇場であり,地下のB会場は実際には映画館のようで,会の終わる夕方には映画のお客が集まって来た.
 この度の国際会議は,ヨーロッパに於ける神経腫瘍学のリーダーの一人であるイタリア・Pavia大学のPaoletti教授の呼掛けにより,米国・NIHのWalker教授および東大の高倉教授をco-chairmenとして開催されたものである.テーマは幅広く,グリオーマ,転移性脳腫瘍,胚細胞腫,髄膜腫,神経鞘腫,頭蓋咽頭腫など主要な腫瘍がすべて取り上げられ,これらの生物学,診断と治療,新しい治療法の開発,さらには,小児神経腫瘍学までの多岐に渡った.そこで,世界の各地,およそ30カ国から500名のneuro-oncologistが参加し,300余りの研究報告がなされるという,従来の脳腫瘍の会と比較してかなり大きな会議になった.わが国からは脳神経外科医を中心に,およそ100名が参加し,50題の発表がなされた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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