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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科19巻3号

1991年03月発行

雑誌目次

祈る

著者: 松岡健三

ページ範囲:P.205 - P.206

 元大阪大学総長で学士院会員であられた山村雄一先生は,私が直接お目にかかった人々の中で最も人間的な魅力に溢れたお方の一人であったが,残念なことに昨年71歳でお亡くなりになった.先生の座右銘に“夢みて行い考えて祈る”という御言葉がある.これは研究者としての経験にもとついて先生御自身が創造されたものである.この短文は含蓄に富んでいるので内容の説明が必要であろう.先生の御著書「医学と人間」所載に従って,以下に要約することにする.
 先ず自分の仕事を始める動機は,名誉や財産,権力などを手に入れることではなく“夢みる”心を持っていることが大切であると主張される.すなわちロマンを抱くことである.その次は実行することである.ここで注意しなければならないのは,あとに来る“考えて”より“行い”が先に来ていることで,この順序を変えてはならない.“夢みて”慎重に考え込んでいると,結局何もしないで終ってしまうことが多い.まず体を張って働くことだといわれる.次に行った結果について考えることの重要性は言うまでもない.山村先生らしく積極性に富んだすばらしい座右銘だと思う.ところで私が一番注目していることは,“祈る”という言葉で最後を結ばれている点である.どういうことを何に向って先生は祈っておられたのであろうか.この点について先生の文章をそのまま引用させていただく.

総説

脳血管攣縮とProtein Kinase C依存性収縮機構

著者: 浅野孝雄 ,   松居徹 ,   多久和陽

ページ範囲:P.207 - P.219

I.はじめに
 くも膜下出血(SAH)後の脳血管攣縮(VS)について,既に多くの臨床的,基礎的知見が集積されているにも拘らず,その発生機序は依然として謎に包まれている.現時点において必要なことは,その謎のよって来る所以を明確にし,今後の研究の方向を見定めることにあると思われる.
 さて脳血管攣縮という言葉自体は,薔薇の名前(IINome della Rosa)のように,もともと本質の知られていない病態につけられた一つの記号に過ぎない.たとえば,新たに見いだされた病気がその発見者の名前で呼ばれるように.しかし,多くの研究者の直観的な理解に従って,この病態は動脈壁平滑筋の持絞的な収縮を意味する血管攣縮(vasospasm)という言葉で言い表されてきた.従来の研究の主流は,この直観に基づいて,脳動脈平滑筋を直接的,且つ持続的に収縮させる生体内物質を発見しようとするものであった.

研究

高血圧性視床出血における内包障害と運動麻痺—特に内包進展型血腫についての検討

著者: 佐々木浩治 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.221 - P.226

I.はじめに
 高血圧性視床出血では隣接する内包が血腫による直接破壊,あるいは圧迫による2次的損傷1,2)により程度の差こそあれ片麻痺を呈することが少なくない.このためCT上で内包の運動路障害の程度を推測することは,その機能予後を知る上で,非常に重要なことと思われる.しかしCT画像上で,あるひろがりを持つ血腫と,それによる内包の障害や機能予後の程度を推測することは容易でなく,またそれを検討した報告も少ない3-5).そこで今回,高血圧性視床出血による内包における運動路障害と運動麻痺の関係について検討したので報告する.また内包進展型血腫について,保存療法と定位的血腫吸引術における機能予後も比較的検討したので合わせて報告する.

Nitroglycerin(GTN)の脳血管攣縮に対する予防効果の検討

著者: 笹沼仁一 ,   後藤恒夫 ,   小鹿山博之 ,   佐々木順孝 ,   渡辺一夫

ページ範囲:P.227 - P.232

 I.はじめに 高度のクモ膜下出血を伴う破裂脳動脈瘤症例において,脳血管攣縮は生命および機能予後に大きな影響を与えるため12),その予防および治療が重要な課題となっている.
 最近,Ca++拮抗剤をはじめとする薬物療法4,22)やウロキナーゼ等による脳槽灌流療法23)が開発され,臨床に応用されているが,その効果についてはいまだ議論の多いところである.
 今回,われわれは,急性期破裂脳動脈瘤患者に対し,脳血管攣縮の予防を目的として強力な血管拡張剤であるNitroglycerin(商品名:ミリスロール,化学名:Glyce−ryl Trinitrate,以下GTNと略す)の全身投与を行ったので,その効果について報告する.

中大脳動脈の反復一時閉塞による脳表血管ならびに脳実質への影響

著者: 榊寿右 ,   石田泰二 ,   笹岡保典 ,   森本哲也 ,   角田茂 ,   辻本正三郎

ページ範囲:P.233 - P.239

I.はじめに
 脳神経外科領域では,temporary clippingは重要な手術操作の一つとなっており,脳動脈瘤の手術や脳動静脈奇形の手術での予期せぬ出血のコントロールや病変部位を安全に剥離する目的で用いられている3,4,22).このtemporary clippingが短時間であれば問題ないが,長時間にわたったり,たとえ短時間であっても反復して施行される場合には予期せぬ神経症状の発現が術後に生じることがある.あるいは,このような手術とは別に,一過性脳虚血発作がくり返し生じる患者にstrokeへと発展し,血管撮影では明白な閉塞などの認めぬ症例もあり7,8,19),これもまた反復脳虚血に伴う神経症状の増悪かもしれない.このような反復脳虚血による脳実質への影響を調べるため,ネコの中大脳動脈閉塞モデルを用いて,反復虚血による脳表血管,脳実質に対する影響を調べたのでここに報告する.

悪性神経膠腫におけるOK−432の腫瘍腔内直接投与による抗腫瘍効果—その基礎的及び臨床的効果について

著者: 藤沢和久 ,   神野哲夫 ,   横井和麻呂 ,   尾内一如 ,   川瀬司 ,   安倍雅人

ページ範囲:P.241 - P.246

I.はじめに
 抗腫瘍溶連菌製剤OK−432を投与することにより,マウスの血清中2)または腹水中7)に腫瘍細胞に対してCytotoxicに作用するFactorが誘導されることは知られている.1986年吉永ら9)は胸腔内にOK−432を投与された悪性胸膜炎患者の胸水がL−929細胞に対してCytotoxicityを示すことを報告している.また,田中ら4)は悪性脳腫瘍患者の腫瘍内に設置したOmmaya's tubeよりくり返しOK−432を投与することにより,抗腫瘍効果を認めたと報告している.今回,われわれは悪性グリオーマ患者の腫瘍腔内にOK−432を投与することによってCytotoxic Factorを誘導し得るか否か,またFactorの出現と臨床効果との関連性をみるために実験的及び臨床的検討を行った.その結果,若干の知見を得たので報告する.

パーソナルコンピュータによるCTの3次元再構成システム

著者: 渡辺英寿 ,   井手隆文 ,   寺本明 ,   真柳佳昭

ページ範囲:P.247 - P.253

I.はじめに
 X線CTをはじめとするコンピュータ断層画像技術の普及にともなって,1980年以降,CTやMRIのデータをコンピュータの中で3次元的に再構成し新たな断面のみならず立体的な表面像を表示する方法が急速に開発され,実用化の方向に進んでいる1-3,10,12,15).その分野も脳神経外科1,2,7,11,15,21)を始め,放射線治療計画の補助9),整形外科に於ける脊椎の表示5),顔面奇形の形成手術のシミュレーション6,8,14),変ったところでは化石の立体表示3)など,枚挙に暇がない.しかし殆ど全てのシステムが大掛かりで高価なミニコンピュータあるいはワークステーションを使用しており,性能は兎も角,価格・操作面で日常臨床に手軽に利用できるとは,「いがたい.また,一旦できた3次元画像を様々な形で修飾する事が試みられているが,脳外科的な立場から最も有用と思われるものは手術のシミュレーションである13,15).この機能が十分に活用されるためには,装置そのものが日常的にかつ簡便にアクセスできることが必要不可欠である.われわれは既にこのような手術シミュレーションをVAX11という大型のミニコンピュータ上で実現してきた7,15-17).しかし,実用面で上述の様な使いづらさがあることは否めない.このような経験を踏まえ,われわれは,これとほぼ同様の機能を比較的低価格のコンピュータ上で実現する事が望ましいと考え,その方向での開発を進め,一定の成果を得たので報告する.

症例

刺創による脊髄損傷の1例

著者: 高橋功 ,   岩崎喜信 ,   鐙谷武雄 ,   今村博幸 ,   宝金清博 ,   斎藤久寿 ,   加藤功 ,   野村三起夫 ,   秋野実 ,   井須豊彦 ,   阿部弘

ページ範囲:P.255 - P.258

I.はじめに
 脊髄損傷の受傷原因としては一般に交通外傷,労働災害,スポーツ外傷などが多い.欧米では,上記以外にも銃砲やナイフによる脊髄損傷も稀ならず見られるが,本邦ではこれらによる損傷は極めて稀である.今回,われわれは包丁による刺創によって生じた稀な脊髄損傷を経験したので,症例を供覧するとともに若干の文献的考察を加えて報告する.

Hypertrophic Cranial Pachymeningitisの1例

著者: 興村義孝 ,   丹野裕和 ,   烏谷博英 ,   須田純夫 ,   小野純一 ,   礒部勝見

ページ範囲:P.259 - P.262

I.はじめに
 Hypertrophic Pachymeningitis(以下HP)は1869年Charcotら4)により初めて記載された硬膜の慢性炎症性肥厚を特徴とする比較的稀な疾患であり,頸部,胸部の脊髄神経根及び脊髄の圧迫症状を早することが多いとされている10,24).今回われわれは水頭症,脳神経症状,小脳症状などの頭蓋内症状を主体としたHypertrophicCranial Pachymeningitis(以下HCP)の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

下垂体腺腫の鞍上部分にのみ限局した下垂体卒中の1症例—外科的到達法の選択について

著者: 武智昭彦 ,   魚住徹 ,   向田一敏 ,   矢野隆 ,   三上貴司 ,   広畑泰三 ,   恩田純 ,   中原章徳 ,   富永篤

ページ範囲:P.263 - P.266

I.はじめに
 下垂体腫瘍は易出血性であり,腺腫内出血の頻度は高く,1898年Baileyが下垂体腫瘍の破壊的出血として記録して以来,多くの報告がある1).臨床的に卒中症状を呈し早急な外科的治療の適応となることもしばしばみられ,この場合,経蝶形骨洞法で行われることが多い.この度,我々は鞍上部腫瘍内に限局した出血に対し経蝶形骨洞法により手術を行ったが,鞍上部に達する開口部が狭く,また鞍隔膜下面全面に正常下垂体が存在したため鞍上部へ達することができず,血腫の減圧が不能であった症例を経験した.この経験を踏まえ,到達法の選択を含む治療方針の決定に関し検討を加えたので報告する.

乳児頭蓋内Fibrous Xanthoma(Xanthofibroma)の1例

著者: 大森義男 ,   久保哲 ,   安河内靖 ,   武美寛治 ,   池田正一 ,   伊林範裕

ページ範囲:P.267 - P.271

I.はじめに
 皮下,軟部組織のfibrous xanthoma(xanthofibroma)は,線維紐織球性腫瘍(fibrohistiocytic tumor)のうち良性腫瘍として,現在までに数多く報告11)されている.しかし,皮膚および頭蓋内にほぼ同時期に発生し,かつ,1歳未満の症例は検索し得た範囲では報告されていない.われわれは,8カ月の男児が痙攣で発症し,胸壁および左側頭葉内にfibrous xanthomaを認めた1例を経験したので報告する.

Entirely Suprasellar Symptomatic Rathke's Cleft Cystの2症例

著者: 弓削龍雄 ,   重森稔 ,   徳富孝志 ,   空閑茂樹 ,   西尾暢晃 ,   山本文人 ,   徳永孝行 ,   上垣正己 ,   安陪等思 ,   小島和行 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.273 - P.278

I.はじめに
 トルコ鞍内に発生する上皮性襄腫はRathke's cleftcystと呼ばれ,最近の画像診断の進歩により報告例が増加している.上皮性襄腫をその局在からみると,トルコ鞍内に限局する型ないし鞍内から鞍上部へ伸展した鞍上部仲展型がほとんどであり,鞍上部のみに位置するいわゆるentirely suprasellar Rathke's cleft cystの報告はわれわれが渉猟しえた範囲では1934年のFrazier & Alpersらの報告以来11例にすぎない.
 本稿では最近われわれが経験した2例を含め,その頻度,発生機序,細胞起源,画像診断,手術法を中心に文献的考察を加えて報告する.

前額部腫瘤を呈した頭蓋骨悪性リンパ腫の1例

著者: 久門良明 ,   榊三郎 ,   中野敬 ,   福井啓二 ,   河野秀久 ,   栗原憲二

ページ範囲:P.279 - P.283

I.はじめに
 悪性リンパ腫のうち,骨原発のものはホジキンリンパ腫ではきわめて稀であり,非ホジキンリンパ腫でも4%前後3,13-16)と報告されている.またその発生部位についてみても,椎体・骨盤骨・肋骨・長管骨が好発部位であり,頭蓋骨は極めて稀である13-17).今回われわれは,外傷を契機として,前額部皮下腫瘤で発症した頭蓋骨悪性リンパ腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Radiation Induced Gliosarcomaの2例

著者: 川口進 ,   柏葉武 ,   小岩光行 ,   下山三夫 ,   小林延光 ,   福士幸彦 ,   徳田耕一

ページ範囲:P.285 - P.290

I.はじめに
 脳腫瘍に対する放射線治療の後に一定の潜伏期間をおいて,同一照射野に組織的に異なる腫瘍が新たに発生することは放射線誘発腫瘍として時折みられ,頭蓋内ではsarcoma,meningiomaが多く,gliomaは稀であるといわれている.又,gliosarcomaはgliomaと間質系のsar—comaのmixed tumorとしてStrobe(1895)により報告され,その後欧米では100例以上の報告がみられるが本邦ではこれまで10例の報告をみるのみである.今回われわれは脳腫瘍の放射線治療後に発生したgliosarcomaの2例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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