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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科19巻4号

1991年04月発行

雑誌目次

Working in a very small place

著者: 森惟明

ページ範囲:P.299 - P.300

 1973年,レイモンディ教授のもとでシカゴ小児病院での2年間の小児脳神経外科のレジデント生活を終え,帰国までの1ヵ月間をどのように過ごそうかと考えていた.あれこれ考えた結果,その頃,microsurgeryが導入されつつあり,どこか適当な施設へmicrosurgeryの見学に行くのもよいのではないかという結論に達した.行先は,スイスのヤシャルギル教授のところを候補に挙げていたが,ピッッバーグ大学の小児病院脳神経外科部長に内定されていたシカゴ小児病院脳神経外科の指導医の一人が,microsurgeryであればピッツバーグのジャネッタ教授のところへ見学に行く方がよいのではないかとの勧めにより,ピッツバーグに行くことに決めた.そこで初めて顕微鏡下に微小血管減圧術(MVD)を見学する機会を得た.まだその頃はMVDの有用性を認める脳神経外科医は少なかったが,ジャネッタ教授の手術を直接見学し,その効果を直接確かめることができた.
 それ以来,以前の奥さんが日本に興味を持っておられたこともあり,個人的交際を続けることになった.日本から朝日新聞が出していたJapan Quarterlyを送ったり,何回か互いに家庭訪問をし合うようになった.昭和56年,高知医科大学脳神経外科開講のため京都大学より高知に移ってからは,小児神経外科のみならず一般脳神経外科の診療も行うようになり,MVDも手がけるようになった.短期間で200例近くの症例を経験し,昭和59年,ジャネッタ教授に高知でMVDについて講演してもらった時に自験例を提示したところ,短期間にこれだけ多くの症例を経験したことにびっくりされた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

Orbito-zygomatic Approach—手術手技と臨床応用

著者: 藤津和彦

ページ範囲:P.301 - P.308

I.はじめに—approachの歴史と名称など
 眼窩内腫瘍の手術に際して開頭術に眼窩上外縁・上外壁の除去を追加する方法はすでに20世紀の半ばから行われていた1,3).桑原ら4)は眼窩内腫瘍に対するこの方法を完成させてfronto-zygomatic approachと呼んでいる.この名称はfrontal craniotomyを行うという意味と,眼窩の上外縁に丁度frontal boneとzygomaticboneの接合部(fronto-zygomatic suture)があるという意味とを含んでいる.頭蓋内病変に対して眼窩の上縁及び上壁の除去を行えば脳の圧排を少くできると示唆したのはJane5)らで彼らはsupraorbital approachと呼んでいる.これらの方法はいずれも古典的なfrontal cranio—tomyを基本にして行われている.著者ら6)はmicrosur—geryの基本的開頭法であるpterional approachにおいて眼窩上外縁,上外壁を除去し,上眼窩裂を開放し,眼球を内下方に圧排すれば脳の圧排を極めて少くしてbasal approachが行えると主張し,本法をorbito—(cra—nio)—basal approachと呼んだ.一方,頬骨切除の有効性に関しても著者らはzygomatic approach7)を発表し,本法が脚間槽に位置するhigh-placedのbasilar tipaneurysmやcraniopharyngiomaに対して有用であることを示した.
 眼窩を解放し,同時に頬骨弓を除去し,広い操作空間で,且つ脳の圧排を出来るだけ少くして頭蓋底腫瘍を手術する方法は一般にorbito-zygomatic approachと略して呼ばれている.本法は眼窩解放・頬骨骨切りの後にsubfrontal, transsylvian, anterior temporal, subtempo-ral,あるいは側頭下窩へのinfratemporal approachを行うのである.従ってこれらの骨切りの後にどのrouteを通ってどの方向へapproachしたかを正確に表現するにはtrans-orbito-zygomatic anterior temporal approachなどと呼ぶべきであろう.しかし頭蓋底腫瘍の手術においては本法の骨切りの後に様々なrouteを通って多角的にapproachすることが多い.従って骨切り法だけを示してapproachの名称とせざるを得ないことも多いのである.
 orbito−zygomatic osteotomyとほぼ同じ意味でorbito−malar osteotomy10)の名称が用いられることもある.ma-1arとは頬cheekを意味する言葉であり,頬骨弓よりも頬骨体部,上顎の突出部のことを意味する度合いが強いようである.
 orbito.zygomatic osteotomyによって得られる利点は以下の3点に集約される.1.通常のpterional appro−achよりもずっと低く,脳底部を覗き込むようにappro.achするので脳の圧排を大いに軽減できる。2.広い進入口が得られるのでsubfrontal,transsylvian,anteriortemporal,subtemporalなど多角的なrouteでapproachでき操作空間も広い.3:頭蓋外のinfratemporal fossaやpterigoid fossaへ進展した腫瘍に対して顔面皮切を用いずapproachできる.眼窩・頬骨の骨切り法には全体を出来るだけ一塊として骨切りする方法といくつかの骨片として行う方法とがある.又,頬骨弓の切除法には側頭筋とともに下方に転位する方法と遊離骨片として除去する方法とがある.本稿では骨切りはいくつかの骨片にして行う方法を示し,頬骨弓の切除は筋肉とともに下方に転位する方法を示すが,実際の手術にあたっては必要に応じた範囲の骨切りを目的に応じた方法で行えばよい.

研究

損傷脊髄の再生,血行改善を目的とした脊髄への微小血管吻合を伴う大網移植術

著者: 長島親男 ,   升森義昭 ,   堀栄太郎 ,   窪田惺 ,   川沼清一 ,   島田祥士 ,   岩崎隆 ,   平敷淳子 ,   水野英明

ページ範囲:P.309 - P.318

はじめに
 モヤモヤ病などの虚血脳に血管吻合を行って,大網を移植し,虚血脳への血管の新生と血行改善ならびに虚血脳の機能回復が得られる事はすでによく知られた事実である21,24)
 損傷された脊髄が急性期を過ぎると,脊髄は虚血状態となり27),虚血の進展がさらに脊髄の退行変性を促進する3,4,6,7,9,18,22,27,29).一方,実験的に虚血の進展を阻止し血流増加をはかると,軸索の再生を促進するという5,8)

第3脳室底正中部破壊の実験的研究—第3脳室経由到達法に関する検討

著者: 佐々木達也 ,   児玉南海雄 ,   川上雅久 ,   山野辺邦美 ,   佐藤正憲 ,   木村時久

ページ範囲:P.319 - P.325

I.はじめに
 脳底動脈末端部動脈瘤の手術に際しては,通常Drake4)のsubtemporal approachもしくはYasargil13)のpterional approachが用いられているが,脳底動脈末端部が高い位置にある場合や,megadolichobasilaranomaly1)を伴った動脈瘤では,これらのapproachでは到達不可能な場合がある.
 著者らは,megadolichobasilar anomalyを伴った高位脳底動脈末端部動脈瘤の症例において,動脈瘤破裂により第3脳室底が一部破壊されていたことを利用し,第3脳室経由による到達法を試みた.そして,動脈瘤柄部処置の際に充分な視野を得るために,破壊されていない第3脳室底正中部の一部をもさらに切開した.術後は電解質異常,尿崩症,体温異常,消化管出血等の視床下部障害によると思われる症状の出現は認められず良好な結果を得た6,7)

椎骨脳底動脈の紡錘状および解離性動脈瘤—両者の比較検討

著者: 安藤隆 ,   坂井昇 ,   山田弘 ,   岩間亨 ,   西村康明 ,   清水言行 ,   平田俊文 ,   大熊晟夫 ,   斉藤晃

ページ範囲:P.327 - P.336

I.はじめに
 椎骨脳底動脈の紡錘状および解離性動脈瘤は比較的稀とされてきたが最近,脳血管撮影による診断技術の向上に伴い発見される機会が増してきた.しかしながら両者の鑑別は臨床症状ならびに脳血管撮影からも必ずしも容易ではなく,また両者の治療法も困難で問題の多いところである.今回われわれの経験した椎骨脳底動脈の紡錘状動脈瘤(FA)と解離性動脈瘤(DA)について,その臨床症候,脳血管撮影所見さらにはMRI所見などについて両者の比較検討を行った.

十歳台の腰椎椎間板ヘルニアをめぐる諸問題について

著者: 花北順哉 ,   諏訪英行 ,   西原毅 ,   阪井田博司 ,   飯原弘二

ページ範囲:P.337 - P.342

I.はじめに
 腰椎椎間板ヘルニアは,日常臨床においてよく遭遇する疾患であるが,この病態が十歳台に生じることは比較的稀なことである.しかし若年者腰椎椎間板ヘルニアでは,特異な問題点が含まれているために,従来から様々に論じられてきた.すなわち,若年者腰椎椎間板ヘルニアにおいては,その発生頻度,性差,発症誘因,成人例の腰椎椎間板ヘルニアとの臨床像の異同,椎間板自体の変性の程度,診断上の問題点,治療法および予後などが問題となるが,未だ解明されていない点も多い.このたび昭和58年以降,静岡県立総合病院脳神経外科で手術的療法を加えた十歳台の腰椎椎間板ヘルニアの9症例につき,その臨床像,神経放射線学的所見,手術時所見,術後経過について検討を加えた.また現在までに国内外において報告された,18シリーズ,総計687例の若年者腰椎椎間板ヘルニア症例をもとに,この病態における種々の問題点につき考察を加えた.

椎骨脳底動脈瘤とSEPモニタリング—術中操作時ならびに脳主幹動脈閉塞時における有用性について

著者: 黒田敏 ,   米川泰弘 ,   河野輝昭 ,   山下耕助 ,   半田寛 ,   後藤泰伸 ,   田中公人 ,   郭泰彦 ,   滝和郎

ページ範囲:P.343 - P.348

I.はじめに
 Somatosensory evoked potential(SEP)を用いた脳動脈瘤手術中のモニタリングは,術中の脳虚血によるmorbidityを減少させるために,主として内頸動脈系の動脈瘤の手術において行なわれ,現在まで多くの報告がされている2-5,11-13,17-19,22-24,26).しかし,椎骨脳底動脈瘤の術中における電気生理学的モニタリングの報告はいまだに限られており,その有用性に関しても確立されていない5,15,16)
 われわれは椎骨脳底動脈系の動脈瘤の術中,または,覚醒下におけるballoon occlusion testの際にSEPによるモニタリングを行ない,その有用性を検討したので報告する.

急性くも膜下出血患者における虚血性心筋障害の出現について—52症例の検討

著者: 松村一 ,   祝井文治 ,   市来奇潔

ページ範囲:P.349 - P.357

I.はじめに
 1947年Byerら1)の報告以来,くも膜下出血(以下SAH)急性期における虚血性心電図(以下ECG)変化について多くの報告が見られる.最近ではECGの一過性の変化のみではなく,実際に心筋が障害され心機能低下が起こっているとの報告もなされている.破裂脳動脈瘤患者に対して急性期手術が行われるようになった現在,SAHの際に心筋障害による心機能低下が出現することは治療上重要な問題を含んでいる.
 そこで今回われわれは,頭部CTでSAHと診断された症例において,虚血性ECG変化の出現の頻度,実際の虚血性心筋障害の有無・頻度,虚血性ECG変化と重症度(Japan Coma Scale,以下J.C.S.)・転帰との関係について検討を行った.さらにSAHの際に出現するいわゆる神経原性肺水腫(neurogenic pulmonary edema,以下NPE)と急性期の循環動態との関係について検討し,若干の知見を得たので報告する.

症例

脳梁欠損症を合併した側脳室Glio-Ependymal Cyst

著者: 丹羽潤 ,   奥山徹 ,   清水一志 ,   平井宏樹

ページ範囲:P.359 - P.363

I.はじめに
 脳室内に発生する嚢胞性病変は頻度が少なく,側脳室では大部分がくも膜嚢胞であり,第3脳室では上衣嚢胞であることが多い.しかし神経放射線学的にそれらを鑑別することは非常に困難であり,確定診断は摘出標本の病理組織に頼ることになる14,20)
 今回われわれは脳梁部分欠損症を合併した右側脳室内glio-ependymal cystの1症例を経験したので報告する.

頸胸椎移行部脊柱管内発生骨軟骨腫による対麻痺の1例

著者: 中川仁 ,   秋野実 ,   岩崎喜信 ,   井須豊彦 ,   阿部弘 ,   瀧川修吾

ページ範囲:P.365 - P.368

I.はじめに
 一般に骨軟骨腫は長管骨骨幹端部付近に発生することが多く,脊椎に発生することは少ない.そのため骨軟骨腫により脊髄圧迫症状を呈することは非常に稀である.今回われわれは第7頸椎椎体後縁に発生し脊髄圧迫症状を呈した骨軟骨腫の一例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

外傷性両側基底核出血の2例

著者: 谷中清之 ,   江頭泰平 ,   牧豊 ,   高野晋吾 ,   岡崎匡雄 ,   松丸祐司 ,   亀崎高夫 ,   小野幸雄 ,   能勢忠男

ページ範囲:P.369 - P.373

I.はじめに
 外傷性基底核出血は比較的希な病態とされている.近年その報告例は増加しつつあるが,両側性基底核出血例は未だ極めて希である.今回我々はその2症例を経験したが,これらの症例はその発生のメカニズムに関し,極めて重要な示唆に富むと思われたので報告する.

外傷後10年目に発症した髄液鼻漏の1例

著者: 宮崎芳彰 ,   橋本卓雄 ,   神吉利典 ,   阿部聡 ,   中村紀夫

ページ範囲:P.375 - P.378

I.はじめに
 外傷に伴う髄液鼻漏は,頭部外傷の1-3%に合併11,15,19)し,80-90%は,受傷後3ヵ月以内に発生1,12,17)している.
 今回われわれは,受傷後10年目に髄膜炎で発症した外傷性髄液鼻漏の1例を経験したので,診断・治療について若干の文献的考察を加え報告する.

後頭蓋窩病変術後のDisproportionately Large Communicating Fourth Ventricle

著者: 古市晋 ,   西嶌美知春 ,   栗本昌紀 ,   高久晃

ページ範囲:P.379 - P.383

I.はじめに
 Disproportionately large communicating fourth ven—tricle(DLCFV)は,第四脳室が側脳室や第三脳室と比較して,不均衡に拡大した水頭症のうち,中脳水道に閉塞を認めないものとして報告されている1).この病態は,通常,側脳室腹腔短絡術(V-P shunt)により改善すると言われている1-3).私達は,最近後頭蓋窩病変の術後に,第四脳室の不均衡な拡大を示した2症例を経験した.側脳室より造影剤を注入した脳室撮影では,中脳水道は開存しており,DLCFVの診断のもとにV-P shuntを行ったが,第四脳室の縮小は得られなかった.これらの2症例を呈示し,若干の考察を加え報告する.

難聴を主訴とした延髄血管芽腫による水頭症の1例

著者: 桑原孝之 ,   村木正明 ,   北村惣一郎 ,   土屋直人 ,   忍頂寺紀彰 ,   植村研一

ページ範囲:P.385 - P.389

I.はじめに
 水頭症はしばしば遭遇する疾患であるが,難聴を主訴とすることは稀である.われわれは延髄血管芽腫による水頭症により難聴をきたし,頭蓋内圧の変動とともに難聴の程度が変動し,最終的に脳室腹腔短絡術により難聴の改善をみた症例を経験した.水頭症が原因となった頭蓋内圧亢進による難聴の発生機序につき若干の文献的考察を加えて上記症例を紹介する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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