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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科19巻5号

1991年05月発行

雑誌目次

元旦雑感

著者: 田中隆一

ページ範囲:P.399 - P.400

 元旦の朝は日直の看護婦と二人で病棟を回ることにしている.外泊さえもままならず,病院で正月を迎えなければならない患者さんとそのご家族には,誠にお気の毒と申し上げるほかはない.われわれの病院の場合は,そのような患者さんの殆どが悪性脳腫瘍の進行期にある人達であり,われわれの無力さをあらためて痛感させられる.そんな中で,笑顔でわれわれの挨拶に答えてくれるのは,年の瀬のあわただしい中で手術を受けた患者さんであり,病室を回っていてほっとする瞬間である.
 病棟での挨拶が終ると,新潟で正月を過ごしている教室員が医局に集まって,恒例の新年会が始まる.これは古くから続いている教室の年中行事である.かつては和服姿の男性や,華やかな振袖で着飾った女性の姿もみられ,女性群が腕によりをかけたおせち料理が並んだこともあったが,最近は故郷で正月を過ごす人が多くなったこともあって,参加者が少なくなり,新年会も質素になってきた.それでも,用意された升酒で乾杯し,新年の挨拶を交わしていると,気分があらたまる.

脳腫瘍の組織診断アトラス

(16)Malignant Lymphoma

著者: 有田憲生 ,   平賀章諄 ,   早川徹

ページ範囲:P.401 - P.406

I.はじめに
 脳内原発悪性リンパ腫は,1929年Baileyにより“perithelial small cell sarcoma”と報告されて以来,腫瘍発生母地について多くの議論を生んだが,現在ではリンパ球に由来する腫瘍であることが一般に認められている.本腫瘍は稀な腫瘍と考えられてきたが,臓器移植後あるいはacquired immunodeficiency syndmme(AIDS)など免疫抑制状態では発生頻度が高いという事実が明らかとなり,近年脳神経外科的にも注目を集めている疾患であるといえる.脳内に原発する悪性リンパ腫は,組織学的には事実上すべて非ポジキンリンパ腫non-Hodg—kin's lymphoma(NHL)と考えてよい.

研究

実験的脳幹部虚血における重症度別循環動態の検討

著者: 城山雄二郎 ,   長光勉 ,   山下勝弘 ,   山下哲男 ,   阿美古征生 ,   伊藤治英

ページ範囲:P.407 - P.413

I.はじめに
 脳幹の血管運動中枢の局在や機能は現在においても論争中であるが5),下位脳幹に交感神経のトーヌスを発生し,主要な統合機能を営む中枢の存在があることはほぼ認められているようである9).また,電気刺激により延髄網様体昇圧野,降圧野などの局所の機能を検討した報告は多いが9),実験的脳幹部虚血における脳幹血流動態の検討の報告は少ない.
 以前われわれは,ラットにおいて実験的脳幹部再開通虚血を作製し,carbon perfusion法(Fig.1),Evans blue染色法(Fig.2)により,その病変の広がりを検討した12).今回,その脳幹部虚血において重症度別循環動態を検討した.

手術室用CTシステムによる術直後CTの有用性

著者: 原田孝信 ,   奥寺敬 ,   小林茂昭 ,   小池譲治 ,   師田信人 ,   金丸敬

ページ範囲:P.415 - P.419

I.はじめに
 われわれは,昭和61年以来,本学の脳神経外科手術室にCTスキャナー(東芝TC−300/改)を設置し,手術室用CTシステムとしての基礎的検討,開発を行い3可動型ガントリーの設置などシステムとしての改良を行ってきた4,5).今回,昭和62年以来導入した・手術室用CTシステムによる術直後・手術室内CTを施行した206例を対象とし,手術室内における術直後CTの有用性について検討したので報告する.

脳腫瘍組織診断におけるProton Magnetic Resonance Spectroscopyの有用性に関する研究

著者: 吉田雄樹 ,   吉岡芳親

ページ範囲:P.421 - P.427

I.はじめに
 核磁気共鳴スペクトロスコピー[nuclear magneticresonance(NMR)spectroscopy:MRS]は,近年医学分野において盛んに利用されるようになり,脳神経領域でも脳虚血,低酸素症,低血糖等のいろいろな生理的条件下での脳代謝に関する研究2,3,15)がなされている.また正常脳組織のみならず,脳腫瘍に関しても,高エネルギーリン酸化合物,リン酸モノエステルに注目したリン31原子核磁気共鳴スペクトロスコピー(31P-MRS)9,13,17)や,低分子有機化合物に注目した水素原子核磁気共鳴スペクトロスコピー(1H-MRS)4,7,19)を用いての研究がなされている.病理組織診断の点から見ると,31P-MRSでは正常脳組織と腫瘍組織との違いがわかる程度にしか分類できておらず,組織型とMRSパターンとの相関は未だ十分ではない.一方1H-MRSでは対象となる代謝物質が多いことから,腫瘍組織型との相関についてかなり詳しく研究されるようになって来ているが,スペクトルの分解能及び感度が必ずしも十分とは言えず,そのために詳細な分析が出来るには至っていない.そこで今回われわれは1H-MRSを用い,摘出した脳腫瘍組織を抽出処理することによりスペクトルの分解能と感度を高め,スペクトルパターンと各腫瘍の病理組織型との相関,更に脳腫瘍の鑑別診断における1H-MRSの有用性についても加えて検討を行ったのでここに報告する.

Microsurgical Lumbar Discectomy 270例の検討

著者: 花北順哉 ,   諏訪英行 ,   西原毅 ,   飯原弘二 ,   阪井田博司 ,   西正吾

ページ範囲:P.429 - P.434

I.はじめに
 腰椎椎間板ヘルニアは日常よく見られる疾患であり,治療の主体は各種の保存的療法であるが,これらの保存的療法が無効の場合にはさまざまな外科的療法が行われている.しかしながらこれら腰椎椎間板ヘルニアに対する手術は,患者の活動制限の期間を短くし得るが,将来におけるヘルニアの再発は予防し得ないとの意見15)や,ヘルニア除去後には,上下の椎間に過重な負荷が加わって,新たに異なるレベルにヘルニアが生じるとの意見もみられ,実際ある程度の再手術はいずれの手術法においてもみられている1,5,8-10,13-15,18-20,22,23,26-28,29-31,33,35,36).このたび腰椎椎間板ヘルニアの270例に対して行ったmicrosurgical lumbar discectomyにつき,その術式について述べ,その術後成績を検討した.特に再手術を必要とした症例については詳しく検討を行った.考察では腰椎椎間板ヘルニアにおける外科的療法の問題につき論じた.

外傷性脳血管攣縮の6症例—クモ膜下出血および脳挫傷との関連

著者: 小沼武英 ,   香川茂樹 ,   大庭正敏

ページ範囲:P.435 - P.442

I.はじめに
 外傷性脳血管攣縮の病態および発生機序に関してはいまだ明らかでなく,また脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血の際の脳血管攣縮との差異等についてもよく検討されていない.
 われわれは,過去5年間に経験した遅発性外傷性脳血管攣縮の6症例についてその早期CT所見に注目し,おもにクモ膜下出血および脳挫傷と脳血管攣縮との関連について比較検討したので若干の考察を加えて報告する.

症例

ガングリオンによる後骨間神経麻痺の1例

著者: 鶴嶋英夫 ,   松村明 ,   目黒琴生 ,   中田義隆 ,   藤田恒夫

ページ範囲:P.443 - P.445

I.はじめに
 後骨間神経麻癖は比較的まれな疾患であるが,一般的には外傷に伴うことが多く整形外科的疾患と考えられている10,17).しかし後骨間神経麻痺は知覚障害を認めず手指の仲展障害を主訴とするため,非外傷例では神経外科外来においてもみられることがある.
 非外傷性後骨問神経麻痺のり症例は文献的には報告が少なくないが,その原因が腫瘤の圧迫による症例は少ない.特にガングリオンの圧迫による後骨間神経麻痺の症例は極めてまれと思われたため,文献的考察も加え報告する.

肺癌の硬膜転移により硬膜外血腫を呈した1例

著者: 佐藤直昭 ,   鶴嶋英夫 ,   松村明 ,   目黒琴生 ,   土井幹雄

ページ範囲:P.447 - P.450

I.はじめに
 悪性腫瘍の硬膜転移に起因する頭蓋内血腫は,慢性硬膜下血腫例1,3,6,8-11,13,15-18)は散見されるが,硬膜外血腫例2)は,われわれが検索しえたかぎりでは,わずか1例にすぎない.われわれは,肺癌の頭蓋内転移摘出術後約1ヵ月目に,異なる部位の硬膜転移巣からの出血により硬膜外血腫を来たした1例を経験したので報告する.

興味ある頭蓋外側副血行路を認めた内頸動脈狭窄・外頸動脈閉塞症の1例

著者: 上田幹也 ,   森永一生 ,   松本行弘 ,   大宮信行 ,   三上淳一 ,   佐藤宏之 ,   井上慶俊 ,   大川原修二 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.451 - P.454

I.はじめに
 通常頭蓋外内頸動脈からの分枝は認められず,稀に上行咽頭動脈・後頭動脈・primitive hypoglossal artery・primitive proatlantal arteryなどが分枝すると報告されている4,7).著者らは上行咽頭動脈が頭蓋外内頸動脈から分枝し,興味ある頭蓋外側副血行路を認めた内頸動脈狭窄・外頸動脈閉塞を呈した症例を経験したので文献的考察をくわえて報告する.

顔面痙攣,顔面神経麻痺を呈した側頭骨錐体部の血管腫の1例

著者: 村田純一 ,   阿部弘 ,   会田敏光 ,   宮町敬吉 ,   宮坂和男

ページ範囲:P.455 - P.458

I.はじめに
 頭蓋骨の血管腫は,全頭蓋骨良性腫瘍の約10%を占めるが,その多くは頭蓋穹窿部に発生し,頭蓋底部には稀である.
 箸者らは,側頭骨錐体部に発生した血管腫により,顔面筋の痙攣,および顔面神経麻痺を呈した1例を経験した.稀な疾患であるとともに,顔面痙攣を呈したことが興味深いと思われたので,文献的考察を加えて報告する.

脊髄動脈瘤と後頭蓋窩硬膜動静脈奇形を併存した1症例

著者: 高崎孝二 ,   朝倉哲彦 ,   門田紘輝 ,   中山正基 ,   駒柵龍一郎 ,   笠毛静也

ページ範囲:P.459 - P.463

I.はじめに
 近年,選択的脊髄血管撮影の普及により脊髄の血管性病変の診断も決して困難ではなくなってきている.今回われわれはクモ膜下出血で発症した脊髄動脈瘤と後頭蓋窩硬膜動静脈奇形の併存した1例を経験した.脊髄動静脈奇形に併存する脊髄動脈瘤はそれほど稀なものではなく文献上6-20%に認められる4,7,10)とされる.しかし,脊髄動脈に単独で動脈瘤が存在することは非常に稀である1,17).さらに本例は後頭蓋窩の硬膜動静脈奇形を合併しており,このような症例はわれわれの渉猟しえた範囲では文献上認められなかった.この稀な1例を呈示し,若干の文献的考察を加えて報告する.

蝶形骨洞から海綿静脈洞に広がる炎症性肉芽腫—3症例の報告

著者: 岩井謙育 ,   白馬明 ,   勝山諄亮 ,   江頭誠 ,   北野昌平 ,   永田安徳 ,   早崎浩司 ,   西村周郎

ページ範囲:P.465 - P.470

I.はじめに
 一般に,一側性の眼球運動障害と同側の眼窩部痛を伴う症例は,painful ophthalmoplegiaと言われている9).その原因として,海綿静脈洞,眼窩,上眼窩裂,傍鞍部などに発生した腫瘍,動脈瘤,炎症,外傷などの病変が挙げられている9).その中で,benign steroid sensitivegranulomaによるものは,Tolosa-Hunt症候群と呼ばれる5).著者らは,蝶形骨洞より海綿静脈洞に伸展する炎症性肉芽腫の3症例を経験したが,MRI上も興味ある所見を示したので,Tolosa-Hunt症候群との関連について検討し報告する.

中脳水道の機能的狭窄が疑われた1例

著者: 佐藤慎哉 ,   相原坦道 ,   府川修 ,   池田秀敏

ページ範囲:P.471 - P.476

I.はじめに
 CT上,側脳室・第3脳室の拡大を呈しているが,中脳水道に明らかな狭窄・閉塞病変が認められず,交通性水頭症と診断される例はそれ程稀なものではない.しかしながら今回著者らは,中脳水道の機能的な狭窄により脳室の拡大が生じたと思われる症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

Tolosa-Hunt症候群が疑われたFungal Aneurysmの1例

著者: 清水俊夫 ,   鈴木直也 ,   乙供通則

ページ範囲:P.477 - P.483

I.はじめに
 Tolosa-Hunt syndrome(以下,THS)は,一側性,反復性の眼筋麻痺と眼窩深部の疼痛を症状とし,その本態は海綿静脈洞から上眼窩裂にかけての非特異的炎症性肉芽腫によるものとされ,ステロイドが有効であると言われている11)
 今回われわれは,THS様症状を呈した患者にステロイドを投与したところ,一部症状の改善を認めたが,突然脳内出血を来した症例を経験した.手術並びに剖検の結果,THS様症状は海綿静脈洞部の真菌性膿瘍に起因し,脳内出血は真菌性脳動脈瘤の破裂によることが判明した.

脳内出血にて発症した脳内線維肉腫

著者: 姉川繁敬 ,   鳥越隆一郎 ,   林隆士 ,   山下洋子 ,   古川保浤

ページ範囲:P.485 - P.490

I.はじめに
 頭蓋内出血を初発症状とする脳腫瘍は比較的まれであり,全脳腫瘍の0.8%から10.2%に認められるとされている13,16,17,19,23,26).一方,fibrosarcomaは全脳腫瘍中の0.6から1.2%に出現するとされており21,25),腫瘍出血をきたすこともあるとされているが,調べ得た限りにおいては脳内血腫により発症した本腫瘍の報告は少ない15,24).われわれは最近脳内血腫患者において,CT・脳血管撮影などの補助診断法で全く腫瘍を疑わせる所見がなく,特発性皮質下出血として手術を施行した.ところが,初回出血の約4.5ヵ月後に再度出血を繰り返し,再手術時に脳実質内より発見された腫瘍の組織学的検査によりfibrosarcomaと診断された1例を経験したので考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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