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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科19巻6号

1991年06月発行

雑誌目次

家康の人生訓

著者: 松村浩

ページ範囲:P.499 - P.500

 平成3年1月25日,26日の両日,宇都宮で脳神経CT研究会が開かれ,初めて宇都宮市を訪れる機会に恵まれた.学会後,時間を見つけて日光まで観光に足を伸ばすことにし,同僚数人を誘って出かけた.残念ながら夕刻の東照宮の入場時間に間にあわず,中には入れなかったので,東照宮の絵はがきを買うために土産物店に入った.絵はがきとともに面白いものが目についた.徳川家康の人生訓である.よく耳にし,文字でも読んでいるが,筆書きで,最後に日付とともに徳川家康の署名があり,葵の朱印が押してある.この時代から朱印が使われていたのか.通常は花押ではなかったのか.しかし印鑑は古代からあったと聞くから家康が使っても不思議ではあるまいなどと考えながら,これを一枚買って帰り病院の近くの額縁屋で安い額縁を買って入れ,医局に飾っておいたらどうだろうかと考え始め,面白半分に1枚1000円の家康人生訓を絵はがきとともに買い求めた.家に持ち帰って眺めてみると,見慣れた文章であるのになかなか面白い.読者諸先生は充分ご存じのはずであるが,念のためにここに書き写しておく.

総説

難治性めまいの原因としての第8脳神経への血管圧迫とその治療について

著者: 榊寿右

ページ範囲:P.501 - P.510

I.はじめに
 めまいは最もありふれた愁訴の一つであるが,保存的治療に抵抗し,反復性の強いものは患者に計り知れない苦痛を与え,社会生活を営む上で大きな障害となる.このような症例の中に前庭神経に対するneurovascuclarcross-compressionによって生じているものがある17,19,27,32).しかし三叉神経痛や顔面けいれんに比べ,多数例による詳細な検討は少なく,検査所見,手術適応に関しても明確な回答のないのが実状であろう.その理由の一つにめまいの訴えの内容が曖昧で,「目が回る」とか「ふらふらする」などいろいろな自覚症状を患者は一様に“めまい”と表現する.また患者の訴える“めまい”を他覚的にとらえる事が困難であるなどが挙げられるであろう.ここではまずめまいの一般的概念について述べ,現在まで“めまい”に対してneurovascuclar cross-compressionの概念から手術された報告と自験例の検討から,micro—vascular decompressionの有効な症例の臨床的特異性とその手術適応について論じることとしたい.

研究

腰椎穿刺によるリンゲル液術中注入を併用した慢性硬膜下血腫の外科治療

著者: 上野一義 ,   村田純一 ,   佐久間司郎 ,   高野勝信 ,   飯塚崇司

ページ範囲:P.511 - P.516

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫の診断はCTの普及により容易となり,手術法も開頭による血腫及び被膜除去に代わり穿頭による血腫洗浄が広く行われるようになり手術手技は一段と簡便となった.更には近年ベッド・サイドにおけるTwist drillによりドレナージ挿入法さえ報告されている1,7,11,27).これらのどの手術法によっても,大多数例は良好な予後を得ることが出来るが,少数例においては血腫の再貯留のために再手術を余儀なくされたり,Ten—tion pneumocephalus2,6,26)や脳出血25)の術後合併を見ることがある.これらの例外的ともいえる少数例をいかに減少させるかが今後の治療における問題点であろう.
 著者らは術中に腰椎穿刺を行いリンゲル液を注入することにより,現在までのところ良好な予後を得ているので若干の文献的考察を加えて報告する.

テント及びテント近傍髄膜腫の臨床病理学的検討

著者: 福島武雄 ,   溝口強美 ,   土持廣仁 ,   松田年浩 ,   継仁 ,   阪元政三郎 ,   朝長正道 ,   後藤勝弥 ,   前原史明

ページ範囲:P.517 - P.524

I.はじめに
 テントおよびテント近傍髄膜腫は,その解剖学的特異性より臨床症状を呈した時には既に巨大な腫瘍として発見されることが多く,従ってその治療成績は必ずしも満足すべきものではない.腫瘍発生部位は,横静脈洞あるいはS状静脈洞に接するか,上錐体静脈洞にそったテント内側面か,あるいは錐体骨後面に接している場合が多く,脳幹,脳神経および深部主要血管と隣接する.従ってこれら重要横造物を残存し,腫瘍摘出を行うには解剖学的位置関係を術前充分に把握し術式を考慮する必要がある.私どもが経験したテントおよびテント近傍髄膜腫29例について臨床像,手術,予後を検討した.

高度なクモ膜下出血を伴う破裂脳動脈瘤—最重症例の治療

著者: 水野誠 ,   安井信之 ,   鈴木明文 ,   波出石弘 ,   中島重良 ,   三平剛志 ,   大槻浩之 ,   佐山一郎

ページ範囲:P.525 - P.530

I.はじめに
 重症破裂脳動脈瘤症例に対する治療は,急性期手術が一般化した今日であっても,手術適応および時期に関して一致した見解が得られていない.この原因の一つに重症例には単にクモ膜下出血だけでなく,脳内出血や脳室内出血,さらには水頭症,硬膜下血腫など種々の病態が混在している可能性が挙げられる6,7,10,11,20).これらの内,脳内出血,脳室内出血,硬膜下出血など明らかにmass signを示すものは,動脈瘤の処置に加え速やかな原因除去を行う事で良好な予後が期待出来,またその報告も散見される4,7,10,11,13,15,17,20).しかし,純粋にクモ膜下出血のみで重症となっている症例に対しては,その病態など不明な点が多く,また手術適応,手術方法を詳細に検討した報告も見当らない.この点を明確にするため,今回臨床的検討を行った.

ラット皮下移植グリオーマにおける放射線,ACNU及びO6-Ethylguanineの併用効果

著者: 高橋康 ,   片倉隆一 ,   増山祥二 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎 ,   佐々木武仁

ページ範囲:P.531 - P.538

I.はじめに
 悪性グリオーマの治療には,手術療法に,放射線療法,化学療法,免疫療法の併用が行われ,治療成績の改善が報告されつつあるが10,18,32,34),満足のできる成績ではない.その理由の一つにヒト悪性グリオーマ細胞がヒト悪性腫瘍細胞の中で,最も放射線抵抗性であることが挙げられる9).このため脳の放射線耐容線量限度内で局所制御を達成するには,併用療法による効果の増強が望まれる.そこで我々は悪性グリオーマに対する補助療法として,放射線療法と化学療法として,1-(4-amino-2-methyl-5-pyrimidinyl)methyl-3-(2-chloro-ethyl)-3-nitrosourea hydrochloride(ACNU)と5-fluorouracil(5-FU)の併用を行ってきた.

非侵襲的圧可変バルブの有用性と2,3の問題点について

著者: 米澤一喜 ,   藤田稠清 ,   庄瀬祥晃 ,   細田弘吉 ,   川口哲郎

ページ範囲:P.539 - P.545

I.はじめに
 脳室腹腔短絡術は水頭症に対する最も基本的な治療法であり,また多くの改良が加えられてきた.しかし,術後の短絡管機能不全は,かなり高頻度に認められ,やむなく再建を必要とする症例を時々経験する.
 今回,われわれは,従来の定圧短絡管システムを使用した脳室腹腔短絡術後にoverdrainageなどの合併症を生じた症例11例,および短絡術により合併症を生じる確率の高い,あるいは合併症が重篤になりやすい症例14例の計25例に対してSophy programmable pressurevalve(以下,Sophy valveと略す)を使用し,以後経皮的非侵襲的に圧調節を行ったので,その有用性と2,3の問題点について報告する.

症例

出血で発症し髄腟内播種性転移のみられた小脳Glioblastomaの1剖検例

著者: 西岡宏 ,   斉藤文男 ,   原岡襄 ,   三輪哲郎

ページ範囲:P.547 - P.552

I.はじめに
 glioblastoma multiformeは成人大脳半球に好発する最も悪性な脳腫瘍の一つであり,従来テント下,特に小脳に原発するものは極めて稀と考えられていた29).近年小脳原発のglioblastomaの報告数は増えてきてはいるが不明な点も未だ少なくない.今回われわれは腫瘍内出血で発症し,短期間に局所再発.髄腔内播種性転移のみられた小脳ghoblastomaの1剖検例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

Dysembryoplastic Neuroepithelial Tumorと思われる1症例

著者: 長谷川洋 ,   尾藤昭二 ,   越野兼太郎 ,   小橋二郎 ,   小林晏

ページ範囲:P.553 - P.557

I.はじめに
 若年者のてんかん患者でCT上mass effectのないcysticなlow density areaを見た場合,porencephaly,arachnoid cyst, infarction後の変化などを考えるが,時にこの様な症例がsolidなlow grade gliomaであることがあり注意を要する5-13).CT上cysticなlow densityareaを示すテント上のlow grade gliomaの中で,最近Daumas-Duportらは,従来の分類にうまく当てはまらない特異な臨床病理学的特徴を有する一連の症例を報告し,これらをdysembryoplastic neuroepithelial tumorと名付けた4).われわれはこれに相当すると思われる1例を経験したので報告する.

脳梗塞にて発症したPersistent Primitive Proatlantal Intersegmental Arteryの1例

著者: 石黒雅敬 ,   相馬勤 ,   土田博美 ,   北見公一 ,   堀田晴比古 ,   黒川泰任

ページ範囲:P.559 - P.563

I.はじめに
 胎生期においては,頸動脈系と椎骨脳底動脈系の問には多くの動脈吻合枝が存在し両者の血液は直接に交通している.これらの吻合枝が遺残血管として報告される場合は,脳動脈瘤,脳動静脈奇形,脳腫瘍例で偶発的に脳血管撮影で発見されている場合が多い.
 今回,われわれは遺残血管としては極めて稀なPer—sistent Primitive Proatlantal Intersegmental Artery(以下PPPIAと略す)を有し,脳梗塞にて発症した症例を経験したので,PPPIAと脳虚血発生メカニズムについて文献的考察を加えて報告する.

後大脳動脈瘤(P3 Portion)の1経験例

著者: 尾金一民 ,   高橋敏夫 ,   木村正英 ,   鈴木重晴 ,   岩渕隆

ページ範囲:P.565 - P.569

I.はじめに
 後大脳動脈瘤は,椎骨脳底動脈領域の動脈瘤の15%14),また全脳動脈瘤の1%14,21),2.7%9)など比較的稀といわれる.今回われわれは,後大脳動脈の,後側頭動脈と頭頂後頭動脈の分岐部,即ちP3部の動脈瘤を経験したので,若干の文献的考察を加えて,これを報告する.

左右後下小脳動脈側々吻合による血行再建を要した椎骨動脈解離性動脈瘤の1例

著者: 瀧川修吾 ,   上山博康 ,   野村三起夫 ,   阿部弘 ,   斉藤久寿

ページ範囲:P.571 - P.576

I.はじめに
 椎骨動脈解離性動脈瘤(以下VA-DA)は,従来稀な疾患とされてきたが,放射線学的診断技術の向上と同疾患に対する関心の高まりなどにより,近年その報告が増加している.VA-DAでは,保存的療法での予後は極めて不良であり,積極的に外科的治療が行われるようになってきたが,手術に際しては椎骨動脈の結紮やtrappingを要するため,ときに血行再建術の併用が必要となる.今回われわれは,左右後下小脳動脈(以下PICA)側々吻合による血行再建を要したVA-DAの1例を経験したので報告する.

特異な血行動態を呈したHigh-flow外傷性後頭蓋窩硬膜動静脈瘻の全摘出例

著者: 金城利彦 ,   六川二郎 ,   宮城航一 ,   金城則雄 ,   寺田幸平

ページ範囲:P.577 - P.581

I.はじめに
 横静脈洞部やS状静脈洞部に発生する後頭蓋窩硬膜動静脈瘻は,血管撮影法の進歩とともにけっして稀な疾患でないことが明らかとなり,外科的治療報告も多い.しかし,一般的に根治は困難で再発例もしばしばみられる.われわれは,49歳男性,頭部外傷の3年後にけいれん発作で発症し,数度の流人動脈遮断術にもかかわらず,17年間に著明な側副血行を形成した後頭蓋窩硬膜動静脈瘻に対して手術を行い,閉塞した横静脈洞を含めて全摘に成功したので報告する.

Sphenoid Ridge MeningiomaとPituitary Adenomaの近接共存例の1例

著者: 宇野昌明 ,   大島勉 ,   松本圭蔵 ,   佐野寿昭

ページ範囲:P.583 - P.587

I.はじめに
 脳腫瘍の放射線療法後や,外傷後に髄膜腫が発生し易いことはよく知られているが,このような既往がない症例で,髄膜腫と下垂体腺腫が共存することは非常に稀である.今回われわれはacromegalic changeと頭痛にて発症したsphenoid ridge meningiomaとpituitary ade—nomaの共存例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

失神発作で発症した第2頸神経神経鞘腫の1例

著者: 長澤史朗 ,   大槻宏和

ページ範囲:P.589 - P.593

I.はじめに
 椎骨動脈を外側から絞扼して椎骨脳底動脈循環不全をきたす疾患には,椎体骨蕀,頭蓋—上位頸椎奇形,リウマチ性関節炎,外傷,fibrous bandなどが知られており7).また環椎軸椎関節部の運動の特異性に由来するいわゆるbow hunter's strokeも近年関心を集めている5,8,10-14).しかしながら椎骨脳底動脈循環不全症状で発症する椎骨動脈近傍腫瘍は著しく少ない2,3,6,7,9)
 今回われわれは頭部回旋運動時に椎骨動脈が閉塞し,これにより椎骨脳底動脈循環不全症状で発症した第2頸神経神経鞘腫の症例を経験した.術前の血行動態や術中のドプラー血流測定の有用性など興味深い症例であったので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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