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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科19巻8号

1991年08月発行

雑誌目次

脳神経外科雑感

著者: 榊寿右

ページ範囲:P.703 - P.704

 小生が大学を卒業してすぐ母が死んだ.原因は結核性髄膜炎である.母は54歳とまだ若かったので何とか助かってほしいと願っていた.しかし状態は日々悪化,“もう助からない”と覚悟はできていた.ただその当時の思い出として,すぐに土曜日,日曜日がやってくるということであった.“土”“日”は,医師が病院に来なくなるので不安で仕方がなかった.その不安感は,はや心臓に苔の生えかかっている今でさえ,時として燃え上がり,眼を覚まさせることがある.それ以後,人の最も少なくなる土,日こそ私の出勤日と考えるようになった.幸か不幸か,この母の病が,一般外科をやろうか脳神経外科をやろうかと迷っていた当時の私を脳神経外科へと決心させる決定的なものとなった.
 私は今,“脳神経外科医の信念は何か”と問われれば,患者の生命に対して最後まで諦めてはならぬことだと答えている.そして自分のした行為に対しては,徹底して自分が責任をもつ姿勢が大切だと考えている.術後の患者の容態が悪化した場合,その原因が何であろうとも必死になって改善させるように努力せねばならぬ.その患者は,発病前は元気で仕事をしていたのであるから,術後に胃潰瘍が生じようとも,肝障害が起ころうとも,脳とは関係なしで済まされる問題ではない.理屈を抜きにして一度は発病前の元気な姿にもどしてやろうと考えるのが外科医というものであろう.手術をすればかなりのtechniqueは持っているが,術後は全く他人まかせでは手術をする資格はない.

研究

モヤモヤ病出血例の検討

著者: 佐伯直勝 ,   山浦晶 ,   星誠一郎 ,   角南兼朗 ,   石毛尚起 ,   細井湧一

ページ範囲:P.705 - P.712

I.はじめに
 モヤモヤ病の原因は不明であり,その根本的治療法はいまだ確立していない.中でも成人に多い出血型では,血行再建術の効果も明らかでなく,生命予後も不良であるなど,虚血症型に比べ特異的な臨床像を呈している.
 このようなモヤモヤ病出血型の自験例の分析から,臨床像をより明らかにし,その治療法について若干の私見を述べる.

トランスクラニアルドプラーによる脳動脈瘤破裂後の脳血管攣縮の早期診断—脳血管写所見との対比

著者: 高瀬憲作 ,   岡博文 ,   桜間一秀 ,   吉嶋淳生 ,   上田伸 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.713 - P.721

I.はじめに
 脳動脈瘤破裂患者の治療において,予後を決定する因子のうちの一つにクモ膜下出血後に発生する脳血管攣縮による脳虚血,いわゆるDIND(delayed ischemicneurological deficits)がある.DIND発生のメカニズムや治療についてはまだまだ不明な点が多く,その発症の有無を予見することも困難なことが多い.さて,最近トランスクラニアルドプラー(以下TCD)が臨床に用いられるようになり,脳血管攣縮の診断および評価にも応用され有用性が示されている7).しかしながらTCDで診断できない症例があることもまた知られている4,11).われわれは今回この点につき脳血管写所見とTCD所見とを対比することにより若干の知見を得たので報告する.

急性期脳梗塞に対する低分子デキストラン・ウロキナーゼ混合液動注の経験

著者: 藪本充雄 ,   龍神幸明 ,   今栄信治 ,   吉田夏彦 ,   湯川修也 ,   亀井一郎 ,   岩本宗久 ,   栗山剛

ページ範囲:P.723 - P.728

I.はじめに
 近年,脳血管障害における脳梗塞の占める比率が増加し,さらに当院が1984年に救命救急センターを設立して以来,脳梗塞患者が急性期に搬入される事が多くなった.以前には亜急性期や慢性期の脳梗塞に対して,保存的療法に止まらざるをえなかった状況と体制が一変し,新たな対応を迫られた.以来,外科的治療としての虚血急性期の血行再建術と並行して,より早期の血流再開を企図して血管内手術を施行している.Sit back and waitでは進歩がない.今回,血栓溶解剤として低分子デキストランとウロキナーゼの混合液を用いて動注した経験において,その方法論,結果および今後の課題について報告する.

出血性脳血管障害(脳出血,クモ膜下出血)に合併した血小板減少症の臨床的意義

著者: 小出貢二 ,   間中信也 ,   指田純 ,   高木清 ,   喜多村孝幸 ,   平川誠 ,   野間口聰

ページ範囲:P.729 - P.734

I.はじめに
 血小板減少症を呈するidiopathic thrombocytopenicpurpura(以下ITP),disseminated intravascular co—agulation等の出血性素因や肝疾患が,頭蓋内出血の原因となることは良く知られている.しかしながら血小板減少症の発現は,出血性脳血管障害の急性期ばかりではなく経過中のすべての時期に認められ,血小板減少症が必ずしも出血性脳血管障害の原因として元から存在したものばかりでなく,出血後経過中の様々な原因により.二次的に生じたものも多いと考えられた.そこでわれわれは,出血性脳血管障害の経過中に認められた血小板減少症の原因とその臨床的意義について検討をくわえ興味ある結果を得たので報告する.

脳血管障害患者に発生した肺塞栓症—自験5症例の検討

著者: 安藤隆 ,   上田竜也 ,   白紙伸一 ,   新川修司 ,   西村康明 ,   坂井昇 ,   山田弘 ,   大熊晟夫

ページ範囲:P.735 - P.740

I.はじめに
 肺塞栓症(pulmonary embolism,以下PEと略す)は欧米ではよく知られているが本邦では少ないとされている.しかしながら脳血管障害患者では下肢の深部静脈血栓症(deep venous thrombosis,件下DVTと略す)の危険性が高く,その結果,続発するPEも少なからず存在するものと考えられる.特に意識障害がある場合,症状を訴えることが少ないため本症は見逃されやすく,時に重篤な経過をたどることがある.今回我々は本症の5例を経験したので,本症発生の危険因子,診断,治療などについて検討を加え報告する.

症例

原発性甲状腺機能低下症に合併した下垂体腺腫と過形成

著者: 高橋禎彦 ,   上垣正巳 ,   重森稔 ,   吉村恭幸 ,   落合智 ,   稲田千鶴子

ページ範囲:P.741 - P.745

I.はじめに
 原発性甲状腺機能低下症に下垂体腫瘤が合併することはよく知られている.Yamadaら18)はX線学的に計測して約80%の症例でトルコ鞍の拡大を認めるとし,その大きさは血中のT4,T3値に反比例しTSH値にほぼ比例すると報告している.その治療方針として,甲状腺ホルモンの補充療法下に下垂体腫瘤の経過観察を行うことが一般的である.
 今回,われわれは高プロラクチン血症を呈しCT上にてトルコ鞍内から鞍上部にかけて均一に増強されるmassを認めた症例を経験した.下垂体腺腫の診断のもとに,経蝶形骨洞的に腫瘍摘出術を行った.しかし術後に原発性甲状腺機能低下症が判明し,ホルモン補充療法を行った.本例の術中所見及び組織学的所見よりpitui—tary adenomaとhyperplasiaが共存した症例と考えられたのでここに報告する.

頸部に発生したGanglion Cystの1例

著者: 野々山裕 ,   久保田千晴 ,   山内康雄 ,   松村浩 ,   岡信行

ページ範囲:P.747 - P.750

I.はじめに
 Ganglion cystもしくはsynovial cystはsynovial tis—sueが存在するどの部位からでも発生する可能性を有してはいるが,一般的には手関節,肘関節等の四肢関節に生じ,脊椎関節(spinal facet joint)に発生することは極めて稀である.又,脊椎関節からの発生例もほとんどが下位腰椎からの発生例であり,頸椎レベルでの例は過去数例しか報告されていない.
 今回われわれは,頸椎レベルに発生したganglioncystと思われる1例を経験したので,若十の文献的考察を加えて報告する.

CisplatinとEtoposideによる術後化学療法が有効であった卵巣腺癌小脳転移の1例

著者: 伊東山洋一 ,   瀬戸弘 ,   河内正人 ,   倉津純一 ,   是松幸二郎 ,   北野郁夫 ,   植村正三郎 ,   生塩之敬

ページ範囲:P.751 - P.754

 I.はじめに 卵巣癌の中枢神経系への転移は比較的稀といわれてきたが,近年cisplatinを中心とする多剤併用療法の進歩に伴って卵巣癌の予後が改善されるに従い,その中枢神経系への転移の増加が報告されている.しかし卵巣癌脳転移が化学療法によって治療された報告は少ない1).最近われわれは小脳の転移性卵巣腺癌摘出後にcisplatinとetoposideによる併用化学療法を行い良好な結果を得た1例を経験したので文献的考察を加えて報告を行う.

膝神経節近傍に発生した髄膜腫の1例

著者: 善家喜一郎 ,   佐々木潮 ,   大田正博 ,   篠原伸也 ,   武田哲二 ,   松井誠司 ,   植田敏浩 ,   古谷保 ,   村上伸吾

ページ範囲:P.755 - P.759

I.はじめに
 髄膜腫は脳腫瘍の13-19%を占めると言われるが側頭骨内に発生した報告は少なく,特に膝神経節部は極めて稀である.著者らは膝神経節近傍に発生し,中頭蓋窩および側頭骨内に進展した症例を経験したので,その臨床所見,放射線学的所見,ならびに,鑑別すべき疾患に関して文献的考察を含め報告する.

Meningioangiomatosisの1乳児例

著者: 岡芳久 ,   榊三郎 ,   山下三成 ,   中川晃 ,   松岡健三 ,   松井光

ページ範囲:P.761 - P.765

I.はじめに
 Meningioangiomatosisは,Worster-Droughtら15)に提唱されたhamartomaの性格の強い病態であり,その大部分がvon Reckhnghausen病に合併する疾患である.von Recklinghausen病に合併しないmeningioangioma—tosisの症f列はKasantikulら21)の報告にはじまるが,現在まで11例が報告されている.われわれは,von Reck—linghausen病に合併していないと考えられるMeningio—angiomatosisの乳児例を経験したので神経放射線学的特徴及び病態に関して,若干の文献的考察を加えて報告する.

外傷5年後にクモ膜下出血にて発症した頸動脈海綿静脈洞瘻の1例

著者: 菅野洋 ,   猪森茂雄 ,   千葉康洋 ,   所和彦 ,   安部裕之 ,   中森昭敏 ,   池田嘉宏 ,   吉田利之 ,   小田正治

ページ範囲:P.767 - P.771

I.はじめに
 外傷性頸動脈海綿静脈洞瘻(以下CCFと略す)は受傷後早期に発症するのが大部分であるが,時に発症が遅れることがある3).また,CCFにクモ膜下出血を伴うことは少ない4).今回われわれは外傷5年後にクモ膜下出血にて発症したCCFを経験したので,発症が遅れた原因,およびクモ膜下出1飢をきたす機序について,若干の考察を加え,報告する.

低形成前大脳動脈水平部(A1)に発生した破裂脳動脈瘤の1例

著者: 川北慎一郎 ,   安田守孝 ,   黒岩敏彦 ,   太田富雄

ページ範囲:P.773 - P.776

I.はじめに
 前大脳動脈領域の脳動脈瘤の好発部位は,前交通動脈と前大脳動脈遠位部である.比較的稀ではあるが,前大脳動脈水平部(A1)にも脳動脈瘤が発生することが報告されている.しかし,今回われわれが経験したような低形成なA1部に発生し,しかも明らかな穿通枝や皮質枝の分岐とは無関係に存在したsaccular typeの破裂脳動脈瘤の報告は見られないので,若干の文献的考察を加え報告する.

幼児小脳出血の1治験例

著者: 古井倫士 ,   小島朋美 ,   岩田金治郎

ページ範囲:P.777 - P.779

I.はじめに
 脳出血の小児例は少なく,成人についても同様であるように小脳において発症することは更に稀である.出産外傷やビタミンK欠乏など原因に特殊性のある新生児例12)を除くと,幼児期に発症した小脳出血は過去12例1-9,11,14)の報告をみるのみである.最近われわれは6歳で発症し,重篤な神経学的異常を来たしながら手術により快癒させ得た1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

“モヤモヤ”病の1家系

著者: 岩本哲明 ,   西崎隆文 ,   津波満 ,   湧田幸雄 ,   長光勉 ,   安達直人 ,   山下勝弘

ページ範囲:P.781 - P.787

I.はじめに
 “モヤモヤ”病の家族内発生の報告は散見されるが,1家系中2例が大部分であり,その頻度は7-10%といわれている8).その発症については遺伝的素因の関与が考えられているが,いまだ明らかではない.われわれは同胞および母子の3人に発生した“モヤモヤ”病の1家系を経験した.これらの遺伝的な関与を示唆する症例について,若干の文献的考察を加えて報告する.

頭蓋外椎骨動脈に発生したPseudoaneurysmの1治験例—Occluding spring embolusの使用経験

著者: 中島裕典 ,   重森稔 ,   菊池泰輔 ,   徳富孝志 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.789 - P.793

I.はじめに
 外傷性頭蓋外椎骨動脈損傷はその解剖学的位置関係から発症し難く報告例も少ない3,9).しかし,実際に損傷が起こるとthrombosis,出血,動静脈瘻,仮性動脈瘤等が生じるとされる3).今回,著者らは頭蓋外椎骨動脈に生じた医原性仮性動脈瘤に対し,経皮的に直接穿刺を行い,occluding spring embolus(OSE)7)による塞栓術にて根治し得た症例を経験した.そこで症例を呈示し,若十の文献的考察を加えて報告する.

超未熟児水頭症に対するMiniature Ommaya's Reservoirの使用経験

著者: 若山暁 ,   森本一良 ,   北島博之 ,   市場博幸 ,   江原伯陽 ,   藤村正哲 ,   末原則幸 ,   早川徹

ページ範囲:P.795 - P.800

I.はじめに
 近年の新生児医療の発展のなかでもとりわけ呼吸窮追症候群(以下RDS)に対する治療成績の向上は目覚しく,低出生体重児の生存率が飛躍的に上昇した.従来,救命不可能とされた低出生体重児のうちでも最近では1000g以下の超未熟児が後遺症なく生存可能となっている12).これに伴い超未熟児水頭症にも,その中枢神経系機能障害を改善するために神経外科医が対応せざるをえない現況となってきた.私たちは従来より新生児水頭症患児に出生直後の暫定的な頭蓋内圧のコントロール法として,miniature Ommaya's reservoir(富士システムズKK,Fig.1A)を設置し髄液排除を行ってきた9,10).本法を超未熟児水頭症に試み,現在まで出生体重996g,966gの胎児水頭症患児2例と,802g,926g,963gの脳室内出血後水頭症患児3例の合計5症例を経験した.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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