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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科19巻9号

1991年09月発行

雑誌目次

「守・破・離」

著者: 脇坂信一郎

ページ範囲:P.809 - P.810

 現在各大学あるいは各病院の脳神経外科で行われている医療のあり方,基本となる理念,医のアートとしての部分,さらには手術手技などには少しずつ微妙に異なるものがあり,比喩は悪いが「○○流脳神経外科」とでもいうような違いがあるように思われる.端的な例が「××大学式」などと現わされるように,各教室,あるいはさらにその母教室の永い伝統に培われた一つの流れがあり,そこには先人の血の滲むような努力が積み重なって出来た重みがある.考え方や手技の一つ一つに深い意味が込められているのである.したがって,これから脳神経外科医としての道を歩き始める若い医師は,身近にある自分の所属する「流派」で,代々受け継がれてきた基本理念や手技を先輩医師よりたたき込まれ,それを先ずマスターする必要がある.
 最近のように情報があふれ,毎月数回もの脳神経外科関連の学会,研究会があり,各大学間の交流が盛んになって,他施設の考え方,手技などに接する機会が増えてくると,若い人たちは得てして自分の所にない目新しいことに目を奪われがちである.「隣の芝生は青い」と言われているように,何でも他施設のものが良く見え,無批判にそれを受け入れてしまうことがある.もちろん「他流派」のものの中にも,そこでの伝統に培われた良いものは数多くあり,それは積極的に学び受け入れるべきものであるが,その良さというものは「自分の流派」の基本理念,手技を十分に理解,マスターしてこそ見えてくるものであろう.

研究

副腎髄質細胞と末梢神経のcograftによるパーキンソン病治療の試み—宿主側の年齢要因について

著者: 伊達勲 ,   浅利正二 ,   西本詮 ,  

ページ範囲:P.811 - P.815

I.はじめに
 1985年,Backlundらが世界で初めてパーキンソン病患者に対する自己副腎髄質移植を報告1)して以来,現在まで200例をこえる同手術が世界中で施行されている16).その効果については一定でなく,副腎摘出に伴うmorbidityもかなりの例でみられる9)ことが報告されている.さらに,剖検例においては移植した副腎髄質クロマフィン細胞の生着がほとんどみられていない11,20).副腎髄質には,ガングリオシド,fibroblast growth factorなどのトロフィック因子が含まれている3,15)ことを考えると,移植副腎髄質細胞の生着率の向上をはかることが宿主の内因性黒質線条体ドーパミン系の回復を促進するにも重要であると思われる.本研究では,1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine(MPTP)を用いて作成したマウスパーキンソン病モデルに対し,nervegrowth factor(NGF)の源である末梢神経10,23)を副腎髄質とcograftし,クロマフィン細胞の生着率の向上をはかるとともに,その生着率の向上が宿主の内因性ドーパミン系線維の回復にどう影響するかを特に宿主の年齢の面から検討した.

頭蓋内局所投与におけるt-PA溶液のpH並びに浸透圧に関する検討

著者: 蛯名国彦 ,   清水俊夫 ,   善積威 ,   岩渕隆

ページ範囲:P.817 - P.823

I.はじめに
 近年.第二世代のfibrinolytic agentともいうべき,tissue-piasminogen activator(以下t-PA)が開発され,心筋梗塞14)や脳梗塞1)などに応用されつつある.また従来の血栓溶解剤urokinase2,13,22)に比してきわめて強力な血腫溶解能力を有することから4),クモ膜下出血に於ける脳槽ドレナージ4-7,17)や,定位的脳内血腫除去術に際しての残存血腫溶解4,10,13),さらには脳主幹動脈閉塞における動注療法3,11,23)などにもその応用が期待されている.しかしながら,これらt-PAの頭蓋内局所投与においては,その特性を十分に把握した上で用いるべきと思われるが,t-PA溶液のpH並びに浸透圧についての知見は未だ乏しく,かつ臨床応用における重要な問題の一つになり得ると思われたので報告する.

Growing up Aneurysm 25例の検討

著者: 三平剛志 ,   水野誠 ,   中島重良 ,   鈴木明文 ,   波出石弘 ,   石川達哉 ,   安井信之

ページ範囲:P.825 - P.830

I.はじめに
 脳動脈瘤の成因については現在なお不明な点が多いが,一旦発生すると次第に成長増大しcritical sizeに達し破裂を来すと考えられている.しかしながら実際にその成長過程を脳血管写上にとらえ得た報告は少ない.この様な症例を検討することは脳動脈瘤の成因,増大・破裂に影響を及ぼす因子,更には脳動脈瘤の診断や治療を考える上で非常に有意義であると考えられる.今回,われわれは当施設においてこれまでに経験した脳動脈瘤症例のうち25例に血管写上に動脈瘤の増大を認めたので,これらの症例について検討し報告する.

特発性頸動脈海綿静脈洞瘻—自験16例の検討

著者: 安藤隆 ,   中島利彦 ,   荒木有三 ,   坂井昇 ,   山田弘 ,   香川泰生 ,   平田俊文 ,   田辺祐介 ,   高田光昭

ページ範囲:P.831 - P.839

 I.はじめに 特発性頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous sinusfistula以下特発性CCFと略す)は比較的まれな疾患であるが,その治療法は未だ確立されたとはいえず放射線療法,塞栓術やballoon法,直達手術などが行われている.しかしながら自然治癒例も少なからずみられ治療法の選択には慎重を要する.今回われわれの取り扱った特発性CCFについてその臨床症候,血管撮影所見,治療成績などについて検討を加え,保存療法例の自然経過ならびに外科的治療の適応について述べる.

症例

くも膜下出血で発症した大脳鎌硬膜動静脈奇形の1例

著者: 阿川昌仁 ,   河野威 ,   曽我部紘一郎

ページ範囲:P.841 - P.845

I.はじめに
 硬膜動静脈奇形(以下DAVM)は,横・S状静脈洞部および海綿静脈洞部に発生することが多く,大脳鎌DAVMの報告は非常に稀である.今回われわれは,くも膜下出血で発症した大脳鎌DAVMの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

後頭葉脳内のEpidermoid Tumorと対側内頸動脈瘤が合併した1例

著者: 西川方夫 ,   半田肇 ,   中原一郎 ,   山川弘保 ,   稲川正一 ,   小出智朗

ページ範囲:P.847 - P.850

I.はじめに
 脳動脈瘤と脳腫瘍の合併例は0.3-4.0%程度の頻度で発生すると報告されているが,最近では診断技術・器具の改善,向上によってそれらが発見される割合が増加しつつある.動脈瘤に合併する脳腫瘍では脳下垂体腫瘍や髄膜腫が多い.
 今回われわれは内頸動脈瘤とepidermoid tumorが合併した症例を経験したが,これら両者の合併例は過去の文献を渉猟した限りでは,2例しか報告がなく,かつepidermoid tumorが後頭葉の脳内に存在したという稀なものであったので,文献的考察を加えて報告する.

原発性血小板血症に合併した慢性硬膜下血腫の1手術例—Plateletpheresisを応用して

著者: 菅原厚 ,   蝦名一夫 ,   大井洋 ,   沢田石順 ,   福田光之

ページ範囲:P.851 - P.855

I.はじめに
 原発性血小板血症は血小板が一次性に著明に増加し,各種臓器において血栓症状のみならず出血症状を呈するのが特徴である2).今回われわれは慢性硬膜下血腫を合併した稀な1例を経験した.血腫除去術の際,出血傾向が懸念されたが,plateletpheresis(血小板除去療法)を行うことによって新たな出血の発現を予防しえたので,若干の文献的考察を加え報告する.

腫瘍性脳動脈瘤を認めた左房粘液腫の1例—Serial angiographyの重要性について

著者: 飯原弘二 ,   菊池晴彦 ,   永田泉

ページ範囲:P.857 - P.860

I.はじめに
 心房粘液腫がその腫瘍栓子により脳梗塞をおこし,稀に塞栓部位に腫瘍性脳動脈瘤を形成することはよく知られているが,一旦形成された動脈瘤のnatural historyについてはfollow-upの報告もごく少数であり,いまだ不明な点が多い.今回われわれは脳梗塞で発症し腫瘍性脳動脈瘤を認めた症例に対し,左房粘液腫切除後3年にわたり追跡しこの間計3度のserial angiographyを施行しえた1例を経験したので報告する.

器質化した慢性硬膜下血腫の2例

著者: 長坂光泰 ,   小俣朋浩 ,   宮沢伸彦 ,   金子的実 ,   深町彰 ,   貫井英明

ページ範囲:P.861 - P.865

I.はじめに
 CT scanの出現以後,慢性硬膜下血腫の器質化,石灰化例の報告は非常に少ない.これは,CTにより診断が容易になり早期に治療がなされるためその経過が長期にわたるものが少なくなったためと考えられる.このため,器質化した慢性硬膜下血腫のCT所見に関する報告は少なく,MRI所見に関しては,われわれの知り得た範囲ではいまだ文献例は見当たらない.今回われわれは,診断,治療に苦慮した2例の器質化した慢性硬膜下血腫を経験し,その診断に有用であると思われるCTおよびMRI所見を得たので,これらの所見を中心に若干の文献的考察を加え報告する.

妊娠中に経蝶形骨洞的下垂体腺腫摘出術を施行した1例—その術前後の管理を中心に

著者: 大坪俊昭 ,   朝倉哲彦 ,   門田紘輝 ,   高崎孝二 ,   内村公一 ,   牧内恒夫 ,   上津原甲一 ,   堂地勉

ページ範囲:P.867 - P.870

I.緒言
 今回,われわれは2回の妊娠,出産により視力,視野等の症状の増悪,寛解を繰り返すという興味ある臨床症状を呈し,妊娠中に経蝶形骨洞的腺腫摘出術を施行した1例を経験した.
 文献的にわれわれの渉猟しえた範囲内では,妊娠中の腺腫摘出術は,開頭術では数例見られるが1-4,6,7,14),経蝶形骨洞的腺腫摘出術を行った報告は国外にわずかに1例を見るのみである16).症例を呈示すると共に妊娠中の下垂体腺腫の管理法を中心に,文献的考察も含めて報告する.

Infraoptic Course of ACA with Aneurysmの1例

著者: 竹下幹彦 ,   久保長生 ,   恩田英明 ,   長尾建樹 ,   川俣貴一 ,   内布英昭 ,   仁田仁恵 ,   山村一仁 ,   加川瑞夫

ページ範囲:P.871 - P.876

I.はじめに
 内頸動脈が海綿静脈洞内を通過し,硬膜を貫いた直後,ほぼ眼動脈が分岐する付近で,内頸動脈の内側から分岐し,視神経の下方から視交叉の前方を上行し前交通動脈部に血管奇形は,非常に稀で,Robinson18)の剖検での報告“An unusual human anterior cerebral artery”以来,文献上,われわれが渉猟し得た限りわずか29例1-16,18-25)である.その名称も報告者により様々である.しかしながら,この異常血管の起源についても今だ定説は確立されていない.今回著者らは,上記異常血管が前交通動脈部へ達し脳動脈瘤を形成し,また椎骨動脈の窓形成,後頭動脈の内頸動脈起源を伴った稀な血管奇形の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

脊髄髄内出血診断におけるMRIの有用性—脊髄髄内海綿状血管腫の1例

著者: 小濱好彦 ,   秋野実 ,   阿部弘 ,   岩崎喜信 ,   高橋功 ,   坂本孝治 ,   瀧川修吾 ,   布村充 ,   中村仁志夫

ページ範囲:P.877 - P.881

I.はじめに
 MRIの普及により,これまで脊髄造影,CTでは必ずしも十分でなかった脊髄髄内病変の術前評価がより詳細となってきている.今回われわれは脊髄髄内出血で発症し,MRIでその病変の正確な局在が把握でき,病理組織で脊髄髄内海綿状血管腫と診断された1例を経験したので,その症例を呈示するとともにMRIの有用性を中心に若干の文献的考察を加え,ここに報告する.

TSH産生下垂体腺腫の2症例—内分泌学的検索および診断,治療方針に関する考察

著者: 樋口真秀 ,   森信太郎 ,   有田憲生 ,   大西丘倫 ,   早川徹 ,   宮井潔 ,   森浩志 ,   小豆沢瑞夫 ,   前田義章

ページ範囲:P.883 - P.889

I.はじめに
 甲状腺機能亢進症の治療後,煙期間で発見され,かつT3抑制試験に有意な反応を示したTSH産生下垂体腺腫を2例経験した.うち1例(症例1)は共著者が既に報告しているが1),今回は術後の長期経過観察の結果を加え,改めて報告する.新たに経験した1例(症例2)では,甲状腺機能亢進状態にある初診時のCTでは認められなかった腺腫が,血中T3,T4濃度の正常化後にmacroadenomaとして発見され,初診時から術後に至るまで,詳細な内分泌学的検索を行い得た.
 TSH産生下垂体腺腫は現在まで約100例が報告されているが,T3,抑制試験に有意に反応した例は極めて稀である.しかも甲状腺機能亢進症の治療後,短期間に発見された点とを考慮して,両症例は血中T3・T4濃度が腺腫の成長及びTSH分泌に影響を与えた事が示唆された,貴重な例であると思われる.TSH産生下垂体腺腫の診断・治療方針に関する考察を加えて報告する.

移動性馬尾神経鞘腫の1例

著者: 佐藤透 ,   景山敏明 ,   鎌田一郎 ,   伊達勲

ページ範囲:P.891 - P.896

I.はじめに
 馬尾神経鞘腫は,馬尾神経部に発生する腫瘍の中で最も頻度の高い腫瘍であるが9),まれに頭尾側へ高度の移動性を示す症例が報告される1-3,5-8,10,12-14).最近われわれは,移動性馬尾神経鞘腫の1例を経験したので,特に腫瘍の移動性要因につき若干の文献的考察を加えて報告する.

正常圧水頭症様病態を合併した脳室内嚢胞の1例

著者: 白川典仁 ,   向井完爾 ,   藤沢洋之 ,   古市将司

ページ範囲:P.897 - P.902

I.はじめに
 脳室内嚢胞性疾患はCT scan, MRIが普及し,その発見が容易となった今日でも比較的まれな疾患である.これらの中には腫瘍性病変,炎症あるいは頭部外傷などの発生要因の明らかなものや,developmental anomalyとしてのarachnoid cyst10,13,18,19)やependymal cyst7,8,15,20)などがあげられる.これらarachnoid cystやepen—dymai cystは慢性,増大性に経過し嚢胞上皮が脱落しいわゆるpseudocystとなることがあると言われる5,11).また両者とも一般にspace-occupying lesionとしての性格があり20),脳室の限局性拡大や閉塞性水頭症などがみられる.今回われわれは正常圧水頭症様の病態を合併した右側脳室内pseudocystの1例を経験したが,このような例は比較的稀のようであり,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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